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9.反撃の一手

 アイリーはナイツメの町の代表者と再度交渉をする為に町に入る事にした。言われた通り武器は全て置いて行き、聖教団とも繋がりがあり、交渉力と魔法の力があるリムールと、前回も代表者と会っており、見た目での威圧出来て肉体的な強さを持ったゲオードが同行する事になった。あまり人数が多いのも警戒されるし、ゲオード自らが名乗り出てくれた事でこの組み合わせになったのだった。


「うちの団長がこんなにやる気になってるのは珍しいんですぜ。やる時はやる男なので安心して下さいな」


 橙獅子騎士団副団長のテオムが町へ行く前に声をかけてくれる。


「うるせーな、お前はいつも。荒事になった時は俺が何とかする。総司令官は思う存分喋ってくれればいい」


「ええと、ゲオードさん、今は総司令官じゃないし、アイリーって呼んでくれればいいです」


「そ、そうか。よろしく頼む、アイリーさん」


 ゲオードは恥ずかしそうに言う。アイリーの中のゲオードの印象がどんどん変わっていく。


「わたくしが一応通信装置を持っていますので、何かあればレンが透明化したロガンで助けに来ますわ。ですので、あまり心配はいりませんわ」


「そうだね、じゃあ行こう」


 アイリーを先頭に町の入口へと向かう。アイリーもいざとなれば耳のピアスでイルナが呼べる。そんな事態になるとは思っていないが、備えがあるのはいい事だと思った。

 入り口では前に兵士が言っていた通り、武器を持っていないかの検査が行われた。さすがに服を脱いで見せろという程の細かい検査では無かったが、それでも近くに巨鎧も待機しており、警戒されている事はよく分かった。アイリー自身に特権意識は無いが、騎士団の団長を始めてからの周囲の反応を考えると、団長である自分やゲオード、貴族の令嬢であるリムールでもこの扱いなのは王国を離れ、本当に中立になったのだと認識させられる。町の中はそれなりに栄えた町なだけあって、守りの為の塀も高く、中の道も舗装され、綺麗だった。

 町の代表者に会いたい事を伝えると、しばらく町の入り口で待たされ、やがて、大きな屋敷へと案内される。案内した兵士は屋敷まで送ると立ち去り、屋敷からは初老のやや恰幅のいい男性が出てきた。


「私が今のナイツメの町の代表をしている、町長のモット・オサウクと言います。ゲオードさんとはこの間もお会いしましたな」


「ああ」


「初めまして。私はメロガダン王国の白嵐騎士団団長をしています、アイリー・クリアロンです」


「初めまして。わたくしは白嵐騎士団に所属し、聖教団の神官騎士もしております、リムール・シュワイアですわ」


「おお、あなたがあの白嵐騎士団の団長さんか。そしてこちらは青騎士様の御令嬢と。お二人のお噂は色々と聞いております。立ち話も何なので、こちらへどうぞ」


 モットは3人を屋敷の応接間へと案内する。アイリーはもっと偏屈な人が出てくるかと思っていたので、普通の温和な男性だったので面を食らった。見た目は大きな屋敷だが、中は思ったより落ち着いていて、そこまで金持ちのイメージは無かった。3人は応接室のソファーに並んで座り、モットはその対面に座る。奥さんと思われる女性がお茶を置いて去っていった。


「お話は町の立場の事ですね。ゲオードさんには一度お話ししましたが、我々にはもう帝国と戦う程の力が無いのです。山沿いの町ですので機獣も多く、自衛するので精一杯でしてな。王都が落ち、ガダルザン砦も落ちた今、帝国がここへいつ攻めてくるかも分かりません。そうなると、我々が取れる手段は中立の立場を取る事ぐらいなのです。私だって元々王国民です、国王様への忠誠を忘れた訳ではありません。なので、せめてもの抗いとして、帝国に隷属する意志を示さない為に先に中立を宣言したのです」


 モットは訴えるように喋る。その気持ちはアイリーにも伝わった。だが、今のアイリーはそれをすんなりと受け入れる訳にはいかない。


「今、町の外には50機ほどの巨鎧が集まっています。ナイツメの町が協力して下されば、ここを拠点として帝国への反攻が行えます。その情報が流れれば他にも散らばった仲間が集まり、その勢いは増すでしょう。その為にも、中立を撤回して、私達に協力して頂けないでしょうか?」


「無礼を承知で申し上げます。その反攻作戦は本当に成功するのですか?失敗して、帝国が逆にこちらに攻めてくる事になりませんか?帝国が攻めて来た時、あなた達は逃げ出さずに町を守って下さるのですか?

