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陽介の勇気

 その金属生命体を利用した強化改造ユニットには、ファルベリオスたち宇宙海賊にとって忘れられぬ過去があった。


 ロドラ・メラ超銀河帝国と敵対していた宇宙海賊ヴェンディダールは、あるとき金属生命体であるメルファリア人からの救助要請を受諾した。


 彼らはその特異的な生命構造のため、超銀河帝国に生体部品の材料として拘束され、その数を著しく減らしていた。


 ヴェンディダール号が救助に向かったものの、多くが拘束され加工された後のことであった。


 メルファリア人の長は変わり果てた息子の姿に泣き崩れるが、唯一手を差し伸べてくれたファルベリオスたちに感謝しせめてあなたの役に立ててくだされと、託されたのがこの生体強化改造ユニット、ファリアコアであった。


 戦闘において手足や臓器、眼などの重要器官が損傷損失することで兵士や上級将校が戦線を離脱することの影響を問題視した超銀河帝国は、瞬時に損傷部位を再形成することができる金属生命体ユニットを導入した。


 これは副次的な効果を生み出すことにも成功している。


 身体能力の向上や生機融合によるコンピューターへのダイレクトアクセスが可能になるなど、負担の大きい脳へのインプラントネットワーク形成を必要としないことも大きかった。

 

 ファルベリオスはもしもの時のために預かったファリアコアをイクスへ託し、いつかその思いをふさわしい者へと託そうと考えていた。

 だから迷わなかった。


 陽介という我が身の命を顧みず大切な部下を救った勇敢な少年を救うことに。



 ◇



 陽介は深い夢の中にいた。


 明晰夢というのだろうか?


 夢を見ているという自覚がある。


 連れ子同士の再婚は、時に切なく甘いラブストーリーを彩る要素として取り上げられることもあるらしいが、陽介にとっては地獄に等しい境遇へと追い込まれた歓迎できないもの、そういった過去の思い出がフラッシュバックの様に繰り返されていた。


 馴染めぬ3つ下の妹からキモイと言われ続ける日々。こちらが何かしたわけでもなく、ただ最初からそうであったように。


 その母親も、実の父も、妹に気遣って陽介と一緒に食事させないことに決めた。皆が終わった後に用意された食事を部屋に持っていって食べる毎日。


 高校に通い、バイトをこなしつつも、なぜか引きこもりのような扱いを受ける日々。


 理由が分からなかった。清潔を心がけていたし痩せ型の体形でバイト先の女性からは気が利くねと褒められ、別の高校の女子からはバイト終わりにお茶に誘われて相談を受けることもあった。


 本当にきもかったら相談相手に選ばないだろうし、それで勘違いしてその子を好きになったりするような、浅薄な脳構造をしていたわけでもない。


 だから……陽介はこのパニックが起きても無理に家族を探そうとは思わなかった。


 他人だったから、目の前の他人を救えばいいと思った。


 いけないことなのだろうか? 自問自答を繰り返す日々。


 その罪悪感が単身で食料探しに向かわせたのかもしれない。



 でも、ミフユは本心から助けたかった。


 正直、あんなに綺麗な人を、かわいい子を今まで見たことが無かった。


 絹のようなきめ細かな美しい褐色の肌と流れる銀髪。魅惑的な桃色の唇が開くたびに、見惚れないようにするのが必死だった。

 こんな人を守れるなら、噛まれても後悔はない。


 いつか、生まれ変わったらミフユのような美少女と恋がしてみたいし、ミフユには笑顔でいて欲しかった。


 自分が人生の最後に、助けることができて本当に良かったと、名状しがたい充実感の中で死を受け入れていた。


 なので、目の前で涙を浮かべるその姿にまで見惚れてしまっていた自分に、陽介はしばらく気付くことができなかった。


 陽介の右手を握り、ポロポロと涙を流すミフユの泣いた姿もまたかわいい。胸が高鳴った。


「ありがとう、ありがとう陽介! そしてごめんね、わたしのせいで!」嗚咽しながら抱きつく彼女の優しく甘い温もりと香が鼻孔をくすぐり脳髄を刺激する。


 なぜだか理解できないが、高揚しつつも湧き上がる満足感がまた陽介を眠りへと誘った。



 夕暮れが近づいていた。


 体育館二階では慌ただしく動き回る大人たちの姿がある。


「か、海賊さんたち大変だ! 校門付近に奴らが集まりつつある。このままだと校門が突破されちまう」


 イクスの分析では、300体近いゾンビが南門である校門付近に続々と集まりつつあった。


 このままでは94%の確率で突破は確実だという。


「だからってキャプテンが一人で飛び込むって自殺行為ですぜ!?」


 白人男性のクルーであるロッドがファルベリオスを制止しようとしていた。


「いいや、俺のバリアスーツのエネルギー残量はまだ96%ある。この状況で対応できんのは俺だけだろうよ」


「しかし!」


「ロッド、陽介は命がけでミフユを守ってくれた。あの勇気と覚悟に応えられなければ海賊じゃねえ、少なくともヴェンディダール号に乗る資格なんかありゃしねえ、違うか?」


「違いません、ならせめて俺もお供します」


「だめだ、ロッドとイクスには俺が撃ち漏らした屍人を始末してもらう。絶対にこの建物に取りつかせるな!」


「了解!」


 避難民が引き留めるのも聞かずファルベリオスは宇宙服を脱ぎ捨てると、ダークブルーのコートを羽織りふてぶてしい笑顔を見せた。


 不安そうに見つめる瑞萌先生によっと手を上げると、躊躇なく二階から飛び降り校門へと駆けていく。


 門を飛び越え着地すると同時に、ファルベリオスがフォトンセイバー起動させた。一閃ごとの光の軌跡が、まるで舞踊のように夕暮れに沈む校門の前で繰り広げられていた。


 自らを死地に追い込み、次々と襲い掛かるゾンビたちをすさまじい剣技で薙ぎ払っていく。


 腰だめに構えたフォトンセイバーと共に発せられた衝撃波でゾンビの集団が吹き飛んだ。


 一閃も休むことなく斬りつけ、ゾンビの手足や首、胴、足が常に宙を舞っているような不思議な光景であった。


 ファルベリオスもまた高揚していた。


 彼は闘う力を持たぬ者が他者のために振り絞る勇気というものこそ、この世で最も美しいものの一つだと考えていた。


 陽介はこの星の7号人類種としてその有りようを、人としての魂の高潔さと誇り高い心根を海賊たちに見せつけたのだ。


 「負けたくねえ! あいつに負けたくねえ! 勝ち負けじゃねえが、あんな男と出会えたことに俺は魂が震えてやがるんだ! だからてめえらにはもてあました荒ぶる思いのはけ口になってもらうぞ!」


 一瞬のためと同時に放たれた真空の刃が、道路に密集したゾンビたちの体をバラバラに吹き飛ばす。


 気合の入った声が、サザンクロスの上で撃ち漏らしの敵を監視していたロッドとイクスにも聞こえてくる。


「どうやら大丈夫のようだな」


「残り感染者数 およそ13体。さすがはデュランシルト銀河最強の剣士です」


 わずか10数分で、台間高校南門へ取りつこうとしていたゾンビの群は一層された。


 たった一体さえ見逃さず撃ち漏らすこともなく、校門を突破されることもなく、ファルベリオスは息を乱すこともなく冷徹に目の前の現状を把握しようとしていた。


「脆すぎる。フォトンセイバーが当たる前に脱力していたような気さえする。光に弱いのか、それとも別の要因なのか……」

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