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8.遺跡探索

 小屋の中を調べると、盗まれた起動武器と機械式の乗り物が見つかった。エルータはまだ気絶しているので、機械式の乗り物に乗せ牽引して村まで帰る事にした。他の邪教団の者はおらず、足取りに繋がる物も何も無く、村の方が心配だったからだ。


「アイ様、ありがとうございました」


「お礼を言われるような事はしてない、というか出来なかったよ、私」


「そんな事無いです。こんな結果になってしまいましたが、キネーヌと最後に話が出来て、ちゃんと言いたい事が言えたのはアイ様がいたからです。それに双子の巨鎧からも助けて頂きました」


 帰り道、イルナに乗りながらレイネンと会話する。キネーヌを救えなかった事、双子の巨鎧を取り逃がした事。アイリー自身に悔いは残るが、それでもレイネンの気持ちが少しでも晴れたのなら、アイリーは嬉しかった。


「キネーヌはわたしだったかもしれないんです」


「どういう事?」


「イチルゴ村は今でこそ、そこそこ発展していますが、昔はもっと貧しく、わたしとキネーヌは人買い同然の施設で身寄りの無い者同士として出会いました。そこにいた数人の子供達は奴隷のように扱われ、与えらえる食べ物も少なく、みんな生きるのに必死でした」


 ロガンの中からレイネンは過去の話を始めた。


「来たばかりで輪に入れず、競争心が無かったので食べ物も少ししか得られず、餓死寸前だったわたしに食べ物を分けてくれたのがキネーヌでした。キネーヌは初めて出来た友達で、それからは二人で知恵を絞って何とか生きていました。キネーヌの行動力とわたしの機転で何とかやっていけたのです。でも、わたしは叔父にあたる人が引き取りに来て、半年後にはイチルゴ村を出る事になりました」


「そうだったんだ」


「残ったキネーヌの事は心配でしたが、子供のわたしにはどうする事も出来ません。やがてシュワイア家に引き取られ、わたしは幸せな道に進めました。でも、もし村に残っていたら、キネーヌと同じ道を歩んでいたかもしれないんです。それに、イチルゴ村はの事は忘れようとしていました。今回の件が無ければ戻ろうとしなかったのですから。だから、キネーヌに合わせる顔なんて本当は無かったんです」


「そんな事無いよ。レンちゃんが必死だったのは知ってるし、助けた時はあんなに嬉しそうだったじゃない。もしレンちゃんが村に残ったとしても、邪教団には入らなかったんじゃないかな」


 アイリーは感じるままに話す。ここまでレイネンが喋る事は無かったが、今までの生活を見てきて、レイネンという少女が邪教団の誘惑に負けるイメージは無かった。


「アイ様は勘違いをしています。わたしはそんなにいい子じゃありません。

……少しだけ昔話を聞いてもらってもいいですか?」


「うん、いいよ」


 間をおいてから、レイネンは話し出した。


「わたしはここから少し離れた、小さな町で生まれ育ちました。両親と妹、貧しいながらも幸せな家庭だったと思います。幼い私が外に遊びに行っている時、町で争いが起こりました。両親も妹も皆殺しでした。わたしは運よく生き延びましたが、先ほど話した通り、身寄りが無いのでイチルゴ村の施設に拾われました。その後叔父と名乗る人物に引き取られましたが、それが本当の叔父だったかはわたしには分かりません。しばらくはその男の下で召使のように使われましたが、わたしが大人しい事が気に食わないのか、理不尽な暴行を受けていました」


「そうなんだ」


 レイネンはアイリーが思っていた以上に辛い生活をしていたようだ。


「結局、わたしは情報ギルドに売られ、そこで訓練を受けるようになります。情報ギルドといえばまだ聞こえはいいですが、結局はこの間のならず者達のような裏の仕事が主です。違法物の取引、暗殺、諜報、あとは身体を売る仕事などです。

わたしは見ての通り女性的な魅力が薄く、小柄で、すばしこかったので暗殺の訓練に回されました。でも、能力が無い者は捨てられ、奴隷のような仕事に回されます。だから、とにかく必死で、仲間などおらず、ただ人を殺す為だけの訓練を受けました。巨鎧の扱い方もそこで習いました。わたしの身のこなしは人殺しの技術で得たものなんです」


「うん……」


「最初の頃の仕事は悪党同士の抗争での暗殺でした。人を殺す事に躊躇いはありましたが、相手は悪党だったので、殺す理由を付けて、なんとかやり遂げました。出来なければわたしが死ぬか、酷い生活になるかなので、必死だったのもあります。でも、初めて人を殺した夜は恐ろしくて眠れませんでした。

しばらくはそんな仕事だったのですが、ある日、大きな仕事を任されます。複数人で王国の要人を殺す仕事で、わたしは囮役であり、他の人が失敗した時の切り札でした。その暗殺の相手がリムール様の父である、ストラド・シュワイア様です」


