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6.救出作戦

 戦闘が終わるとシリミンはスーライと分離し、すぐに気を失って倒れてしまった。アイリーは急いでイルナを出るとシリミンを膝の上に寝かせる。スーライは獣姿になり、座った姿勢のままシリミンを黙って見守っていた。


「ごめん、シリミンがいつの間にかいなくなって。ドラゴンは倒せたんだな」


 中型の機獣も倒し終えたようで、エルータが最初にやってきて、続いて3機の巨鎧もやって来る。


「ドラゴンを倒したのはスーライと同化したシンちゃんだよ。私じゃ倒せなかった……」


「コアを破壊すれば停止すると考えたワタシの責任です。マスターに誤りはございません。しかしコア以外にも動力源があるとは想定外でした」


 そう言うイルナも頭部から胸にかけて大きな傷が付いていて、これも自分のせいだとアイリーは思っていた。


「見て、ドラゴンの胸の奥の方、もう一つコアがあって、まだ動いてる!」


 倒れたドラゴンを観察したエルータは興奮した様子で大声を出した。


「シリミンさんは大丈夫ですの?」


「寝息もあるし、疲れて倒れただけだと思う。回復魔法をかけてもらってもいい?」


「それよりもアイさん自身はどうですの?イルナもダメージ受けていますし、アイさんも衝撃でどこか打ったりしたのでは?」


「ううん、イルナはそういうのから私を守ってくれてるから、私はどこも怪我は無いんだ」


「喋るし、見た事無い形だし、凄い特殊型だと思ったけど、そこまで高性能なのね。見た目は華奢だけど、ドラゴンの攻撃に耐えてるし、その装甲だってもう修復が始まっているわ」


「ワタシはマスターを保護する事を最優先に作られております。今回は危険に晒してしまいましたが、今後はドラゴン型の機獣に適した戦い方が出来るようにいたします」


 セリュツにしてもイルナは珍しいようだった。


「再生するかもしれないので、ドラゴンのコアは破壊しておきますか?」


 ロガンからレイネンが確認をしてくる。


「ダメダメ、破壊なんてとんでもない。生きてるドラゴンのコアなんてこんな貴重な物滅多に手に入らないわ。光を遮断した入れ物に入れておけば再生もしないから。レイネンちゃん、コアを傷付けないように周りの機械から取り出してくれる?」


「分かりました」


「ドラゴンの頭はハンターギルドに持っていくとして、他にも持っていこうか?色々珍しそうだし」


「ギルドに持っていくなんて勿体ないわ。正式なギルドからの依頼じゃないし、売った方がギルドより高値が付くわよ」


「そうなのか?ハンターギルド以外に機獣の買取なんて聞いた事無かったけど」


「ここら辺の町にはまだ無いけど、都会の方では機獣の部品が高値で売れるようになってきているの。機械や巨鎧の修理に使えたり、新たな機械を生み出すのに使えたり。ドラゴンは装甲も特殊だし、牙や爪も加工して武器にしたりも出来る筈。まさに宝の山って事」


「その辺を詳しく聞いてもいいか?」


 エルータはセリュツの機獣の話に夢中になり、二人してドラゴンの残骸を見て、分解して回っていた。


「……ニャ?寝ちゃってた?」


「これで意識は戻りましたわ」


「ありがとう、リムちゃん。シンちゃんはお疲れ様」


 リムールがルルトから降りてシリミンに回復魔法をかけ、シリミンは目を覚ました。


「本当に貴方がドラゴンを倒しましたの?」


「うん、スーライが力を貸してくれた。でも、一番はアイお姉ちゃんのおかげ」


「私?なんで?」


「アイお姉ちゃんが助けてくれて、カミサマで戦ってくれてるのが嬉しかった。だから、どうしても守りたいって思った。そうしたらスーライの声聞こえたニャ」


 ゆっくりとスーライが寄ってきて頭を優しくシリミンに摺り寄せる。


「だから、アイお姉ちゃんのおかげ。大好きニャア」


 そう言ってシリミンはぺろりとアイリーの頬を舐める。


「ま、また貴方は!」


「シンちゃんは獣人だし、妹みたいなものだから、そんなに怒らなくても」


「で、ですが、やはり人と人との距離は大事ですわ」


 シリミンが何食わぬ顔でアイリーに抱き付き、アイリーがそれを受け入れるので、リムールは一人だけ感情を爆発させているのだった。

 機獣の残骸を片付け、価値がありそうな物をセリュツ達が回収した頃には朝日が昇っていた。村ではアイリー達を英雄扱いして、前日とは打って変わっての大騒ぎになった。ナオ族秘蔵の料理や飲み物が振舞われ、アイリー達は味わった事のないご馳走を腹がはち切れんばかりに食べたのだった。



