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幕間

 ストルイカ帝国軍がメロガダン王国領を撤退して10日が経過していた。皇帝が撤退を発表して以降、残党絡みの小競り合いが国境付近で有ったぐらいで、大きな戦闘は起こっていなかった。王国内では戦争は完全に終結したと捉えていたのだった。

 メロガダン王国の王城は全体の修復もほぼ終わり、今まで通りに使用する事がようやく出来るようになっている。そんな王城の応接室に4人の男性が集まって座っていた。


「遠路はるばる呼び出してすまないな、ハーライト伯。戦争の事を含めて、きちんと話しておこうと思ってな」


 一番豪華な椅子に座り、そう切り出したのはメロガダン王国の国王であり、姫騎士メレルの父親でもあるエドルガ・メロガダンその人であった。


「わしも本当は帝国との戦いに参加したかったのだがな。西側諸国にも帝国に影響された愚かな国がいくつかあって、その鎮静化で身動きが取れなかったのだ」


 ハーライト伯と呼ばれた禿頭の中年男性が答える。男性の名前はザイトム・ハーライト伯爵で、メロガダン王国の西方に広い領地を持ち、王国内でもかなりの有力者として知られていた。


「昔のようにザイトムが暴れる所が見られたなら、それはそれで面白かったな」


「青騎士がよく言うわ。お前だって居ても立ってもいられなくなって戦場に出たと聞いたぞ」


「それはエドルガが無理して出ると言うから、お守りとしてしょうがなく、だよ」


 そう答えるのは青騎士と呼ばれる、リムールとレイネンの父親のストラド・シュワイアだ。


「そう言われると厳しいな。私だって息子や娘ばかり活躍しておるので、一度は戦場に出ておかねば名誉にも関わると思ってだな」


「黒騎士相手に危険を晒す為に出て来たのではいい迷惑だったのでは?」


「いや、ストラドさえ邪魔しなければ、私だって一太刀は浴びせてた筈だぞ」


 国王エドルガは豪語する。3人はかつて共に戦った旧知の仲なのだった。


「うーむ、わしもその場に居合わせたかったな。エドルガの及び腰が目に浮かぶわ」


「御三方とも、もう若くはないのですぞ。昔のように振る舞われたら国民が肝を冷やしますぞ」


 ザイトムの話に割り込んで小言を言うのは、3人より明らかに年上の老人だった。老人の名前はトクヒ・ツロウド。先々代の王の頃から王家に仕え、現在は相談役として、国王や巫女ルルンの面倒を見ている。