「え?」


 そこで思わぬ名前が出たのでアイリーは驚く。


「暗殺は失敗に終わりました。歳をとったとはいえ、ストラド様の剣の腕は衰えず、暗殺しようとした者は皆返り討ちにあいました。いざという時、わたしは迷っていました。相手は悪人ではなく、国の英雄と言われる人。そして、自分より暗殺技術が上の人達をあっさりと倒した人です。でも、殺さなければわたしに生きる道は無い。だからわたしは普通の子供の振りをして近付き、あの方に剣を向けたのです。迷いのある剣です、簡単に避ける事も、反撃してわたしを斬る事も出来たでしょう。でも、ストラド様は剣を避けませんでした。あえて、剣を受け、襲ってきたわたしを抱き締めこうおっしゃったのです。『もう大丈夫だ』と」


 レイネンの声には色んな想いが感じられた。彼女にとって重要な出来事だったのだろう。


「運良くストラド様の傷は浅く、わたしはシュワイア家に捕まりました。守衛に連れて行かれれば法で罰せられ、もし組織に戻れても死かそれに近い仕打ちが待っているのは分かっていました。でも、そのどちらへ行く事もありませんでした。

わたしはそのままシュワイア家に引き取られ、養子になる事になったのです。信じられませんでした。命を狙った相手を養子にするだなんて。情報ギルドとは話を付けたのか、それ以降関わり合いになる事はありませんでした。でもわたしは組織からの暗殺を恐れ、周りの人も信じられず、部屋に籠っていました。そんなわたしを外に引っ張り出し、守ると言ってくれたのがリムール様です」


「そうだったんだ。よかったね、本当に」


「だから、シュワイア家には感謝しかありませんし、今のわたしの命はリムール様の物といっていいのです。

どうですか?わたしはアイリー様の思っているような人間ではないですよね?分かっていただけましたでしょうか?」


「ふふっ。話を聞いて分かったよ。レンちゃんが本当にいい子だって」


「どうしてですか。話した通り、身分も低く、人殺しもしてきた人間ですよ」


「身分は関係無いよ。私だってただの村娘だよ。人殺しだったらさっき私もしたし」


「それはきちんとした理由があって……」


「レンちゃんだって理由、というか命令で殺してただけでしょ?欲望のままに人殺しをしたんじゃないんでしょ?だったら同じだよ。もしレンちゃんが情報ギルドに馴染んでて、暗殺が楽しくてしかたないって言うんなら、違うと感じたよ。でも、レンちゃんはそうじゃないんでしょ?」


「それは、そうですが……。でも、アイ様みたいに葛藤して、それでもキネーヌを助けようとしたみたいな考えは出来ませんでした」


 レイネンはどうしても自分を卑下したいようだ。でもアイリーもそれでは納得がいかない。


「じゃあ、こうしよう。レンちゃんも最低の人間で、アイも最低の人間。どっちもろくでなしだけど、必死に生きようとしてる。どう?」


「変な人ですね、アイ様は。でも、リムール様に似ている部分もある気がします。頑固なところとか。

……ありがとうございます」


「お礼はいいよ。その代わりアイの事は様付けじゃなくてアイって呼んで欲しいかな」


「いえ、それは。呼び捨てには出来ませんので、アイさん、でもいいですか?」


「うん、様付けよりはいい。嬉しいな、レンちゃんの事色々知れて」


「他の人には内緒ですからね、アイさん」


 少しだけレイネンとの距離が縮まった事はアイリーにとって大きな収穫だった。


 イチルゴ村に戻ると邪教団の襲撃は行われておらず、リムールはまだ戻っていなかった。エルータも目を覚ましたので、とりあえずリムールを除いて経緯を説明する。キネーヌが邪教団に入っていた事はアイリーとレイネンの願いで村の人には言わない事に決めたのだった。エルータが攫われた事も村にはまだ伝えていなかったので、村内は落ち着いている。


「本当にごめん、あたしが機械の武器の話に釣られなければ、ここまで騒ぎにはならなかった」


 宿屋の一室でエルータが謝る。エルータは朝にキネーヌと会って、機械の武器を見せてもらい、その時、飲み物に眠り薬を入れられ、攫われたという。気が付いてからは特に有用な情報は聞いておらず、あくまで村人を救出された事への立て直し策だったようだ。


「エル様は悪くありません。捕まらなかったとしても、起動武器を奪っての作戦は行われ、他の誰かが人質になったと思います。わたしが怪しい動きに気付いていながら、誰にも相談しなかった事の方が問題です」


「無事に起動武器もエルちゃんも戻ってきたんだから、いいんじゃない?」


「問題は私が取り逃がした、邪教団の双子の方だと思う」


「話を聞くに、隕石の召還は伝説級の魔法だから、多分巨鎧の特殊技能よ。幻影、巨鎧を隠す、攻撃の無効化、転移に関しては魔法でやったんだと思うわ。でも、人間で、少女の見た目でそれ習得してるのは普通じゃない。多分、悪魔と取引して、何らかの力を手に入れたと考えた方がいいわね」


 邪教団が生贄を使い、悪魔と取引して力を手に入れる話は信憑性があるようだった。


「複座式の巨鎧があるって聞いた事はあったけど、剣技と魔法の両方が使えて、装甲も厚いとか、特殊型でもかなり高性能だな。邪教団についてはリムの方が詳しいから、何か知ってるかもしれない」