アイリーさん、あなたはガダルザン砦を取り戻した英雄なのだと思います。ですが、それでも戦争自体は劣勢になり、王都は帝国の手に落ち、ナイシの町も帝国領のままです。我々にはあなた達のような力はありません。町人の安全が保障されないのなら、我々は危険な賭けには出られないのです」


 アイリーはここまで言われては、絶対に守るなどとは口に出来なかった。反攻作戦が成功して、王都奪還に向かった後にナイツメの町に敵が攻めてくる事はありえる。自分が不在になっても町を守り続けますとは流石に言えなかった。


「モットさん、あなたも王国民ですわよね。帝国が攻めてくる前、平和に暮らせていたのは王国に守られていたからですわ。王国民でしたら今までの恩義を返す為、王国の為に戦うのが正しい在り方だとわたくしは思いますわ」


「リムールさん、誰しもそこまで正しく生きられないのです。私だって、いや、私だけでしたら王国の為に戦ってもいいと思います。ですが、私は今はこの町の住人全員の命を預かっているんです。巨鎧の数も限られ、戦う事もままならないのです。出来る援助は致します。ですが、中立の立場は何があっても変える事は出来ません」


「俺はこのおっさんの言い分は少しは分かる。俺の村は戦争に巻き込まれ、無くなった。王国の為に戦い、抗ったが、結局焼け野原になった。小さい頃だけどな。あの時抗わなければ村は残ったかもしれねえ。俺の両親ももっと長生き出来たかもしれねえ。だがな、俺は親父が無駄死にだったとは思わねえ。自分の意思で国の為、家族の為に戦ったからだ」


 ゲオードはいつになく饒舌に語った。彼が何歳かは分からないが、過去の経験がゲオードを強くしたのではないかとアイリーは思った。


「分かりました。今は、中立のままでいて下さい。私達はこれから帝国に奪われた町や村を取り戻し、戦力を増やしていきます。私達の戦いを見て、もし、少しでも王国の力になりたいと感じたら、その時は再び王国に戻る事を宣言して下さい。その後は私から国王様にナイツメの町の立場が悪くならないように進言します」


 アイリーは出来るか分からないが、行動で示そうと思った。それなら納得してくれると思ったからだ。


「分かりました。その時は町で検討いたします。アイリーさん、あなたは噂通りの人ですね。一部にあなたが国を救う英雄だと言う人がいます。私も本当にそうなる事を願っていますよ」


「ありがとうございます、モットさん」


 アイリー達はモットの屋敷を出て行った。屋敷を出るとアイリーは緊張が解け息を吐き出す。


「アイさんは本当に前向きですのね。わたくしが付いてくる必要はありませんでしたね」


「そんな事無いよ、リムちゃんとゲオードさんが言ってくれたから、私もあの言葉が出て来たんだ」


「アイリーさん!!」


「え、は、はい、何ですかゲオードさん」


「俺は、いや、俺ら橙獅子騎士団は全力であんた達をサポートする。どんな危険な任務でもこなしてみせる。だから、これからも俺達を導いてくれ!!」


 ゲオードは顔は怖いが、真剣に頼んでいた。アイリーもその想いに応えたいと思う。


「分かりました。これからも頼りにしています」


「ああ!!」


 ゲオードは初めて笑顔を見せた。良い笑顔だな、とアイリーは感じた。


「折角町に来たんですし、何か買い物をして行きます?」


「そうだね、みんなに甘い物でも買って行こうか。ゲオードさん、後は大丈夫なので、先に戻っていて下さい」


「分かった。何かあれば通信で呼んでくれ」


 ゲオードは元気に町の入口へと向かって行った。


「面白い人ですのね。それに、随分とアイさんがお気に入りみたい」


「そうかなあ。凄い頼りになる人だとは思うよ」


 そう言いつつ、アイリーはリムールと二人きりになった事に気付く。前に機動馬車の中で抱き付いてしまい、それから二人だけで会話した事は無かった。何か言った方がいいかとアイリーは悩む。


「アイさん、あんまり長居すると日が暮れてしまいますわ。早く買い物を済ませてしまいましょう」


 リムールに引っ張られてアイリー達は歩き出す。リムールが気にしていないなら、今はその話題に触れなくてもいいかな、とアイリーは思った。

 少し移動し、お店が連なる通りに来たが、町の活気はあまりなく、人通りも少なかった。アイリー達は目立ち、お店の人から好奇の目で見られているのが分かる。


「あんまり歓迎はされていないみたいだね」


「戦争中ですからね。軍隊がいれば敵が攻めてくる理由になりますし、早くいなくなって欲しいのかもしれませんわ」


 アイリー達は小声で話す。さっさと買い物を済ませてしまおうと、菓子を売っている店で簡単に買い物をし、町の入り口に向かって戻る事にした。少し戻るとお店が無くなり、人通りも無くなった。そんな時、アイリーは視線を感じて建物と建物の間の路地を見る。すると、そこで誰かがこちらに向かって手招きをしているのが分かった。


「リムちゃん止まって」


「何ですの?」


「あそこ」


 アイリーが指差すと手招きをした人は路地の奥へ移動する。


「行こう」


 アイリーは少し迷ったが、リムールの手を引いて路地の方へと小走りで移動した。


「きゅ、急になんなのですの?」


「ごめん、誰かが呼んでた」


 路地を進むと一段と暗い、寂れた通りに出た。と、そこに一人の男が立っていた。


「ようやく会えましたね、お嬢ちゃん方」


「あ、えっと、情報ギルドの?」


「嬉しいねえ、覚えててくれやしたか。そういえば以前は名乗って無かったですな。あっしは情報ギルドのソンク・ソスオと申しやす。もう1人のお嬢ちゃんは初めましてですな。青騎士の御令嬢、リムールさん、ですよね?」


 怪しい小柄な男は、以前トラマトの町の情報ギルドであった男、ソンクであった。


「アイさん、何なんですの、この人は?」


「えっと、トラマトの町で遺跡の情報を売ってくれた情報ギルドの人だよ」


「あの時はいい買い物だったようで、売った甲斐があったというものですぜ。しかし、嬢ちゃんたちはまさに英雄譚の英雄ですな。超大型機獣退治から騎士団を立ち上げ砦の奪還までするなんて、さすがにあっしらも予想出来ませんでしたぜ」


