12.巨鎧大戦
王都奪還から一週間が経過していた。アイリー達は王都奪還の勢いに乗ったまま周囲の帝国に奪われた都市を他の騎士団と協力して次々と奪還して周った。以前のような帝国の機動馬車での偽装潜入が出来なくなったので、レイネンを隊長とした、シリミン、シーム、その他選りすぐりの探索型の潜入チームを作り、市民への被害を減らす為の工作を行った。結果、市民や市街への被害を抑えつつ、町や村の奪還は成功したのだった。
一方で帝国も黙って見ている訳ではなく、王国の北東部、南東部への攻撃を行ってきた。しかし、軍師グストが強化した情報網で敵の動きが掴め、援軍の派遣と各都市の守備部隊の動きで、帝国の攻撃は阻止出来ていた。特にアイリー達が奪還した町や村は戦意が高く、勇猛果敢に帝国軍を追い払っていた。戦争の流れは完全に王国側に変わっていた。
「ストルイカ帝国は南東の平原に大部隊を展開し、反撃を狙っています。この戦いに負けると流れが変わる可能性がありますが、逆にこの戦いに勝ち、帝国軍に大打撃を与えれば、戦争を終結させる事が出来ると思います」
修復が進んでいるメロガダン王国の王城の会議室で、軍師グストは熱弁をふるう。会議室には国王エドルガに巫女のルルン、他にも姫騎士メレルなどの各騎士団団長が揃っていた。アイリーも東側の町の奪還を成功させ、戻ってきたばかりで参加している。
「我が国も長引く戦で大分疲弊した。私は次の戦いで決着を付けたいと考えている。皆を呼んだのはその為だ。出しうる限りの戦力を集結し、一気に帝国軍を討ち滅ぼそうではないか」
「私も国王様の考えに賛成です。紅薔薇騎士団は全身全霊を持って戦いに参加致します」
国王エドルガの話を継いで姫騎士メレルも決戦に参加する決意を表明する。他の騎士団の団長も次々と賛成の声を上げ、最後に残ったのはアイリーだった。
「私は今まで王国の為に戦い、帝国に奪われた土地を取り戻す為、多くの帝国兵を倒してきました。全てが正しい行いだとは思っていません。それでも、この戦争をより早く終わらせる事が出来るなら、私達白嵐騎士団は全力で戦う覚悟です」
「皆の者、ありがとう。恐らく多くの被害が出る戦いになるだろう。それでも、次の戦いが我が国の命運のかかった戦いになる。私も今回は戦場に出て、その生末を見守ろうと思う」
「陛下、さすがにそれは危険では」
国王の言葉に第1王子であるゴーマが口を挟む。
「私ももう齢だ、いつ王座を継いでもいいと考えている。戦争も新しい世代が先導している。私が戦場に出るのもこれが最後だろう。私が参加すれば兵の士気も多少は上がる。私にも最後の仕事をさせて貰えないだろうか」
「兄上が残れば万が一の時も大丈夫でしょう。父上には僕が付いて行きます」
銀牙騎士団の団長であり、第2王子であるタクセリ・メロガダンが国王の意見に賛成した。
「私も陛下のご意思に沿うべきだと考えます」
「……分かった、万全の態勢を整えつつ、陛下の望み通りに致しましょう」
姫騎士メレルもそれに続いたため、ゴーマ王子も折れたのだった。そこからは王都や他の都市の防衛も考えつつ、決戦に参加する部隊について話し合った。結果として第1王子の金爪騎士団と王都や主要拠点の防衛についている碧鋼騎士団以外は全騎士団参加となった。
「最後に今回の戦いの総司令官だが、私は白嵐騎士団のアイリー君にやって貰おうと考えている」
「え?私ですか?」
最後に国王から名前を指定され、アイリーは驚く。
「ちょっと待って下さい。総司令官でしたら第2王子であるタクセリ様や姫騎士メレル様の方が相応しいと思います。それに私はそこまで大量の部隊を率いた経験はありません」
「申し訳ないが、僕はそういうのは苦手なんだ。ついでに言うと妹のメレルもね」
「タクセリ兄さん、その言い方はあんまりじゃない?でも、紅薔薇騎士団のまとめまでは出来ても、それ以上の動きは把握出来ないのは確かね」
「あと、メレル様は頭に血が上ると周りが見えなくなりますしね」
「ちょっと、チナまで言う?」
副団長のチーナにまで言われてメレルは怒った振りをする。アイリーは今まで王族が総司令官をやっていないのは安全の為だと思ったが、そうでも無いようだと薄っすら理解した。
「まあ、見ての通り、私を含めて王家の血筋はどうも戦場全体を管理するのには向かなくてな。他の騎士団の団長にやってもらってもいいのだが、アイリー君は一般の兵士にも人気がある。それに君にはイルナという優秀な補助も付いている。やって貰えないかな?」
そこまで国王に言われてはアイリーに断る事は出来ない。
「分かりました、ただ、引き受ける代わりに一つだけ我儘を言ってもいいでしょうか?」
「何かね、まずは話を聞こう」
アイリーは戦いを終わらせるにあたり、一つだけ残っている課題をどうにかしたいと思っていた。
「黒騎士が出てきた時、その相手は私にやらせて下さい。その間の指揮は別の方にやって頂きたいです。それさえ許して頂ければ、私が総司令官を引き受けましょう」
「なるほど。そうだな、最後に戦った時は黒騎士を追い詰めたとは聞いている。分かった、その条件で総司令官をやってもらおう。黒騎士が出てきた後はメレルが総司令官を引き継ぐ。メレルはそれでいいか?」
「はい、その間だけでしたら、私でも大丈夫かと」
「では、白嵐騎士団のアイリーを次の戦いの総司令官に任命する」
「分かりました、謹んでお受け致します」
「よろしくお願いね、アイリーさん」