「この度は村を救って頂き、本当に感謝ですじゃ。シンもスーライ様を呼び出せるようになり、村の今後も安泰ですじゃ」


 宴がひと段落したところでグリミンに呼び出され、改めてお礼を言われた。


「いえ、説明した通り、ドラゴンを倒したのはシンちゃんで、その時、私も助けてもらいました。こちらこそ感謝しています」


「ボクが戦えたのはアイお姉ちゃんのおかげ。村を守ったのはみんな」


「結果はどうであれ、皆様が来なければ村は終わっておりましたじゃ。これは村からの感謝のお礼ですじゃ。直接的なニンゲンの金品はありませんが、売ればお金になりますじゃ」


 そう言ってグリミンが取り出した大きな箱の中には見た事の無い天然石や立派な動物の皮が入っていた。


「そんな、泊めて頂いたし、ご馳走も頂いたので受け取れません」


「そうそう、お金ならドラゴンの部品が売れるから必要ないわ」


 エルータ達もアイリーとセリュツの意見に同意した。


「そうですかじゃ。では、お礼になるか分からんじゃが、シリミンを旅に連れて行って下さらんかじゃ?」


「シンちゃんを?でも村を守る役目があるんじゃ」


「シン、スーライ様をここへ」


「分かった」


 再び珠に戻っていたスーライをシリミンが呼び出す。部屋の中に大きな白銀の獣が現れた。


「スーライ様、お久しゅうじゃ。分霊をお願いしますじゃ」


 グリミンがどこからかシリミンと同じような珠を取り出すとスーライの前にかざす。するとスーライは口から白い息のようなものを吐き出す。息はグリミンの球に入ってきて、消えていった。


「スーライ様、顕現をお願いしますじゃ」


 そしてグリミンがその珠を上に掲げると、スーライの横に、まったく同じ姿のスーライがもう一体現れていた。


「凄い、そんな事が出来るんだ」


「スーライ様の本来のお役目は村を守る事ではなく、獣人を救う事なのじゃ。分霊も本来のチカラは出せなくとも、機獣を追い払うには十分なチカラが使えますじゃ」


「ばあちゃん、ほんとにいいの?」


「喋るカミサマが現れた時、勇者を旅立たせよ、獣人の未来の為に。という言い伝えがありますじゃ。話を聞くにアイリーさんのカミサマは喋ると。なら村の言い伝え通りにシンは旅立つべきじゃ」


「私はシンちゃんが一緒に来てくれたら嬉しいかな。みんなはどう?」


 突然の話だが、アイリーは既にシリミンが気に入っていた。が、周りに反対される可能性もあるとは思っている。


「あたしはアイリーがいいなら反対しないよ」


「わたくしは、獣人が旅をするのは危険な気もしますわ。でも、アイさんがしっかり管理して下さるなら、反対はしませんわ」


「わたしも賛成です。シリミン様は強いですし、可愛いです」


 レイネンは可愛い事で賛成するんだ、と思いつつ、可愛い事は重要だよね、とアイリーも納得する。


「自分もしばらく旅に加えて貰えないかな?生活分は絶対働くし、知識も魔法も役に立つと思うんだけど、どう?」


 シリミンが加わる事がほぼ決まった段階でセリュツも旅に加えて欲しいと言ってきた。今までの言動に問題が無いとは思わないが、その知識はアイリーにとって十分過ぎる価値があった。


「私は構わないです。今までも十分助けて頂いたし、知識も役に立ちましたし」


「そうだな」


「ええ」


「じゃあ決まりね。改めて、魔術師のセリュツ・ロモよ。セツって呼んで欲しいかな。宜しくね、可愛いお嬢さん達」


「ボクも。シリミン・ポワイポ。シンでいい」


「うん、セツさん、シンちゃん、宜しくね」


 こうして旅の正式な仲間にセリュツとシリミンが加わる事になったのだった。シリミンの融合後の気絶についてグリミンに聞いたところ、慣れていない為で、今後回数を重ねれば限界が分かり気絶しなくなる、という話が聞けた。