「それで、その情報ギルドの方が何かご用ですの?」


 情報ギルドにあまりいい印象の無いリムールは強く出る。


「いやいや、あっし個人が嬢ちゃん方のファンなので、ちょっとお声を聞きたかっただけで。あと、少しだけいい情報があるので、お耳にと。まあ、ここでは話せないので、そこまで来て頂ければ」


 ソンクは背後にある情報ギルドの看板の方を指差す。アイリーからしても、とても怪しいと感じる。中に複数の人がいればとても逃げられないし、そもそも建物に罠など仕掛けられていたら、それで終わりだ。だが、これはチャンスだとアイリーは思った。


「私もちょうど色々聞きたい事がありました。お金も少しはありますし、買い物して行きましょう」


「さっすが、前より度胸が付いていやすな。あっしは情報屋、聞きたい事があれば何でもお売りしますぜ」


「アイさん、怪しすぎますわ」


「大丈夫だから、行こう、リムちゃん」


 アイリーは強引にリムールの手を引っ張って、情報ギルドの建物へと入っていった。別の町のギルドの建物と同じく、1階には誰もおらず、ソンクは地下へと二人を案内する。


「そう言えばソンクさんはなんでこの町に?トラマトの町で働いてたんじゃないんですか?」


「あっしは別に決まった町で働いてる訳じゃねえんです。情報ギルドも色々とめんどくさい部分があるんですよ。まあ、それはいいとして、あっしがここに来たのはお嬢ちゃん方がこの町に来るって噂を聞いたからですぜ」


「そんな理由で?」


「言ったでしょう、あっしはファンだって。っと、足元暗いから気を付けて」


 暗い階段を降り、ソンクは扉を開ける。中には人はおらず、薄明りの中、狭い部屋にソファーとテーブルが並べてあるだけだった。奥に扉があり、その向こうには誰かいるかもしれない。


「あっしもこの町の住人でねえんで、武器は取り上げられてるんですぜ。仲間も出払っているんで安心して下せえ」


「はい」


 アイリーは案内されるままにソファーに座り、リムールも不信がりながらもその横に座る。


「お茶も出せずにすみませんが、何の話からしやしょうか?」


「声をかけたって事は、何か話したい事があるんですよね?まずはそこからお願いします」


「さすが、お嬢ちゃんも駆け引きが分かったようで。これは商品ではなく、あっしからのサービスです。お嬢ちゃん方が一番知りたい事を教えやしょう。軍師のグストって男、この曲者を信用していいかどうか。あっしらの情報では、グストが帝国と繋がっている可能性は無いですぜ。むしろ、私怨で帝国を潰したいと思っておりやす」


「それは本当の事ですの?」


 リムールが身を乗り出して聞き返す。確かにグストの件はアイリー達にとって喉に刺さった魚の骨だった。これが解決すれば今後の対応も変わってくる。


「グストは帝国皇帝のウレイユとその副官のライムと同窓生で、学校ではライバルだったそうで。で、ウレイユ達が帝国建国まで順調に進んでる裏で、グストは小国の軍隊の参謀などをやってたと。しかし、性格が災いして、能力があっても他の軍人に恨まれ、追放されやした。その後はやさぐれ、盗賊紛いの傭兵に知恵を出して小銭を稼ぐなどして日銭を稼いでいたようです。

その後、ウレイユが帝国を建国した情報を知り、何とか一泡吹かせたいと考え、帝国と戦争になった王国にやって来た、という話ですぜ。なんで、多少おかしな行動はしても、帝国に利になる行動はしないだろう、というのが情報ギルドが掴んでいる情報ですな」


「信じていいんだよね?」


「信じる、信じないは嬢ちゃん次第、ただ、これはここまで名前を広めたアイリーさんへの御祝儀だ。あっしの命に賭けて正しい情報だと思ってくれていいですぜ。まあ、安い命ですけどねえ」


「分かった。ありがとうございます」


 アイリーはソンク自体はまだ信用出来ないが、この情報は信じていいと確信した。


「で、他に聞きたい情報もあるんじゃないですかい?」


「うん。これで知っている事を全部教えて欲しい」


 そう言ってアイリーは腰の袋に入れていた、有り金全てをテーブルの上に置く。


「アイリーさん、そのお金は陛下から砦攻略の報奨金として頂いたものじゃ」


「うん、今持っているのはその全額。機動馬車には所持金はもう少しあるけど、必要なら取ってきます」


「ほお、いい覚悟だ。全部といっても色々ありやすぜ。具体的に聞きたい内容は?」


「王国の各地の情報。特に国王様の安否や、生き残った部隊の数や居場所。あとは帝国の情報も。どの町が占拠され、そこにどれぐらいの部隊がいるか。もちろん王都の情報も分かれば聞きたい」


 アイリーは思い付く事を並べる。エルータやセリュツがいればもっといいのだが、とにかく早く情報を知りたかった。


「アイリー嬢ちゃん、いい顔だ。お代は要らねえ、というと信用が無くなりやすな。なんでこれだけいただきやしょう」


 そう言ってソンクはアイリーが置いたお金の10分の1ほどを自分の方に引き寄せる。


「先に話しておきやしょう。情報ギルドとしても、帝国には迷惑してるんですぜ。仕事相手としては金払いは確かにいいが、こっちが不要や邪魔になったら圧力をかけたり、下手すりゃ見せしめに殺されるまでありやした。んで、邪教団とも繋がってるとなりゃ、やり辛いってありゃしねえ。

