10.流星
「マスター、町の奪還お疲れ様でした。今回も無事に完了して良かったです」
アイリーがイルナに乗り込むと、早速労いの言葉をイルナからかけてもらえた。グープレ村の奪還から始まった町や村の奪還作戦だが、予想以上に順調に進んでいる。昨日は3つ目の町を無事解放し、2つ目に開放して現在拠点としているプラエムの町に戻ってきた所だ。順調な理由は潜入で奪還自体が成功している事だが、理由はもう一つあった。奪還した村や町が予想以上に協力的だった事だ。
最初、否定気味だったグープレ村の村長だが、村で話し合った結果はとても友好的な回答が貰えた。そうなった理由はストルイカ帝国の占領時の扱いが酷かった事と、家族や仲間を殺された人が多かった事だった。村の若者はストルイカ帝国への恨みを持ち、巨鎧という対抗する力をアイリー達から提供された事で、進んで村を守り、ストルイカ帝国と戦いたいと思うようになったのだ。復讐心で戦う事はアイリーとしてはあまり賛成したくはないが、今はそんな事も言っていられない。
2つ目、3つ目に奪還した町もほぼ同じような反応で、特にアイリー達が町にほぼ被害を与えずに奪還した事が評価され、進んで協力を申し出てくれた。今いるプラエムの町は若者も多く、町を守る兵士の他にアイリー達と共に奪還部隊に参加を志願する者も出て来た。巨鎧は帝国から奪っているので、希望者に対して巨鎧が少ないという事も今のところない。
「部隊の機体数って今どれ位?」
「搭乗者が決まっており、町の防衛専属で無い機体数ですと85機です。かなり順調な増加ですね」
「そうだね、そろそろナイシの町を奪還出来そうだね」
王都の北東方面の町や村を中心に開放しているが、王都奪還にはナイシの町、そしてガダルザン砦をもう一度取り戻す必要があるとアイリー達は考えていた。それ以外だと北の山岳方面から攻めるか、帝国領付近を通って南の町から攻める、または大きく迂回して西の町から攻めなければいけない。どれも労力が必要で、移動だけでも疲弊してしまう。それを考えれば帝国の補給路になっているナイシの町を奪還した方がいいという結論に至っていた。
「マスター、忠告させて下さい。そろそろ帝国側も次々と占領地が奪還されている事に関して対策を打ってくると考えられます。今までと同じ潜入作戦が通用しなくなる可能性も出てきます」
「一応潜入出来なかった場合でも、シンちゃんとリムちゃんが強行突破して、敵の巨鎧を奪う、って策もあるよ。援護部隊の数も増やしていけば通常の攻略作戦よりは被害が少なく奪還出来るって」
「その場合はマスターの危険度が上がります。ワタシを潜入用の機動馬車に積んで下さるなら、その作戦も安全性が増しますので考慮して下さい」
「イルナは心配症だなあ」
そう言いつつも、イルナが自分の身を案じてくれる事が嬉しかった。奪還作戦を始めてからイルナには作戦では乗っておらず、アイリーもこうして作戦外でイルナに乗る事で安心感を感じていた。だからといって、自分の身の安全の為だけに危険を冒してまでイルナを潜入用の機動馬車に乗せる事は出来ないと考えていた。
「マスターが傷付けられたり、捕らえられたり、万が一でも命を落とした場合、ワタシの存在理由が無くなってしまいます。これはワタシの我儘でもありますが、その事を覚えておいて欲しいのです」
「うん、アイがいつもイルナに守られているのは分かってるよ。でも、今のところ作戦は成功しているし、シンちゃんがアイを守ってくれてる。それに、何かあってもイルナが来てくれるんでしょ?」
「それは、そうですが。分かりました。ただし、本当に身の危険を感じたなら、ワタシを呼んで下さい」
「うん、それは約束するよ」