 そして解散してグリミンの家を出ようとしたところでアイリーは呼び止められる。


「アイリーさん、一つだけお願いですじゃ」


「なんですか?」


「シリミンが別のカミサマがいる獣人の村に近付くとスーライ様が反応すると思いますじゃ。その時はその村に寄って欲しいんですじゃ」


「いいですけど、何か重要な事が?」


「シリミンはまだ未熟じゃが、他の獣人の村に寄る事で強くなると思いますじゃ。世間知らずな子じゃが、アイリーさんになら任せられると思いますじゃ」


「分かりました、出来る限り頑張ります」


 頼って貰えるのは嬉しいが、アイリー自身にはまだそこまで出来る自信は無かった。でも、シリミンを大事にしないとという気持ちは強かった。


********


「で、この後はどこに行くつもりなの?」


 セリュツの話はもっともだった。とりあえず少し休むためにシリミンの家に6人で集まり、一息ついた所でセリュツが話を切り出した。


「機械馬車に戻って、困っている人の情報を集めたいから、ミラカーン以外のそれなりに大きい町へ行きたいかな」


「つまりは、まだこれといって決まってないと」


「うん、そういうことにはなるかな」


「じゃあ、自分の話をちょっと聞いてもらってもいい?これは魔術師内の情報で、他には知られていないと思うわ。邪教団が辺境の村を襲って、若い女の子を攫ってるって噂がこの近くであるの。自分がミラカーンの町に来てた理由の一つはその真偽を探りにだったの」


「本当ですの?ミラカーンの町の教会に寄った時はそんな噂はありませんでしたわ」


 邪教団の話が出たので聖教団であるリムールが即座に反応する。邪教団とは聖教団と敵対している宗教団体で、普通の人間では考えられない、おぞましい事をやっていて悪魔とも取引している、とアイリーは聞いていた。アイリーはその教徒を見た事も、村の近くで何かされた事も無く、あくまで噂の範囲でしか知らない存在だ。


「あくまで魔術師内の情報だからね。まあ、攫われた村が助けを求めれば流れてくるかもだけど、人質にされて脅されてれば黙っている可能性はあるわ。結局直接その付近へ行かないと真偽は分からないって事」


「目的は何であれ、邪教団が動いているのでしたら、わたくしはそれを確かめたいと思いますわ。聖教団として、一旦皆様と離れてでも」


「もし噂が本当なら、助ける為には邪教団と戦うって事だよね」


「もちろんですわ。邪教団こそ、この世界にとって害しかない、悪しき存在ですわ。今まで多くの弱き人々が奪われ、騙され、弄ばれてましたのよ」


 リムールの言葉でセリュツがどうしてその話を出したのかが分かった。アイリーに人間同士の戦いをさせる為だ。前回のならず者との戦いでアイリーは反省したものの、どう戦うかの答えは出ていない。それはいつどこで起こるか分からないのだ。セリュツがこのタイミングでそれを提案したのはアイリーの為を思っての事だというのはさすがにアイリーでも理解出来た。問題を先延ばしせず、かつ分かり易い悪人と対峙させる。ここまでお膳立てしてもらって断る理由など無かった。


「やるよ、私も。噂が本当なら襲われて困っている村がある訳だし、それを見過ごすなんて出来ないよ。セツさんの話が本当ならまだ誰もそれを助けに行ってないと思うし、機械馬車ならより速く確認出来る」


「その村はなんて村なんだ?レン、地図を出して」


「はい」


「えーと、村の名前はイチルゴ村だな。その近くの村も可能性はあるとは聞いたけど、とりあえずイチルゴ村が他の町と離れてて、それなりに人が住んでるから標的になった疑いが高いって」