あっしらはこの町と同じであくまで中立、お代の分は仕事として働くが、どちらの肩も持ちやせん。戦争に関する情報なら猶更だ。それが帝国には通じやしねえ。王国でもたまに厳しく罰せられることはありやしても、基本はお目こぼししてもらっていやした。なんで、このまま帝国に大きくなられると困る、っていうのが情報ギルド全体の見解になりやした」


 アイリーにはソンクの顔がいつになく真面目に見えた。


「で、王国に協力したいとは考えやしたが、王族、貴族、騎士団、どれをとっても協力したら後で何か因縁が出来ちまう。下手な癒着は内乱のきっかけになるし、そうなりゃギルドへの査察もありえる。そもそも情報を有効活用してくれなりゃ宝の持ち腐れだ。さっき言ったグストと連絡を取る、という話も出やしたが、どうにも胡散臭くて、こちらの手は明かしたくない。そこで候補に上がったのが、元々騎士で無く、騎士団長まで昇り上がったアイリー嬢ちゃんでした。あっしもこの人に情報を流すなら、悪いようにはならないとギルドに伝えやしたんで。で、お嬢ちゃんに白羽の矢が立ち、あっしがその役目を負ってここまで来た、ていうのが種明かしだ」


「そんな美味い話がありまして?それこそ帝国に大金を積まれて、誤情報を流しに来たのではなくて?」


 リムールはソンクの話を信用出来ていないようだ。アイリーもまだ信用していいか迷っていた。


「まあ、そんなこと言われても信用出来ねえですな。少しでも信用して貰えるように、もう一つおまけの情報を伝えやしょう。王都が陥落した理由に裏切り者の内通者がいると疑っていやすよね?確実に各騎士団に1人以上内通者がおりやす。貴族や町人にもね。さすがに誰かまでは情報ギルドでも確定出来ていやせんが。お嬢ちゃんとこの白嵐騎士団は新興で内通者はいないので安心してくだせえ。あと、聖教団にもおりませんのでご安心を」


「貴重な情報、ありがとうございます。分かりました。私はソンクさんの事を信じます。知っている情報を教えて下さい」


「アイさん、それだけで判断するのは……」


「いいの、リムちゃん。今は情報が少しでも欲しいし、一人でも味方が欲しい。こっちが信用しなければ相手も信用してくれない。情報ギルドが正しい組織だとは思わないけど、今はそれを気にしてる場合じゃない。だから、私はソンクさんを信じて、その情報を活かしたいと思う」


 アイリーは自分でも暴走しているという自覚はあった。でも、情報が得られるなら、それは今の状況をひっくり返す力になる。ならば信じて進むしかないと思った。


「やっぱりお嬢ちゃんはあっしの思った通りの人だ。あっしが知っている事を全部教えやしょう。これで戦争に勝てたら、その時は一杯奢ってくだせえ」


 そしてソンクは手帳を取り出し、王国と帝国、戦争に関わる情報を次々と教えてくれた。国王が無事脱出出来、護衛の蒼刃騎士団と共に王都から少し離れた西の町にいる事、紅薔薇騎士団は無事撤退し、王都の南の町で戦力を増やしている事などが分かった。王都は帝国の手に落ちたが、市民の大部分は無事だという事も分かり、リムールも少しだけ安心したようだ。王都周辺の町は大部分が帝国の手に落ち、一部は碧鋼騎士団が今も戦い、守っているという。アイリーは特に今いるナイツメの周辺の町や村の帝国の支配状況や駐留する部隊の情報を詳しく聞くのだった。


「最後に一つだけ聞いていいですか?」


「何でございやしょう?」


「邪教団はどこまで帝国に力を貸してるか分かりますか?」


「情報ギルドの知る限りじゃ、まだお金の関係だという事ですぜ。金で邪教団が持っているネットワークで仕入れた情報を買い、特別な魔法を使わせて貰っているらしいと。黒騎士の部隊を転移させているのは嬢ちゃん達が戦った、双子の悪魔だという噂ですぜ。ただ、戦場に邪教団の巨鎧が現れた、という報告はまだ無いそうで。今の関係なら戦争には出てこないと思いますぜ」