「わたしも力不足でした。話に気を取られず、敵が幻影だと気付いていれば」


「自分がいれば幻影魔法とか、攻撃の無効化とかならどうにか出来たんだけどね。次に戦う機会があったら、相手もこちらの対策をしてくるだろうし、油断できないわね」


 双子は別の作戦の話をしていたので、今頃は別の悪事を働いているのかもしれない。その間はこちらに攻撃をしてくる事は無いが、誰かがこの村のように犠牲になっているとも言える。


「双子が今回の一連の誘拐の指揮をしていたのは確かだと思う。だから、これ以上何かする前に止めたいな」


「まあ、邪教団は謎が多いし、まずは情報集めからじゃないかしら」


「その前に一つ、いいかな」


 そこでエルータが話を切り出した。


「エル、何かあるの?」


「やっぱり、あたしはこのままだと足手まといにしかならないと思う」


「そんな事無いよ」


「わたしもそうは思いません」


「ありがと。でも、これはあたし自身が感じてる事で。だから、あたしも自分の巨鎧を手に入れたいと思うんだ」


「カミサマ探す?」


「そう。お金はそこまで無いけど、ハンターギルドで借りれば、報酬から分割で払えるし」


「だったらこの間のドラゴンの部品を売ったらどう?全部売れば巨鎧2機分位のお金になるわよ」


「そんなに高値で売れるのか?でも、あれはみんなの報酬だし」


「私は別にいいよ」


「わたしもです」


「ボクお金要らない」


「自分も特にそこまで困って無いし、リムちゃんだって家がお金持ちで不要だと思うわ。少し行けば機獣の部品の買取をしてて、巨鎧も結構な種類を売ってるトラマトの町がある。まずはそこを目指すのはどう?」


「みんながそれでいいんなら、あたしは巨鎧を買いに行きたい」


 リムールはいないが、次の目的地は決まったのだった。少しするとリムールが聖教団の人を何人か連れて戻ってきた。その人達に話をする前にリムールだけ連れてきて簡単に説明をした。


「わたくしはキネーヌさんの件を隠すのは良くないと思いますわ。その情報から得られる邪教団の繋がりもあると思いますし。ただ、アイさんとレンがそう決めたのでしたら、わたくしはそれに従いますわ。レンが自分の意思でお願いをする事なんて殆どありませんし」


「リム様ありがとうございます。アイさんも改めてありがとうございました」


「アイ“さん”?ふふ、レンを色々助けて頂いたみたいですわね。わたくしからも改めてお礼申し上げますわ」


「でも、双子の邪教徒は逃がしちゃったし、キネーヌさんだって助けられたかもしれないし……」


「『双子の黒魔術師』。邪教団の名のある幹部ですわ。どれだけ探しても見つからず、出会った者は殺される。むしろレンを守って生き残れた事を誇っていい位ですわ」


 話をしていると“コンッコンッ”と部屋の扉をノックされる。機動馬車に積んて来た聖教団の巨鎧を下ろし終わり、報告に来たのだろう。


「はい、どうぞ」


「シュワイア様、失礼致します」


 入ってきたのは長身の固そうな女性と温和な顔の筋肉質な男性だった。二人とも聖教団のローブの上に鎧を着た、神官騎士だと分かる。


「ケミツさんの方が立場が上なのですし、様付けは止めて下さいって言ってますよね。普通にリムールと呼んで下さいな」


「いえ、それは出来ません。聖教団に上下関係はありませんし、シュワイア様の方が私などより武勲を上げております」


 ケミツと呼ばれた女性は姿勢を正しながら、はきはきと答える。見るからに真面目な女性だ。切り揃えた藍色の髪が更に固い印象を与えているのだろう。


「上下関係が無いのでしたら、それこそ気軽に呼んで欲しいですわ。まあ、それは置いておいて、申し訳ありませんが、しばらくは村の警護をお願い致しますわ」


「勿論です。ちょうど我々が近くに来ていて運が良かったと思います。村の警護をしつつ、邪教団の情報を集めるつもりです」


「今わたくし達が知っている情報を伝えておきますわ」


 リムールが今までの経緯や、エルータが攫われ、救出した際に双子の巨鎧と会った事などを説明する。アイリーとレイネンは足りない部分を補足するが、キネーヌの件については隠し通すのだった。


「あの『双子の黒魔術師』と戦って生き残ったとは。さすがシュワイア様の雇った方達です」


「雇ったのではなく、仲間として旅をしていますのよ」


 アイリーは気にしないが、リムールははっきりとさせておきたいようだ。


「では、邪教団の足取りが掴めましたら、教団を通して連絡致します」


「こちらも何か分かれば連絡致しますわ」


 二人の神官騎士を村に残し、アイリー達は出発した。リムールもエルータの巨鎧購入に賛同し、行き先はトラマトの町になった。


「みなさん無事で何よりでした。

が、わたくしは疲れましたわ……」


 機動馬車の中でリムールが力を抜く。


「リム様、お疲れ様です。肩を揉みますね」


 レイネンがリムールの後ろに回り、肩を揉み始めた。


「リムちゃんはあの人達が苦手なの?」


「苦手、とはちょっと違いますわ。真面目で、正義感が強くて、立派な人達だとは思いますの。でも、わたくしを特別扱いし過ぎていて、何かあるとすぐに危険な仕事からわたくしを外そうとするんですの。ルルトだって普通の神官型の巨鎧でいいと言ったのですが、本来高位の神官が使う巨鎧を任されたんですのよ。