「地図だと、この辺か。確かに他の大きな町よりイチルゴ村の方が近いな。山道の方を行けば、半日もかからないんじゃないかな」


「レン、顔色が悪いけどどうしましたの?」


「わたし、昔イチルゴ村に住んでいた事があります……」


 レイネンの顔色は青ざめて見えた。


********


「それじゃあ出発するよ」


 エルータが運転席に座りイチルゴ村へ向けて機械馬車を発車した。レイネンが幼少期に一時住んでた事がある村であり、友達もいた、という事で、急いで獣人の村を出て機械馬車まで戻ったのだ。獣状態のスーライにシリミンとエルータが乗る事で行きよりずっと早く戻れたので今日中にはイチルゴ村に着きそうだという。レイネンは多くは語らないが、友人が心配なのか、どこか上の空だった。


「イルナ、調子はどう?」


 アイリーは一人格納庫に来て、イルナの前回の戦闘の傷の心配をしていた。見たところ大きかった傷は小さな傷跡程度まで直り、回復は順調そうだ。


「ご心配をおかけして申し訳ありません、マスター。見ての通りあと数時間で修復は完了致します」


「光輝石の交換は大丈夫?」


 巨鎧は全て自己修復機能があり、装甲が吹き飛んだり腕が取れたりしない限り元に戻る。装甲が吹き飛んだ場合でも同じ装甲、もしくは別の巨鎧の装甲などがあれば、それで修復出来るそうだ。なので大きく破損した場合は町にある修理場で直してもらう事になる。

 そして修復には大量のエネルギーが必要なので、内臓されている光輝石のエネルギーを使い切る場合がある。そんな時は光輝石を交換する事でエネルギーの補充を行う。使い切った光輝石も太陽光に当てる事で自然回復出来るので、アイリーは必要なら予備の光輝石と交換しようと考えていた。


「エネルギーは内蔵量が多いので問題ありません。それよりアイリー様にお渡ししたい物がございます。コクピットまで来ていただいて宜しいですか?」


「アイに?イルナが?うん、行くよ」


 アイリーは待機状態のイルナをよじ登って、開いたコクピットに入っていく。起動し、いつも通り視界がイルナの見ている景色に変わる。


「まずはこちらです。他の巨鎧は起動するのに起動武器が必要だと分かりました。ワタシには無いので、ダミーとして起動武器を作りました」


 アイリーの手の中に小さな短剣が現れた。巨鎧に鍵として対になった起動武器が必要なのはアイリーも知っていたが、イルナに無い事にそれ程疑問は感じていなかった。


「どうして?別に今まで通り起動出来るんでしょ?」


「ワタシを特別だと思われる事で狙われる可能性が高くなります。なるべく他の巨鎧との差異を減らそうと考えました。あと、誰かが無断でワタシを起動しようと企むかもしれませんので、その際に騙せるようにです。ですから、他の皆さまにはワタシの起動武器はこちらの剣だとしておいて下さい」


「うん、みんなと起動武器の話をした事無かったし、そういう事にしておくよ。でも、そんな人いるのかなあ」


「あくまで備えとしてです」


 アイリーはその短剣をズボンの腿のポケットへと仕舞う。イルナがそこにサイズを合わせたのか、それはぴったりと収まった。


「あとはこちらです」


 次にアイリーの手の中には小さな紅い宝石のようなものが二つ現れた。


「これは?」


「通信用のピアスです。マスターと離れている事が最近多かったのですが、急な事態にワタシが駆け付けられないと感じました。セリュツ様が魔法で連絡をしたように、離れていてもマスターからワタシに、ワタシからマスターに連絡出来ると便利かと思ってお造りしました」


「こう?これで離れててもイルナと話が出来るの?」


 アイリーは両耳の耳たぶに紅い宝石を近付けると、それは吸い付くように耳たぶにくっついた。ちょっと力を入れると剥せるが、自然に落ちる事は無さそうだ。特に不快感は無く、イルナからのプレゼントみたいでちょっとだけ嬉しい。


「はい、最大1キロメートル離れていてもお話し出来ます。ただ、これも誰かに知られますと緊急時に意味が無くなりますので、会話は緊急の時か、個室で一人の時だけにしていただければ。もちろんワタシも無意味な連絡は致しません」


「えー、もっと気楽に会話に使いたかったのになあ。でも、イルナがそう言うなら、緊急の時だけ使うよ」


「ありがとうございます。では、折角ですから、ドラゴンと次回戦う際の戦法などをお話ししましょう」


 それからしばらくはコクピット内でイルナとドラゴンなどの大型の機獣と戦う方法の話をした。イルナも前回の戦いでアイリーを守れなかった事に責任を感じているのだろう。アイリーはそんな事より、ただイルナと会話出来るのが楽しく、嬉しかった。


