8.橋の上の戦い
「橋の前に機動馬車2台を拠点にした帝国軍の部隊が展開していました。巨鎧の数は全部で16機、魔術型や射撃型も含まれていました」
偵察を終えたレイネンが報告してくれる。イルナの警告で急いで機動馬車を止めた為、敵に発見されるより先に、こちらが敵を補足出来た。敵はまだこちらには気付いていないようだ。
「さすが帝国、ここの橋の重要性が分かって早めに押さえたのね」
「敵を褒めてる場合じゃありませんわ。機動馬車で進むにはこの橋を越えないとどうにもなりませんわよ」
セリュツの言葉にリムールが少し怒って言う。地図で確認したところ、敵が占拠している橋は渓谷を超える為のもので、渓谷の下まで降りて抜けるルートはこの付近には無い。北のナイツメの町に行くにはこの橋を超える以外だと元の山道を戻って東から回るか、西に大きく迂回して、別の橋まで移動する必要がある。敵はナイツメの町と他の町との流通を断ち、巨鎧が移動するのを止める為、この橋を占拠したのだろう。
「巨鎧だけなら少し離れた場所から渓谷に降りて行く事も出来るみたいね。でも、機動馬車は必要なんですよね?」
「この機動馬車は聖教団の管理でもあり、元の所有者はシュワイア家になります。簡単に手放す事なんて出来ません」
シームの言葉にケミツが抗議する。今は機動馬車を橋から少し離れた場所に隠して止めているので、乗っている全員の7人で話し合っていた。
「移動速度も機動馬車の方が速いですし、何よりエネルギーの心配も無くなります。わたしも機動馬車を置いていくのは賛成出来ません」
レイネンも機動馬車の必要性を説いた。アイリーもその通りだと感じる。
「橋が抑えられていると他の町からの移動も、ナイツメの町からの移動もどちらも出来ないという事だよね。それは王国にとってかなり問題だと思う。私は何とかして敵を排除したいな」
「ボクとレンで前みたいに何度も攻撃しようか?」
確かにシリミンのスーライとレイネンの透明化したロガンの奇襲なら被害は少なく、攻撃が出来るかもしれない。しかし以前のように射撃型の援護がないし、魔術型もセリュツのソシアのみだ。敵も繰り返せば対策を取るだろうし、スーライだって大量の敵に囲まれればただでは済まない。
「問題は戦闘の影響で橋が壊れたり、敵がやけになって橋を壊したりする可能性がある事ね。そうなったら攻撃自体が無意味になるわ」
「敵をおびき寄せればいいのよね。あたしがおびき寄せて、煙で攪乱しようか?」
「橋を占拠するのが目的だとしたら、敵がその誘いに乗るかしら?」
セリュツとシームとリムールが意見を出し合う。話を聞いてるだけでも中々難航しそうだ。
「ねえ、イルナを含めて作戦を考えてもいいかな?」
アイリーは前にイルナと会話した時の事を思い出し提案する。アイリーの提案にとりあえず反対意見は出なかった。
「話は分かりました」
アイリー達が格納庫で状況を説明し、搭乗姿勢で停止しているイルナが喋る。
「団長と会話しているのは何となく分かってたけど、本当に喋るんだな」
「珍しい巨鎧ですよね」
初めて喋るイルナを見てシームとケミツが珍しそうに眺める。
「こういう反応も新鮮ね。まあ、それは置いておいて、自分もイルナの見解は気になるかな」
「戦力的には敵が倍以上いますが、ワタシとシリミン様がいるので、勝利する事自体は難しくないでしょう。問題点は橋を壊さずに敵を殲滅する、という点ですね」
イルナはやはり理解が早く、頼りになるとアイリーは思った。
「ケミツ様の巨鎧の特殊技能を聞いても宜しいでしょうか」
「私ですか?私の巨鎧、コスオの特殊技能は全身硬化になります。簡単に言えば、ルルトの防壁を自分の巨鎧に貼る、という表現でしょうか。範囲が自分だけの代わりに、動く事が出来て、攻撃も出来ます。私はこの力で大型の機獣を倒してきました」
自分だけの防壁という事だろう。戦争での使い道がありそうな技能だとアイリーにも思えた。レイネンが見てきた段階での簡単な敵の配置図を紙に書いた。橋のこちら側と向こう側に巨鎧を配置し、橋の上には巨鎧はいない。橋のこちら側に10機、向こう側に6機の巨鎧を分散して置いている。それぞれ少し離れた位置に探索型の巨鎧を置き、その巨鎧が見張りの役目をしていた。