そんな感じで、わたくしは聖教団の神官騎士の中でも浮いていますの。まあ、そのおかげて好き勝手出来るのはいいんですけどね」


「シュワイア家は教団への寄付額も国で5本の指に入るので、リム様に何かあると困るんだと思います」


「家とわたくしは別に考えて貰いたいですわ」


 アイリーには分からないが、お金持ちにも悩みがあるんだな、と感心した。と同時に、リムールなりにレイネンに気を使っていて、あえて何かさせている事にも気付いた。


「エルはどんな巨鎧がいい、とかもう考えてるの?」


「うーん。剣とか格闘武器の技術がある訳じゃないし、兵士型や騎士型はあたし向きじゃないと思うんだ。魔術型、神官型は専用だから関係無いし、探索型もロガンがいるから2機はいらないと思うんだ。特殊型は普通は売って無いし、売ってたとしても値段の桁が変わる。で、そうなると残るは射撃型かな、と」


 射撃型は巨鎧でも珍しい型で、あまり見かける事はない。射撃武器は威力が近接武器ほど出せず、弾かれたり、避けられる可能性が高いので巨鎧同士の戦闘には向かないからだ。敵の城を攻める攻城戦に大型の射撃武器を持つ巨鎧が使われるが、それは専用の巨鎧扱いなので、ハンターが使う事は無く、全体的に人気が無い型だった。


「別に射撃が得意だからって射撃型にする必要は無いんじゃないかしら。弾丸の補充も必要だし、ハンターとしてだって兵士型の方が色んな立ち回りが出来て便利だと思うわ」


「そうなんだけど、そうじゃないっていうか。もちろん普通の射撃型を買うつもりは無くて、あたしが思う戦い方が出来るのを探したいんだ」


 セリュツが言う事には納得せず、エルータには何かしらの考えが出来ているようだ。イルナと最初に出会ったのがエルータだったら、それも叶ったのだろうか、とアイリーは考える。


(イルナをエルに取られるのは嫌だな)


 想像すると胸がモヤモヤして、すぐにその考えをかき消すのだった。


********


「大きい町だねー」


 イチルゴ村を出てから2日移動し、ようやくトラマトの町に着いた。機動馬車から見える町の塀は巨鎧より高く立派で、町の入り口もしっかりした門が出来ている。そして、町に入るのに問題が発生した。


「獣人を町に入れる事は出来ません」


 機動馬車で町に入ろうとしたところ、全員一旦外に出され、身分証を確認する事になった。エルフだがハンターギルドの許可証を持っているセリュツはセーフだが、何も身分証も無い獣人のシリミンは門番に止められたのだった。一旦戻ってシリミンを隠して再入場、なんて事は怪しまれるだけなので、シリミンと機動馬車を外に置いて、何人かで町に入るのがベストなのだろう。しかし、獣人だという理由で入れない事にアイリーは納得出来なかった。


「なんで獣人は入ってはいけないんですか?彼女は私の友人で、他人に危害を加えるような事なんてしません」


 誰かが止める前にアイリーが食って掛かってしまった。


「なんでと言われても、これは町の規則だ。嫌なら町には入れられん」


 門番もこちらが若い女性だからか、威圧的に返してくる。アイリーが反論しようとしたところをセリュツに止められた。


「ここは自分に任せて。

ねえ、お兄さん。この子は私達のペットなの。これで通してくれない?」


 セリュツは身体を少しくねらせ、お金を隠しながら門番に握らせる。その仕草はアイリーから見ても魅力的で、セリュツがエルフである事を差し引いても、男を魅了するには十分だった。


「あ、そ、それは。しかし、何か問題が起ったら……」


「外を歩く時は首輪を付けるわ。それに問題が起こっても責任を取るから。ねえ、お願い」


 セリュツがどこから取り出したのか紐付きの首輪を見せつける。そして最後のウィンクが致命打となった。


「そ、そうだな。よし、問題無いぞ」


 門番から解放され、機動馬車で町に入る。とりあえず聖教団の教会へと機動馬車を向かわせた。


「うげー。あれだから男は嫌なのよ」


「女の武器を使った貴方がそれを言いますか。それにその首輪は何なんですの?」


「これ?こういうプレイが好きな子もいるかなーって準備してたのよ」


「プレイって何ですか。本当にシンさんに付けるおつもり?」


「似合うと思うけどなー。シンちゃんどう?」


「ヤダ」


 シリミンはアイリーの後ろに隠れる。


「でもそれを付けないと外を出歩けないって。ここで留守番してる?」


「それもヤダ。アイお姉ちゃんが紐持ってくれるなら付けてもいい」


「なんで自分じゃ駄目なのーー」


「本当にシンさんに嫌われてますわね。

まあ門番の方が言った通り、町で問題が起きるのだけは避けて下さいね」


「うん、じゃあちょっと苦しいかもだけど、しばらくは付けててね」


「分かった」


 アイリーはシリミンの首に首輪を付け、その先の紐を手に持つ。あまりいい趣味では無いが、シリミンを町に連れ出すにはしょうがない。リムールとレイネンは聖教団に挨拶に行き、セリュツはドラゴンの部品を売りに行ってもらい、アイリーとエルータとシリミンで巨鎧を選びに行く事になった。


