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呪術師とは、この世界が定めた職業の1つである。なろうと思ってなれるものではなく、元々の素質に頼った部分が大きい職業だ。
そもそも、この世界には魔法がある。水や空気、木々など自然の中に魔力があり、それを上手く魔力として抽出し使役できる人が魔法を使える。魔法を使える人自体限られているため、希少な人材である。
魔力使いはその性質を持って、世界を守る結界を張る守護者や魔物と戦う戦士などもいる。
では何故、呪術師が必要なのかと言うところに疑問を持つ者も多い。何故だと思う?
昔、僕は師匠からのこの問いに一言『人のエゴ』と答えたことがある。師匠は僕に無言で夕食のおかずを一品減らして来たので、流石にだめだったのかと反省した記憶が懐かしい。
何故の正解についてはしっかりと別の理由がある。
それは『魂の減少』と言われる天変地異が起きたことによる。子供が徐々に生まれなくなっていき子供数が減少し、ついには全く生まれなくなった。
ある研究者はこの世界を沢山ある世界の1つだと言った。魂が抜けた後、他の世界つまりは天界へとその魂が行き、そこへ行った魂がまたこの世界に供給され命として芽吹く。いつしかその供給がストップしてしまい、出て行くのみとなったというのが仮説として挙げられた。
賛否両論あったものの、魂をこの世界に再び転生させるように魔力を死んだばかりの魂や死にかけの魂へと込めると、その分だけ子供が産まれるようになった為、この仮説は正とされることとなった。
そうして呪術師はこの世界にとって重要な仕事となることになった。
「…なんて、馬鹿な話だよね」
呪術師になったのは、僕が魔力を使えたからというのは大前提だが、もう一つは師匠が呪術師だったからだ。
この仮説だって、本当かどうかは危ういものだ。
何故ならこの仮説が立てられたのはもう500年も昔のこと。今ではその魂の減少は無くなっているのではないかと言われている。
それでもまた、あの出来事を引き起こさないために魔術師という職業は今まで続いてきた。
村から村へ、村から街へ転々と。
師匠が元気だった頃はこうして旅をしていた。呪術師は一箇所に定住することはあまりないらしい。旅をして旅先で出会った死前の道に立つ人へ術を施す。
「…ここどこ?」
師匠を弔い身周りを整えて昔のように旅をし始めたは良いが迷ってしまった。自分が方向音痴だと言うことを初めて目の当たりにした。
師匠にいつもついて行く形だから分からなかったと思いきや、記憶の中の師匠は結構行き当たりばったりに枝を倒して方角を決めていたのを思い出した。
「…師匠も案外、方向音痴だったんだ」
くすりと笑みが漏れるが、やはりどこか寂しい。師匠のいないこの世界はどこか冷たい。
思い出に囚われるのはよそう、と手頃にあった枝を取りパタリと倒してみる。枝の先には険しい山が聳え立っている。
「…これは練習だから」
ほらもう一度と枝を倒してみるも、またも倒れる先には険しい山。あともう一度と試すも山を指す枝。
初めての一人旅は険しい山コースへと決まった。