「橋の対岸側なら敵の巨鎧は6機なので、透明化したロガンで全機破壊するのは難しく無いと思います」
「でも対岸へ渡るには橋を渡るしかないし、橋が不自然に揺れたら敵も気付くんじゃない?」
セリュツがレイネンの提案に意見を述べる。
「対岸が襲撃された時点で橋が攻撃される可能性もあります。両岸なるべく同時に攻撃し、かつ、橋を守る必要があります」
「こういうのはどうかな。リムちゃんのルルトとケミツさんのコスオで橋を守ればいいんじゃない?」
アイリーはイルナの話を聞いて思い付いた。
「どうやってですの?」
「例えばルルトが橋の対岸側に防壁を張って、コスオは橋のこちら側の入り口で敵が攻撃してくるのを防ぐ。対岸の防壁を張る前にロガンが対岸まで渡り切れば、対岸側の敵も全部破壊出来るしね」
「橋まで3機を無事に辿り着かせる必要があるわね。それに、ルルトが対岸側に防壁を張る前に橋に敵が侵入してくるわよ」
アイリーの意見を聞いて、セリュツが起りうる状況を考慮する。
「ボクが行く。スーライなら素早く橋を渡れるし、風の魔法で橋から敵を落とす事も出来る」
「確かにロガン、ルルト、スーライの3機なら橋の対岸側をどうにか出来るかもしれないわね。橋のこちら側は自分達4機でどうにか出来るかしら?」
「コスオは言った通り橋を守りつつ戦ってもらって、イルナは敵の真ん中で前みたいに暴れるよ。スザフにはなるべく橋から離れた場所で敵を挑発しつつ戦ってもらって、ソシアは敵の射撃型や魔術型を他の巨鎧を操って攻撃する。スーライには向こう岸の防壁を張るまで戦ってもらって、それが終わればこちら側に戻ってもらう。そうすれば数で負けてても敵を排除出来ると思う。みんな、どうかな?」
アイリーの話を聞いてみんなしばらく考え込む。
「わたくしはその案に賭けてみてもいいと思いますわ。アイさんとレンの負担が少し大きい気もしますが、それでも二人なら出来ると思いますわ」
「わたしもリム様と同じです。戦う覚悟は出来ています」
「ボクもアイお姉ちゃんの案でいい」
リムール、レイネン、シリミンの3人はあっさりと案を受け入れた。
「大筋は自分もいいと思うわ。でも、敵の能力や橋に罠が仕掛けられていたら、失敗する可能性もあるわよ。その点も踏まえて撤退のタイミングは考えておいてね」
「あたしはもっと危険な位置に持ってきてもらってもいいと思うけど、団長が決めたのなら、それに従うよ」
「私はここまで大規模な戦闘は初めてなので、具体的に反対する意見は出せません。ただ、シュワイア様に危険が及ばないよう最大限の援助をしたいと思っています」
セリュツ、シーム、ケミツの3人も一応受け入れてくれた。
「イルナはどう?何か気になる点はある?」
「セリュツ様の言った通り、罠や特殊技能に気を付ける必要性は感じます。特に橋に爆弾などが設置されているのを確認したら即座に作戦は中断すべきかと。それ以外はマスターの考えた案ですので、ワタシはそれを全力でフォローいたします」
「ありがとう、イルナ。橋を渡るリムちゃん、レンちゃん、シンちゃんの3人は爆弾とか罠とかに気付いたらすぐに連絡してね。戦闘になれば敵に気付かれるのと同じなので、通信装置は使いましょう。ケミツさんにも後で渡して使い方を教えます。そうだ、一時的だけど、ケミツさんにも白嵐騎士団に入ってもらおうと思う。みんないいよね?」
「「はい」」
「では、私もメロガダン王国を守る者として、白嵐騎士団に入らせて頂きます。宜しくお願い致します、アイリー団長」
「よろしくね、ケミツさん」
「私の事はケミツと呼び捨てして下さい」
「戦闘中は呼び捨てになる事もあるけど、あたしも普段からシームでいいから」
「分かった、よろしく頼みます、ケミツ、シーム」
形だけの団長かもしれないが、アイリーは少しだけ威厳ある態度で言ったのだった。
********
「じゃあ、まずは私とケミツで敵に突っ込みます。シンちゃん達は敵に隙間が出来たら、そこを橋まで駆け抜けて」
「「はい」」