「やっぱり目立つな、それ」


「アイお姉ちゃんとお散歩楽しい!」


「まあこうなるよね……」


 若い女性が獣人の子供を紐で繋いで歩いていれば周りの人から奇異の目で見られるのは確かだった。金持ちでそういう事を平然とする者もいるらしいが、それも普通の感性ではしないだろう。ただ、主従関係が分かる分、以前のようにならず者がシリミンを攫おうとはしないだろう。


(普通に獣人と町を歩ける世界になればいいのにな)


 確かに獣人と人間の違いはアイリーも実感したが、一緒に暮らせない程違いがあるとも思えない。現にイチルゴ村にいた時は、少し珍しがられはしたが、拒絶される程では無かった。都会になるほど人間が特別意識を持ち、亜人を差別するようになるんだとも感じる。


「いらっしゃいませ。あっ」


 巨鎧を売っている店に入ると、店員がシリミンを目にした途端に嫌な顔をしたのが分かった。アイリーは何か言いたくなるのを我慢して飲み込む。


「お探しの巨鎧のタイプとかありますか」


 店員はすぐに営業スマイルに戻り、アイリー達に接してきた。


「射撃型を見たいんだけど」


「射撃型ですか。あまり数はありませんが、こちらへどうぞ」


 これだけ大きな町でも射撃型はあまり扱っていないらしい。案内されると3機ほどの射撃型が並んでいた。エルータがいくつか質問し、店員がそれに答えていた。


「うーん……」


「この射撃型じゃ駄目なの?」


「どれも一長一短であたしの望む物じゃないんだよなあ。例えばこの射撃型は威力は高いけど、射程が短いし、当てるのが難しい。結局兵士型と接近戦をすればより確実に当てられる兵士型の方が有利になるんだ。隣のは射程も長いし、命中はさせやすいんだけど、威力が弱い。遠距離からの対人の射撃とか小型の機獣には使えても、巨鎧相手じゃ意味がない」


 エルータは一旦射撃型から離れて兵士型や探索型も見て回る。が、納得出来る巨鎧は見つからなかった。


「いたいた。予想以上に高値で売れたわ。で、巨鎧は決まったの?」


 セリュツがドラゴンの部品が売り終わったようで店に入ってきた。エルータは首を横に振る。シリミンは既に飽きておりアイリーに寄っかかり、アイリー自身も遠くからエルータを眺めている状態だった。


「アイみたいに遺跡から特殊型を発掘出来れば、それが一番いいんだけどなあ」


「それが簡単に出来れば、世の中みんなハンターになってるわ」


「いましたわ。エルさん、もう巨鎧は買ってしまって?」


 リムールとレイネンも店にやって来た。


「ううん、いいのが無くて」


「なら、面白い情報がありますわ。昨日の夜、教団で育てている子の一人が近くに流星が落ちるのを見たそうですの。場所は山の方としか分からないそうですが、もしかしたら新しい遺跡があるかもしれませんわ」


「うーん、今からだと遅いかもしれないわね」


「どういう事ですの?」


「教団の子が見たのなら、町で他に見た人が数人はいるって事。で、その情報は誰かの手に渡り、ハンターに流れてる可能性が高い。まあ、遺跡があればの話で、無ければ光輝石が見つかるかどうかだけど」


「でも、エルにもイルナみたいな巨鎧が見つかる可能性があるんだよね?」


「可能性はね。駄目元で情報ギルドに聞きに行ってもいいけど」


「情報ギルドですの」


 リムールがあからさまに嫌そうな顔をする。レイネンが情報ギルドで酷い扱いをされていた事を少なからず知っているのだろう。


「まあ一般人は近寄らないけど、自分はたまに使ってるし、魔術師ってだけで相手も騙してはこない筈」


「わたしも行きます。ギルドの事はよく知ってるので」


「レン!」


「大丈夫です。一人じゃありませんし」


「じゃあ、わたしも付いてくよ」


「え、あたしの事だからあたしが行くべきじゃ」


「何も情報が無いかもしれないし、エルはもう少しここで良い機体が無いか見ててよ」


「うん、まあ、そう言うんなら」


「リムちゃんはシンちゃんを連れて機動馬車に帰ってて。連れてくとややこしくなりそうだし」


「わたくしが?シンさんはわたくしでもいいんですの?」


「うん、リムならいい」


 話がまとまり、アイリー、レイネン、セリュツの3人で情報ギルドへと向かった。情報ギルドは裏町の方にあり、そちらに進むにつれ、歩いている人が一般市民からかけ離れていく。ガラの悪い男達の中で若い少女であるアイリー達は明らかに異物であり、シリミンを置いてきて正解だと感じた。