アイリーはいつまでもイルナの中に居たいが、次の作戦の準備もあり、そうも言っていられない。名残惜しみつつもイルナから降りるのだった。イルナは町の広場に置いてあり、周りでは巨鎧の整備に人々が奔走していた。今は昼過ぎなので外に出ると日差しが眩しい。
「アイ、三つほど知らせが届いてる。いい知らせと悪い知らせ。どっちから聞くか?」
イルナを降りてみんなの元へ向かっていると、エルータがやって来た。アイリーは少し悩んでから答える。
「じゃあ、悪い知らせから」
「分かった。王国からの正式な使者がさっき着いて、情報を持ってきたんだ。その一つが南の町で帝国と戦っていた銀牙騎士団が敗退し、南東の町が帝国に奪われたそうだ。これで南側の帝国領から王都までの町が全て帝国に奪われた事になる」
「銀牙騎士団って第2王子様が率いていた部隊だよね?王子様は大丈夫なの?あと、紅薔薇騎士団も南の町で戦ってた筈だけど」
「第2王子は脱出出来て無事だそうだ。あと、紅薔薇騎士団は王都の西側の攻防が激しくて、そっちの援軍に行っていたって。だから、その隙を突かれた形だと」
南側が帝国に占拠されたという事は、次に北東側にいる自分達の方へ反撃に来る可能性が高い。そうなると町の奪還が難しくなる。
「いい知らせの方は?」
「一つは同じく使者からの連絡で、こちらに増援部隊を送ってくれるそうだ。撤退に成功した碧鋼騎士団の一部を中心とした部隊だって。もう一つは北のナイツメの町が中立宣言を撤回して王国領に復帰する事を宣言してくれた。これである程度の補給路が確保出来るぞ」
「本当に?援軍も来て、補給も出来るなら、今が攻撃のチャンスだね。作戦会議をしよう。町長のモットさんにもお礼を言わないとだね」
「アイが宣言通りに村や町を奪還したからだろ。やっぱりその行動は十分周りに評価されてるって事だよ」
「そうなら嬉しいな」
まだまだ戦況は苦しいが、一般市民だった人達が協力姿勢を示してくれている。それがアイリーにとっては一番嬉しい事だった。
「アイ、次の奪還作戦は潜入部隊からアイを外した方が良くないか?」
「なんで?イルナと同じでアイの心配してる?」
「まあ、それもあるけど、アイは作戦の司令官なんだし、人も増えてアイ以外でも潜入は出来るだろ」
「でも、指示は潜入部隊の方から出した方が状況が分かり易いと思うよ。何かあった時も真っ先に対応出来るし」
アイリーはどうしても自分が潜入部隊をやりたいと考えていた。それは、他の人に危険な事をやらせている罪滅ぼしみたいな感覚なのかもしれないと思った。
「何かあったら困るから言ってるんだろ。まあ、シンもいるし、他の連中もいるからあたしもそこまでは心配していないけどさ。これまでがうまく行き過ぎてるから怖いんだよ」
「ありがとう。でも、イルナも守ってくれるって言ってるし、大丈夫。ナイシの町が奪還出来れば一応ここら辺での作戦は完了になるし、ここまではアイがやりたいと思ってる」
「分かった。でも、様子が変だったらすぐに作戦を変更するんだぞ」
エルータが心配してくれる事は凄く嬉しかった。前の告白の件は置いておいても、エルータは親友だし、その存在はとてもありがたい。
いつもの作戦会議のメンバーを町に借りた仮の司令部に集め、ナイシの町の奪還作戦の会議を行う。増援が来てからにしようという意見もあったが、南側が占領された以上、敵がナイシの町への増援を送る可能性も高く、急いだ方がいいという結論になった。以前の戦いの時のようにナイシに大部隊は残ってないが、それでも今まで奪還した3つの町や村に比べると敵の巨鎧の数は多く、こちらも部隊の戦力を増やす必要がある。今までの帝国の機動馬車2台の他に機動馬車2台分、巨鎧12機を追加の戦力として作戦に参加させる事に決定し、作成会議は終わった。
********
「ようやく戻ってきたんですね、この場所に」
「そうだね。今度こそ作戦を成功させよう」
