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総合格闘技そうごうかくとうぎは、

打撃 投げ技 固技 関節技 絞め技などの

様々な攻撃法を駆使して勝敗を競う格闘技の一つである。


略して「総合」と呼ばれることもある。

英語では「混合格闘技」を意味する

「Mixed Martial Arts」と呼ばれる

略称は「MMA」


2035年 MMAメジャー団体 「RFC」

ヘビー級チャンピオン 奥海(おねみ) 由親(よりちか)

27歳 男


日本人の父とブラジル人の母の間に生まれ

格闘家だった父の影響で幼少期から格闘技を始め

18歳でプロデビューするやいなや

破竹の24連勝を飾り 無敗のまま

RFCの世界王者となった


パウンド・フォー・パウンド(全階級で最も優れた格闘家)

と評される由親のファイトスタイルは


スタンド状態では深めに腰を落とし 脱力した構えから


強く速く的確なパンチと

※ムエタイ※ 式の鞭のようにしなる 蹴りを放ち




※タイの格闘技 両手、両肘、両脚、両膝の八箇所を用いて相手と戦う※




また打撃を掻い潜り 組み付けば 柔道をベースにした投技や

ムエタイ式 ※首相撲※ からの膝蹴り



※相手の首をつかみ、さらに相手の体制を崩すことによって、次の攻撃につなげるためのテクニック※



寝技になれば BJJ(ブラジリアン柔術)で培った

テクニックを駆使し 時に相手の関節を極め

時に頸動脈を締め上げる


全局面で圧倒する技に加えて

身長2m3cm 体重120.2kgの恵まれた体格


更にはトライアスロンの国際大会に参加すれば

上位入賞を果たすほどのスタミナを持つ この男こそ


自他共に認める 世界最強の男である





しかし 孤高の存在は いつの時代も孤独であり


過ぎたる力は 満たされぬ苦しみとの合わせ鏡でもある



ライバルを渇望する由親にも

予期せぬチャンスが訪れた


いつも通り 朝のランニングに向かう由親に

異変が訪れる


玄関に座り靴紐を結ぼうとした時

左手で持った靴紐が スルリと抜けてしまった



左手に力が入らない

驚いて顔を上げると激しい立ち眩みに

思わずしゃがみ込むと同時に

吐き気を催す程の頭痛に襲われた






(これ 死ぬかもしれねぇな)






驚くほど 冷静かつ客観的に自分の境遇を悟りつつ

眠りについた







目が覚めると

そこは何もない 真っ白な部屋だった


正面の白い壁に 白いドアが一つだけある以外は

何の家具も特徴もない 15畳ほどの広さの

ただただ白い部屋だ


「なんだここ オレ死んだのか?」


身体を確認するが 今朝ランニング用に着替えた

服のまま 怪我もなく むしろ練習や試合で

酷使され痛んだ足腰や 古傷の痛みも無く

普段よりも健康な気さえした


「よくわかんねぇけど とりあえず開けてみるしかないか」


由親はドレッドヘアーと胸から左手首にかけてに彫られた

ポリネシアンタトゥーが似合う

屈強なルックスとは

あまりにも不釣り合いな程


慎重に ゆっくりとドアを開けながら

猫背になり 隙間から 部屋の奥を覗き込んだ




「ウォオオオイ!!!!!」


突然後ろから叫ばれ驚き 反射的に背後へ裏拳を飛ばす


世界最強の男が放った全力の裏拳を

片手でガッチリ受け止めながら 異様な出で立ちの男は

笑いながら話しかけてきた



「来たかァ! 由親ァ! 待ちくたびれたぞ! まあ入れ!」


男は豪快にドアを開け 部屋に招き入れた


そこには

酒池肉林という言葉を形にしたような空間があり

美酒 美食 美女が所狭しと並んでいた





「天国か......? なんなんだここは」


それを聞いた男は上機嫌な様子で豪快に笑い


とにかく座れと 大きな座布団を二つ地面に放り

その一つに胡座をかいて座った




「おー 自己紹介がまだだったか? 俺はラージャ 戦いの神だ」


そこから一通り自分が何故 神に会っているのが

下界の自分はどうなったのか聞かされ驚いた



あのランニングに向かおうとした朝

俺は脳溢血で死んでいたらしい


自分が死んでしまったと聞き 真っ先に浮かんだのは


敗北を知らぬまま

帰らぬ人となった事実に打ちのめされた


強烈な打撃で意識を断ち切られる


関節技や 絞め技を極められ降参する


そのいずれでもいいと 願ったがついに叶うことなく

自らの生涯を終えた絶望感をラージャは見抜き


更に続けた





「まだまだ戦り足りねぇっつう面だな まぁお前の居た世界の神は眠てぇ野郎だから 争いはなくなった方が良いなんて考えやがんだよ」


「あのオネム野郎を信仰するなら テメェみたいな野蛮人はさっさと死んじまった方が 残された人間は健全に育つっつうもんで おめぇは間引かれちまった挙句 あっちの世界の天国にすら引取り拒否された始末で 俺んとこに放り込まれた訳だが」