「ここね」


 セリュツが先頭に立ち、情報ギルドの看板のある建物の扉を開ける。すると中の部屋には誰もおらず、地下への階段が見えるだけだった。


「着いてきて」


 セリュツは慣れているようで、何も言わずに地下への階段へと降りていく。


「何かあった時にすぐに逃げられるよう、1階には居ないんです」


 レイネンが小声でアイリーに教えてくれる。忘れたい過去かもしれないが、ギルドの事を知っているレイネンがいる事は頼もしかった。薄暗い階段を降りると、地下にも扉があり、それは入る事を拒絶して固く閉ざされているように見えた。“コンッコンッ”とセリュツが2回ノックする。


「開いてるぜ」


 中から男性の声が聞こえたので、セリュツはドアを開けた。地下は薄暗く、広さが分かり辛い。真ん中にテーブルとソファーがあり、その隅に一人の中年男が座っていた。見た目は小柄で痩せていて、弱そうな印象を受ける。


「おや、これはこれは。まさか邪教団を追い払った英雄ご一行がこんな所まで来るなんて」


「!?」


 それを聞いて3人とも警戒する。邪教団を追い払った事は一部の者しか知らず、かつ、まだ1日しか経っていないからだ。邪教団から情報が渡っている事も考えられ、セリュツは杖を強く握り、レイネンも腰の短剣に手をかける。ただ、アイリーだけはそこまで明確に反応は出来ない。


「いや、いや、物騒な事は勘弁して下せえ。あっしはからっきし弱いし、いじめてもいい事無いですぜ。

聖教団の大きな機動馬車に獣人を連れた若い女性達。これだけ目立てば町で話題にならない訳が無い。あっしらは情報屋、鮮度が売りなもんで」


 男の言う通りで、アイリー達が目立っていたのは確かだ。そして、アイリーにも見た目と違い、この男が弱くない事が分かった。


「しかし凄い組み合わせだねえ。初戦でグリフォンを単騎で倒した特殊型を持つ少女と機械マニアの少女。青騎士の御令嬢にして神官騎士と元暗殺者の従者の少女。機械の獣を呼び出す獣人の少女と紫の死神と呼ばれるエルフの魔術師。それが組んで悪人退治してるんじゃ、その内有名になりますぜ」


「そんな情報まで?」


「情報には価値がありやす。売れば金になるんですぜ。信憑性の高い情報は特に高値で売れる。それを分かってる人が世の中にはたくさんいるって事だ。そちらのお嬢ちゃんはよく知ってるんじゃ?」


 男がレイネンを見つめる。


「はい。で、そこまで言ってくる理由はなんですか?」


「ちょっ、顔が怖いですって。あんたらと争う気なんてこれっぽちもありゃしません。特に嬢ちゃんに手を出したらこの国で商売出来なくなっちまう。あくまで情報の鮮度と信憑性を分かってもらおうってだけで、誰彼構わず話したりなんてしてないですぜ。あと、情報源に内通者がいるってのも無いですからご安心を。

それで、わざわざ足を運んで頂いたんですから、何か聞きたい事があるんじゃありません?」


「そうね、その為に来たんだったわ。昨晩落ちた流星の情報を聞きに来たの」


 セリュツが男の向かい側のソファーに座り、話を切り出す。アイリーとレイネンも習ってソファーに並んで座った。


「惜しいねえ。1時間早く来てくれりゃ良かったのに。その情報はもう別のハンターに売っちまいました。さすがに別の町から来るハンターはまだだろうけど、既にそのハンター達は落下跡に着いてると思いますぜ」


「そんな。どうしよう」


「そもそも遺跡があるとは限らないし、一組だけならこっちが先にお宝を見つけられる可能性はあるわ。情報を売ったのはそのハンターだけ?情報元が他に売ってる可能性は?」


「あっしが売ったのは一組だが、他に関しては何とも言えませんな。流星を直接見たハンターがいるかもしれませんし。まあ、鮮度が落ちてるんで安値で売りますがどうします?」


 遺跡自体に複数のハンターが同時に入る事は多く、結局は宝を先に見つけた者の勝ちになる。先に入った者が宝を見つける可能性は高いが、敵や罠の危険も高くなる。逆にある程度発掘が終わった後でも隠し部屋や見落としで宝が見つかる事もあり、それを狙うハンターもいる。

 問題は遺跡内でハンター同士が出会った場合。一般的なハンターなら何も無く終わるが、片方が宝を見つけ、もう片方が戦力が上だった場合、戦闘になる事がある。あくまで遺跡内の事なので宝は自分達が見つけた、相手から襲ってきたと言えば、強奪してもそれで済んでしまうのだ。もっと性質が悪い者だと、遺跡の外で待ち伏せする者もいるが、さすがにそういう者達はどこかでハンターとしての資格を失い、ならず者になっていくという。