「そうですか、ありがとうございます」


「わたくしは貴方の言う事を信じた訳ではありません。ただ、何にせよ、情報を提供してくれた事には感謝致しますわ」


「さすが青騎士の御令嬢だ。リムール嬢ちゃんはそのままでいるのが、アイリー嬢ちゃんの為になると思いますぜ」


 そう言ってソンクは笑う。リムールは馬鹿にされたと思いむくれる。


「色々とありがとうございました。本当にお酒を奢れる日が来ればいいと思います」


「ああ、期待して待っていやすぜ」


 アイリー達は情報ギルドを離れる。外に出るともう夜になっていた。


「色々聞けたのはいいとして、アイリーさんは頭に入っていますの?申し訳ないですが、わたくしは細かい部分はあやふやになっていますわ」


 アイリー達は記録を取る紙も書くペンも持ってきていなかったのでリムールが心配する。


「そこは大丈夫だよ。ね、イルナ」


「はい、しっかりと記憶しております」


 アイリーのピアスからイルナの声が聞こえる。


「いつの間に。あの会話は全部イルナに伝わっていたという事ですの?」


「うん、情報ギルドで何かある可能性もあるし、イルナとの連絡はずっと繋がっている状態にしてたんだ」


「いざとなれば町まで突入する準備は出来ていました」


 アイリーはリムールに得意気な顔をした。


「それならそうと言って下されば……。まあ、いいですわ、何事もなく終わったんですものね」


「ある程度情報は揃ったんだ、すぐにでも次の手を考えないと」


 アイリーはやる気に満ちてみんなの元へ戻ったのだった。


********


「とりあえずこんなものかな」


 アイリーは信頼出来る白嵐騎士団全員と橙獅子騎士団団長のゲオード、副団長のテオムをリムールの機動馬車の格納庫に集め、作戦会議を行った。白嵐騎士団のみんなは勿論、ゲオードもテオムも内通者でないとアイリーは確信していたからだ。イルナに補足して貰いつつ、知り得た情報を連携し、地図に占領されている情報を書き込む。そして、そこからモットに言ったように周囲の町や村を順々に開放する作戦を立てた。情報ギルドの情報も時間が経てば鮮度が落ち、状況は変わっていくだろう。なので、早速明日から一番近くにある帝国に占領されたグープレ村を解放しに行く事になった。


「さっすがアイリーさんだ、情報ギルドからこんな情報を引き出してくるなんて」


「完全には信用出来ないとは思うけど、ここまで細かいと嘘を並べ立てているとも思えないわね」


 テオムとセリュツがそれぞれの感想を述べる。


「情報ギルドなら、今は利害が一致していて、情報を出してくれているというのはあると思います。少なくとも、意図的な嘘の情報は無い気がします」


「ワタシもレイネン様の意見に同意します。情報の整合性が高く、敵の戦力分布も合理的だと思えました」


 イルナが結論付けてくれた事で、アイリーは自信が持てた。


「何かあったら私が責任を持ちます。出来るだけみんなを守るので、力を貸して下さい」


「俺ら、橙獅子騎士団は元より命をアイリーさんに預けた。罠があったら罠ごとぶち壊してやるよ」


「わたしもみんなも白嵐騎士団に入った時から覚悟は出来ています。どこまでも団長に付いて行きますよ」


「ありがとう、二人とも」


 ゲオードとミアンが応えてくれた事で全体が纏まったと感じた。あとは明日の作戦に備えて休むだけだ。

 アイリーが気分転換に外の空気を吸いに出るとエルータが付いてきた。


「エル、お疲れさま。色々頭を使ってくれてありがとうね」


「アイの苦労を思えば大した事無いよ」


 村の奪還作戦のアイデア出しにエルータは色々意見を言ってくれて、それで決まった事も多かった。ゲオードやテオムとのやり取りもエルータのおかげでスムーズだったとも感じた。


「そういえばゲオードさんの事、エルは最初嫌ってたよね。ここに来るまでに何かあったの?」


「ああ、その事な。まあ、撤退の手助けしてもらった事は事実だし、助かったとは思ってた。でも、一番はここに着いてからだな。モットさんと話に行った時、あたしはカッとなってモットさんを責めたんだ。でも、そこをゲオードさんが止めてくれて、何とか場が治まったんだ。あとは夜寝る時も、まあ、あたしらも一応女性だろ、だから、他の兵士が変な事しないようにって男女を区切って、見張りまで付けてくれたんだ」


 エルータは少しだけ嬉しそうに言う。やっぱりエルータも女の子なんだな、とアイリーは改めて思う。エルータは以前より髪が少し伸びて女性らしくなったと感じた。


「後でアイからもゲオードさんにお礼を言わなくちゃね」


「テオムさんが言うには、ゲオードさんが変わったのはアイのおかげだって。今までどんな戦いでもどこか不満そうだったゲオードさんが、アイと一緒に戦ってから、変わったって。元々橙獅子騎士団の扱いが国の中で悪かったのもあるらしいけどさ」


「そうなんだ。アイは橙獅子騎士団に助けて貰ってばっかりだと思ったけどなあ」


 白嵐騎士団の被害が少ないのは橙獅子騎士団が危険な場所で戦ってくれていたからだとアイリーは思っている。死んでいった人が多い事も理解しているつもりだ。


「そういうアイの気持ちが伝わってるんじゃないか。アイも大分騎士団長が身についてきたな」


「そうかな。頑張ってるつもりではいるけど、空回ってるんじゃないかとたまに思うんだ」


「アイは十分立派だよ。なんかあたしから遠ざかってるような気がするぐらいに」


 エルータは夜空を見上げて少し寂しそうな顔をする。


「そんな事無いよ。アイはエルが連れ出してくれた時から変わってない。撤退した後はエルが近くに居なくて心細かったんだから」


「でも、あたしがいなくてもリムと無事合流して、橋の敵も倒せた。アイにはイルナもいるし、他のみんなもアイの事信頼してる。リムだって今はアイの為に戦ってるように見える」


 エルータの言葉にアイリーはリムールとの話が中途半端な所で止まっている事を思い出した。それはシリミンとの話もそうだし、エルータとの城での抱擁の件もそうだ。アイリーはエルータの本当の気持ちを知りたいと思った。