メレルにも笑顔で頼まれ、アイリーは頑張らなければと思うのだった。細かい配置などは現地に近付き、敵の規模や配置を確認してからという事になり、明日の朝に出発という事で今日は解散になった。
アイリーは紅薔薇騎士団の宿舎の会議室にエルータ達5人を集め、決まった話を説明した。
「連日忙しいのに、すぐに次の作戦になってみんなごめんね。今度は私が総司令官になるから、一緒には戦えないと思う」
「でしたらわたくし達がアイさんをフォロー致しますわ。ここまで大規模な戦闘はわたくしもアイさんも初めてですし、こういう時こそ全員で助け合っていく必要がありますわ」
「リムの言う通りだね。敵もどんな罠や作戦で来るか分からないし、イルナが居るとしても、アイ一人じゃ判断出来ない事が出てくると思う。そういう時あたし達がアイの手足になって動ければ、打開策が見つかる筈」
リムールに続きエルータもフォローを提案してくれる。
「魔法に関しては自分に任せて。味方の魔術型も含めて、有効なアドバイスと敵の魔法に対しての対策を提案するわよ」
「わたしはいつも通り偵察と破壊工作をやります。町の潜入で無くても、他の探索型と協力しての効果的な奇襲は出来ると思います」
「ボクもアイお姉ちゃんの護衛から、敵の集団への奇襲とか、出来る事は何でもやるから命令して」
セリュツもレイネンもシリミンも出来る事を提案してくれた。
「みんな……。そうだね、一人で何でもやろうと思っちゃ駄目だよね。うん、他の白嵐騎士団のメンバーも含め、戦場全体を把握出来るようにしよう」
アイリーはみんなの言葉で肩に圧し掛かっていた重りが一気に軽くなった気がした。今までの作戦でも総司令官はやって来たが、今度は更に大きい戦いで、今までと同じでは駄目だと再認識する。アイリーは他の白嵐騎士団のメンバーも呼んできて、広範囲に効果的な役割を考え、相談するのだった。
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翌日、王都からの大移動が開始された。今まで戦場には来なかった軍師グストも同行し、巫女ルルンも護衛のユシエと共にヨークンで付いて来ている。国王エドルガは自らの巨鎧オーディムを駆り、護衛の蒼刃騎士団と共に移動している。その中には現役を引退したリムールの父、青騎士ストラドとその巨鎧セイロウも入っていた。大規模な戦闘になる予定なので、1機でも巨鎧が多い方がいいと考え、市民からの兵を集った際にストラドも志願したそうだ。移動する巨鎧は300機を超え、王国史上かつてない数の巨鎧での戦いになるという。アイリーはその中で総司令官という信じられない立場に立っていた。
「マスター、緊張していますか?」
「うん、さすがにね。私の采配にこれだけ多くの人の命がかかっていると思うとね」
「各部隊の指揮官はそれぞれの騎士団の団長です。それに加え、各部隊に白嵐騎士団のメンバーが入って、その状況や敵の動きを報告してくれる予定です。ワタシも可能な範囲で戦場全体の状況をチェックします。そして全体の動きや戦略はグスト様が提案してくれます。マスターは落ち着いてそういった情報を把握し、実行するタイミングを的確に指示すればうまく行くでしょう」
「そうだよね。私一人で考えてる訳じゃ無いんだしね。うん、少しだけ自信が出てきた」
そう自分に信じ込ませるように口に出す。アイリーが周りを見渡すと多くの仲間の巨鎧が移動しているのが見える。今回は長期戦になるかもしれないのでリムールの機動馬車も同行し、そこにはレイネンとシリミンが乗っている。他の部隊も同様だが、これだけの数の巨鎧を乗せる程の機動馬車は無く、多くの機動馬車は巨鎧は載せず、武器や補給物資や食料を積んでいた。
「イルナはこの戦いどうなると思う?」
「勢いは未だに王国軍にあり、帝国軍の主戦力となる部隊も多く削ってきました。何事も無ければ王国軍が勝つ確率が高いですが、帝国軍も大軍で攻めてきている以上、何か秘策があると考えられます。戦いは最後まで油断出来ないと考えています」
「そっか。早めに黒騎士が出てきてくれるといいんだけどなあ」
「恐らく黒騎士は最後の手段かと。狙うのは勿論、国王陛下でしょう」
イルナの言った通り、国王が出てくる以上、そこを狙われる事は軍師グストも予測している。その為の対策も考えてはあるが、まだまだ油断は出来ないとアイリーは思っていた。
「まだ戦場に着くには時間がかかります。マスターは今のうち休んでいて下さい」
「ありがとう、イルナ。そうさせて貰うよ」
イルナにコクピット内の姿勢をゆったり座る形にしてもらい、アイリーは寛ぐ。色々と考えは浮かんでくるが、今後頭をフルに使う事を考え、今は休もうと追い払うのだった。
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「帝国軍は見晴らしのいい丘の上という立地的に優位な場所に陣取っています。巨鎧の数も400機近く、数の上ではこちらを上回ってます」
帝国軍との距離1000メートル位の位置で王国軍は移動を止め、会議用のテントの中で軍師グストが地図を広げて説明している。偵察部隊からの情報で現在の大まかな敵の布陣は分かったので、どう攻めるかを考える必要があった。自軍の機体数は総勢350機ほどに増えたが、それでも帝国には負けている。
「敵に黒騎士の部隊の姿は無いみたいですね。主力の灰狼騎士団も後方に位置してる。先にこちらから攻めて戦力を削って行くのがいいのでは?」