「アイちゃん、どうする?決めるなら早い方がいいけど」


「買おう。ちょうどこの町に来たのも、そういう巡り合わせかもしれないし」


「毎度。お嬢ちゃんの勢いは気に入った。更に安くしときますぜ」


 相場は分からないが、一泊の宿代位で情報は買えた。場所は思ったより町に近く、機動馬車で1時間ぐらいだろう。エルータと店で合流してから機動馬車に戻り、さっそく流星が落ちた場所へと向かった。


********


「遺跡あったね」


 以前イルナと出会った場所のように流星が落ちた跡の大きな穴が開いており、その底から地下への入り口が覗いていた。情報屋の言った通り、既に巨鎧がそこへ踏み入れている足跡があり、先を越されているのは確かだ。


「全員で行く?」


「何があるか分かりませんし、多いに越した事は無いと思いますわ」


「あたしもこれがあるから、前より役に立つと思う」


 エルータが言っているのはキネーヌが誘拐に使った移動用の機械の乗り物とキネーヌが持っていた機械の武器だ。キネーヌが邪教団だった事は秘密にしたので、運び屋で使っていた機械は旅に出たという話に合わせる為、アイリー達が持っていったのだった。エルータが使う事に関しても売るよりは有効活用した方がいい、という話で纏まっていた。

 全員で乗り込む事に決まり、機動馬車は少し離れた森の中に隠す。遺跡探索で重要なのは周囲の観察と敵の発見なので、それが得意な探索型のレイネンのロガンを先頭に、次に戦闘力のあるアイリーのイルナ、力を温存するシリミンはエルータと機械の乗り物に乗ってその後に続き、魔法で援護するセリュツのソシアがその後方、狭い所での戦闘がやや苦手なリムールのルルトが一番後ろで挟み撃ちを警戒する。

 遺跡は人工物のようで、壁は金属で出来ており、巨鎧が通れる8メートル位の高さになっている。光は機械の灯りが等間隔で光ってるので目視でもそれなりに遠くは見える。


「天井が低いので、短い刃を作りました。殴る感覚で切って下さい」


「ありがとう」


 イルナが周囲の環境から手の甲から腕の延長方向に刃を伸ばした武器を作ってくれる。剣や斧だと振り下ろす時に天井にぶつかる可能性が高く、槍だと狭い通路では味方に当たって不便だ。この武器なら確かに味方に当たらず、敵に当てやすいとアイリーは思った。ロガンも短剣の刃を下向きに持ち、狭い場所での戦闘を想定していた。ロガンは姿を消していると逆に危険なので、姿を出したまま進んでいる。

 進んでいく途中、通路の脇に部屋がいくつかあったが、既に先行したハンターが入った跡があり、とりあえず中までは見ずに進んでいく。


「アイさん、どちらの道に致しましょう?」


 道が大きく二つに分かれていたのでレイネンが聞いてくる。片方は現在の広い通路と同じ幅の道で、こちらに他のハンターの巨鎧の足跡があった。もう片方は薄暗く、斜め下へ降りていく、更に天井が低い通路だ。辛うじて巨鎧でも通れはするだろう。


「こっちはまだ先行したハンターが行ってないみたいだし、こっちにしよう」


「まあ、それがいいね」


 とりあえず反対意見は無く、狭い方の通路へ入る。すると遺跡に入って初めての敵が出てきた。


「コウモリ型の機獣です。わたしで何とかします」


 機獣の大きさは2メートル位で、通路が狭い為、先頭のロガン以外は攻撃がし辛い。すばしこくて少しだけ苦戦はしたが、相手の攻撃力は低く、慣れてきたロガンが次々と倒していった。

 下りの通路が終わり、前と同じ高さの通路が広がる。いくつか脇の部屋に入ってみたりしたが、ゴブリンなどの小型の機獣がいるだけで、機械の道具などの宝は何も見つからなかった。


「ハズレの遺跡だったのかな」


「全体の広さが分からないので結論にはまだ早いと思います」


 レイネンが答えるが、自信は無さそうだ。そもそもこの中に遺跡探索を経験した者はおらず、レイネンとセリュツの知識も本や人から教わったものだ。イルナも探索などの知識は無いそうで、戦闘以外では役に立たないと本人が言っている。


「この先の部屋に動いている巨鎧の反応があります。マスターどうしますか」


 1時間ほど遺跡調査をしたところで、イルナから報告が来る。先に入ったハンターの巨鎧だろう。


「こっちは宝を見つけてないし、戦闘にはならないんじゃないかしら。向こうが何か発見しているか分かれば、遺跡探索を止める結論も出せるわ。挨拶しておいたらどう?」


 仲間と相談すると、セリュツから意見が出る。


「だよね。後ろから追ってこられても嫌だし、挨拶だけはしておこう」


「じゃあわたしが先導します」


 ロガンが扉に近付くと自動で開き、奥に巨鎧の影が見える。それなりに広い部屋になっており、全体的に薄暗い。


「こんにちは。わたしはハンターのレイネンと申します」


 レイネンが音量を上げて挨拶する。が、相手の巨鎧からの返事はない。巨鎧の数は4機で、探索型が1機、騎士型が1機、兵士型が2機の組み合わせだった。そして一番近くにいた兵士型が突然走り出し、ロガンを襲う。


