11.告白
ガダルザン砦を奪還した翌日、アイリー達は部隊の大半を砦に移し、王都奪還の準備をしていた。砦の修復はカリス達碧鋼騎士団の部隊に任せられるが、他の町の防衛も考えつつ、王都奪還を計画する必要がある。昼過ぎになった時、1台の豪華な意匠の機動馬車がガダルザン砦に到着した。メロガダン王家の機動馬車だろう。アイリーが知らせを聞いて砦の入り口まで下りて行くと、ちょうど機動馬車から乗っていた人物が降りてきた。
「巫女ルルン様?」
「ご無沙汰しております、アイリー様。国王様の御命令の下、参上致しました」
その姿は間違いなく巫女のルルンだった。国に仕える重要人物がこんなところまで、西の町から北の山岳方面を回ってやって来た事に驚きを隠せない。
「なぜわざわざこんなところまで?」
「そのお話は中で致しましょう。すみません、わたくしも長旅は初めてでしたので、少し疲れてしまいました」
「あ、気が回らずにすみません」
「いえ、そういう意味では。ただ、急いでいる事は確かなので、どこか誰にも聞かれない部屋があれば、そこに案内して貰えないでしょうか」
「分かりました」
アイリーは作戦会議室として使っている部屋へルルンを案内する。魔法で盗聴などの機械や魔法が仕掛けられていない事は調べてあり、左右の部屋や通路へも声が漏れない事も確認している。部屋に入ると先ほどまで王都奪還作戦の話をしていた白嵐騎士団の面々とゲオードとテオムが既に座っていた。
「巫女様!?どうしてこんなところへ?」
リムールもアイリーと似た反応を返す。
「ご無沙汰ね、リムール、レイネン。他の方々もご無沙汰しております。この度は数々の町と村の奪還、並びにガダルザン砦の奪還お疲れ様でした。国王陛下に代わり、わたくしからお礼を申し上げます」
「頭を上げて下さい、ルルン様。まずは座って頂き、話を聞かせて頂けないでしょうか」
「そうですね、では失礼致します」
ルルンはゆっくりと席に座る。改めて見るとルルンはやはり美人だなあ、とアイリーは感じた。長く美しい薄紫色の髪に透き通るような白い肌、ほっそりとした身体は庇護欲を感じさせる。と、ルルンに付いてきた女性の騎士がルルンの横に立ったままなのが気になった。
「あなたもどうぞ、座って下さい。ルルン様の護衛の方ですよね?」
「自分は若輩者の為、立ったままで十分です。邪魔でしたら退出致します」
女性の騎士はやや裏返った声で答える。緊張しているようだ。よく見るとアイリー達と歳はさほど変わらない少女だと気付く。
「ごめんなさい、ユシエはあまり大勢の前に出る事が無くて。ユシエ、皆さんにご挨拶を」
「は、はい。自分はユシエ・コートと申します。大巫女様の護衛を任されている一人であります」
ユシエと名乗った少女は声を震わせながら自己紹介をし、頭を深く下げる。
「ユシエさん、リラックスして下さい。ルルン様が信頼しているのでしたら、この場に居て頂いて問題無いので、座って下さい」
「で、ですが……」
「ユシエ、こういう時は断るのも失礼ですよ。皆さんのご厚意に甘えましょう」
「分かりました。それでは失礼致します」
急いで座ろうとして鎧を椅子にぶつけたりしつつも、何とかユシエは席に着いた。
「グスト様からの密書は読んでいますよね。という事は、ここに居る方々は皆信頼出来るという事ですね?」
「はい、私が自信を持ってそう呼べる仲間達です」
ルルンの最終確認にアイリーは堂々と答える。
「そうですか、では、わたくしがここに来た理由をお話し致しますね。一つはある物をここまで運んでくる為です。ユシエ、お願い」
「はい」
ユシエは持ってきた鞄をテーブルの上に置く。その口を開くと、中から箱が出てきて、更に箱のフタを開く。出てきたのは高さ20センチほどの謎の機械だった。
「これは王家の宝物の一つで、王家に関係する者以外持ち出しが出来ません。わたくしは一応王家に仕える巫女としてその資格があり、その役目を引き受けました」
「それで、この機械は何の装置なんだ?」
エルータが興味津々にルルンに尋ねる。
「これは映像の映る相互通信装置です。もう一つある同じ形の装置と連絡が取れ、お互いの様子を見る事が出来ます。魔法や他の機械に傍受や妨害がされず、距離も今のところどれだけ離れても使える為、貴重な品として王家が保管していました」
「そりゃ、さすがに凄いな。王家の宝物はこういう品が色々あるのか」
エルータは嬉しそうだ。
「これでもう片方の装置を西の町で起動すれば話し合いが出来る、という事ですね。では、他にルルン様がやって来た理由は何でしょう?」
「そうですね、その話は装置を繋いでから話した方が分かり易いと思います」
アイリーの問いにルルンはそう答え、装置に指を触れる。すると装置が動き出した。ユシエがテーブルの端の方に装置を移動させる。装置から光が放たれ、テーブルの中央に何かが現れ始めた。
「もう一つの装置も起動したようですね。これで繋がる筈です」
