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防御フェンス設置作戦

 「キャプテン君、2年A組の様子はどうですか?」


 学校周辺のフェンスは、変質者や異常者対策のためにある程度しっかりしたものであったことが幸いし、損傷部分の補修で一応の形は整っていた。


 だがこれから生活水準の向上のために様々な施工を行えば騒音は必然的に発生し、奴らが再び集まってくるだろう。


 そのために、脆い箇所を瑞萌先生とファルベリオスは直接視察して確かめていたところだった。


「あいかわらず俺たちはあんたの生徒扱いか。まあ陽介が間に入ってくれるんで助かってるよ」


「そうですか、あの子はとても優しくて繊細なので、役割を失ったと落ち込んでいるんじゃないかって心配してたんです」


「いやあいつは強いぜ先生。咄嗟の機転や発想の柔軟さは正直俺たちの仲間としてスカウトしようと本気で考えているぐらいだ」


「私はみんなと仲良く、楽しく暮らせたらいいのですけどね。海賊やめて2年A組の生徒になっちゃいましょう」


 海賊相手に何を言うかとファルベリオスは一瞬苛立ったが、それは失った日常は決して戻らないということへの彼女なりの受け止め方なのだと伝わり押し黙った。


「そうできたらな、いいのかもしれねえ……ってあそこのブロック塀は少しひび割れてるな、やはり補修ポイントは多い。見回りを重ねる必要が出てくるのであればこの周囲を装甲板でがっちり固めちまおう」


「そうこう、ばん?」



 陽介や工事関係の仕事についていた男性らに集まってもらい、学校を丸ごと特殊装甲板で囲ってしまおう計画について話し合った。


 そうなると問題になるのは装甲板の質だ。


「やっぱり帝国軍駆逐艦クラスのフォルクライド装甲はどうです?」


「あれはポイントの割に弱いです。ミフユがパンチしただけで穴空きます」


 イクスの評価は低い。いくつか案が出たものの、彼らの判断基準が対ゾンビではなく武装やビームコートなどという話になったので陽介がまた提言をすることになった。


「あの、ゾンビってそこまで力強くないですよね……銃も撃ってこないし」


「さすが陽介じゃない! ほら私が言った通りじゃないのよ」


「ミフユが駆逐艦の装甲なんたら言い出したんっすよ」


「だって、ゾンビより凶悪なのが攻めてきたらどうすんのよ」


「「「ないない」」」



 結局、地球の技術上想定しうる脅威となりうる銃による攻撃を防げるレベルということで、加工作業がしやすく変換ポイントが格安なテクタニウム軽金装甲板を大量に用意することができた。


 これには大人総動員での設置作業となり、皆が協力して防御フェンス工事に取り掛かった。


 装甲補修用の特殊グルーガンで固定していくので、コツさえ分かればかなりの進捗スピードとなっていく。


 ミフユの馬鹿力で支柱や装甲板をアスファルトへ打ち込むため、基礎工事いらずで強度も抜群だ。


 ロッドたちと一緒に陽介もバリアスーツを身に着けての護衛にあたった。ブラスターを渡されたが、左手のおかげか照準がつけやすくかなりの命中精度を叩きだし迫るゾンビを10体以上片付けている。


 工事期間は約10日間かかったが、見事に全周囲を軽金装甲板で覆った時の達成感はすさまじかった。


 入り口として特殊装甲で作られた開閉式門を設置し、台間高校の防備はこの地球上で最強クラスのもになったと言えるだろう。


 変換ポイントは日々上昇を続けてはいたが、イクスはファルベリオスとも相談しゾンビウイルスの分析機器と、治療薬及びワクチンの開発へと取り掛かっていた。


 寝ることのない彼女はメインリアクター用の水を補給するだけで半永久的に活動が可能だ。


 深夜こそイクス本来の活動時間ともいえる。


 陽介に採取してきてもらったゾンビの肉片から培養したウイルスを分析機にかけてみたが、結果は想定外のものであった。


 ゾンビウイルスなどというものは仮説でしかなく、存在していなかったのだ。


 ウイルスは宿主の細胞に入り込み増殖するのが特徴で、ウイルス単体では自己複製ができないというのが定説とされている。

 では今回のゾンビパンデミックの正体は何か?