ナイシの町へ向かう機動馬車の中、レイネンの言葉にアイリーは応える。前回も途中まではうまく行っていた。しかし、王都が落ちた為、ナイシの町奪還作戦は中断し、失敗になった。一緒に作戦に参加していた部隊はバラバラになり、撤退時に亡くなった人も多い。だから、みんなそれに報いたいという想いも強かった。
「大丈夫、アイお姉ちゃんはボクが守る」
「わたし達もいますからね、団長」
シリミンとミアンがアイリーを勇気付けてくれる。みんな踊り子の恰好ではあるが、表情は真剣だ。以前と同じくレイネン以外はアイリー、シリミン、ミアン、ワイム、エトアが踊り子の恰好で1台目の機動馬車に乗っている。運転席には橙獅子騎士団のゲオードとテオムがいる。今までの3回の奪還作戦はこれでうまくいった。だが、今回は規模も大きく、難易度も上がる。深夜に町に着くように調整して出発し、あと数十分で着くところだ。
「それでは、わたしはロガンで屋根に上がります」
「いつもありがとうね、レンちゃん。今回は町の中にも多くの巨鎧がいるかもしれないから、協力して頑張ろう」
「はい、ありがとうございます、アイさん」
レイネンは笑顔で休憩室を出ていく。今回は敵に手の内がバレて、町への潜入が出来ない可能性もある。そうなれば強行突破になり、レイネンとシリミンの負荷は更に増えるだろう。状況を見て素直に撤退する判断も必要だ。
「こっちは指定の位置まで進んだ。今のところ敵の反応は無い」
「後続の機動馬車は距離を置いて待っていてもらっていますわ。状況に合わせて移動させます」
「了解、よろしくね、エル、リムちゃん」
エルータとリムールからも連絡が来る。リムールには後続の部隊を含めた援護部隊の指揮官の役割をしてもらっている。一気に攻める場合はそのタイミングと、どこから攻めるかが重要になってくる。リムールならその判断も出来るとアイリーは信頼していた。
「東側の敵の反応出ました。外に8機の巨鎧が待機し、入り口には2機が立っています」
「ありがとう、やっぱりいつもより多い。敵が怪しい動きをしたら報告して」
「分かりました」
ナイシの町が近付き、レイネンから報告が届く。帝国の機動馬車なので、いきなり攻撃される事は無いだろう。しかし、こちらが偽物と分かれば8機の敵に囲まれる事になる。シリミンが同化して戦うにしても、逃げるのは難しい。アイリーは潜入が無事出来る事を祈る。
機動馬車は敵の巨鎧の間を通り、町へ向かって進む。そしてナイシの町の門の前で衛兵に止められた。
「止まれ、定期の補給では無いな。積み荷はなんだ?」
「はい、これはガダルザン砦への補給品で、武器や食料を積んどります。一泊休憩に町に寄らせて貰おうかと。これが依頼書です」
テオムがいつも通り偽の依頼書を渡す。
「書類に不備は無いな。念の為積み荷を見せて貰うぞ」
「はい、どうぞ」
帝国の兵士の指示で機動馬車の後ろの扉が開く。アイリー達はいつも通り格納庫に敷いた布の上に座っている。
「はーい」
ワイムが手を振るが、入ってきた二人の兵士はこちらをちらりと見ただけで気にせず、積み荷を回って見ていく。一通り見終わると何も言わずに出て行った。他の町より厳しいのか、それともこちらを疑っているのかアイリーには判断が付かない。扉が締められ、アイリー達に緊張感が漂う。
「積み荷に問題は無いな。広場に止めて宿舎で休んでいけ」
「ありがとうございます」
衛兵から許可が出る。そしてナイシの町の東の扉が開かれた。どうにか怪しまれずに済んだようだ。
「エル、リムちゃん、町への潜入は完了。合図したら攻撃を開始出来るように準備して」
「「了解」」
アイリーが2人に通信装置で連絡を入れる。あとはレイネンに敵の規模を確認して貰い、いつものように敵が巨鎧に乗り込むところを奪うだけだ。機動馬車は町の中を巨鎧や機動馬車が置かれている広場へ向かって進む。