アイリー達は機動馬車を隠して、敵に感知されないギリギリの位置から一気に駆け出した。アイリーはイルナの武器を以前使ったハンマーにして貰い、敵を引き付ける準備をする。横を走るケミツのコスオは何を考えたか、武器である剣と左手の盾を投げ捨てた。
「え?」
「硬化始めます」
ケミツが通信で言うと、コスオの色が鉄のような金属の色に変わり、速度がやや落ちる。
「アイさんは知らないでしょうが、これがケミツさんの硬化した際の戦い方なんです。剣より殴る蹴るの方が得意なんですの」
「アイリー団長、先頭は私が行きます」
その勢いに押されて、アイリーは先頭をケミツに任せる。こちらを見つけた敵は橋の前に隊列を組み、射撃型と魔術型がコスオを襲う。が、硬化したコスオには射撃も魔法も通じていないようだった。そのまま敵の先頭にいる兵士型の巨鎧を殴り飛ばす。
(凄い!神官型だからもっと守りに特化するのかと思った)
アイリーは感嘆しつつもケミツに続く。まずは橋までの道を作らないといけない。ハンマーで射撃を跳ね返しつつ、アイリーは正面の敵にハンマーを振り回して叩き付ける。敵の巨鎧は吹き飛ぶが、アイリーはハンマーの勢いを止めず、そのまま回転する。敵はハンマーを恐れて横に広がる。コスオが作った道をアイリーが広げる形だ。
「自分も行くわよ」
セリュツもある程度の距離でソシアを止め、敵の巨鎧を操り始める。後方にいた敵の射撃型と魔術型を操った巨鎧で攻撃し始めた。
「近付く敵はあたしが何とかするからシリミン達はそのまま進んで」
シームはスザフで橋を渡る予定の3機の前を進み、近付く敵を翻弄していく。コスオは敵を殴り、蹴り飛ばしながら、橋の入り口まで辿り着いた。アイリーもその少し前方でハンマーを振り回し、敵を警戒させる。
「シンちゃん、行って!」
「うん!」
シリミンは同化したスーライで近付く敵は攻撃しつつ、背後の透明化したロガンとルルトを先導した。3機はコスオの横を通り抜け、橋の上に辿り着く。橋は金属製で巨鎧が横に3体並べる位大きく頑丈だが、支えている柱などを攻撃されればさすがに崩れるだろう。
「マスター、ここまでは順調です。見たところ、橋にトラップも無さそうです」
「そうだね、私達で敵を引き付けよう」
アイリーはハンマーを振り回して、なるべく敵の注意を引いていた。ソシアも射撃型と魔術型の破壊が終わり、周囲の敵を攻撃し始めてくれる。
(あとはリムちゃん達がうまくやってくれれば)
そう思った時だった。
「アイさん、やられましたわ、巨鎧の足が橋とくっついて動きませんの」
「わたしもです。物理的な罠ではなく、敵の特殊技能かと」
「ボクも動けない。射撃武器は魔法でしばらく防ぐ」
橋の上の3人から報告が来て、対岸側に問題が発生した事が分かる。
「団長、こっちもマズイ、敵のリーダーは特殊型だ」
シームの報告でスザフの方を見ると、敵の巨鎧が斧を振り回して独楽のように回転しているのが分かる。ソシアが操った巨鎧も躊躇なく攻撃し一瞬で破壊する。スザフは逃げるので精一杯だ。そのせいで他の敵はソシアやコスオの方に戦力を割くようになった。アイリーの周りにも敵がいる為、一人では対処しきれない。
「マスター、敵が橋を進みシリミン様達の方へ向かっています。このままですと橋の上の3機が危険です」
イルナからも情報が足され、完全に敵の策略に嵌ってしまった事が分かる。アイリーはとにかく状況を変える事を考える。
「シーム、攪乱の煙を出して。みんな、同士討ちに気を付けて、とにかく自分の身を守って」
「分かりました」
シームがスザフの特殊技能で煙を撒く。橋のこちら側がほぼ煙に覆われた。
「リムちゃん、防壁はシンちゃんの向こう側に貼れる?」
「出来ますけど、橋の途中に貼る事になりますし、敵の巨鎧も1体は防壁の内側に入ってしまいますわ」
「それでいい、お願い。レンちゃんはまだ透明のままで待機。シンちゃんは大変だけど近付く敵の攻撃を防いで」
「分かりましたわ」
「了解です」
「分かった」
橋の上の3機に指示を出し、リムールがルルトで光の防壁を作ったのを確認する。アイリーは煙の中近付いてくる敵をハンマーで殴り、次の手を考える。
「イルナ、光の防壁の上を通って渓谷の向こう岸まで飛び越える事は出来る?」
「エネルギーをかなり使いますが、可能です。ただし、敵の射撃や魔法の的になるかと」