現れたのはテーブルの周りに人が座っている様子だった。会議室のテーブルの上に半透明で作られた小さなテーブルが現れ、その周りに5人の人が座っている。アイリーが目を凝らすと、それは国王エドルガと姫騎士メレル、紅薔薇騎士団のチーナに軍師グスト、それと喋った事は無いが、パーティで顔を見た第1王子のゴーマ・メロガダンだと分かった。
「繋がったようですね、聞こえてますか?」
テーブルの上に作られた映像の中のグストが口を動かし、実際に装置から声が聞こえた。
「はい、聞こえています。こちらの声は聞こえていますでしょうか?」
「大丈夫です。ルルンさん、装置の輸送ありがとうございます」
グストとルルンで双方向で声が聞こえている事を確認する。という事は、今のアイリー達の様子も向こうに同じように見えているのだろう。
「普通に喋ればいいんだな。今集まっている皆の活躍は伝え聞いている。多くの人々を救ってくれた事、本当に感謝している。装置が繋がったという事は、ガダルザン砦の奪還も成功したという事かな?」
「ご無沙汰しております、国王陛下。ガダルザン砦の奪還はお察しの通り成功いたしました。ただ、ガダルザン砦の奪還に関しましては私達ではなく、カリスさん率いる碧鋼騎士団の手柄です。カリスさんも呼んできた方がいいでしょうか?」
「カリスには別途礼を述べるのでそこまでしなくてよい。それより、今後の話をしたい。知っていると思うが、王都はいまだ帝国に奪われたままだ。そなた達白嵐騎士団率いる部隊が次々と町や村を解放していると聞いている。そこで、そなた達に王都奪還をやって貰いたいと考えておる」
国王エドルガが直々にアイリー達に王都奪還を要請した。勿論アイリー達もそのつもりで作戦会議をしており、想いは一緒である。
「はい、そのつもりで動いておりました。ただ、やはり王都は王城もあり、他の町や村の奪還とは大きく異なります。ですので、作戦会議を行っている所でした」
「そうだな。だからこそ巫女ルルンをそちらに向かわせたのだ。あとはグストの方から説明がある」
「はい、お任せください。アイリーさん、密書の内容を読んで、それに沿ってその会議をしているという事でいいんですね?」
「はい、ここに居る人達は信頼出来る仲間で、この部屋に仕掛け等はありません」
グストの言う意味が裏切り者がいないかどうかの確認だと分かるので、アイリーは問題無い事を答える。
「分かりました。この話は王家のごく一部の者しか知り得ない情報です。今回、王都奪還という緊急時の為、僕も知る事が出来ました。それは、王都から離れた場所に王城へと通じる、秘密の通路があるという情報です。その場所、通路を開く為の方法は更に限られた者しか知りません。ですので、それを知っているルルンさんにそちらに向かってもらったのです」
「はい、わたくしは巫女になる時にその情報を継承致しました。ですので、その道案内にわたくしがここへ参ったのです」
「その通路は巨鎧がギリギリ通れる道らしく、内部から王城を攻める事が出来ます。白嵐騎士団の精鋭部隊が内側から攻め、同時にガダルザン砦と西側から王都の外側を攻める。内部の制圧が完了すれば、町への被害は最小限に、王都の奪還が出来る、というのが今回の作戦です」
「王城についてはどれだけ破壊しても構わん。城など後で直せばいい。しかし、町の人々はそうはいかない。なので、王城で好きに暴れ、帝国軍を討ち滅ぼしてくれ」
エドルガが豪快に言う。巨鎧が通れるなら確かに王城に居る帝国兵を攻撃するのは容易になる。
「一つだけ気になる情報があります。帝国の皇帝であるウレイユも王城にいる可能性が高いという話です。もしそうなら皇帝を討てばもっと簡単に終わる可能性があります」
「その情報は、もしかして情報ギルドから流れて来たんじゃないですか?」
グストの話を聞き、アイリーは気になったので聞いてみる。
「そうです。どうもアイリーさんは情報ギルドに気に入られているようですね。真偽不明の情報も多いですが、以前より確度の高い情報が得られるようになりました。特に白嵐騎士団の活躍はこちらにかなりの早さで届いていました」
「私達が町や村の奪還がうまく行ったのは情報ギルドの協力もあります。彼らは正しくは無いですが、現在の帝国に対する不満は本当だと思います」
アイリーは情報ギルドのソンクに終わったらお酒を奢らないといけないなと思い出した。そこからはお互いの現状や戦力、敵の動きなどの話をし、王都奪還計画を話し合う事になった。やはり簡単に済む話ではなく、国王や第1王子は途中で退席し、アイリー達も頭を使うメンバー以外は休憩を入れたりした。
王都奪還作戦は会議を始めてから半日ほど経ってようやく形が見えてきたのだった。今までは知恵を出す事があまりなかったアイリーだったが、村や町の奪還作戦を行い、実際に帝国の動きなども理解してきたので、今回は積極的に意見を述べるようになっていた。
「王都奪還作戦は時間を合わせて実行する事は分かりました。でも、内通者がいると失敗する可能性が高くなりませんか?」
アイリーは気になっていた事を確認してみる。