「敵の配置の確認が出来ました。東側は外に8機、塀の上に4機、南側は外に2機、塀の上にも2機、北側は外に2機、塀の上に2機、西側は外に6機、塀の上に4機、町の中は6機の巨鎧が稼働中です」
「ありがとう、レンちゃん。やっぱり予想通りかなりの数が配置されてるね。東側と西側、同時に攻撃を開始して、その後南北と町の中に突入する部隊で分けて。レンちゃんは近くの巨鎧から攻撃を。シンちゃんはいつも通り、まずは巨鎧に乗り込む人をお願い」
「「了解」」
連絡を伝えるとすぐに機動馬車が停止する。
「巨鎧は南側に40メートルの位置にある。外は兵士がそれなりに散らばってるな。近くは4人だが、巨鎧の方にも既に人がいる。まずはそいつらの排除だ
「ゲオードさん、ありがとう。みんな無理はせずに、なるべくシンちゃんを頼って、直接戦闘は出来る範囲でいいから」
「「はい」」
アイリー達は踊り子の恰好なので、まともに斬り合えば不利なのは確かだ。紅薔薇騎士団の面々はそれなりに格闘能力が高いが、それでも油断は出来ない。まずはゲオードとテオムが機動馬車の前方から降りる。
「リムちゃん、お願い」
「了解、攻撃を開始しますわ」
リムールの返事を聞いてからアイリー達も機動馬車を出る。兵士4人はゲオードとテオムと話している。アイリー達が出てきたのを見つけ、巨鎧の方にいた兵士二人が興味を示してこちらに寄ってきた。
「おお、ベッピンさんがいるじゃねーか」
下卑た顔の男達が話しかけてきた。ワイムが対応しようと少し近付く。
「敵襲ーーーーーっ!!!!」
そのタイミングで町の中に声が響き、警鐘が鳴らされる。ゲオードとテオムが1人ずつ兵士を剣で突き刺した。しかし、残り二人の兵士はそれに気付き剣を抜く。アイリー達の近くの兵士も異変に気付いた。が、ミアンが走って飛び蹴りで一人を倒し、エトアもいつの間にか敵の兵士に近付いて絞め殺していた。ただし、その様子に気付いた他の巡回の兵士が寄ってきてしまう。
「シンちゃん、お願い!みんなは敵がいなくなったら巨鎧の方へ」
「分かった」
シリミンがスーライと同化する。アイリーは機械の武器を手に巨鎧の方へ走った。1人の兵士がアイリーに迫ってきたので、何とか機械の武器を兵士に当てて倒す。他の5人もシリミンと協力して何とか近付く兵士を倒し、巨鎧の方へ走り出した。
後はいつも通り巨鎧に乗り込む兵士から起動武器を奪って巨鎧に乗り込むだけだ。アイリーが正面の巨鎧の裏に回り込みそこで兵士が来るのを待つ。巨鎧の数がいつもより多いので、他のみんなは少しずつ距離を離して兵士が来るのを待った。夜の闇がアイリー達をうまく隠してくれる。スーライが6人だけ兵士を見逃し、その兵士達がそれぞれ自分の巨鎧に乗り込もうと移動する。
「アイお姉ちゃん、何かヘン」
「何?レンちゃんは何か気付いた?」
「今のところ周囲におかしなところはありません」
シリミンが気になる事を言うが、レイネンは特に何も無いと言う。アイリーも気にはなるが、このまま兵士を巨鎧に乗せる訳にはいかず、いつも通り各々で近付く兵士を倒す。アイリーも4回目になると慣れたもので、相手を惑わしつつ、機械の武器を押し当てる事が出来た。
(早く起動武器を探さないと)
アイリーがガサゴソと兵士の持ち物を漁っていると、アイリーにも何か違和感のようなものが感じられた。そして、スーライがいる広場の北の方の空間が歪んだような感じがする。
「マスター、転移魔法です。逃げて下さい」
突然イルナからピアスに連絡が届く。転移魔法、という事は黒騎士の部隊だ。
「黒騎士の部隊が来る!とにかく巨鎧に乗って町の外まで逃げて!」
アイリーも通信しながら必死に起動武器を探す。そしてようやく起動武器の手斧を見つけ、巨鎧に乗り込もうとした。が、既に手遅れだった。