 ゾンビの肉片から採取した細胞は全て、別の細胞に置き換わっていたことが分かった。


 細菌が増殖するようなかわいい仕組みではない。


 入り込んだゾンビ細胞は、体内で周辺細胞を変質させていきまったく別の細胞組織になってしまうのだ。


 それはDNAの書き換えなどという生易しいものではない、ゾンビ細胞が正常な細胞を食って排泄したものがゾンビ細胞へとなっていく。


 まさに噛まれたらゾンビになるという悪夢が、体内でも起きていた。


 生物学的にはありえない存在。


 宿主の細胞を利用して増殖という枠組みの中には辛うじて入るかもしれないが、その過程が悍ましすぎた。


 < 似て非なるモノ >


 肉片や血が肌に長時間付着することで感染というより、【 食い変えられる 】 可能性が出てくるという新たな脅威。


 さっそくイクスが避難所全員に徹底してこの事実を周知させる。


 このことはまあよくよく考えればそうかもしれないと、皆が納得したもののイクスのデータベースにある近似性の高い脅威についてファルベリオスに伝えられていた。


「界魔細胞群による浸蝕行動か。


つまり世界と世界の狭間に広がる無限の地平、次元海を回遊しているとされる次元回遊怪獣 ダルキュリスから剥がれた細胞群ってことだな。


奴の全長は銀河数個分と聞いたことがあるが」


「そのためにも迎撃には必ずブラスタービームかフォトンセイバーを利用し、間違ってもミフユが物をぶつけたりして血肉や細胞を巻き散らさないよう徹底させてください。


 それからこの星の銃器での攻撃は非常に危険なので防疫体制を徹底させましょう。


 生存者保護の際は別テントでのスキャニングと洗浄、所持物の焼却処分、そして万が一感染……いえ浸蝕されていた場合の対処方針を決めておいたほうがよいでしょう」


 ◇


 生存者受け入れと外部探索者の帰還時のスキャニング用のプレハブは、体育用具用のものを流用しすぐに南門付近に設置された。


 スキャニング用のゲートと、洗浄用シャワー、そして汚染衣服の焼却作業などだ。


 洗浄用の消毒液は大量にシュヴェンターナで合成してもらっている。


 イクスが治療薬を試作中ではあるが、感染直後の部位への薬剤直接注入という方法になるそうでタイムリミットは感染後20分以内。


 それでも可能性が出てきたことに多くの避難民は喜んでいたし、希望が生まれつつあることを歓迎してくれている。



 良い流れになってきていると、見回りをしながら次第に距離を縮めていく陽介とミフユは肌感覚で実感していた。


 ブラスターやビームマシンガンのエネルギー弾倉供給のめどが経ったこともあり、周辺ゾンビの殲滅がほぼ完了したのではないかという見通しもあったからだ。


「ミフユの乗ってた海賊船ってどんな船なのかな?」


「えっとね、銀色に光っててすっごいかっこいいんだよ。最強の宇宙戦艦……海賊船か」


「いいなぁ、宇宙に行ってみたいな。やっぱり星とかすごいんだよね?」


「すごいっていうか、広くてね広すぎて暗すぎて、あの広がり続ける孤独の闇をどう受け止めるかだってキャプテンは言ってた」


 ガタンと、ゾンビが防御フェンスに当たる音が聞こえてくる。


 単体であり、高さを4mに設定しているので昇ることもできないから安心ではあるが、未だに数体がこうして体当たりのようなことをしてくることがあった。


「明日また倒しておこうっと、陽介はロッドとサザンクロスの修理進んでる?」


「ロッドさんに色々教えてもらいながら、左手の力を借りてやってるよ。でもシュヴェンターナに必要なパーツを変換してもらおうとするとめちゃめちゃポイントを食うんだ。サザンクロスって相当なオーバーテクノロジーの戦闘機なんだね」


「これで敵旗艦の艦橋に突撃して制圧しちゃうからね」



「そういう使い方だったんだ、そりゃ頑丈にできてるはずだよ」


 陽介とミフユは時間を見つけては良く話し込んだ。お互いのこれまでや、海賊のこと、この星のこと。


 ミフユは学校という存在にかなり興味を持ったようだ。


「ゾンビ共が現れなければ、陽介の住むこの星ってとっても平和だったのね」


「それでも紛争やジェノサイドもあったようだよ。あえて言うなら無関心でいられる人の割合が多いってことが平和の定義なのかもしれない」


「難しいこというね、でもうちらの宇宙よりずっとまし。人は超銀河帝国の権力者を楽しませ欲望を叶えるための生贄。彼らは拘束した未開拓の原住惑星民の首を並べてアートだと言うの。貴族たちで首を並べるアートを競ってる、そんな狂った世界……」


 言っていることの意味があまりにも邪悪すぎたためか、一瞬だけミフユの言っている意味が理解できないでいた。

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