「そうですね、まだ何か隠してそうですが、討って出るのがいいでしょう。帝国軍は数で勝っていても大半が傭兵か志願兵でこちらの騎士団に比べて質が落ちます。更に士気もこちらの方が高いので、ここで先手を打っておきましょう」
アイリーの意見がグストの後押しで決まり、布陣を決めていく。中央に位置する主戦力は団長ミシオ率いる土犀騎士団に決まった。ミシオは以前アイリー達と共闘した後、何とか生き残って騎士団を立て直し、騎士団は以前と同様の数まで回復している。右翼には第2王子タクセリ率いる銀牙騎士団、左翼はゲオード率いる橙獅子騎士団と決まった。そこに射撃部隊と魔術部隊が加わり、更に後方に神官型を中心とした援護部隊が付く。レイネンとシリミンは偵察、破壊工作などの遊撃部隊としてアイリーの指示で動くようになっていた。残った部隊は戦力の温存と国王の警護として待機する。
「今度こそいい所を見せてみせますよ」
土犀騎士団のミシオが力強く言う。ナイシの町での撤退後に仲間を多く失っている為、帝国への恨みも大きいだろう。
「まあ、まずは相手の出方を伺いましょう。僕は慎重に進める方なので」
第2王子のタクセリは冷静そうだ。銀牙騎士団は少数精鋭で国王と共に行動する事が多く、今まで帝国との戦いに参加する事は少なかった。実際の実力は分からないが周囲からの信頼が厚いのでアイリーはそれを信じる事にした。
「みんな準備は万端だ。行けるなら一気に駆逐する勢いだぜ」
数々の戦いを共に生き抜いたゲオードはアイリーにとっても頼もしかった。ただ、騎士団としては無茶をする事が多く、被害が少なければいいなとアイリーは思う。
「一応土地に罠が無いかは確認していますが、魔法や巨鎧の特殊技能等、何か仕掛けられている可能性が高いです。勇敢なのは悪い事ではありませんが、どこで崩れるか分かりません。何か起こった場合は情報を逐次報告し、判断に迷ったら進軍は止めるように」
軍師グストが念押しをする。特に無茶しそうなゲオードに言っている気もした。
「私からも。今回白嵐騎士団は騎士団として纏まって参加はせず、団員を各部隊に同行させてもらう形を取っています。私からも皆さんに直接指示しますが、彼女達もそれぞれ判断し、アドバイスをしてくれます。騎士団を動かすのは各団長ですが、彼女達からの声も聞いて下さると助かります」
アイリーは今回の白嵐騎士団の役割を説明する。指示系統が複数あると混乱する事は分かっているが、アイリーが他のメンバーからの報告を聞き、それを判断して答えるのだとどうしても時間がかかってしまう。アイリーは各メンバーを信頼しているからこそ、咄嗟の対応は彼女達に任せるつもりだった。
「白嵐騎士団の方々は特に多くの戦いに参加し、かつ、生き残ってきたと私は思っています。アイリーさんの言う通り、その言葉は総司令官であるアイリーさんと同じぐらい価値があると見ていいのではないでしょうか?」
助け舟を出してくれたのは姫騎士メレルだった。白嵐騎士団に紅薔薇騎士団の団員がいるからこそ、彼女の言葉は重みを増す。
「私はアイリーさんの意見に従いますよ。白嵐騎士団の事はよく知ってますしね」
「僕もいいですよ。もちろん自分で判断出来る事は判断しますし」
「俺は元々アイリーさんの言う事に反論するつもりは無い」
「皆さん、ありがとうございます。私も、騎士団のみんなも全力で対応致します」
3人の同意を得られ、アイリーは感謝の言葉を述べる。
「僕の方は基本的に戦闘中は意見を出しません。ただし、あからさまに怪しい動きがあった場合、アイリーさんに助言するようにはします。まあ僕の仕事は作戦を考えるまでなので、現場の判断はアイリーさんにお任せしますよ」
「はい、色々とありがとうございます、グストさん」
今回グストが現地にいる事は大きいとアイリーは思っていた。
「私の出番がまだなのは少し歯がゆいですが、今は全員で帝国と戦う事が重要です。必要な時に全力が出せるよう私も準備します。それではアイリーさん、締めの言葉を」
「私がですか?」
メレルに振られアイリーは自分が言うつもりが無かったので、少しだけ言葉に詰まる。
「では。今までの戦いで多くの仲間が亡くなり、多くの罪の無い市民が亡くなりました。私はこの戦いを一刻も早く終わらせたいと考えています。皆さん、力を合わせ、この戦いを終わらせましょう」
「「はい!!」」
何とか締めの言葉を言い、会議は終了し全員で戦闘の準備に入った。アイリーはすぐに直接戦う事は無いと思うが、責任は今まで以上になる。全体の被害を抑えつつ、的確な指示を出さなければと思った。
「みんな、今回はそれぞれの連絡が特に重要になる。変な動きや怪しい気配がしたら何でもいいから教えて欲しい。それから、危険やチャンスですぐに判断が必要な場合はそれぞれで判断して、直接指示や各団長へのアドバイスをして欲しい。責任は私が持ちます」
「「了解」」
アイリーはイルナの中から白嵐騎士団に配った通信装置に連絡を入れる。アイリーはこの通信装置とは別に各騎士団の団長やグストと繋がった通信装置も持ち、使い分けて連絡を取り合う必要があった。白嵐騎士団のメンバーは各騎士団や部隊の適材適所に同行させている。
エルータは射撃型を中心とした射撃部隊に、リムールは補助魔法や回復魔法を使う援護部隊に、セリュツは魔法での攻撃、防御を行う魔法部隊をそれぞれ率いる形で入って貰っている。レイネン、シリミン、シームは偵察や破壊工作の遊撃部隊を率いて貰い、3人のリーダー役はレイネンになっている。