「分かった、分かった。この話は止めよう。しかし、今回の戦争は娘達が主役になってしまったな。リムール嬢も随分頑張っていたぞ」


「あれは騎士になどしたくなかったが、どうも血は争えなくてな。まあ、結果として国の役に立ったのだ、リムールにもレイネンにもよく頑張ったと褒めてやらんとな」


 ストラドは少し複雑な顔をする。父親としての心配だけはどうしても隠せない。


「白嵐騎士団の救世の白い騎士の噂は西側にも広まっておるぞ。ストラドの娘達はその白嵐騎士団に所属していると聞いたが本当か?」


「その通りだよ。団長のアイリー君とは以前会ったが、本当に立派な娘だと思ったよ。

で、エドルガ、知っていてあの娘を使ったのか?」


 ストラドの表情は厳しくなった。部屋の空気が一気に張り詰める。


「巫女ルルンに言われてしょうがなく、だ。勿論、素性は調べさせた。まさか、彼女がデイルの娘だったとはな」


「デイルだと?もしかしてデイル・クリアロンの事を言ってるのか?」


 ザイトムはその名前を聞いて驚く。ザイトムもアイリーの父であるデイル・クリアロンの事を知っていたからだ。


「因果とはそういうものでございます。アイリー・クリアロン様はかつてこの国の為に戦った、デイル・クリアロン様の娘でございます」


 トクヒがゆっくりと語る。


「ザイトム、今日お主を呼んだのはそう言った理由からだ。12年前の戦争。あれがまた繰り返されるのではと思ってな」


「異変が起ったという情報はあるのか?巫女様は何か言っているのか?」


 ザイトムが興奮したように問い詰める。


「いや、まだ何も起こってはいない。だが、争いで血が流れ過ぎた。

すまない、王国がここまで弱体化しているとは思っていなかったのだ」


「それはエドルガだけの責任ではないさ。巨鎧が見つかってまだ100年、争いも、技術も、世界もまだまだ変わっていく。そしてそれを担っていくのは若者達なのだからな」


 ストラドはエドルガを励ますように言う。


「だが、悲劇を繰り返してはならない。それを未然に防ぐのは“あれ”を直接目にした我々の役目なのだ」


「そういう事か。呼ばれたという事で嫌な予感はしてたがな。西側の監視はわしがやろう。うちの騎士団も何かあればいつでも派遣する」


 ザイトムは真剣な顔で言う。


「すまないが、頼むぞ、ザイトム。ストラドは“あいつ”に連絡を取ってくれないか。どうにも私は嫌われているみたいなんでな」


「ああ、それは任せてくれていい。しかし、心配なのはアイリー君や娘達だ。ここまで来てしまっては無関係ではいられまい」


「巫女様はアイリー様の事を大変気にしておられる。これも運命なのかもしれませんな」


 トクヒは悲しそうに言うのだった。


********


「くぅううう!なんで、なんであんな奴に!!」


 女性は部屋にある調度品を棚から落としては割り、蹴り、叩き付ける。室内には物が壊れる音が鳴り続けていた。


「もうそれ位にしておけ。そんな姿誰かに見られたらますます評判が落ちるぞ」


 部屋のテーブルの中央で豪勢な椅子に身を沈ませ、その様子を眺めていた女性、ストルイカ帝国皇帝、ウレイユ・ソダシスは宥めるように言った。


「でも、悔しいじゃない。あんなクソみたいな男に負けたなんて。ウレイユは何でそんなに落ち着いていられるの!」


 ヒステリックに叫んでいる女性はストルイカ帝国の副官、ライム・ミアーズだった。その姿は人前で見せる普段の穏やかさは欠片も無く、従来の知的さも美しさも消え失せていた。ここはストルイカ帝国、帝都ウォーンにある城の一室である。今は皇帝ウレイユとライムしかおらず、戦争が敗戦で終わってからライムは毎日こんな調子だった。


「負けは負けだ、認めねばなるまい。それに、我々はあの男、グストに負けた訳ではない。今回の敗因はアイリーという白騎士が加わった事が大きいからな」


「ほんとウレイユは白騎士が気に入ったのね。わたしはああいう偽善的で、世間知らずな子は好きになれないわ。

そういえば黒騎士は戻ってこないけどいいの?」


「奴は戦闘には確かに使えたが、道具以上の価値は無かった。所詮は金の関係だ、どうでもいいさ」


「でも、灰狼騎士団も事実上壊滅、戻ってきた兵士達の士気も低いわよ。戦争で大分資産も使ったし、国としても危なくなってきたわ」


 ライムはウレイユと会話して、ようやく落ち着きを取り戻しつつあった。暴れていたライムを眺めていた皇帝ウレイユは笑みを浮かべる。


「戦争はあくまで色々試すのに使っただけだよ。もちろんライムには本気でやってもらったが、勝敗は気にしないと言っておいただろう。新しい戦略の確認、通信網のテスト、特殊な巨鎧の試験運用、機獣の誘導実験。そして、邪教団との関係の強化。欲しかったデータは取れたから十分だ」


「わたしは納得出来ないけど、ウレイユがそれでいいのならわたしも切り替えるわ。それで、次はどうするつもり?」


「ああ、そろそろ客人が到着する頃合いだ」


 そう言ってウレイユは部屋の隅の物陰をじっと見つめる。ライムもそれにつられてそちらを見ると、なんだか空間がぼやけて見えた。やがてそこに黒い物体が浮かび上がってくる。


「お取込みのところ、お邪魔しますね」


 黒い物体は実像に代わり、艶やかな女性の声が聞こえてきた。ライムは警戒しつつウレイユの横に移動する。


「時間通りだ。わざわざこちらに来て貰いすまないな」


「いえ、ちょうど近くに用事がありましたので、わたくしも都合が良かったです」


 そう言った時には、はっきりと黒衣の女性が立っているのが見えた。血のような濃い赤色をした長い髪の毛。目は透き通る蒼で、そこに精気は感じられない。肌は青白く、薄っすらと赤い唇は笑みを湛えている。女性はゆっくりと歩き、ウレイユの正面の椅子に腰かけた。


「皇帝、この方は?」


「ライム様はお初にお目にかかりますね。わたくしは邪教団の幹部が1人、ノノス・ホンワイと申します。以後、お見知りおきを」


 ノノスと名乗った女性は軽く会釈する。ライムもその名は聞いた事があった。吸血のノノス、という呼び名の、邪教団の中でも上位の者だ。


「邪教団との連携に関してはノノスが尽力してくれたおかげなのだ。改めて礼を言う。色々とありがとう」


「お礼を言うのはこちらの方です。戦争で王国に混乱を起こして頂き、本当に感謝しています」


「失礼ながら、わたしにも聞かせて貰えないかしら。皇帝陛下もノノス様も何を目指していらっしゃるのですか?」


 ライムは今まで邪教団の件をはぐらかされてきたので、少しだけ二人の話にイラついていた。勿論今まで自分に隠す必要があるぐらい、重要な事だろうとは理解している。


「そうだな、これは我々が今後生き残る為の、賭けのようなものだ」


「申し訳ございません。わたくしもはっきりと説明する事は禁じられております。今話せる事は、これから大きな異変が起こるだろうという事。そして皇帝陛下は我々と協力し、その異変の“対策”をしている、という事です」


 二人の答えを聞いても、ライムは納得出来なかった。が、これ以上は聞いても無駄だとは理解した。


「ライム、その時にこそ君の力が必要になるんだ。私を信じて付いて来て欲しい」


「分かりました。元々そのつもりですし、わたしもそれを楽しみに待つといたしましょう」


「さすがはライム様。そう、これから起こる事はとても楽しい事なんです」


 ノノスは口を大きく開けて笑みを浮かべた。ウレイユもそれに合わせて笑う。ライムだけは異様な雰囲気に寒気を感じたのだった。

第2部はここまでになります。

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