「ねえ、エルは城で最後に話した夜、どうして抱き締めてくれたの?」


 アイリーは自然とそう口にしてしまい、しまった、と後悔する。


「そうだよな、やっぱり気になるよな……。

アイは覚えてないかもしれないけど、あたしが12歳の時、アイが言ったんだ。ずっと一緒に居ようって。だから、あたしはアイの為なら何でもしようと思ったんだ」


 エルータの話を聞いて、アイリーは昔の事を思い出そうとする。頭に浮かんだのは泣いているエルータとそれを抱き締めている自分の姿。あの時のエルータはまだ髪が長く、眼鏡も付けていなかった事を思い出す。ただ、その時の状況がぼんやりしていてどうしてそうなったかを思い出せない。


「みんなと旅をするのは楽しかったし、仲間になったみんなの事は好きだ。紅薔薇騎士団から来たみんなも含めて。でも、人が増えて、みんながアイの事を好きになっていって、それがあたしの中では妬ましかった。アイの事を最初に好きになったのはあたしなのに、って。

シンがアイに懐くのはシンが子供だから、って思ってたけど、告白するのを見て本気なんだと分かった。あたしもアイに気持ちを打ち明けたかった。でも、それはアイの負担になるって分かってた。それに大事なのはアイの気持ちだと思ったんだ」


「エル……」


 正直エルータの気持ちには全然気付かなかった。いや、エルータからの好意は友情だと思っていたから、それで済ませていたのかもしれない。


「戦争に参加しなければ、あのままの関係で十分だった。でも、アイは進んで戦争に参加し、その中心へ入ってしまった。そうなればアイもあたしも、いつ死んでもおかしくない。だから、後悔しないよう、精一杯の気持ちとして、あの夜、抱き締めたんだ。迷惑だっていうのは分かってる。そんな事してる場合じゃないっていうのも。でも、アイの温もりを覚えていれば、どんな困難も乗り越えられると思ったんだ」


「ごめん、エル。何も気付いてあげられなくて……」


「アイ、今は何も言わないでくれ。戦争が終わったら、改めて気持ちを伝えるから……」


「うん、分かった。

明日の作戦も頑張ろうね。お休み、エル」


「ああ、おやすみ」


 アイリーは気持ちを切り替え、女性用のテントへ早足で向かう。今は何も考えないよう、必死に明日の事を考えながら。


********


 アイリー達がナイツメの町に到着した翌日の昼、グープレ村奪還作戦が開始された。作戦は2台の帝国から奪った機動馬車を使って実行する。メンバーは白嵐騎士団とゲオードとテオムのみ、残りはナイツメの町に残ってもらう。人数を最低限にし、作戦の事を漏らさない事で敵に情報が流れないようする為だ。

 1台目の機動馬車は運転手に帝国の兵士に成りすましたゲオードとテオムが乗り、巨鎧は載せず、武器や食料を補給の品としてダミーで乗せる。そしてアイリー達は村へ潜入する為に変装して乗り込んだ。また、1台目の上には透明化したロガンも乗る事になる。2台目には援護部隊としてエルータのオクシオ、リムールのルルト、セリュツのソシア、シームのスザフ、トトリのナミス、そしてどうしても同行したいと言ったイルナを含めた6機を乗せている。


「さすがにこの服装は恥ずかしいね。他に無かったのかな」


「アイリー団長は似合っていると思いますよ」


 移動中、一台目の機動馬車の休憩室の中でアイリーは自分の服装があまりにも布地が少なくて恥ずかしくなる。ミアンはあまり気にした様子もなく飄々としていた。アイリー達は“踊り子”として慰安の為に村に連れて来られた設定を選んだ。アイリーにもそれが性的な意味を含んでいる事は分かっている。その為、町で購入した服装は上半身も下半身も布地が少なく、欲情的で、煌びやかな飾りが付いている物だった。ミアンも普段の鎧を脱ぐと女性的な体付きで、胸もアイリーより大きそうだ。


「ボク、いつもの服より気に入った」


「シリミンちゃんも魅力が増してるわね。みんないつもより色っぽくていいと思うわよ」


「……不満」


 シリミンは下着姿でいる事が多いので、布地的にはそんなに違和感が無い。耳と尻尾は飾りのようにして誤魔化し、恐らく人間の子供用の衣装なので、どこか愛嬌を感じさせた。この中で一番大人な体付きのワイムは踊り子の衣装がとても似合っており、本職のようだ。腰は細く、胸はかなり大きい。エトアは身長は低めだが、体付きが筋肉質で、胸も小さく、正直あまり似合っていない。無口な本人の不満が似合わない事にあるのか、こういった服装が嫌いなのかは分からなかった。


「わたしは皆さん綺麗だと思いますよ。シン様は可愛いですけど」


「レンちゃんは潜入組だけど、服装はいつも通りでズルい。私も援護組が良かったなあ」


「エルータさんもリムールさんもセリュツさんもシームも援護に必要な巨鎧なので仕方が無いです。トトリは演技とか駄目ですし、余計な事をしかねないのでやっぱり団長に潜入して頂かないと」


 ミアンがアイリーを納得させようとする。勿論アイリーも分かっていたが、やっぱり落ち着かない。イルナと離れ離れになる事もその要因の一つだ。


(イルナは危なくなったら呼べば来るって言ってたけどなあ)