「待って!」


 レイネンが声を出すが相手は止まらない。ロガンは攻撃を避けるとそのまま反撃し、相手の巨鎧の胸を切り裂く。が、相手は怯まず攻撃を続けてくる。よく見るとその巨鎧は既に傷だらけだった。


「マスター、相手の巨鎧に生命反応がありません」


「え?どういう事?」


「巨鎧が操れないわ。死霊使い(ネクロマンサー)よ!」


 セリュツが叫ぶ。死霊使い(ネクロマンサー)と呼ばれる機獣についてはアイリーも聞いた事があった。動かなくなった巨鎧や機獣を不死型のように操る機獣の事だ。すると4機の巨鎧以外にもわらわらと機獣の残骸が不死型として立ち上がってきた。恐らく先行したハンター達が死霊使いや機獣と戦って、負けた後だったのだろう。


「シンちゃんも同化して準備を。エルは援護をお願い」


「うん。スーライ!」


「分かった」


「どこかに死霊使いが混ざって隠れている筈よ。形は不死型と見分けがつかないけど探して破壊して」


 シリミンは服を脱いでスーライと同化する。エルータは乗り物の上で武器を構え、セリュツのソシアと共に後方からの援護の態勢に入る。アイリー(イルナ)とロガンとルルトが前に出て、敵の大群と向き合う。同化が完了したスーライもそれに並んだ。


「行くよ。エル、シンちゃん、セツさんは不死型を倒していって。あたし達は操られた巨鎧の相手をする」


「「はい」」


 ロガンは引き続き先ほどの兵士型の相手をする。アイリーはルルトと並んで、邪魔な不死型を薙ぎ払いつつ3機の巨鎧を通さないように立ちはだかる。


「操られているとしてもコアを破壊すれば巨鎧は動けなくなります。背中からコアを狙って下さい」


「分かった」


 理解はしたが、乱戦状態で、天井の高さもあり、相手の隙をついて背後に回るのは難しい。リムールも天井の高さのせいで、ルルトで剣を振るのに苦戦していた。ロガンも相手の兵士型の両手を落としたものの、動きは止まらず、足止めされている。

 そして予想外だったのは同化したシリミンの動きだった。以前ドラゴンを倒した時はパワー、スピード共に凄まじかったが、今は中型サイズの不死型を一体ずつ破壊するのに時間がかかっている。


「シンちゃんどうしたの?」


 敵の攻撃を受け止めつつ、確認する。


「ここ、風が無い。スーライ、力出ない」


「シンちゃんのスーライは風の精霊の力を使ってるんだわ。自然の風が吹かないここだと厳しいみたい」


 セリュツが魔法で援護しつつ説明してくれる。スーライに弱点がある事はみんなにとって予想外だった。敵は傷付いても止まらず、再生も早い。コアを破壊するにも数が多過ぎて、その隙がない。状況は押され気味で、徐々に後衛のエルータとソシアに不死型が近付く。


「死霊使いさえ倒せればいいんだけど」


「分かった、あたしが行く」


 エルータが何か思い付いたのか、乗り物で不死型の群れの方へ猛スピードで進んでいった。そしてある程度近付いて止まると、変わった機械の武器を構えた。


「みんな、音は気にせず戦って!」


 そう叫んでからエルータは不死型の群れの背後の何も無い方向へ武器を撃った。それは後ろの壁に当たると、“バーーンッ!!”という大きな音を立てる。


「振り向いた!アイ、そいつが死霊使いだ!!」


 エルータが1体の不死型を指差す。


「この敵です、マスター」


「分かった。行くよ!!」


 イルナがエルータが指差した敵にマーカーを付けてくれたので、アイリーは突進し、その機体に刃を振り下ろした。すると、今まで動いていた巨鎧も不死型の機獣も動きを止めたのだった。


「エル、よく分かったね」


「死霊使いに操られてる機獣は単純な命令で動いていて、危険に対する反応をしないんだ。だから、背後で大きな音が鳴っても、振り向くのは死霊使いだけだと思ったんだ」


 エルータにしてもある種の賭けだったようだ。エルータは乗り物で残骸を迂回しつつアイリーの方に近付いてくる。


「エル様、止まって下さい!」


 何かに気付いたのかレイネンが叫ぶ。


「え?」


 声には気付いたが、即座に止まれずそのままエルータは進む。するとその先の床に穴が開いており、近くの床が微妙に揺れているのが分かる。隅の方は暗く穴と床が分かり辛くなっていたのだ。そして、床は乗り物が乗った事で崩れ出した。エルータは戻ろうとするが、間に合わず、乗り物ごと下へと落ちていく。


「エル!!」


 アイリーは身体が動いていた。気付いた時には開いてる穴へと何も考えずに飛び込んでいたのだった。

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