「団長!」
素早く搭乗出来たミアンが乗った巨鎧がアイリーの前に駆け出そうとした。だが、突如現れた黒い巨鎧の集団に倒され、上から押さえつけられる。シリミンもスーライでこちらに駆け出した。
『そこまでだ。動くとこいつの身体がバラバラになるぞ』
アイリーの目の前には黒騎士の巨鎧、チグレスの漆黒の大剣があった。黒騎士は自分が騎士団長であると分かっているようだ。スーライも言われて動きを止め、他の巨鎧に乗り込めたメンバーも身動き出来ない。
『そう何度も同じ手は食わないさ。そろそろナイシの町を攻めると思って張っていたが、予想通りだったな。お前が白い巨鎧の操縦者の白嵐騎士団団長だな?周りの奴らに攻撃を止めるよう命令しろ』
黒騎士がいつもの不気味な声で指示してくる。ここで捕まればすべてが終わってしまう。捕虜になってもみんなが生きていられる保証は無い。何より、折角奪還した町や村がまた帝国の手に戻ってしまう。
「私の事はいい、みんな町から脱出して!」
アイリーは通信装置のスイッチを入れたまま叫ぶ。
『愚かな』
チグレスが大剣を振り上げる。瞬間スーライも他のみんなの巨鎧も動くが、周りにいる黒い巨鎧達に動きを止められる。
「イルナ、ごめん……」
アイリーは約束が守れなかった事を小声で謝る。そしてアイリーは見た。チグレスの大剣の向こう、星が煌めく夜空に一筋の流星が流れるのを。流星はこちらに向かって徐々に大きくなり、周囲がまばゆい光に包まれる。眩しくてアイリーは目を開けていられない。辺りには轟音が鳴り響いた。
『なんだ、これは……』
轟音の中で黒騎士の声が微かに聞こえる。アイリーはゆっくりと目を開く。そこには白く光ったイルナが立っていた。
「イルナ?」
「マスター、もっと早く助けを呼んで下さい」
「ごめん。ありがとう、イルナ……」
アイリーは嬉しさが心に満ちる。自然と涙がこぼれていた。
「早く乗って下さい」
『よくもやってくれたなあ……』
イルナの背後から前面の装甲が溶けた黒騎士のチグレスが姿を現す。溶けた装甲は既に再生を始めている。
「空気が読めない奴だ」
「さあ、アイリーさん、あっしらが抑えてるんで今のうちに」
ゲオードとテオムが奪った巨鎧でチグレスの前に立ちはだかる。ミアン達他の3人も奪った巨鎧で態勢を立て直し、スーライと共に他の黒い巨鎧達をアイリーの方に近寄らせない。
「みんな、ありがとう」
アイリーはイルナの手に乗ってそこからコクピットに乗り込む。イルナと接続されると物凄い安心感を感じた。
「イルナ、全力で行くよ!」
「はい、マスター!」
イルナが能力を解放し、光の剣を出して近くの黒い巨鎧を真っ二つにする。ゲオードとテオムはチグレスに押されていた。
「黒騎士は私が相手をします。作戦は続行します!」
「「了解!!」」
アイリーはチグレスと対峙した。帝国の起動前の巨鎧は、先ほどのイルナの突撃で吹き飛んだ為、まだそれほど起動出来ていない。黒騎士さえ何とか出来れば町の解放は出来る筈だ。
『町の中で暴れれば町へ被害が出るぞ』
「でも、ここで退いたらこんなチャンスは二度と来ない。速攻で決めればいい」
アイリーは相手の言葉に惑わされず、駆け出す。今まで普通の巨鎧を操っていたので身体が物凄く軽い。チグレスが迫るアイリーに対して剣を横に振るう。以前は避けるので精一杯だったが、今はその動きが何となく見える。
「はああああっ!!」
アイリーは光の剣でチグレスの大剣を上に打ち払う。大剣は光の剣で傷付き、その軌道が逸れた。アイリーは勢いを止めず剣をチグレスへと振り下ろす。チグレスの左肩がえぐれ、コクピットの隙間から黒騎士の姿が見える。黒騎士の兜は悔しそうな表情をしているように見えた。
(いける!)