各騎士団も同様で、主力部隊の土犀騎士団にミアンを、紅薔薇騎士団に元居たトトリを、第2王子の銀牙騎士団にワイムを、橙獅子騎士団に慣れているエトアを、王を守る蒼刃騎士団にケミツを同行させている。
それぞれ協力して戦ってもらいつつ、その部隊の状況や敵の動きの連絡、他の部隊との連携の橋渡しをしてもらう事になる。また、オクシオやザーレの敵の拘束能力、ルルトの巨大な防壁等の特殊技能は戦況を一変させる大きな力になる。敵も警戒し、対策を講じている場合もあり、使うタイミングが重要だと考えていた。なので、何かあった場合の使用は各々の判断に任せるが、使うタイミングはアイリーが指示する事になっている。
「セツさんは敵の初手の確認をお願い。魔法の罠とか集団魔法があったら、その対応を」
「了解、任せて頂戴」
「リムちゃんは各部隊先頭の巨鎧に射撃武器対策の魔法や防御の魔法を。あとは後方待機で、何かあれば連絡するから」
「分かりましたわ、任せて下さいな」
「エルは射撃部隊への指示を。相手の動きを見て、密集している場所を狙って。オクシオの精霊力はなるべく温存で」
「分かった。何か気付いたら連絡する」
「レンちゃん、シンちゃん、シームの遊撃部隊はまずは待機で。どこか劣勢になってたり、敵の伏兵が出た場合は対処をお願いすると思う」
「了解です」
「分かった」
「了解しました」
「ミアンは一番危険だけど、戦場の中央で変な動きが無いか特に注意して。引き際も基本は団長のミシオさんの指示でだけど、ミアンが危ないと判断したら自分で提案してもいいから」
「分かりました。団長の目となり耳となり手足となり、しっかり役目を果たします」
「ワイムは右翼で少数精鋭の銀牙騎士団だからあまり心配していないけど、だからこそ油断があるかもしれない。何かあったらお願い」
「分かったわ。タクセリ様は素敵だし、いつもより頑張るわよ」
「エトアは左翼で、いつものメンバーだけど、ゲオードさんとテオムさんを支えてあげて」
「……了解。一人でも多く倒す」
「トトリは紅薔薇騎士団なんで、今日は出番は無いかも。それでも、いつでも戦えるように準備はしててね」
「はい、頑張ります!」
「ケミツは蒼刃騎士団と共に王や巫女様の護衛をお願いします」
「了解です、任せて下さい」
アイリーは各部隊に散らばった全員に連絡を入れる。アイリー自身はイルナに乗り、機動馬車を1台借りて、その上に立って周囲全体を見渡せるようにしている。周りには300機を超える巨鎧が立ち並び、壮観であった。これだけ数が多く戦場が広いと、どうしても全部は把握出来ない。だからこそ仲間の存在がとてもありがたかった。
「マスター、周囲の確認、皆様との通信状態に問題はありません。ワタシも出来る限りフォローいたします」
「ありがとう、イルナ。ここまで来たんだ、負ける訳にはいかないよね」
「はい、皆さんと勝利を掴みましょう」
イルナの声も心なしか高揚しているように聞こえた。注意すべきは敵の灰狼騎士団や黒騎士の部隊が出てきた時だ。恐らく敵が一気にこちらに攻めてくる時に使うのだろうと予想はしている。そして各部隊から準備完了の連絡が入る。時刻は正午を回っており日差しが強い。敵にはまだ動きは無い。
「アイリーさん、攻撃開始の合図を」
姫騎士メレルから連絡が届き、アイリーは息を整える。
「各部隊、攻撃開始!!」
「「おおーーー!!!」」
アイリーが叫び、兵士達が呼応する。土犀騎士団の中央部隊と銀牙騎士団の右翼部隊、橙獅子騎士団の左翼部隊が前進を開始する。それに続いて射撃部隊、魔法部隊、援護部隊が続き、その後を遊撃部隊が付いて行く。イルナを天井に乗せている機動馬車もその後にゆっくりと付いて行く。あまり国王達と離れる訳にもいかないので、機動馬車は戦場になる場所と国王達後衛の部隊の中心で止まる。
戦場は背の低い草の生えている草原で大きな木は少なく、視界は良好である。こちらも帝国も伏兵を使っての奇襲が難しい地形だ。前方の少し高い丘の上には帝国の巨鎧が大量に並んでいる姿が確認出来る。
「進行方向に魔法のトラップがあるわ。解除するから中央部隊に一旦止まって貰って」
「セツさんありがとう。
ミシオさん、進行方向にトラップがあります。解除が完了するまで停止して下さい」
「了解です。中央部隊一時停止!!」
早速敵のトラップを見つけ、中央部隊が動きを止める。その間に帝国軍が動き始め、こちらに寄ってくるのが見えた。
「移動している帝国の巨鎧は300機ほどです。こちらの右翼側にやや戦力を増やしています」
「イルナ、ありがとう。エル、射撃は右翼側を多めにして」
「分かった」
「レンちゃん、右翼側のフォローが出来るよう遊撃部隊の準備を」
「了解です」
どこかに穴が開くとそこを一気に攻められる可能性がある。相手もこちらの行動を見つつ対応するつもりだと思うので気が抜けない。
「トラップは解除出来たわ。そろそろ射撃や魔法が届く範囲ね」
「ありがとう、セツさん。
ミシオさん、トラップを解除出来たので進攻再開を」
「中央部隊前進、そろそろ射撃が来るぞ!」
中央部隊がミシオの声で再び動き出す。
「援護魔法を開始致しますわ」
「リムちゃんお願いね」
援護部隊が各部隊の先頭付近の巨鎧に射撃防御や守備力上昇の魔法をかけ始める。
「射撃を開始する」
「魔法も開始するわ」
「お願い」
射撃部隊が敵に向かって射撃を開始し、魔法部隊も魔法を撃ち始める。同時に敵側の射撃型、魔術型も攻撃を開始した。各部隊の先頭に居た巨鎧は盾を構えつつ速度を上げ、両軍は一気に接近する。