「確かにそうです。既に帝国の内通者を数名発見し処分しました。ですが、未だ潜んでいる可能性は高いです。ですので、今回はそれを逆手に取ります。アイリーさん達潜入組は北側からの突入部隊として情報を流し、あえて敵に襲わせます。また、あらかじめ西と東から大軍で王都へ攻めてくる事を匂わせ、城の外部に部隊を展開させます。城への秘密の通路の事は作戦実行まで絶対にバレないようになる筈です」
「分かりました。つまり、潜入部隊が迅速に作戦を実行出来なかった場合、周囲の戦いが不利になる、って事ですね」
「そうです。王都奪還を数で実行しようとすれば王都や市民に被害が出ます。それは僕も望んでいません。なるべく被害を少なく、スマートに奪い返すにはアイリーさん達の迅速な行動が鍵となります」
グストの言葉にアイリーはいつにも増して責任重大だと感じる。でも嫌では無かった。自分の動きでどうにか出来るなら以前の撤退のような悔しさは無くなるからだ。
「ですが、この人数で本当に行けますの?レンやシンさんの負荷がいつにも増して高い気がしますわ」
リムールは二人を心配して声を上げる。
「確かにそうですが、一応いくつか有用な情報は届いています。一つは帝国の正式な騎士団である灰狼騎士団が今は王都に居ない事を確認済みです。もう一つは黒騎士は今回の戦いに出て来ません」
「それはどうしてですか?」
「あの集団でのテレポートは魔力を大量に使うので、1度使うと4日は使えない、という事が今までの黒騎士の動きで分かっています。また、黒騎士の部隊はこの間の白嵐騎士団との戦いで数が減り、損害も大きく、帝都で立て直し中だという話も確認が取れています。王都にいる帝国の巨鎧は数は多いですが、突出した敵はいないという事です」
アイリーはグストからの情報が確かなら、行けそうな気がしてきた。
「それはまた情報ギルドからの情報ですか?」
レイネンが情報ギルドを疑ってか、質問する。
「ここに居る皆さんになら話していいでしょう。帝国だけではなく、こちらからも帝国領に内通者を置いています。今回の情報は情報ギルドと内通者、両者から同じ話が届いていたので、確証を得たという事です」
「へー、そこまでやってるのね」
セリュツは感心した。確かにそこまでの情報なら信じていいとアイリーも思う。
「前回王都を奪われたのは情報戦で負けた事が大きいです。なので、それを受けてその重要性を僕が説き、王国全体の情報網を強化しました」
グストは自慢気に言ってはいるが、何となく悔しさが感じられた。ソンクに情報ギルドで聞いた通り、グスト自体の私怨があるのだろう。
「今回は私達紅薔薇騎士団も全力で参加します。王都の外の事は我々に任せて下さい。ミアン、アイリーさん達をしっかりフォローするのですよ」
「勿論です。わたしは今は白嵐騎士団の一員ですが、紅薔薇騎士団の一員でもある事は忘れた事はありません。メレル様のお気持ちに応えられるよう、全力で対応致します」
姫騎士メレルの言葉にミアンは毅然とした態度で応えた。
「メレル様、チーナさん、ミアン達は本当によく働いてくれました。私自身何度も助けられています。こんな有能で貴重な方達を預けて頂いた事、本当に感謝しています」
「そう言ってくれると私も嬉しいわ」
「アイリー殿なら彼女らを使いこなしてくれると思いましたが、働きを聞いていると予想以上です。この戦争が終わるまで、思う存分使ってやって下さい」
「はい」
メレルとチーナの言葉はアイリーにも、当人であるミアン達にも嬉しいものだった。
「それでは明日の作戦、各自準備をよろしくお願いします」
「「はい!」」
メレルの言葉で会議は終わり、映像を映していた装置を止める。アイリーが準備の為に部屋を出ようとしたところ、後ろから声をかけられた。
「アイリー様、この後二人きりでお話ししたいのですが、宜しいでしょうか?」
「私ですか?構いませんが」
アイリーは部屋に残り、資料などが片付けられ、みんなが出ていくのを待った。最後に護衛であるユシエがお辞儀をして出て行き、アイリーは巫女ルルンと二人きりになった。
「それで、お話とは何でしょうか?」
「まずは改めて、色々とご苦労をおかけしたようで、ごめんなさい。そして、色んな方達を救って頂きありがとうございます」
ルルンは深々と頭を下げた。
「ルルン様、頭を上げて下さい!ルルン様が謝る事なんて何も無いです。私は全部自分の考えで動いて、戦争に参加したんですから」
「ありがとう、アイリー様。でも、あなたの行いで多くの人が喜んでいる事は覚えておいて下さい。確かに手を汚し、後ろめたい気持ちになった事があるかもしれません。ですが、それは誰かがやらなければならない事。それを進んで行えるあなたはとても立派だとわたくしは思います」
「ありがとうございます。ルルン様にそう言ってもらえるのはとても嬉しいです」
アイリーはルルンの言葉が本当にありがたかった。アイリーの心に棘が残っていたのは事実だったからだ。