 実際にイルナが来てくれるだろうとは思うが、それだって時間がかかるし、どうなるか分からない。あと一人、潜入出来そうなのはケミツだったが、本人が踊り子の衣装は絶対駄目だと拒否した為、アイリーはさすがに頼めず、リムールの機動馬車と共に町での留守番を頼んでいた。


「もうすぐ村なのでわたしはロガンに移って屋根の上に移動します」


「分かった、お願いね、レンちゃん」


「任せて下さい」


 レイネンが休憩室から出ていく。


「こちら援護チーム。そろそろ距離を離して付いて行く」


「分かった、援護頼むね、エル」


 通信機に連絡が入り、アイリーは応える。今回の作戦は全員に通信機を付けて貰い、かつ、アイリー達潜入組は目立たないよう衣装に合わせたイヤリング型にイルナに変えて貰っていた。午前中エルータとは作戦に関する話題しか話しておらず、昨日の晩の事はお互い触れないようにしていた。どこかぎこちなかったが、今は顔を見ず、作戦に集中しているので、余計な考えは薄れていた。


「日が沈んだので大きく村を迂回して、村の南門へ向かうぞ」


「ゲオードさん、頼みます」


 帝国領から来た補給部隊を装う為、北から行くと怪しまれるので機動馬車は南へ回り込む。敵の偵察に見つかると厄介だが、その場合はロガンに対処してもらう事になっている。特に敵には見つからず、無事、南側の街道に移れた。村の灯りが見え、その前には敵の見張りの巨鎧が立っている。ゲオードはゆっくり機動馬車を進ませる。


「止まれ。どこの部隊だ?特に連絡は受けていないぞ」


「ありゃ、急ぎと言われたけど、連絡届いてないのかよ。参ったなあ。連絡は後で来ると思うし、依頼書はあるから村に入れてくれないか。こっちは帝都から不休で来たんでベッドで休みたいんだ」


 交渉はそういうのが得意なテオムが行う。依頼書は機動馬車に残っていた帝国の物を偽造し、それらしく書いてある。ここでバレた場合、ロガンとシリミンのスーライで強行突破する事になるが、村の被害が増える事になってしまう。


「まあ、書類に不備は無いな。積み荷を確認させて貰うぞ」


 その声と共に機動馬車の後部の入り口が開く。二人の鎧を着た兵士が入ってきた。アイリー達は格納庫内に布を敷いて、その上に座っている。


「はーい、お兄さん方。お疲れでしょうからたっぷりサービスしちゃうわ。後で逢いに来てねぇ」


 ワイムがウィンクする。兵士はアイリー達を舐めまわすように見る。


「そうか、いいお土産を運んできたみたいだな。他は武器と食料だな。問題無い、行くぞ」


「はい」


 兵士はワイムに緩んだ顔で手を振ってから機動馬車を降りる。


「ワイムはこういうの流石だな。前職ででもやってたのか?」


「ひ・み・つ」


 ミアンに問われてワイムは笑顔で返す。何はともあれワイムがいて助かったとアイリーは思った。機動馬車はゆっくりと村の広場へと移動を開始する。


「エル、村への侵入は成功した。そっちも準備をお願い」


「了解、5機とも移動を開始する」


 エルータ達には潜入が完了した際に先に見張りや護衛で動いている巨鎧を破壊してもらう役目がある。それが失敗すると村への被害が大きくなってしまう。


「見張りの巨鎧は南と北で1機ずつ、それとは別に周囲を周回している巨鎧が1機、村の中で起動してる巨鎧は2機です」


「レンちゃん、ありがとう。エル達は合図をしたら同時に外の3機への攻撃をお願い。中の巨鎧はレンちゃんお願いね」


「「了解」」


 そして機動馬車が指定された場所に止まる。


「アイリーさん、外には兵士が2人だ。巨鎧は北に10メートルの所に並んでる。行けそうだ」


 ゲオードが外の様子を確認し報告する。


「分かった。エル、お願い。

みんな、行くよ。シンちゃんは同化の準備を」


「分かった」


 ゲオードとテオムは機動馬車の前から降り、アイリー達は機動馬車の後ろを開け外に出る。外にいた二人の兵士はゲオード達の方へ行き、何か会話をしている。


「敵襲ーー!!」


 叫びが聞こえ、村の警鐘が鳴らされる。ゲオードとテオム反射的に話していた二人を攻撃し、その息の根を断つ。


「みんな走って!シンちゃんは6人だけ通して」


 アイリーは言いながら帝国の巨鎧が搭乗前の状態で並んでいる方へと走る。そして敵兵が巨鎧に乗り込みに来るのを待つ。シリミンはスーライと同化し、巨鎧に乗り込もうと出てきた兵士を威圧した。


(来た!)