「中央部隊突撃!!」
ミシオの号令の後、巨鎧の集団同士の真っ向勝負が始まる。数や地形的には帝国側がやや有利だが、技量や士気では王国側の方が上で、ぶつかった帝国の巨鎧が次々と破壊されていくのが見える。土犀騎士団は茶色を基調とした巨鎧が多く、土埃の混じるその突撃の勢いは土の波のように見えた。
「我々も負けてられないな、右翼部隊突撃!」
右翼の銀牙騎士団団長のタクセリも声を上げる。銀牙騎士団は銀色を基調とした巨鎧を中心とし、盾を持つ巨鎧は少なく、攻撃に特化した巨鎧が多い。単独でも能力は高いが、仲間と協力しての連携が素晴らしく、華麗に共闘して敵軍を倒していった。敵の数が多いと言われた右翼側だが、どう見ても押してるのは銀牙騎士団だった。
「野郎ども、蹴散らすぞ!!」
「おおおーーー!!!」
ゲオードの巨鎧を先頭に左翼である橙獅子騎士団が戦場を駆けていく。寄せ集めの部隊ではあるが、最近は橙色に色を変えた巨鎧も多くなり、部隊としてのまとまりも増していた。パワー型の巨鎧が多く、盾を構えた敵の巨鎧も吹き飛ばしていく勢いがあった。
「マスター、どの部隊も出だしは好調ですね」
「そうだね、でも、そろそろ勢いも止まりそう」
乱戦になれば敵味方入り乱れる為、突撃の勢いは消されていく。帝国側にも突出した特殊技能の巨鎧がおり、こちらの攻撃を受け止めたり、一気に味方が数機破壊される事もある。いかに相手の動きを読んで瞬時に判断出来るかが生死を分ける事になっていた。
数十分戦いが続き、アイリーはその場その場で判断し、指示を送った。エルータやセリュツなどはその場の判断で動いてくれるので、アイリーの負担も何とか回せる範囲に収まっていた。
「帝国軍撤退を開始しています。追撃するかの判断が必要です」
イルナが戦況を見てアドバイスをくれる。敵は4割ほど撃破している。対してこちらの被害は3割弱だ。このまま一気に攻める事も戦力的には可能だが、まだ灰狼騎士団も黒騎士も出て来ていない。アイリーはまだ攻める時期では無いと判断する。
「全軍、今回はここまでで前進を止めて下さい。深追いはせず、なるべく被害を抑えつつ逃げる敵を攻撃して下さい」
「「了解した」」
各騎士団長に連絡し、戦いが収まっていく。
「戦闘終了です。敵の襲撃に警戒しつつ自陣まで戻って下さい」
アイリーの指示で部隊が引き上げを開始した。中破した巨鎧や大破しても搭乗者が生存している巨鎧は他の巨鎧が牽引して戻ってくる。
「みんなお疲れ。みんなが無事で良かった」
「やはり敵も一筋縄ではいきませんね。中央部隊はそれなりに被害が出てしまいました」
「こっちはさすが銀牙騎士団といったところね。被害は1割ほどで済んでるわ」
「……橙獅子騎士団も頑張った」
3部隊で共に戦っていたミアン、ワイム、エトアがそれぞれ答えてくれる。アイリーとしては想定の範囲内がだ、あまりに普通の戦いだったので怖い気がした。もうすぐ日が暮れるので、夜襲の警戒も重要になってくる。
「レンちゃん、シンちゃん、シームの3人は疲れているだろうけど交代で見回りの方もお願い」
「今回は殆ど戦闘に参加していないので大丈夫です」
「ボクもまだチカラ余ってる」
「任せて下さい、団長」
その後は特に敵の追撃も無く、会議で翌日の部隊の再編を行ってから交代で休憩となった。
「イルナもお疲れ様」
アイリーも休憩の時間となり、寝る前にイルナに会いに来ていた。イルナは他の巨鎧と並んで待機状態で座っており、月明かりに白く照らされている。
「お疲れ様です、マスター。明日に備えて早く休んだ方がいいのではないでしょうか」
「これも休憩の一つだよ」
アイリーはイルナのボディに寄りかかる。
「本日の戦闘で敵の巨鎧の数もこちらを下回る事になりました。明日の攻撃で更に破壊すれば、敵軍も総崩れになるでしょう」
「でも、まだ黒騎士は出てきて無いし、何か隠してる気もするなあ」
「こちらも白嵐騎士団の巨鎧の特殊技能はなるべく使っていません。また、紅薔薇騎士団も温存しています。負ける確率は低いでしょう」
自分でも心配し過ぎなのは分かっているが、自分が戦っていないとどうにも不安でならなかった。
「マスターが生きている限り、負けでは無いとワタシは考えます。マスターはそう考えないんですよね?」
「うん。みんなが死ぬのは嫌だし、王国がこの戦いで負けるのも嫌だと思ってる。それはアイが総司令官だからとかじゃなくて、これ以上戦争が続くのが嫌だと思ってるから」
「ワタシはマスターが命じた事なら何でもやります。どんな無茶な命令でも。だから何かあった時は命じて下さい。その時はワタシが力になります」
「ありがとう、イルナ。
もう少しだけこうさせて」
アイリーはイルナに頭をもたげてしばらくじっとするのだった。
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翌日、準備を整えた王国軍は再び攻撃を開始した。大まかな部隊構成は同じで、被害が多かった中央部隊に一部の機体を移動してバランスを調整している。また、今回で決着を付ける事も考えて、紅薔薇騎士団にも少し前方で待機してもらう事になった。
「中央部隊突撃!!」
ミシオの号令で土犀騎士団を中心とした部隊が敵の大群とぶつかっていく。
「敵の勢いは弱まっています。また、灰狼騎士団の機体は見当たりません」
「ミアン、ありがとう。頑張って」