「それでですね、わたくしが話したかったのはイルナの事です」
「イルナですか?イルナに何か問題でもあるのでしょうか?」
ルルンからイルナの名前が出てアイリーは正直驚いた。予言や戦争全体の話はしても、細かい巨鎧の話などにはルルンが関わった事が無いからだ。
「問題ではありません。その逆です。これは予言とは関係無いのですが、わたくしから見ても、イルナは他の巨鎧と異なっていると感じられます。言葉を話すから珍しいとか、特殊能力が優れているとか、そういった意味ではありません」
「どういう事でしょうか?」
「言葉で説明するのは難しいのですが、神の遣い、というのが分かり易いでしょうか。イルナはアイリー様に天から授けられた特別な力なのだとわたくしは感じています。国王様の巨鎧、オーディムや姫騎士様の巨鎧、モートのように巨鎧は最終的に相応しい乗り手の元へ納まる事が多いのです。アイリー様とイルナはそうした特別な因果で結ばれていて、天から授かったものだと思えるのです」
ルルンから天という言葉を聞いて、以前アイリーの危機に空から駆けつけてくれた事を思い出す。アイリーはルルンの言う事が何となく分かった気がした。
「そうですね。私もイルナは特別な存在だと思います。私がここまで来れたのはイルナが居たからです」
「それもそうですが、アイリー様有っての事だとわたくしは思いますよ。アイリー様のご友人達はアイリー様に惹かれて集まっていると感じます。それ自体はアイリー様自身の人徳です」
「頼りになる仲間が集まったのはそうですが、そこまで言われるとさすがに恥ずかしいです」
アイリーは少しだけ照れてしまう。
「これは予感ですが、わたくしはまたアイリー様が出てくる予言をするでしょう。それがアイリー様のお役に立つのなら、とても嬉しいです」
「ありがとうございます。私もルルン様のお役に立てる事が出来ればと思います」
アイリーとルルンは笑い合い、少しだけ互いの距離が縮まったとアイリーは思ったのだった。
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「アイとイルナは特別だってルルン様に言われちゃった」
翌日の作戦の準備も終わり、後は寝るだけになったので、アイリーはいつものように格納庫にいるイルナに会いに来ていた。何となくイルナと接近して話したいと思い、今日はコクピットではなく、イルナの頭部の横の肩の上辺りに座っている。
「それは巫女の予言ですか?」
「ううん、そうじゃないって。巫女は予言以外にも普通の人と少し感覚が違ってて、巫女だけが分かる事もあるんだって。アイはそう言われて嬉しかったな。イルナは?」
「そうですね。ワタシも嬉しいです。ワタシがこの地に降り立って、初めて出会ったのがマスターで良かったと思っているので」
「うん!」
アイリーはイルナの頭部に寄りかかる。勿論金属なので冷たいのだが、それが少し火照った身体に心地好かった。
「……あの時は来てくれてありがとうね。本当に死ぬとアイは思ったから」
「マスターは絶対に死なせません。今後どんな事があっても、どんな強敵が出て来ても、マスターの命だけは守ってみせます」
「嬉しいな。やっぱりイルナといると安心する。ねえ、アイも少しは強くなったよね?他の巨鎧を操ってたから前より動けてるよね?」
「そうですね、全体的に動きがよくなっています。ですが、それ以上に観察力、判断力、瞬発力が上がっています。戦場での経験がマスターの糧になっている事は確かです」
自分ではそこまで思っていなかったが、イルナが言っているならそうなのだろう。それが少しでもイルナの為になっていればいいな、とアイリーは思う。
「ねえイルナ」
「何でしょう、マスター」
「アイはイルナが好き。大好き」
「急にどうかしましたか、マスター」
イルナの言葉が少し困惑しているようにアイリーには思えた。それがなんだか可愛らしく感じてしまう。
「アイね、色んな人から好意を向けられて、思ったんだ。アイもちゃんと言葉にしないとって。もし離れ離れになったり、イルナが誰かに取られたら後悔するからって」
「ワタシはマスターと離れたりはしません。それにマスターがワタシの事を好きなのは以前から聞いています」
「違うの。前に言った言葉とは……」
アイリーはそこで少しだけ言いよどむ。シリミンからの告白やリムールからのキス、そしてエルータの想い。自分はそれを有耶無耶にして、自分の感情を優先している事に気付いたからだ。でも、後悔だけはしたくない。
「今アイが言っている好きって言葉は、恋人として好きっていう気持ち。特別な想いなの」
「そこまでにしましょう、マスター。以前に説明した通り、ワタシは機械です。人間と同じ人格があるように錯覚するかもしれませんが、それは戦闘を効率化する為の手段でしかありません。もしワタシにそういった好意を持たれてしまうと戦闘に支障が出ます」
アイリーはイルナがそう言うだろう事は何となく予想出来ていた。出来ていたが、実際に聞くと胸がとても苦しくなる。