ラージャは話しながら自分の懐に手を入れると

ある物を取り出して この空間にはあまりにも不釣り合いな

ちゃぶ台の上へ 乱雑に置いた


酷く使い古されたそれは


妙な刻印が施されたオープンフィンガーグローブだ



オープンフィールドグローブとは

通常のボクシンググローブとは違い

第二関節までを覆う形状をしており

全ての指を自由に動かせるため

掴めて 殴れるが ボクシングのように

グローブ自体を防具として扱うには小さい

MMA用のグローブだ



由親は世界中のMMA団体を知っていたが

グローブに刻印されたマークに見覚えがなかった



「これはなんだ?」



「グローブに決まってんだろうが」



「そうじゃない 見たことがない団体のグローブだ」



「そりゃあ そうだろうなァ! コイツは俺の世界で使ってるもんだからよ」




俺の世界?

俺が生きてたあの世界以外でMMAファイターがいるのか?



目の前に座った神が何故 神に捨てられた俺を

拾ったのか理解した



「そこに俺を送りたいんだな」



それを聞いたラージャはまた豪快に笑いながら頷く


「話が早くて助かるぞ そういうこった! だが俺の世界とお前が居た世界じゃ 理が少々異なる」



そう言うとラージャはどこから引っ張り出したのか

分からないが大きなホワイトボードを取り出し


説明を始めた



「俺の世界じゃ拳闘士になったら誰でも 器に応じたスキルを授かるようになってる」



その世界は強さが 心、技、体、

3つのカテゴリーから数値化されその数値を元に

スキルを習得する事ができるらしい



「それでこのグローブだ ちょっと付けてみな」



由親がグローブを付けると手の甲辺りに施された

刻印が薄く光り始めた


そこになんらかの板を持ったラージャが

殴れと言わんばかりの体制で何も言わず

嬉々とした表情で待っている


板を殴った経験も無ければ

バンテージさえ巻いていない

拳を使う事に抵抗を覚えたが すぐに

自分は既に死んでいた事実を思い出し 考える事をやめた



腰を落とし左半身を前に出し

オーソドックススタイル(右利き構え)に構えた


数秒足腰の感覚や 手足の脱力感を確かめ

一気に踏み込み 腰をひねり 身体をしならせ

右腕に体重を集めるよう 全身を連動させる



その動きを他のスポーツに例えるなら

野球のピッチャーが行う 投球に近いメカニズムだ


ボールを持った状態で構え 足を上げ 踏み込む

この時点では体重は踏み込んだ足に集中する


そこから 腰を捻り 上半身を前へ押し出しながら

肩を回転させていき 最終的に

自分の全体重をボールに乗せ 投げる



この動作に限りなく近い右ストレートを

由親は正確にラージャの持つ板へ打ち込んだ


板は音を立てて粉砕され その粉は宙を舞い

空中に何かの文字を描いた




奥海由親 27歳 ♂


心 2200

技 2400

体 2900


スキル無し







ラージャはそれを見ると手を叩き喜んだ


「こいつはすげぇな! こないだ来た レビン・ロンドルマンっつうゴリラも凄かったが お前と比べたら半分ってとこだ」



「レビンロンドルマンといえば 20年以上前に亡くなったMMAファイターだ 彼もここへ?」



「やっぱ知ってんのか? 来る事には来たが あっちには行かなかったよ」



聞けば 過去 何人ものファイターを招待したが

ことごとく断られ続けてきたという


そして一同同じ理由で


もう満足だ と そこまで話し ラージャが続けた



「お前は違うように見えるぞ」




そこからは即断即決だった


ラージャが出した提案は

前世の記憶 身体の引き継ぎ

言語の最適化

そしてスキルの付与


しかしスキルの付与はこの世界に生を受け

拳闘士アカデミー内で実力を認められ

正式な拳闘士になった際 付与されるもので

ラージャからの恩恵はあくまで

この世界で生を受けた人間として

一部を書き換えてもらう事だったので

現状スキルは特にないまま転生することになった




「まぁ楽しんできな」


ラージャは笑いながら 俺の顔に手をかざした

白い光に包まれたまま 眠った


目を覚ますと 森林の中だった

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