中央部隊と共に戦っているミアンから連絡が来る。左翼右翼の戦いでも灰狼騎士団の姿は見えず、まだ温存しているか、防衛に専念させているかだ。
そして戦闘が開始して数分後、異変が起こった。
「マスター、上空から高エネルギー反応です」
「右翼、何か空から降って来るわ、ヤバい感じ」
イルナと同時に右翼のワイムからも連絡が来る。アイリーも空に複数の赤い玉のようなものが飛んで来るのが見えた。それは戦闘中の右翼の部隊の上に降り注ぐ。玉が地面に着いた瞬間、周囲に赤い閃光が広がった。
「あれ多分魔法の特殊技能よ。かなり威力が高いと思うわ」
「ワイム、大丈夫?被害は?」
セリュツの連絡を受けアイリーは右翼の状況を確認する。しかし、しばらく待ってもワイムからの返答は無い。右翼付近は赤い煙が立ち込め、状況が把握出来ない。
「リムちゃん、右翼から中央にかけて上空に防壁を。レンちゃん達は大元を探して叩いて!」
「分かりましたわ」
「了解です!」
アイリーは右翼側の危険を感じ、追撃を警戒した。
「マスター第2波来ます」
再び空に赤い玉が見える。しかし、今度はリムールがルルトで空に防壁を張り、玉は防壁に当たり破裂した。
「アイリー君、僕は何とか無事だ。すまない、ワイム君は僕を助ける為に身を挺して。部隊は敵味方共に酷い有様だ」
「分かりました。残っている機体と共に撤退して下さい」
ようやくタクセリから連絡が来て、アイリーはワイムの事で動揺しないように心を固くし、答える。
「中央部隊は右翼側をフォロー出来る?」
「団長、すみません、ちょっとそれどころじゃないです。固くてデカいのが現れて」
ミアンの反応で中央を見ると、確かに巨人のようにデカい巨鎧が暴れて周りの巨鎧を吹き飛ばしているのが見えた。普通の巨鎧の2倍はあるので高さ15メートル位か。こんなものも隠していたのだとアイリーは驚く。
「エル、中央のデカいの任せられる?どれだけ撃ってもいいから」
「分かった、あいつは何とかする」
中央の大型巨鎧はエルータと射撃部隊に任せる事にする。しかし、そうなると右翼側が危ない。
「アイさん、大元と思われる特殊型の周りに灰狼騎士団がいて攻撃出来ないです。シン様は頑張ってますが」
「分かった、直接戦闘は出来るだけ避けて。援軍を送るからそこでチャンスをうかがって」
「分かりました」
リムールに指示を出して次の手を打つ。
「メレル姫様」
「ようやく出番ね。大体状況は分かってます。どこを狙えば?」
「右翼の銀牙騎士団が壊滅し、その奥の元凶の特殊型を灰狼騎士団が守っています。遊撃部隊と協力してそれを排除して下さい」
「了解!
紅薔薇騎士団、全軍突撃!!」
姫騎士メレルの叫びが聞こえ、アイリーが立っている機動馬車の横を紅色の旋風が駆け抜けていく。あれこそが王国最強の紅薔薇騎士団の姿なのだろう。
「……左翼、マズイ。あれは防げない」
「マスター、左翼に大型の機獣を確認しました」
「え、何?」
エトアとイルナから告げられ、次々と起こる事象にアイリーも頭が混乱してくる。イルナの望遠で確認すると左翼の敵軍の背後から敵軍もろとも突き刺し破壊する、大量のトゲを前面に付けた巨大な虫のような機獣が突進していた。それは猛スピードで左翼側を進み、もうすぐ橙獅子騎士団の戦っている所に突入する。シリミン達は戦闘中でリムールは既に防壁を使ってしまった。エルータも巨鎧の相手をしている所だ。
「セツさん、左翼の大型機獣を止められない?」
「全力で数十秒なら」
「分かった、全力でお願い。
イルナ、行こう」
「マスター、指揮は?」
「そんな事言ってる場合じゃない。
ケミツ、国王様をお願い」
「了解しました、任せて下さい」
黒騎士は怖いがケミツの神官型の巨鎧コスオなら硬化で時間は稼げる筈。アイリーは左翼の大型機獣まで全速力で走った。幸いだったのは敵兵も大型機獣を見て逃げ出している事だった。恐らく敵兵にもこの事は聞かされていなかったのだろう。邪魔されずにアイリーは左翼の部隊に合流する。
「エトア、ゲオードさん、テオムさん、援護をお願い」
「……任せて」
「任せろ!」
「みんなやるぞ!!」
呼びかけた3人以外にも大型機獣の前に橙獅子騎士団の面々が集まってくる。
「限界よ、動き出すわ」
セリュツから機獣の動きがもう止められないと連絡が来る。
「ここは俺達に任せて、アイリーさん達はコアを」
ゲオードの巨鎧を中心に他の数十機の巨鎧達が大型機獣を取り囲む。大型機獣は体中にトゲがあり巨鎧では近付く事が出来ない。が、ゲオード達は自分達が傷付く事を恐れずトゲに刺さりながら周りから取り付き、その動きを止めてくれた。
「イルナ、コアは?」
「頭の後ろです」
「エトア、頭部の装甲を削って」
「了解」
エトアが自分の巨鎧、オースリで斧を投げる。斧は頭部に当たると弾き飛ぶが、ブーメランのように再び頭部に戻り何回も攻撃する。オースリの特殊技能は本領を発揮した。やがて装甲が破壊されていく。
「行くよ!!」
アイリーは大剣を出して跳躍する。そして大型機獣の装甲が剥がれた部分目掛けて大剣を突き刺した。コアが破壊され、大型機獣はしばらく暴れたが、やがて動きを止める。
「マスター、大型機獣の動作の停止を確認しました」
「こっちももうすぐ何とかなる」
エルータから連絡が来て、中央の方を見る。大型の巨鎧は足元をオクシオの土の精霊力で陥没させられ、動きを封じられたところをエルータ達の射撃型の砲撃で破壊されつつあった。
「これでトドメです」