「うん、分かってるよ。ただ、一回は言葉にしたかっただけ。だから、今日はここに居るの。イルナのコクピットに入ったら、アイも司令官に戻る。一人の騎士として戦う。でもね、今この瞬間だけは、イルナの事が好きな、一人の女の子でいさせて欲しい……」
「マスター……。
分かりました、今日、今、この瞬間だけは、ワタシはマスターの恋人でいいですよ」
「本当?!ありがとう、イルナ!!大好きだよ」
イルナの優しさが嬉しくてしょうがなかった。アイリーはイルナの頭部のマスクの部分にキスをする。イルナとは2度目のキスだな、と思い出した。その後、アイリーがイルナの頭部に抱き付いていると、コクピットからいつもアイリーを繋いでいるコードが伸びてきて、人の形のような姿を取った。その人型は背後からアイリーを優しく抱き締めてくれる。まるでイルナという人物が本当に存在し、抱いてくれている感覚だった。
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2台の機動馬車はガダルザン砦を出て、王都の北へ向かって移動していた。1台目はリムールの機動馬車で乗っているのはいつものアイリー、エルータ、リムール、レイネン、シリミン、セリュツとそれぞれの巨鎧だ。2台目はルルンが乗ってきた王家の機動馬車で、乗員は巫女ルルン、護衛のユシエ、白嵐騎士団のミアン、シーム、トトリ、ワイム、エトア、ケミツの8名だ。白嵐騎士団のメンバーの巨鎧の他にユシエの特殊型の巨鎧、ヨークンが積んである。この14名が王都への潜入部隊、並びに陽動部隊だった。
アイリー達6人は機動馬車の休憩室で会話をしており、今は自動運転で進んでいた。
「他の部隊は大丈夫かな?」
「姫騎士様のいる紅薔薇騎士団は問題無いですし、ゲオードさん達橙獅子騎士団も簡単にやられる事はありませんわ」
アイリーの不安を打ち消すようにリムールが答える。紅薔薇騎士団を中心とした部隊は王都の西から、橙獅子騎士団を中心とした部隊は東から王都へ攻める準備をしている。東の部隊にはアイリー達が解放した町や村から志願して兵士になった人も含まれている。ほぼ初陣の人が多く、本来は自分が一緒に戦いたかったとアイリーは思っていた。
「それより本当に敵に気付かれずに王城まで侵入出来るのかな。外に出たら巨鎧に囲まれていた、なんてのは嫌だよ」
「そこはルルン様を信じていいかと。大昔に作られた通路を巨鎧のレーダーに映らないように加工したのは確からしいですから」
エルータの不安をレイネンがルルンを庇うように答える。今回の作戦は秘密の通路が使える事が大前提で、それが壊れていたりした場合は作戦は中止になる。信じなければ始まらない話だ。
「あとは黒騎士の件もね。毎回しつこい位に現れるし、もしもの事は考えておいた方がいいわよ」
「そこは大丈夫です。私はもう負ける気はしませんから」
アイリーは自信を持ってセリュツに答える。ここまで白嵐騎士団のみんなが生き残る事が出来たのだ、最後まで全員生き残った状態で終わらせたい。
「ボクも頑張る。スーライもザーレも満タンだから、凄い暴れられる」
「わたしも重要な役目を頂いたので、全力で当たらせて頂きます」
「シンちゃんもレンちゃんも危なくなったら無理しないでね。本当はもっと人を割きたいんだけど、能力的に二人に付いて行ける巨鎧は無いみたいで」
通路を抜けた後は6人を4つに分ける計画になっている。シリミンとレイネンは単独行動でやってもらう為、その危険は特に高い。人を増やせば隠密性が減り、敵に早期に発見されるリスクがあり、結局この人数になったのだった。
「あたしとアイで早々に決めれば問題無いんだろ。やってやろうぜ、アイ」
「うん、そうだね」
「本当はわたくしもそちらに回りたいのですが、わたくしの役目も重要ですので、それを全うしてみせますわ」
「自分もここまで来たらとことん付き合うわよ。城はどれだけ壊してもいいって言われてるしね」
みんなやる気を出している。アイリーはエルータと、リムールはセリュツと二人ずつで行動する事になっていた。まさかパーティーをやった王城に自分達で攻め入る事になるとはあの頃は思っていなかった。
「そろそろ危険地帯に入るので運転席に戻ります。皆さんも巨鎧に乗る準備をしておいて下さい」
「うん、頼むね、レンちゃん」
情報ギルドなどからの情報で、敵がこちらの動きを掴み、アイリー達白嵐騎士団を襲いに部隊を展開している事が分かっている。アイリー達はここで別れ、秘密の通路の入り口まで敵に気付かれずに行く必要があった。
アイリー達は巨鎧に乗り込み、出撃出来る準備をする。もう1台の機動馬車も同様だ。
「マスター、周囲に敵巨鎧の反応はありません。そろそろ部隊を分けた方が宜しいかと」
「ありがとう、イルナ。みんな、一旦機動馬車を止めて。ここで部隊を分けよう」