********


「ここがイチルゴ村か」


 村に近付き、周囲に巨鎧の反応は無かったので、巨鎧を乗せた機械馬車は村の外に置いて入り口まで全員で歩いて来ていた。


「なんか陰気よねえ」


「襲われたという情報は本当かもしれませんわね」


「これは巨鎧の足跡です……」


 レイネンが入り口付近に巨鎧の足跡を見つける。巨鎧の重量は重いので、普段巨鎧が通らない場所を歩くと目立つ足跡が残るのだ。村の規模はアイリーのカンキ村より広く、住民も多そうだが、それにしては活気が無く、出歩いてる人もまばらだった。


「すみません、お話を聞きたいんですが……」


 アイリーが近くで農作業をしていた老人に話しかけようとすると、老人は聞こえないふりをして小屋へと引っ込んでいく。同様にアイリー達の姿を見かけた住人はそそくさと家へ帰っていった。


「この様子だと脅されてるわね」


「この村には教会もハンターギルドもありませんし、どこか話が聞ける場所は無いでしょうか?」


「あそこがお店っぽいし、そこで聞いてみよう」


 エルータは自分も道具屋の娘なので、同じような店を見つけると、そこへ先導して入る。


「いらっしゃい。……旅の人かね。何か必要かい?」


 初老の女性がこちらの顔を見るなり少し嫌な顔をして対応する。


「見せてもらっていい?」


「構わないけど……」


「あ、珍しい物扱ってるね。これは村で取れたの?」


「ああ、それかい。この村の特産品でね」


 エルータは女性と会話を続け、警戒を解いていく。道具屋の娘だけあって、売る側の気持ちが分かるのか、女性は徐々に打ち解けていった。


「そういえば近くの町に寄った時に耳に挟んだんだけど、ここら辺に怪しい連中が出たって本当?」


 そうエルータが言った途端に明るくなっていた女性の顔が青ざめる。キョロキョロと周りを見回してからエルータに顔を近付けると小声で話し始める。


「悪い事は言わないから、その話は忘れなさい。関わったらあんたらの命が危ないよ」


 エルータは話を聞くと頷いて合図した。何者かに村が襲われたのは確実で、この女性がそちら側の人間で無いのも確かだろう。


「ここからは自分の出番ね。お嬢さん、こっちを向いて」


 セリュツが一歩近付いたので女性は警戒する。そしてセリュツが素早く持っていた杖を動かすと、その先端が光り、女性の体が一瞬硬直した。


「こんにちは。お話し出来る?」


「はい」


 女性の目の焦点が合わなくなり、棒のように立ちながら、返事をする。


「魔法で聞き出すのはいい趣味とは言えませんわね」


「でも脅されてるんじゃこれしかないでしょ。怪しい連中が来たのは何日前?」


「5日前です」


 順々に村に起こった事をセリュツが聞き出していく。5日前に突然その連中は現れ、複数の巨鎧で脅し、村の若い娘を連れて行ったという。連中は村から離れた場所にある廃墟を根城にし、怪しい儀式をしているのではと噂されるが、見た者は誰もいない。村の者は連れ去られた者を人質にされているので、町に助けを呼びにも行けなかった。