最後にミアンがムルージュの特殊技能のエネルギー弾で巨鎧のコアを貫いて、仕留めたのだった。
「イルナ、戻ろう」
問題の黒騎士の部隊がまだ出てこない。ひとまず左翼と中央は持ち返したが、まだどうなるか分からない。
「アイさん、やっぱり紅薔薇騎士団は凄いです。灰狼騎士団を圧倒しています!」
レイネンから興奮気味の連絡が届く。
「特殊型倒した。防壁解いて大丈夫」
「ありがとうシンちゃん。リムちゃん達は中央の被害の回復を」
「分かりましたわ」
リムールは防壁を解いて援護部隊を援護に向かわせる。アイリーは指示を出しつつ機動馬車の上まで戻って紅薔薇騎士団と灰狼騎士団の戦いを見守った。
「凄い連携ですね。とても訓練で出来る動きには見えません」
「あれがメレル姫様の巨鎧、モートと他の12機の特殊型の特殊技能、完全同期なんだって。姫様は12機の視点が全て見えて、それを同時に把握して動かしているって」
アイリーにはどういう感覚か見当も付かない。セリュツが3機同時に敵の巨鎧を操るのも十分凄いが、それが13機分だと考えれば途轍も無いものだとは理解出来る。他の紅薔薇騎士団の巨鎧の働きもあり、灰狼騎士団の巨鎧はどんどん減っていった。この能力が使えていれば黒騎士にも後れを取らなかっただろう。そうアイリーが考えた時だった。
「マスター、転移反応です。方向は後衛の自陣の方です」
「分かった。ケミツ、黒騎士が来る。王様を守って!」
「了解、硬化して死守します」
ケミツとその巨鎧コスオがいれば国王がすぐに倒される事は無いだろう。
「メレル様、黒騎士です。申し訳ないですが、前線の指揮をお願いします」
「分かったわ、こっちは何とかなる」
アイリーはイルナを猛スピードで走らせる。もう少しで辿り着く所で黒い巨鎧の集団が転移して現れた。
「え?」
そしてアイリーはその目を疑った。国王の巨鎧、オーディムを守っていた蒼刃騎士団の巨鎧数機が反転し、オーディムの前にいるケミツの巨鎧コスオに抱き付き、抑え込んだからだ。
「何をする、お前達」
ケミツはコスオで暴れるが振り払えない。それに気付いて他の蒼刃騎士団の巨鎧がオーディムを守ろうと近付くが、その前に黒騎士の巨鎧チグレスが動いた。
『その首、貰った!』
チグレスの漆黒の大剣がオーディムの胸へと迫る。が、その剣はオーディムに届かず、上に跳ね上げられた。
「国王、動きが鈍ってますな」
「すまないな、ストラド。最近戦場に出て無くてな」
オーディムの前には青騎士ストラドのセイロウが立っていた。アイリーすら気付かぬ速さで移動してきたのだ。
「自分もいます。国王様は後ろへ」
ユシエと巫女ルルンの巨鎧ヨークンも現れる。
「この数だ、そうは言っておれんだろう。自分の身ぐらいは守れる」
護衛の巨鎧の隙間を抜けてきた黒い巨鎧を国王エドルガは巨鎧オーディムの長剣で切り裂いた。ユシエもヨークンの鉄の棒で敵を近付けさせない。
『青騎士か。もう引退したのではないのか?』
「後継は見つけたが、もう少しだけ役目を果たそうとね」
片腕の巨鎧セイロウは次々と剣を繰り出し黒騎士のチグレスを圧倒するかに見えた。が、チグレスが受けた傷跡は塞がっていき、徐々に青騎士の動きについていくように見える。アイリーは近くの黒い巨鎧を大剣で排除しつつ、戦う2機に近付く。
「ストラド様、ありがとうございます。あとは私が」
「そういう話だったな、任せたぞ、アイリー君」
アイリーはイルナで青騎士と黒騎士の間に割って入った。
『来たか、白騎士。今度こそ終わらせるぞ』
「見て分からないの?もう、帝国軍の作戦は失敗に終わってますよ」
コスオを抑えていた裏切り者の巨鎧は倒され、他の黒い巨鎧も蒼刃騎士団の巨鎧に押されているのが目に見えて分かる。
『帝国皇帝にとってはどうせゲームみたいなものだ。失敗しようが悔しいだけだろう。俺はもうそんなことはどうでもいい。お前を倒せば俺の勝ちだ』
「分かりました。私があなたを倒します。他の者は手を出さないで」
アイリーは黒騎士のチグレスとにらみ合う。問題は相手の特殊技能の再生能力だ。能力に限界が無いとは考えられない。時間による制限なのか、再生回数に限界があるのか。アイリーは覚悟を決めた。
「イルナ、能力の解放を」
「時間内に終わらせないとこちらが危険です。それでもやりますか?」
「うん、そうじゃないと追い詰められた相手は倒せない」
「分かりました」
イルナは能力を解放し、剣を光の剣に変える。
『そう来なくてはな。こちらから行くぞ』
黒騎士の大剣が物凄い勢いで振り下ろされる。相手の気迫が本気である事を感じさせる。それでもアイリーは負ける訳にはいかない。
「はああっ!」
ギリギリの姿勢で避け、アイリーは光剣を横に振る。が、黒騎士はそれを避けずに突っ込んできた。再生を信じ、斬られてでも攻撃を当てる覚悟なのだ。アイリーはそこまでは予測出来ず、イルナの左肩が吹き飛ばされる。
「気にせず戦って下さい」
「うん!」
イルナの言葉が力になる。アイリーは再生中の相手の傷跡を狙って攻撃を繰り出す。さすがに黒騎士も同じところを連続で喰らうのは不味いと思い一歩飛び退く。アイリーは追撃して黒騎士のチグレスの頭部を吹き飛ばした。
『このおおおお!!!』
鬼気迫る勢いで黒騎士の反撃が飛んでくる。アイリーはそれを剣で受けるが、黒騎士は大剣が光剣で二つに割れるのをそのままに突き進んでくる。割れて半分無くなった大剣のままイルナの胸に斬り付け、イルナの装甲に大きく傷が付いた。
(やっぱり強い!)