アイリーは攻撃の手を止めず、連続で斬り付ける。黒騎士の動きは以前のようなキレは感じられず、徐々に再生が追い付かない箇所が増えていく。周囲の仲間も慣れない機体なのだが、アイリーの勢いに乗ってか、次々と黒騎士の部隊の巨鎧を仕留めていく。そこに更に追い風が吹いた。
「私は碧鋼騎士団副団長、カリスです。巨鎧50機と共に戦線に加わります!!」
町の外から大音量で援軍の声が聞こえる。カリスはプラエムの町からそのままナイシの町まで進軍してくれたのだろう。
『ここまでか。白の騎士、その巨鎧に助けられたな。俺はまだ死ねない。決着は次に取っておこう』
「待てっ!」
アイリーは叫んだがチグレスと生き残っていた数機の黒騎士の部隊は再び魔法で消えてしまった。逃したのは悔しいが、これで戦況は大きく変わる。
「黒騎士は消えました。このまま町を奪還します!」
アイリーは叫び、抵抗する敵の巨鎧を破壊していった。黒騎士さえいなくなれば数も勢いもアイリー達の方が有利で、あっという間に敵の巨鎧は破壊され、残った兵士も降参した。
「アイっ!」
「アイさんっ!」
一通り作戦が完了したタイミングで巨鎧を降りたエルータとリムールが広場にいたアイリーの所にやって来る。
「二人とも、心配かけてごめんなさい……」
「だから危険だって言っただろ……」
「無事で良かったですわ……」
エルータは涙目になり、リムールはその場に座り込んだ。
「わたしが近くに居ながら、対応出来ずにすみませんでした」
レイネンがリムールを支え、立ち上がらせながら謝罪する。
「ボクも助けられなかった。ごめんなさい……」
「レンちゃんもシンちゃんも謝らないで。二人とも悪くないよ。アイがもっとしっかりしてればこんな事にならなかったんだし。それに、イルナが助けてくれたから」
アイリーは背後に立つイルナを振り返る。
「ワタシはマスターの命令に従っただけです」
「自分も見たわよ、あの流星。あんな事も出来るのね」
寄ってきたセリュツが興味深そうに言う。
「すみません、ワタシ自身もあの機能は把握していませんでした。マスターの元へ最速で向かおうとしたら、あのような方法になっていました」
「そうなんだ。ごめんね、無理させて」
アイリーは謝りながらイルナが必死だった事が嬉しくて仕方がなかった。
「お話し中すみません、少しだけいいでしょうか」
そんな中、若い騎士がアイリー達の元へやって来る。碧鋼騎士団の副団長カリスだ。
「カリスさん!大丈夫ですよ。助けに来てくれて本当に助かりました」
「いえいえ、アイリーさんが黒騎士を押していたと聞いたので、私が来なくても町は奪還出来ていたでしょう。まあ、その話は置いておいて、私は明日にはガダルザン砦の奪還に向かおうと思います」
「明日?さすがに準備期間が足りなくないか?」
エルータがあまりにも急な話なので声を上げる。
「いえ、我々の部隊が中心に動くので、皆さん方の負担は少ないと思います。私はグストさんに依頼され、ここまで来ました。王都奪還はアイリーさん達が勢いに乗っている今こそ行うべきだ、とグストさんは言っています。それにはガダルザン砦の奪還が必須なので、我々が来たのです」
「でも、ガダルザン砦を東側から攻めるのが難しいのはカリスさんが一番知っているんじゃない?何かコツでもあるの?」
「ええ、ある仕掛けをして我々は砦を去りました。こうして奪還する時の為の仕掛けを」
セリュツの疑問に答えるカリスは自信満々に見えた。
「分かりました、砦の奪還作戦はカリスさんにお任せします。私達の部隊から必要なだけ使って下さい」
「ありがとうございます。リムールさん、あなたの巨鎧には働いてもらいたいのですが、大丈夫ですか?」
「わたくしのルルトですか?特殊技能でしたら今日は使っていないので、大丈夫ですわ」
「それでしたら、かなり簡単に砦が奪還出来るでしょう。また後で詳細をお伝えに参ります」
カリスは頭を下げ、去っていった。
「団長ー、町の人の説得は出来ました。敵の巨鎧も思ったより残ってたので、また戦力は増えそうです」
「ここは特に苦しんでたんで、志願兵も多いぜ」