 スーライが逃した兵士がそれぞれの巨鎧に乗り込みにやって来る。外は夜の為、巨鎧の陰に隠れていれば、敵はすぐには気付かない。アイリー達の目的は敵の巨鎧を起動させず、かつ、起動武器ごと奪う事にある。敵より早く乗り込めれば、他の巨鎧が起動するのを防いで村を制圧出来るからだ。


「はぁい」


 ワイムは堂々と乗りに来た兵士の前に出ていく。敵が混乱したところをすかさず隠し持っていたナイフで首を切り裂いた。ミアンは華麗な蹴りで乗り込もうとした兵士を倒してからトドメを刺し、エトアは後ろから忍び寄って兵士の首を絞め殺す。ゲオードとテオムも乗り込もうとした敵を躊躇なく斬り殺した。


「な、なんだお前は」


 アイリーの前に来た兵士が動揺しているのが分かる。アイリーは今まで巨鎧で人を殺した事はあったが、生身では殺した事は無い。腕力はあると思うが、普通の兵士と組み合って勝てる自信は無い。


「ごめんなさい!」


 アイリーは言いつつ隠し持っていた機械を兵士に押し当てる。兵士に電撃が流れ、動かなくなった。エルータが持たしてくれた電撃で人を殺せる機械の武器だ。剣で斬るよりは罪悪感は薄れるが、それでも敵を殺した感触がアイリーにはあった。


(ごめんなさい)


 アイリーは心の中で再度謝りつつ、兵士の巨鎧の起動武器を漁る。それらしき予備の短剣を見つけ、アイリーは目の前の兵士型の巨鎧に乗り込んだ。


(えっと、確かこうだよね)


 今朝再度確認した乗り込み手順に沿って身体を固定し、起動武器を差し込む。すると巨鎧は起動し、目の前のモニターに外の状況が映し出される。見える範囲で既に巨鎧を奪った仲間は動き出し、寄ってくる生身の兵士をスーライと共に倒していた。


「アイさん、起動中の巨鎧2機は排除出来ました」


 レイネンの連絡を受けたので、後は宣言をすればいいだけだ。そう思った時、背後の巨鎧が動き出したのに気付く。1機だけだが、それはアイリー達が奪った6機以外の巨鎧だ。アイリーは急いで旋回し、その巨鎧と向き合う。他の仲間は少し前に移動して戦っているので、今戦えるのはアイリーが奪った巨鎧だけだ。“ガンッ”と、その巨鎧が振り下ろしたこん棒をアイリーは何とか剣で受け止める。視界も狭く、動きもイルナに比べて重い。何より、その衝撃がアイリーに直に伝わり痛かった。


(でも、私がやらなくちゃ!)


 イルナで無くてもある程度巨鎧は動かせる位には成長している筈だ。アイリーは敵が再度こん棒を振り上げるのを確認する。今の自分は動くのが遅い。なら、タイミングを合わせるしかない。こん棒が振り下ろされる前にアイリーは何とか右に飛ぶ。着地の衝撃が激しいが、耐える。そして剣を前に構えて敵に突進した。敵の巨鎧はこん棒を地面に振り下ろした状態で、すぐに反応出来ない。そのまま剣を相手の巨鎧に突き刺す。


「大丈夫ですか、団長」


「うん、何とか。他にも動き出す巨鎧がいないか見張ってて」


「分かりました」


 ミアン達の巨鎧が警戒をしてくれているのを確認する。アイリーは呼吸を一旦整える。そして、巨鎧から発する音声を最大にして叫ぶ。


「グープレ村はメロガダン王国、白嵐騎士団が占拠しました。既に動ける巨鎧は有りません。ストルイカ帝国の兵士は無駄な抵抗をやめ、降伏しなさい」


 周囲にいた兵士は動きを止め、周りを見回してから両手を挙げ、降伏の姿勢を示した。建物の中にいた兵士も同様で、出てきて、両手を挙げる。アイリー達は村の中までやって来たエルータ達と協力して、降伏した兵士を縛り上げ、潜伏している兵士がいないかを確認する。すべて縛り上げると一人の老人がやって来た。アイリーは巨鎧を降りて挨拶する。


「私が白嵐騎士団の団長、アイリー・クリアロンです」


「ああ、貴方が。こんな若い女性が騎士団の団長なんですな。失礼、わしはこの村の村長をしておる、ガガク・シースモと申します。この度は村を助けて頂きありがとうございました」


「いえ、私は当然の事をしたまでです。それに、村はまだ安全ではありません。そして村長、いや村民の方にはお願いがあります」


「何でしょうか。我々に出来る事なら何でも致します」


 アイリーはガガクの言葉を聞いて、一呼吸置く。


「村をあなた達の手で守って貰いたいのです。勿論、最初は私の部隊から兵士を置き、しばらくは手助けをします」


「それは……。元々村には防衛手段も無く、王国の兵隊さんに守って貰っておりました。今はその兵隊さんも亡くなり、武器もありません」


「武器ならそこにあります。操れる人は限られるかもしれませんが、それでも数があれば、村を守る事は可能だと思います」


 アイリーは背後にある帝国から奪った巨鎧を指し示す。自分でも酷い仕打ちだと思う。それでも、アイリー達は防衛の為に戦力を割いて町や村を解放していては王都奪還など出来ない。町や村を守る戦力は敵から巨鎧を奪い、兵士を現地で増やす事で対応する。そうすればアイリー達の戦力は減らず、むしろ増えていく可能性もある。これはその為の第一歩だった。


「村の者と相談してもいいですかな?」


「勿論です。ただ、私達には時間がありません。なるべく早い回答をお待ちしております」


 アイリーは笑顔を作って言う。断れる筈など無いと分かっている。村長や村民はアイリーを恨むだろう。もしかしたら帝国が攻めてきて、被害が出るかもしれない。自分は汚名を着せられてもいい。むしろ自分が悪く言われる事で平和が早まるなら喜んでその役目を引き受けよう、とアイリーは思うのだった。

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