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キャプテン・ファルベリオス

拙作を読んでいただきありがとうございます。


 大型装甲車二台分以上の大きさをした飛行機のような乗り物は、かろうじて浮遊しながら人力で押す、という奇妙な移動をしていた。


 見たことも触ったことのない手触りの金属に戸惑いつつも、彼らを台間高校のグランドまで誘導することにした。


 幸いにも乗り物の上でゾンビを狙撃している少女のおかげで押すことに専念できていた。


 緋色の髪の青年、彼はキャプテン、またはファルベリオスと呼ばれていた。


 よく通る凛々しくも胸に染みる声で迷うことなく的確な指揮を続けている。


「この有様になってどれくらい経つ?」


 キャプテン・ファルベリオスは乗り物を押しながら気さくに話しかけてきた。


「もう半年になります」


「半年? えっとイクス、この惑星の公転軌道の半分てことか?」


「イエスマイマスター。帝国標準自転率に換算し約180日になります」


「そいつは大変だたったな」


「いえ、こちらこそ命を助けてくれてありがとうございました。皆さんがいなかったら僕もあいつらの仲間入りでした」


「ってことはやっぱり噛まれると感染するタイプか」


「はい」(知らない人がいるんだ? それにしても会話内容が色々おかしい)


「お前ら! バリアスーツのエネルギーカートリッジの残量をチェックしろ! 7号人類種への感染は3号種にも影響することがあるからな」


(バリアスーツ? エネルギーカートリッジ? なんだかSFの世界用語にしか聞こえない)


「あ、そこの角を曲がった先にある学校です」


 グランドへ通じる南門を開閉すればなんとかあの乗り物も通過できる? といった目測だが校門前にもゾンビが数体蠢ていた。


 すかさず乗り物の上で少女がゾンビを撃ち抜いている。凄まじい腕だった。


 陽介はあの少女が気になってしかたがない。


 銀色の髪をツインテールにしており、身体に密着したボディースーツからは美しい褐色の肌が見え隠れしている。目尻の角度がややきつめではあるが、大きく活き活きとした目は魅惑的でターコイズブルーの瞳が宝石のように輝ている。


 年の頃は16,17歳。スリムで胸も豊かではないが彼女の健康的魅力に思わず見惚れていた陽介。


 ふんっと一瞬あった視線を外したその子の名はどうやら、ミフユというらしい。


 陽介と一緒に乗り物を押しているのは、ファルベリオスをマスターと呼ぶメイド服の黒髪ロングの美少女と白人男性、そしてキャプテンだった。


 陽介が校門を開け、乗り物がその最後の出力を上げながら浮遊し校門を乗り切ろうとしている。


 大きな音を立てながらどうにか乗り物がグランドに着地した。急いで校門を閉める陽介とキャプテン。


「ミフユ! 周辺の屍人をある程度片付けろ!」


「了解!」


 なんとかグランドに入ったものの、未だにゾンビは駆逐できていなかった。


「すいません他よりは大分少ないとは思うんですが、ここにも奴らはまだ残ってるんです」


「了解だ、3人はあの大きな丸い屋根の建物の近くまで押してくれ」


 するとキャプテンは腰の銃を抜き、部室棟やグランドで死肉を貪っていたゾンビたちを一発も外すことなく倒していく。

 一体この人たちは何者なのだろう?


