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生存者救出任務

 夜間の監視任務はイクスが設置した監視モニターとレーザーセンサー。さらには大人たちが交代で警戒任務にあたる。夜に生存者が救助を求めてきたときのため、南門に監視塔を作りもしもの時に対処できるように率先して参加してくれていた。


 海賊たちと避難民との関係が良好でうまく行っていた理由の一つは、こういった積極的参加の意志と陽介が互いの間をとり持ったことが非常に大きい。


 また、トラブルを起こしそうな短気で喧嘩っぱやく血の気の多い連中は、水道橋付近に大型避難施設が開設され食料が豊富にあるという噂を信じて飛び出していったことで、残ったのは協調性の高い人たちが多かったという裏事情も存在する。


 そして5月末、そろそろ夜の寒さも和らいできた頃。校舎屋上での監視班が夜の東京に見えるいくつかの明かりの中で、明らかに意思を持って明滅を繰り返している建物を発見した。


 測量技師の砂川の見立てではここから5kmほど先にあるビルだという。


 地図上で確認し凡その位置を特定できたのは砂川の経験が大いに役立った。


 そこで開かれた会議では救出に向かうか否か? が議論されたが意外にも救助に積極的であったのは宇宙海賊たち2年A組彼らのほうだった。


「いや君らのほうが躊躇するのではないかと我々は心配していたんだ。目的が修理と船の探索だと聞いていたからね」


 ご意見番で医師の梛良が本当に良いのかい? という再確認を求めてきた。


「こいつは星の海を旅する船乗りなら当然の話なんだが、この屍人が溢れる街で孤立してるってのはようは宇宙で漂流してるに等しい。なら海の男として見捨てるわけにはいかねえ、これは宇宙海賊としての矜持だ。お前らが反対しても行かせてもらうつもりだ」


 ファルベリオスの言に反対するものはもちろんおらず、受け入れ準備に対する人数の割り振りに話が流れていく。


「ありがとよ」


「いやいや、我々としても同胞を助けることに異論はないよ。ただ暴力的な人や犯罪者集団が大勢来てしまったらという危惧はあるがね」


「そういうのは俺たちが相手にするからいいさ、既にメンバーは選抜してある。俺とイクス、ミフユ、そして陽介で向かう。ロッドは連絡役と緊急時の対応役で待機だ」


「わかりました。じゃあ2年A組のみんなはちゃんと帰ってくるんですよ? 無理しちゃだめですからね?」


 瑞萌先生が優しく見送ってくれる。


 陽介にバリアスーツを着せ、ブラスターやビームマシンガンで武装した彼らは5km先のビルへ向けてさっそく移動を開始した。


 朝の8時過ぎ。照り付ける晩春の日差しに背中が暑い。


 こういう時イクスの動体センサーは非常に役に立つ。塀の上を歩ている猫のときもあるが、スナイプモードにしたビームマシンガンの狙撃でミフユは淡々と片付けていく。かわいげに見えるこの子も、立派な宇宙海賊なのだという事実は陽介の胸にのしかかってくる。