アイリーが通信装置で連絡を入れ、機動馬車が止まる。王都への潜入部隊はアイリー達6人に加え、入り口を知っている巫女のルルンとその護衛のユシエの8人になる。残りの6人は陽動部隊として敵を引き付けて戦い、潜入部隊に近付けさせない役目になる。リムールの機動馬車の鍵はケミツに預け、アイリー達は巨鎧とスーライに乗ったシリミンで通路の入口へと向かう。
「あとは我々に任せて下さい。時間が来たら巫女様を迎えに行きます」
「大変だと思うけど、頼みます」
アイリーは陽動部隊の指揮をミアンに任せ、出発する。白嵐騎士団を倒す為に作られた部隊がいる筈なので、敵の数は多いと思う。それでも、あの戦いを生き抜いたミアン達なら大丈夫だとアイリーは信じていた。
「わたくし達で道案内を致します。付いて来て下さい」
巫女ルルンが乗っているのは複座式の巨鎧、ヨークンだった。操縦は基本的に護衛のユシエが全部行い、ルルンは本当に乗っているだけである。邪教団の双子の複座式の巨鎧とは用途が異なるのだろう。日が沈み、辺りは暗くなっている。ヨークンが進む森の中は更に暗く、本当に正しく進んでいるのかはアイリーには分からない。
「マスター、機獣の反応です。中型が辺りを囲んでいます」
「ユシエさん、機獣が近付いています。下がって下さい」
「アイリー様、これ位の敵でしたら自分でも戦えます。ご安心を」
そう言われると無下にも出来ず、とりあえずアイリーはヨークンを見守りつつ、近付いてくる機獣をハルバードで斬り付ける。ヨークンの武器は長い鉄の棒のようなものだった。それは近付く機獣を脳天から叩き潰す。確かにアイリーから見てもその動きは十分速く、威力もあった。敵は中型のオーガだった為、さほど脅威ではなく、瞬く間にアイリー達によって排除されていった。
それから数十分ほど移動し、森の中に開けた広場が見つかる。中央には人工物とも自然物とも取れる、大きな長方形の石が置いてあった。
「ここが通路の入り口です。今、解除致します」
ルルンがヨークンを降り、石の方へ近付く。彼女が石の上に手を翳すと光の板のようなものがそこに現れる。法則があるのか分からないが、ルルンがその板に指を触れていくと板の色が変わり続け、やがて弾けて消えた。すると“ゴゴゴゴゴゴッ”と周囲から音が聞こえてくる。石が後方に下がっていき、その下の地面が左右に割れた。そこには幅6メートルほどの階段が地下へと延びていた。
「皆さん、行きましょう」
再びルルンはヨークンに乗り、先導して階段を降りて行く。アイリー達もそれに続いた。階段の下は人工物の通路のようで、幅も高さも7メートルほどでギリギリ巨鎧が1体通れる広さだ。等間隔に機械の明りが灯り、床は金属、周りは石のようなもので出来ていた。アイリー達が全員地下通路に降りると自動で入ってきた入り口が閉まる。
「王城の下まで通路は続いています。急ぎましょう」
ルルンを乗せたヨークンが速度を上げ、アイリー達もそれに合わせて速度を上げて付いて行く。時刻は深夜0時を回り、あと1時間ほどで西と東の部隊の攻撃が始る。それまでにアイリー達は城の真下まで移動している必要がある。
途中で通路が破壊されている場所なども特に無く、移動は順調だった。外で何かあればルルンが持ってきた装置にグストから連絡が来る筈なので、外も今のところ問題無いと思われる。
「あそこが出口です」
そうして1時間経つ前にアイリー達は城の真下まで辿り着いた。
「ここを出ると敵のセンサーに反応します。外の攻撃が開始するまでしばらく待ちましょう」
ルルンはヨークンの外に出て、出口の扉を開く準備をして待っている。
「マスター。城の地図はワタシの中に入っています。指示通り動いていただければ計画は達成出来ます」
「ありがとう、イルナ。まだ何があるか分からないし、警戒は怠らず行こう」
アイリーはそう口にしつつも、心配ごとはあった。敵が暴走して城下町に火でも点けられたら大惨事である。そうなった場合、悪いのは帝国なのだが、引き起こした原因はアイリーになる。そして、その時はリムールの屋敷も被害を受ける可能性がある。リムールもレイネンも自分の家の心配をしている筈なのにあえてその事は一度も口にしていない。
「アイ、余計な心配してないか?今回の作戦は王様の命令で実施してる。何があろうとアイに責任は無いからな」
「うん、そうだよね。ありがとう、エル」
エルータの言葉で気持ちが切り替えられた。周りにいつものみんながいる。それだけで十分心強かった。
「それでは扉を解除します。皆さん、ご武運を」
「はい、行ってきます、ルルン様」
時間が来て、ルルンが入り口と同じような光の板を操作して扉の解除を行う。ルルンは身の安全の為、ユシエと通路の入り口に戻り、仲間が迎えに来るのを待つ手筈になっていた。そして扉が開く。
「先行して王都の扉を開放してきます」
「行ってくる、アイお姉ちゃん」
レイネンの透明化したロガンとスーライに乗ったシリミンが先頭で飛び出す。レイネンは王都の東側の、シリミンは王都の西側の扉を破壊してでも開放する役目を負っている。これが失敗すると内部への突入が難しくなり、アイリー達は王都の中で孤立する事になってしまう。