「こんなものかな」


「セツ様、一つだけ追加で聞いて下さい。連れ去られた娘の中にキネーヌという名の子はいましたか?」


「連れ去られた娘の中にキネーヌという名前の子はいた?」


「はい。村外れに住んでいたキネーヌも一緒に連れて行かれたのを見ました」


「そうですか……」


 レイネンはあからさまに落ち込む。キネーヌというのが、昔の友人なのだろう。


「他はいいね」


「「はい」」


「じゃあ」


 『パンッ』とセリュツが手を打つと、女性は目をぱちくりとして少しだけ不思議そうな顔をして、正気に戻る。


「じゃあ、これとこれを買うね」


「あ、ああ。少しだけ値引いてあげるよ」


 エルータが怪しまれないように少しだけ買い物をし、店員の女性も魔法で聞かれた記憶は無さそうで、普通に対応していた。店を出ると全員で機械馬車へ戻る。


「襲った連中の見た目や、やり口から邪教団で間違いないですわ」


「敵の居場所は分かったけど、普通に攻撃を仕掛けたら人質が危ないよね。どうにか先に助けられないかな」


「わたしに提案が。わたしのロガンでしたら誰にも見つからずに潜入出来ます。あと、シン様に危険ですけどお願いが」


「ボク?何をすればいい?」


「シン様でしたら生身で捕まってもスーライを呼び出せると思います。なので、あえて単身で邪教団の拠点付近をうろついてもらい、捕まってる人達のいるところまで案内させるのです。人質のいる場所が分かった所で相手の不意を突いてロガンとスーライで中から人質の見張りを倒し救出します。アイ様達はそのタイミングで外から襲撃して外の巨鎧を倒してください」


「シンちゃんが危なくないかな?」


「ボク強い、大丈夫。役に立つようにばあちゃんに言われてる」


「確かにその方法が一番良さそうよね。レンちゃんもいるから大丈夫よ」


 レイネンの作戦で問題ないという話で進める事になった。


「アイさん、先に言っておきますわ。邪教団の連中は一人残さず殺しますわ。アイさんがやらなくてもわたくしが。見ての通り村の方々は怯え、苦しんでいます。一人でも逃せば村に報復される可能性が高いですわ。全滅させれば少なくともしばらくは村は安全になります」


「巨鎧に乗ってない人がいても?もしかしたら脅されて仲間になった人もいるかもしれないよ?」


「経緯がどうであれ、邪教団に与した者は許す訳にはいきませんわ。一度脅されてでも悪事に手を染めたなら再び悪の誘惑には逆らえません。どうしてもというのでしたら、捕らえて、聖教団に連れて行ってもいいですが、結果は変わりませんわよ」


「みんなはどうなの?全員倒す必要があると思う?」


「わたしは邪教団の者は滅ぼすべきというリム様の意見に従います」


「自分も悪人を野放しにしていいとは考えないわ。特に少女を攫うような奴らは死んで当然ね」


「ボク悪い奴ら倒す」


 シリミンがどうかは怪しいが、3人は覚悟を決めているようだ。


「エルは?人に向かってボウガンを撃てるの?」


「あたしは……。うん、ここまで来たら覚悟を決めるよ。奴らのやっている事は許されることじゃない。ここで逃がせばあたし達は邪教団に一生狙われるかもしれない。人質を助ける為に、あたしは奴らにボウガンを撃つよ」


 これで邪教団の全滅に躊躇しているのはアイリー一人になった。


「アイさんは敵の巨鎧を行動不能まで持って行って、トドメはわたくし達がやってもいいのですよ?」


「ううん、それじゃダメ。私がここに来たのは連れ去られた女の子達を助ける為。邪教団の人を生きて帰したら、本当に助けた事にはならない。助けるって事は責任を負う事だってセツさんに言われた通りだと思う。だから、私も倒すよ、全員」


 その選択が正しいかどうかはまだアイリーには分からない。でも、流されて人を殺すのだけは嫌だった。やるのなら、自分の意思で決め、自分の手を汚さないといけない。それにレイネンの友人も捕らえられているのだ、迷っている時間が勿体ない。


「じゃあ行こう。この村を救う為に」


********


「じゃあ行ってきます」


「ボク頑張る」


「気を付けてね」


 なるべく身を隠せる森の中からシリミンと姿を消したレイネンの乗るルルトが出発する。村から直接来たことが分からないように迂回しながら廃墟に近付き、相手の見張りに見つからない位置に機械馬車を止めていた。時間はまだ日が落ちる前で、近付けばすぐに気付かれるだろう。夜襲も考えたが、その間に人質が儀式に使われる可能性もあり、早いに越した事はないと最速で作戦を開始した。

 アイリー達が踏み込む合図はセリュツの魔法でレイネンと連絡が付くようにしたので、後はギリギリの位置でアイリー達は待つだけだ。エルータは身の安全を確保出来る位置にいつつ、逃げる邪教団の者を見逃さずに撃つ役目になっていた。


「エルは大丈夫?」


「うん、直接戦うよりはずっと安全だよ。生身の人間ならスケルトンより当てやすいしね」


 イルナに乗って待機しながらアイリーは話しかけた。エルータが無理をしているのが分かるが、一人だけ機械馬車に置いておくのも覚悟を決めた彼女にとっては辛いだろうと思い、止められない。