 約1時間かけて、退路確保のためにある程度ゾンビを退治しながらの移動だった。


「あのビルですね、商業ビルでどこかのテナントに逃げた人たちなのかもしれません。砂川さんの話しでは恐らく4階東側の部屋みたいです」


 人当りが良く穏やかな物腰と優しい顔立ちの陽介は、初対面の人たちへの印象が良い。それもあって瑞萌先生からも頼まれていた。


 続いてイクスかミフユの声がすれば女性たちがいたら安心するだろう。


「俺はビル周辺の屍人を片付けて置く。イクスは動体センサーや熱源を参考にして全員に指示を出せ、ミフユと陽介は4階で生存者と接触しろ」


「「「了解!」」


 一階ホールの脇にあるエレベータに隣接した階段から4階を目指す。


 既にリノリウムには赤黒い血液であったものが乾燥した染みが、あちらこちらに見て取れる。


 おそらくこの染みの上で倒れた人は、新たな屍人となって獲物を探して彷徨っているのだろう。


 ミフユが先行し内部へ入るが、すぐにイクスからの警告がありブラスターの発射音が2発。


 確実に頭部を撃ち抜かれバタバタと倒れていった。


 階段には黒い染みや血が飛び散ったような跡が壁などを染め上げている。


 感染防止のためあえて手すりに触れないようにしながら、後方を警戒しゆっくりと昇っていく。


 二階に到着すると防火扉が降りておりその向こうで複数の呻きを察知した。


 ミフユはすぐに三階へと駆けあがると、防火扉が降りていない廊下とエレベーター付近にいたゾンビを始末する。凄まじい手際だった。


 すぐさま視線で合図を送ってくれたミフユに続いて陽介が後に続いた。


 装着したインカムから通信が届く。


< 二人とも、四階廊下には10体以上の感染者がいます。殲滅を推奨 >


「了解よ、じゃあ陽介は背後を頼むわね」


「わかった」


 ざっと廊下に飛び出したミフユは迷うことなくビームマシンガンを連射した。射線からそれたビームが壁や窓ガラスに当たる音のほうが発射音よりも大きい。


 ちょうど人の声や匂いを嗅ぎつけたのか、五階から下りてくるゾンビの集団が現れた。


 数は8。冷静に先頭のゾンビ2匹の脚を撃って転倒させると将棋倒しになってもつれ落ちてきた。命中精度の低い陽介ならではの作戦であり、倒れたところで着実に頭部を撃ち抜いていく。


「ゾンビゲーム様様だね」


 着実に頭部破壊のカウントを行い、8体プラス遅れてきた2体を倒すことに成功した。


 慣れてきている自分に驚くとともに、左手から伝わる生きようという意思が冷静さを後押ししてくれているようにさえ感じる陽介だった。


「殲滅終了、これから確実に頭部を破壊して撤退ルートを確保するわ」


 二人で協力し、中途半端に倒れているゾンビの頭部を撃ち抜き蒸発させていく。


 すると、入り口付近にバリケードで封鎖されている場所まで辿り着いた。


< 動体反応21。体温から内部には生存者が立てこもっていると予想。念のため銃撃に注意してください >


「ok~じゃあ交渉は陽介お願いね。私は撤退用の足場を良くするんでこいつらを空き部屋に放り込んでおくわ」


 するとミフユは持ってきたごつい皮手袋をはめると、足首をつかんで次々に空き部屋へ放り込んでいく。


 あまりの馬鹿力にやや呆れつつも、陽介はバリケードの奥に見えるドアをリズミカルにノックしてみた。


 何度かノックした後に、声をかけてみる。


「私は都立台間高校の避難所から救助に来たものです。無事ですか? 夜間にここが光を点滅させていたと聞きました。 とりあえずお返事もらえるとうれしいです」


 数秒後……


『きゅ、救助とは本当なのか? こちらにはもう食料はないぞ。それに廊下に奴らがわんさかいるはずだが』


「安心してください廊下のゾンビは殲滅しました。現在、救助のためのルートを構築中です。一応非常用の食料と水を持ってきました」


 すると予想外の反応に陽介は思わず驚いてしまった。


『もしかして亜麻色君? 2年C組の亜麻色君なの? 私は同じクラスの久連山です、久連山夏恋です』


「ああ久連山さん無事だったんだね!、救助を望むなら護衛の人たちも来ているので今なら逃げ出せると思う」


 2、3分ほどであったと思う。警戒しながら丁度廊下のゾンビを全て隣の空き部屋に放り込んだミフユが皮手袋を一緒に部屋へ投げ捨てたときのことだった。


『亜麻色君? まだいますか?』


「うんいるよ」


『今から開けるので、気を付けて』


「はーい」


 陽介とミフユがそれぞれ逆方向を監視していると、がちゃがちゃとバリケードを片付ける音が聞こえていたがしばらくしてドアが静かに開いた。


「ほ、本当だ。ゾンビがいない!? き、君達がやったのか?」


「はい、とりあえず中に入らせてもらってもいいですか?」」


「ああ、き、汚いが入ってくれ」

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