「では次はわたくし達が」
「しっかりやりなよ、アイちゃん」
リムールのルルトとセリュツのソシアが続いて出ていく。二人の役目は王城の格納庫にある敵巨鎧の封じ込めだ。ルルトの防壁で王城から城下町へ続く通路を塞ぎ、城下町への被害を減らす。防壁の外側などから抜け出そうとする巨鎧が出る事を想定し、ソシアがその巨鎧を操って防ぐ戦法だ。
「行こう、エル、イルナ」
「ああ」
「はい、マスター」
そしてアイリー達は本丸攻めを行う。以前アイリー達も行った事のある王宮の広間に女皇帝ウレイユがいる筈で、それを直接討とうという計画だ。階段を登るとそこは王城の地下にある武器庫になっていた。既に先行したレイネン達が倒しただろう見張りの巨鎧が倒れている。
「マスター、外に出て右です」
「うん」
アイリーはイルナの指示に従ってやや迷宮めいた城の中を進む。武器は通路の狭さを考慮してやや短めの剣にしており、牽制用に射撃武器も付けてもらっている。所々に見張りの巨鎧がおり、アイリーは見つけると速攻で斬り付けて倒していく。エルータもオクシオで的確な援護をしてくれ、敵が多い場所では土の精霊の力で地面に穴を空けて落としてくれた。
「もうすぐです。この先の部屋が広間です」
「こいつらを倒せば!」
広間の前の部屋には護衛機と思われる重武装の騎士型が2機立っている。
「イルナ、ハンマーを」
「はい」
「アイ、右はあたしがやる」
そうエルータは言いながらオクシオで水の精霊力を撃ち出す。高速の水流は敵の分厚い装甲を打ち抜き、中の搭乗者を貫いた。
「はあああああ!」
アイリーも力を込めて走り出す。敵の巨鎧もそれに合わせてこちらに向かって来る。全力を込めたハンマーを横に振るう。敵の巨鎧はそれに合わせて盾でそれを防ごうとした。
「甘い!」
アイリーは盾ごと敵を吹き飛ばした。重武装の巨鎧は城の壁に激突し、倒れる。アイリーはすかさず敵の頭上からハンマーを振り下ろし、とどめを刺した。
「行こう!」
「気を付けて下さい、扉の向こうには6機の巨鎧がいます」
「うん、でも止まれない」
アイリーは勢いを付けて広間の扉を開いた。瞬間、複数の槍がアイリーへと突き出される。アイリーはそれを後ろにジャンプして避け、着地する。すると“パチパチパチ”と巨鎧の後ろの方から拍手が聞こえてきた。
「お見事、さすが噂に名高い白嵐騎士団の団長殿だ」
アイリーはその声に聞き覚えがあった。ナイシの町で聞いた女性の声、ストルイカ帝国皇帝、ウレイユの声だ。
「皇帝ウレイユですね。その首、取らせて貰います」
アイリーは声を張り上げ、突入する準備をする。エルータが背後で精霊力を撃ち出す準備をしているのが分かる。
「折角の対面だ、少し話そうじゃないか。お前達、武器を降ろせ」
ウレイユの声に従って扉の前に居た巨鎧は扉から少し離れ、槍を立てた姿勢になる。
「どういうつもり?」
「私は以前から是非アイリーさんとお話ししたいと思っていてね。そちらが本気になれば私の首など簡単に取れるだろう?だったら少しくらい話をしてもいいんじゃないかな?」
罠か時間稼ぎかもしれない。それでも、アイリーは彼女がどんな事を言って来るのか興味があった。
「分かりました、5分間だけなら話をしてもいいです」
「マスター」
「アイ!」
「二人とも、大丈夫だから。その代わり、いつでも巨鎧に乗れる姿勢でいいですね?」
「それは構わないさ。もう少し近くへ来たらいい」
アイリーは罠に警戒しつつ広間の中へと入っていく。エルータのオクシオは広間の入り口で止まり、いつでも撃てるように武器を構えた姿勢で待つ。広間の奥、王国の玉座に女皇帝、ウレイユは座っていた。ゆったりとした紫色のドレスを着ていて、流れる銀髪が美しく、その顔はまさに美女と呼ぶのが相応しかった。彼女の横には寄り添うように金髪の女性が立っていた。彼女の顔は穏やかで、優しそうな印象を受ける。
アイリーはイルナの攻撃が皇帝に当たる位置まで近付き、イルナを搭乗姿勢にする。そしてコクピットを開き、その前に出されたイルナの手の上に立った。
「私がメロガダン王国白嵐騎士団団長、アイリー・クリアロンだ」
「お初にお目に掛かる。我はストルイカ帝国皇帝、ウレイユ・ソダシスである。うん、予想通りいい顔をしているな」
「初めまして。わたしはストルイカ帝国副官、ライム・ミアーズよ。よろしくお願いしますね」
ウレイユに続いて、隣にいた女性もライムと名乗った。彼女がこの戦争の総司令官をしている女性だと分かり、アイリーも驚きを隠せない。
「皇帝と総司令官がこんな見た目で驚きでもしたかな?まあ、これは我々の武器でもあるからな。アイリーさんは今でも十分魅力的だが、女性としてももっと磨きをかけるといいと思うぞ」
「わざわざそんな話をする為に時間を取ったのですか?」
「いや、違う。君も聞いていると思うが、ストルイカ帝国は個人の能力を重要視している。その点君はとても素晴らしい。もちろん君の活躍は巨鎧の能力でもあるのだが、それ以外に行動力、カリスマ性、話題性がある。うちの黒騎士も戦闘に関しては優秀なのだが、どうも庶民に人気が無くてね。だから、私は君が欲しい」