「アイこそ大丈夫なのか?無理だったらトドメは他に任せてもいいんだぜ」


「もう大丈夫。それにイルナに乗ってると、何でも出来る気がするんだ」


「何があってもワタシがサポートします。射撃武器の発射はワタシがやりますのでマスターが気にする事はありません」


 イルナが集団で逃げる生身の敵が出た場合用に前と同じ射撃武器を付けてくれていた。確かに射撃武器だと直接剣を振るよりは罪悪感は薄れる気もする。巨鎧同士の戦いだと剣がいいとリムールが言っていたので、今回の武器は剣と左手に邪魔にならない大きさの小型の盾を付けていた。剣技の練習はまだしていないので、今度こそ教わらないと、とアイリーは思っていた。


「邪教団は神官型の巨鎧で来ると思うから、操れて1機か2機だと思うわ。乱戦になると思うし、自分はなるべく距離を離してサポートするから、二人は接近戦でお願いね」


「分かってますわ。邪教団相手なら手加減せずに全力で行けますわ」


「人質の安全が最優先だからね。まあ、二人がいるから大丈夫だと思うけど」


「レンはこういう時は完璧にこなしますわ。レンもああ見えて、胸の内は燃えていると思いますの」


 アイリーには分からないが、リムールはレイネンのちょっとした違いも分かるのだろう。そんな関係が少しだけ羨ましいと思った。



『救出を開始します、攻め込んで下さい』


「合図が来たわ、行くわよ」


 セリュツがレイネンの合図を聞いて、アイリー達も動き出す。全速力で進むと廃墟が見えてきて、そこに6機の巨鎧がいるのが分かる。


「神官型が3機、兵士型が2機、探索型が1機です」


「神官型を狙おう」


 兵士型や探索型ならセリュツがソシアで操ってどうにかする筈。敵はアイリー達に気付いて巨鎧に乗り込む。と、奥の方でレイネンが人質を助けた音に気付いてか、探索型の1機が反対側へ向かっていく。


「気付かれたようですね、急ぎましょう」


「こことここ、撃って」


「はい」


 まずは牽制で神官型2機の頭部に射撃武器を撃ち込む。即座にその2機は反応してアイリーに近付いてくる。リムールのルルトは3機目の神官型に突撃し、剣を打ち鳴らす。と、ソシアが魔法で操ったようで、兵士型2機がアイリーに迫っていた神官型の片方に攻撃を仕掛け、同士討ちを始める。


「相手は1機です、慎重に」


「分かった」


 結果的にアイリーは1機の神官型と組み合う形になる。相手は黒い巨鎧で、武器のメイスも真っ黒だった。打撃系の武器はコアを1撃で破壊は出来ないが、胴体に当たると搭乗者に直接ダメージが来る。盾で防御しても衝撃が来るし、剣で受けても押されると聞いている。避けて攻撃をするのが一番なのだろう。


「避けて下さい」


「うん!」


 相手のメイスを後退して避けて、カウンターで剣を振り下ろす。が、相手も盾でそれを受け、体勢を立て直す。やはり狙うなら相手のボディだ。当てれば搭乗者を殺してしまうかもしれない。


「次、来ます」


「分かった」


 戦闘中は考えている余裕などない。躊躇すれば攻撃を受け、殺されるのはこちらなのだ。イルナの言っていた生物の戦いの話を理解したような気がした。


「そこだ!!」


 アイリーは相手のメイスを避けた瞬間に隙を見つけ、胴体に剣を叩き込む。盾での防御も間に合わず、相手の神官型は倒れ、動かなくなった。


「お見事です、搭乗者の生命反応は消えました」


 イルナの言葉で敵を倒した事が分かる。ルルトも神官型を倒しており、セリュツは同士討ちで3機を葬っていた。


「そうだ、人質を」


 アイリーは急いで廃墟の裏の方へ向かう。そこには倒れた探索型1機と、死んでいる数人の男達、そしてスーライと共にいるシリミン、捕まっていたと思われる少女達がいた。そしてロガンが水色の巨鎧の姿を現し、そこからレイネンが飛び出す。


「キネーヌ!」


「え、レン?なんで……」


 レイネンは人質の中の1人の少女に抱き付いたのだった。

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