町の人との話し合いや使える帝国の巨鎧の確認をしてもらっていたミアンやゲオード達がやって来た。白嵐騎士団も橙獅子騎士団も主要メンバーに欠けは無く、奪還部隊としても亡くなった人達より追加される人達の方が数が多くなっている。カリスが言っていた王都の奪還も出来るのでは、とアイリーは希望が湧いて来ていた。
********
翌朝、ナイシの町でしっかり休んだアイリー達はカリスの元に集まっていた。
「基本は私の部隊、50機で砦を攻めます。ただし、最初に仕掛けが発動するのに少し時間がかかります。ですので、リムールさんに防壁を張って貰い、以前のようにエルータさんとセリュツさんで砦の上の敵を攻撃して欲しいのです」
「それはいいけど、二人だけでいいのか?東側は西側より砦の高さが高いし、攻撃し辛いからあまり撃破は出来ないと思うぞ」
「はい、あくまで前と同じ作戦で攻撃している、と思わせてくれればいいのです。あとは仕掛けが発動した後、私達が一気に攻め落とします」
エルータの疑問にカリスが答える。きちんとした計画があるのだろう。
「じゃあ、こちらからの参加はリムール、エルータ、セリュツの3名でいいですか?」
「はい、それで十分です。これは私達の弔い合戦でもあるのです」
カリスの顔が少しだけ曇った。砦を撤退した後も大変だったのだろう。
「分かりました。私も何かあった時の為に参加しましょう」
「ボクも行く」
「わたしも参加します」
「でしたらわたし達も」
シリミン、レイネン、ミアンが次々と名乗りを上げる。が、アイリーとしてはなるべく潜入部隊の人達は休ませたかった。
「みんな大変だったし、今日は休んでて。私はイルナが動いてくれるから疲れないし大丈夫だから」
アイリーはそう言ってシリミン達を何とか抑える。作戦が決まり、アイリー達は急いで準備に入るのだった。
********
「では行きましょう」
ガダルザン砦の前の森の中をカリスの緑色の巨鎧、クルオを先頭に進む。ナイシの町を出てからは敵の斥候を倒した位で大きな戦闘は無かった。砦までの道のりは何度も行き来したので、懐かしくも感じる。アイリーは久しぶりに自分が指揮官で無い戦いなので周りには悪いが気が楽だった。
やがて砦が見えてきて、そこには40機以上の帝国の巨鎧がずらっと並んでいた。砦の西側に配置されている巨鎧を含めればもっと巨鎧はいるだろう。以前帝国に奪われた時は黒騎士の奇襲を受け、紅薔薇騎士団が崩れたところを一気に攻められた。しかし今回、カリスは奇襲ではなく、正々堂々と正面から攻略しようとしている。日が高く昇り、砦は東に大きな影を作っている。砦は近付くにつれその威圧感を増し、頑強さを感じさせる。自軍が使っている時は頼もしいが、敵が使っているとこんなにも恐ろしいのだと感じるのだった。
「リムールさん、以前と同じく、敵の射撃がギリギリ当たる位置まで移動し、そこで防壁を展開して下さい」
「分かりましたわ」
カリスやアイリー達は通信装置で会話出来るようにしており、今もリムールには通信装置で指示を出している。リムールのルルトに魔術型や神官型が物理と魔法の防御力が上がる魔法をかける。そして、ルルトが1機で前進し、敵の攻撃が始まった。射撃や魔法をルルトは耐え、立ち止まる。
「防壁を張りますわ」
ルルトが手を前に出し、光の防壁が左右に広がった。エルータはオクシオで以前と同じく防壁の下に穴を空け、そこから砦の上の敵を射撃していく。セリュツはソシアの魔法で砦の上の巨鎧を操り、周囲の巨鎧を破壊する。しかし、以前使った手なので、敵も対策をしてきた。オクシオの射撃に対しては避ける事に専念し、魔法で防御したりしている。ソシアの魔法に対しても操られた巨鎧を他の近接型で押さえつけ、射撃型を破壊させないように対処し、以前のように大量には破壊は出来ていない。何より砦の前にいる巨鎧もこちらに寄って来ず、隊列を組んだまま射撃の防御に徹していた。西側から攻めた戦い方はもう通じないとアイリーにも分かる。
「もうすぐ仕掛けが作動します。合図をしたら防壁を解除して下さい」
「了解ですわ」
そして爆発音が響き、カリスが言っていた仕掛けが発動した。
(凄い!)