その言葉を聞いて、アイリーの心は動かされた。女性的な魅力があるのは確かだが、それ以上にウレイユの言葉には力があった。この若さで国を作っただけの事はあると感じる。
「そんな誘いに私が乗ると思ったのですか?」
「君が仲間を大事にしている事はよく分かっている。仲間も一緒に来れば、全員の身の安全は保障するよ。その家族もだ。何なら橙獅子騎士団も一緒に来てくれてもいいんだぞ」
その言葉を聞いてアイリーの気持ちは固まった。ウレイユの指導者としての能力は高い。でも、彼女は自分を人としては見ていない。あくまで道具なのだ。彼女は戦争で戦い、亡くなった人の事などはこれっぽっちも考えていないだろうと分かった。
「お断りします。いくらお金を積まれようが、どんなにいい待遇で迎えられようが、私があなたの味方になる事はありません」
「そうか。君もまだまだ若いな。でも、その考え方が羨ましい」
「だから言ったじゃないですか。勧誘で来るような人ではないと」
「だがな、こうして話せたのは十分収穫だよ」
まるで日常会話のようにウレイユとライムは会話をしている。それがアイリーには許せなかった。
「もういいですよね。では、失礼します」
アイリーはイルナに乗り込む。イルナはいつもより早く起動してくれた。周りの巨鎧がイルナに迫っている。が、オクシオが炎の精霊力でそれを吹き飛ばしてくれた。
「お命頂きます」
「話せて楽しかったよ。またどこかで会えるといいな」
ウレイユが微笑んで言う。そしてアイリーがハンマーを振り上げた刹那、目の前のウレイユとライムが消失した。玉座にはもう誰も無いない。
「幻像?」
「直前まで肉体反応を感知していました。瞬間転移か認識を狂わせる幻像かの判断は難しいです」
「とにかくここの敵を倒そう」
アイリーはハンマーを構えて向かってくる敵の巨鎧を破壊していった。
「東門開きました」
「西門も無理矢理開けた!」
広間の巨鎧を一通り破壊した頃にレイネンとシリミンから連絡が来る。
「ありがとう、二人は身の安全を優先しつつ町に敵が近付かないよう戦って。皇帝は逃げられて倒せなかった」
「アイさん、こっちが限界ですわ。思ったより巨鎧が多くて防壁を解除すると町に被害が出ますわ」
「自分だけじゃちょっと無理そう。こっちに来て貰える?」
「分かった、エル、行こう」
「ああ」
格納庫から出る巨鎧を抑えているリムール達が危なそうなのでアイリー達は急いでそちらへ向かう。
「これは……」
アイリー達が城の正面の広場に到着すると、ルルトとソシアが城の格納庫から出てきた巨鎧に対して奮闘していた。ルルトが張っている光の防壁の向こうの道には40機を超える巨鎧が犇めいている。内部にまだこれだけ巨鎧を残していたのは予想外だ。セリュツがソシアで巨鎧を操って同士討ちをしようとするが、複数の巨鎧に抑え込まれ、うまく機能していない。完全にソシアの動きを攻略されてしまったようだ。
「エル、どうにか出来そう?」
「さすがにこの数はキツイな。大地の力も残り少ないし」
となると後はイルナの能力を解放して暴れるかだ。それでも町への被害は少なくないだろう。
「マスター、複数の巨鎧が町の方からこちらに近付いています」
「増援?もう?」
西門も東門もシリミンとレイネンが戦っており、外でも各騎士団が戦っているので、外の帝国軍が王都にすぐに戻ってくる事は無いと思っていた。しかし、帝国軍が戻ってきたとなるとさすがにお手上げだ。
「リム、よく頑張ったな。アイリーさんも色々とありがとう」
「え?お父様!?」
背後から聞こえたその声はリムールの父、ストラド・シュワイアのものだった。やって来た巨鎧の部隊の先頭を見ると、確かに青い巨鎧、セイロウだと分かる。
「情報ギルドが色々と情報をくれてね、セイロウも攻め込まれる直前に隠せたんだ。他の巨鎧もみな必死にこの時の為に町の人が隠していたものだ」
セイロウを含め20機ほどの巨鎧がいるのが分かる。これだけいれば町に被害を出さずに戦える。
「ストラド様、ありがとうございます。イルナ、全力で行こう」
「はい、マスター」
「皆さん、防壁を解除しますわ」
リムールが防壁を解除する。アイリーはイルナで敵が犇めく中央へと突っ込んでいった。イルナが次々と敵を撃破し、ストラドのセイロウも鬼神の如き動きで巨鎧を排除する。戦力が増えたアイリー達にとって40機の巨鎧は敵ではなかった。
「王都の中の帝国の巨鎧は一掃しました。我々の勝利です!!」
「「「おおおおおおーーーーー!!!!!!」」」
アイリーの声を聞き、町中で歓声が上がった。ストラド達の協力で一気にアイリー達の優勢となり、王都奪還は無事に成功した。王都の外で戦っていた帝国軍も皇帝の命令なのか瞬く間に撤退し、外の王国軍の被害も少ないと情報が届いている。作戦は大成功であり、アイリー達は勝利の喜びを噛み締めるのだった。