アイリーはその執念に圧されていた。アイリーも勝利を喜ぶ事はあったが、ここまで勝利に固執した事は無い。むしろ自分自身の勝利より味方の無事の方が嬉しかった。そして思い出す。今、この瞬間に戦っているだろう仲間達の事を。そして一緒に戦っているイルナの事を。
(私も負けられない!!)
再び斬り込んで来た黒騎士の大剣を横に避け、チグレスの胸を斬り付ける。最初の傷跡は大分回復し、頭部も出来上がり、剣も再び長さを取り戻してきている。やはり連続して同じ個所を破壊しないといけない。
「はあああああっ!!!」
アイリーは跳躍し、上からチグレスを斬り付けようとする。しかし、直前にチグレスは横に避け、アイリーの背後に回った。
「マスター、後ろです」
「うん!」
黒騎士が剣を振り下ろす前にアイリーは回転して剣を振るった。振り下ろされる剣で再びイルナの胸の装甲に傷が付くが、それより大きくチグレスの前面装甲を破壊した。乗っている黒騎士がよく見える。
『まだだ、まだこれからだ!』
黒騎士が激昂して怒涛の連撃を撃ってくる。アイリーは冷静にそれを受け、避け、耐えた。そしてアイリーの反撃も黒騎士は避け、受け、再生し何とか持ちこたえる。
2機は一進一退を繰り返した。後衛部隊の周囲は王国側の勝利で戦闘が終わり、遠くから二人の戦いを見守っている。
「はあっ!」
アイリーは再び黒騎士の攻撃を避け、再生しつつあった胸の装甲を吹き飛ばした。
(再生しない?)
そうしてチグレスの装甲がもう再生されない事に気付く。時間か回数か、どちらかの限界に達したのだろう。
「マスター、敵の再生が止まったようですが、こちらももうすぐ限界時間です」
「黒騎士、もうそちらの再生は無理なんでしょ?これ以上の戦いは無意味です。もう終わらせませんか?」
アイリーの目的は戦争の終結であって相手の命を奪う事ではない。それにアイリーも相手を騎士としては素晴らしい腕の持ち主だと認めていた。どんなに憎い仇であろうと、弱った相手を殺す事に意味は無い。
『まだだ、まだ負けてはいない』
そう言って再び黒騎士が剣を構えた時だった。
「我はストルイカ帝国皇帝、ウレイユ・ソダシスである。今回の戦い、我々の完敗だ。王国領から全軍撤退せよ!」
ウレイユの声が戦場に鳴り響いた。戦争が終わった瞬間であった。
「マスター、時間です、能力が低下します」
アイリーは身体が重くなるのを感じる。
「戦いは終わりました。降伏して下さい」
『せめて、お前の命だけは貰う!』
しかし黒騎士は再びアイリーに迫ってきた。見ていた周囲の人達は即座には動けない。
「マスター!」
アイリーは死を覚悟した。
(でも、約束したんだ!)
どう動いたかは自分でもよく覚えていない。ただ、身体を捻り、迫ってきた黒騎士のチグレスの方へ拳を打っていた。チグレスの大剣はギリギリイルナの前面装甲を弾き飛ばし、アイリーの目の間を通り過ぎていった。イルナの拳はチグレスのコクピットに入り込み、黒騎士を繋いでいた操縦系装置を黒騎士ごと殴り飛ばしていた。
「マスター!!」
「大丈夫、無事だよ」
アイリーは目の前に装甲の無くなったチグレスのコクピットがあり、イルナの拳で吹き飛ばされた黒騎士が倒れているのが見えた。
「生きてる?」
アイリーはイルナのケーブルを外して、チグレスのコクピットへと飛び移る。黒騎士の着ていた大きな甲冑の上半身は所々に飛び散っていた。これではさすがに死んでいるだろう。そう思った時、コクピットの隅で動く何かがいる事に気付く。
「え!?」
アイリーは驚いた。そこには褐色の肌に黒い長髪の下着姿の少女が倒れていたからだ。シリミン程小さくは無いが、レイネンと同じ位には小さく見える。
「うっ……。お、お前、見たな?」
少女が意識を取り戻して起き上がり、アイリーを見つめる。茶色の大きな瞳が可愛かった。声も甲冑を着ていた時の不気味さは無くなり、とても可愛らしい。
「もしかしてあなたが黒騎士?」
「出てけ!!お前だけは絶対に殺す!」
少女が甲冑の破片などをこちらに投げてきたのでアイリーは急いでイルナのコクピットに戻る。まさか2メートルを超える甲冑の中にあんな小さな少女が入っていたとは。
「覚えておけ、お前はこの俺、黒騎士タージルが絶対に殺すからな」
「お前じゃなくて、私の名前はアイリー。ねえタージルちゃん、もう戦わなくてもいいんじゃないかな?」
「うるさい!!」
タージルがコクピットの中で何かを操作すると以前のように魔法でチグレスごと消えてしまった。アイリーは戦争が終わった事より、今の少女、タージルの事が気になっていた。