それは砦の上部を魔法の爆発で破壊する仕掛けだった。砦の上の部分が横に長くひび割れ、東側にがけ崩れのように崩れていく。勿論上に乗っていた巨鎧は一緒に崩れ落ち、砦の前にいた巨鎧の上へと降り注ぐ。確かに効果的だが修復は大変だろうな、とアイリーは思った。一部の破片がこちらにも飛んでくるが、リムールの防壁のおかげでこちらに被害は無い。
「碧鋼騎士団、隊列を組め!」
そしてカリスの号令の元、緑色の巨鎧が横一杯に並ぶ。
「盾、構え!」
次に身の丈の8分目程の大きさの統一された盾を構える。
「リムールさん、解除を」
「はい!」
リムールが光の壁を解除する。敵は混乱し、瓦礫から逃れる巨鎧がこちらに押し寄せる。
「全軍前進!」
隊列を崩さず、緑色の巨鎧の波はリムールのルルトの前に出て、敵の部隊と接触寸前になる。
「結合開始!」
カリスが自分の巨鎧、クルオの特殊技能を発動させた。それは、結合という、珍しい技能で、横に並んだ巨鎧の盾を全て結合させるものだ。一枚の長い盾となった部隊はそのまま前進する。敵はそれを突破しようと突っ込む。しかし、盾同士は離れず、敵の巨鎧は弾き返される。そして弾かれた巨鎧に対して碧鋼騎士団の巨鎧は盾を上に上げて、それぞれの武器で攻撃する。前方からは固まった敵の集団、背後からは瓦礫の流れ。敵に逃げ場は無かった。
(凄い、確かにこの戦法なら失敗する確率は低い)
アイリーはその様子をただ眺める。問題がありそうなら手助けしようと思ったが、その心配は無さそうだ。左右から逃げようとする敵も背後の射撃型や魔術型に攻撃される。もちろん盾が壊されたり、盾を上げた時に逆に攻撃され、撃破される事もある。だが、背後の予備機が代わって間に入り、すぐに隙間は埋められる。そうして敵は確実に距離を狭められていき、あっという間に全て撃破されたのだった。これが碧鋼騎士団の戦い方なのだろう。
砦の東側が主戦力なので、砦の一部が破壊された事もあってか、砦の入り口の瓦礫をどけて中に入った時には他の帝国兵は撤退していた。帝国軍とこちらに負わせる被害を考えれば正しい選択だろう。
「ご協力ありがとうございました。まあ、見ての通り修復は大変ですが、こちらの被害は最小限で砦を奪還出来たでしょう?」
戦いが終わり、巨鎧を降りたカリスが挨拶に来る。少しだけやり過ぎたかと自虐しているようにも見えた。
「そうですね、お見事でした。これで王都奪還の足掛かりが出来ます」
「もうすぐ王都奪還の鍵となる人物も来るでしょう。アイリーさん、あなた達の活躍を期待しています」
「ありがとうございます」
そう答えながら、鍵となる人物とは誰だろう、とアイリーは考えるのだった。