 果たして連れて来てしまってよかったのか? いまさらこみあげる疑念と後悔。


 だが、この日本のような銃器の入手が困難な国において、彼らのような規格外の武器を持つ人と繋がれるのは非常に大きい。


 ついさきほどまでゾンビ一体すら倒せず逃げ回っていた自分が、奴らを一撃で倒す武器を持つ戦闘集団の案内をしている。


 もし避難所を襲われたら? 女性や子供たちが? っという不安が沸き起こったがすぐに風に流されるように消えていった。


 ここにはミフユという美少女もいるし、銃で脅すようなこともなかった。


 そう迷っている陽介に対し、ファルベリオスが声をかけてきた。


「少年、落ち着いて話せる場所はあるか? 部下を休息させてくれればこのエリアの屍人共を駆除することを約束するが」


「え? えっと、あそこの体育館に避難者が暮らしてるんです。武器で脅すようなことをしないでもらえれば」


 一瞬脅すという表現を使った陽介はまずいと思ったが、ファルベリオスは爽やかな笑顔で肩に手を触れた。


「仲間を大切に思っている顔だな、安心しろ俺たちは宇宙海賊だが弱者からは絶対に奪わない」


「は、はい……ん? か、海賊? 聞き間違いだよね、きっと」


 体育館の二階に設置してあるハシゴを降ろしてもらうと、担当の高野さんという中年の男性がファルベリオスたちを見て驚いている。


「高野さん、この人たちに助けてもらったんです。休める場所を提供してほしいとのことで」


「陽介君が言うなら大丈夫だろう、さあ皆さんも早く上がってください」


 ミフユさんやファルベリオス、そして白人男性に黒髪メイド、という不思議な4人が台間高校体育館へと降り立ったのだ。


 ◇


 もちろん中は騒然となった。


 ミフユはハシゴ付近でゾンビたちの動きを監視してくれているようだった。


 ファルベリオスはリーダーをしている新任教師である杉原瑞萌すぎはらみずも、通称 瑞萌先生と対面していた。


「あ、あのあなたたちはいったい何者なんでしょう」


 戸惑い軽く震えてさえいる瑞萌先生の様子にやや困っている自称海賊たち。


「隠すこともねえか、俺たちは宇宙海賊だ。今はこの星に不時着し、ヴェンディダール号の行方を探っているところでな、分からないことばか りだ」


「え? 宇宙海賊? あの、ふざけてるんですか? 格好といいコスプレ? この非常時に?」


 瑞萌先生が怒るのも無理はない。彼らは宇宙服やバトルスーツのような恰好をしているのだ。


「なあ陽介って言ったな、俺たちが宇宙海賊だって信じてもらうにはどうしたらいい?」


「えっと、この人たちはビームを撃てる銃で僕を助けてくれました。おかげでほら、食料もこんなに持って帰ることができたんです」


 リュックを降ろし、中を見せると皆がおおー! 歓声を上げた。


「陽介君にはいつも無理させちゃってごめんね」


 瑞萌先生が申し訳なさそうに謝る。


「いえ、僕がゾンビに囲まれた時に、あのファルベリオスさんたちがパパッ! てやっつけちゃったんです」


 にわかに信じがたいという疑念と、もしかしたらという希望が混じり合った複雑な空気が体育館を支配していた。


「ねえキャプテン! こいつらに見せればいいんじゃない?」


 二階観客席から、ミフユが銀髪のツインテールを靡かせながら声を張り上げる。


「まあそういうこったな、じゃあ気になる奴は二階へ来い」


 ファルベリオスはまるで散歩にでも行くような軽い足取りで外へ飛び降りると、あの乗り物に近づいていたゾンビ二匹に対峙する。


「なあ止めさせたほうがいいんじゃないか? さすがに二匹に組み付かれたら」


 そんな声がちらほら出てくる中、ファルベリオスのとった行動に皆が仰天することになる。


 腰に下げた金属製の奇妙な筒を手にしたファルベリオスはスイッチをオンにすると、光の粒子が収束した光剣を展開する。


 うおっ! という声が広がる中、彼は一瞬でゾンビの首を切り落とし無力化させてしまうのだった。


「フォトンセイバー。キャプテン・ファルベリオスが振るう武器の名前です」


 あの黒髪メイドが皆へ告げる。


 いつの間にか戻ってきていたファルベリオスは、呆然とする避難者たちの間を通り瑞萌先生の前にやってきた。


「あ、あの、敵意や、危害を加えるつもりはないのですね?」


「もちろんだ。ただ食料と水が尽きかけている、少し分けてもらえると助かるのだが」


「そ、それは可能です」


 ◇


 謎の戦闘集団が悪意に満ちた存在ではないことにほっとし、ようやく海賊たちは休息をすることができた。


 白人男性風の海賊がキャプテンに報告をしているが表情が渋い。


「いやあ参りましたぜ、完全にシステムが落ちましたよ。こりゃ修理にどれくらいかかるか見通しも立ちません」


「イクスの見立てはどうだ?」


 どうやら黒髪メイドのことらしい。


「現在サザンクロスとのデータリンクが途絶しているため、損害状況不明。この星の文明レベルではイビルサーキットの修復は相当困難である

 と予想」


「サザンクロスのトランスポンダーを起動させねえと、ヴェンディダールと連絡すら取れねえか、最優先はメインシステムの起動とトランスポンダーの修理……か」


 避難民の女性が、自称宇宙海賊たちに水を持ってきてくれていた。


「ああすまないな。うん、生き返るぜ。あんたらにとっても水は貴重なんだろ?」


 瑞萌先生は微笑みながら答える。


「幸いにもこの体育館の地下には、災害用に太陽光を利用した浄水設備があるのでこれくらいの人数なら賄えるんです」


「へぇ、この星は水に恵まれてるんだな。じゃあ瑞萌先生さんよ、俺たちと取引といこうじゃないか」


「と、取引ですか?」


「ああ、寝ても覚めても腐っても、俺たちは宇宙海賊。善意や正義ごっこで生きるつもりはない。俺たちの目的はあの動かなくなった飛行艇の修理だ。

 しかしそれにはかなり時間がかかるって見通しだ。そうなるとここを拠点とするしかないし、部品を集めなきゃならん。そこでこのフィールドと建物エリアの屍人を殲滅するから、拠点として活動させてくれ。寝泊まりできるスペースと水、食料……食料は厳しそうだから確保のための護衛をしてもいい」


 瑞萌先生や大人たちは唸るしかない。


 これほどまでの好条件で彼らが味方に、いや取引できるとは思っていなかったからだ。


 見たところ、このキャプテンと呼ばれる目元が涼しく凛々しい青年に、彼らは全幅の信頼と忠誠を誓っているように見える。


「わ、私たちとしてもありがたいのですが、本当にそれでいいのですか?」


「構わねえ、この俺キャプテン・ファルベリオスの名においてお前たちを守ろう」

読んでいただきありがとうございました。

よろしければブックマークや☆などいただけると、モチベにつながりますのでよろしくお願いします。

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