「そんな事言っていられないよ。シンちゃん達が動けなければこのまま敵に押されて負ける。煙だってしばらくすると消えるし」
「分かりました。武器を盾のみにして、射撃を防ぎつつ飛び越えましょう」
「ありがとうイルナ」
イルナがハンマーを盾に変え、両手に大きな盾を構えた状態になる。
「行くよーーーーーー!!!!!」
アイリーは盾で敵を跳ね除けつつ助走をつけて橋の横の断崖からジャンプする。イルナの力で後ろから押されたように大きく上に飛び上がり、橋の中心より少し先に出来た光の壁の上を飛び越える。それを見た敵は予想通りアイリーへ射撃を始めた。アイリーは飛びながら盾で射撃を防ぎ、何とか対岸に着地した。
「特殊技能を使ってる敵は分かる?」
「あの魔術型です」
「ありがとう、剣を出して」
アイリーは片手に剣、片手に盾を構え、イルナがマーキングしてくれた魔術型へと走っていく。敵の近接型は橋の上に行っていた為、射撃型2機と、魔術型しか対岸にはおらず、アイリーは射撃を防ぐだけで魔術型に近付けた。
「はあああっ!!」
アイリーは魔術型を一刀両断する。
「動けるようになった!」
「シンちゃんは近くの敵を倒したらセツさん達の方に援護に行って。リムちゃんはシンちゃんが反対方向へ向かったら防壁を解いて、シンちゃんに続いて。レンちゃんは透明なまま橋の上の敵を倒していって。私もこっちの敵を倒したら橋の方へ行くから」
「分かった」
「了解ですわ」
「任せて下さい」
3人に指示を送りつつ近くの射撃型を破壊していく。これでこちら側は大丈夫だろう。
「ケミツ、硬化はまだ続く?」
「はい、あと数分は」
「じゃあ、シンちゃんがそっちに近付いたら煙に突っ込んで敵のリーダーを探して戦って。斧を振り回してるから音で分かると思う」
「了解しました」
「他のみんなはシンちゃん達が来るまで耐えて。同士討ちだけは気を付けてね」
「「はいっ」」
とりあえずまだ全員健在のようだ。アイリーが最後の射撃型を倒すとルルトの防壁が消えたのが分かる。橋の上にいる敵はアイリーに気付いて1機がこちら側へ向かってくる。アイリーも橋の上に行き、その1機と戦う。橋の上は揺れ、下手に攻撃すると橋自体に傷を付けてしまいそうだ。敵も慎重に行動し、加減したこちらの攻撃を上手に避ける。
「アイさん、動かないで下さい」
レイネンから連絡が入り、アイリーは攻撃の手を止める。すると目の前の敵の巨鎧が背後から貫かれる。透明化したロガンがコアを貫いたようだ。
「対岸の敵は全て倒しましたね。みんなの方へ向かいましょう」
ロガンが姿を現す。
「うん、行こう」
アイリーのイルナとレイネンのロガンは橋を駆けていく。
「敵のリーダーは討ち取りました」
「アイちゃん、こっちは大丈夫よ。残りもシンちゃんとリムちゃんが戦ってるので最後よ」
ケミツとセリュツから連絡が届きアイリーはホッとする。
「そっか、良かった。みんな怪我は無い?」
「ごめん、あたしは少しボロボロかな」
「シームには無理させたよね。お疲れ様」
アイリー達が橋を戻ると戦闘は終わっていた。確かにシームのスザフは胸の装甲も吹き飛び、左腕も失っていた。
「コアだけを破壊した巨鎧の部品なら補修に使えると思います。わたしが取ってきます」
スザフの惨状を見てレイネンが橋の上の倒した巨鎧を拾いに向かった。
「それよりこれよ!無傷の機動馬車2台よ!食料も光輝石も予備の武器もあるし、凄く運がいいわ」
セリュツが敵が拠点に使っていた機動馬車の中を確認し喜んでいる。
「でも、敵の持ち物を奪うのは少し嫌じゃない?」
「マスター、今後を考えれば、資源は重要です。機動馬車1台でかなりの戦力増強になります」
「わたくしも奪う事に抵抗は感じますが、今は戦争中ですわ。使える物は使ってしまいましょう」
「そうだね。敵の巨鎧や武器で使える物は機動馬車に積んで、機動馬車3台で行こう」
アイリーが指示を出し、簡単に戦場の後始末をする。敵の機動馬車を使えば、敵の領内に侵入する事も出来るかもしれないな、とアイリーは思った。
********
3台の機動馬車に大体の戦力が均等になるように人と巨鎧を割り振り、北のナイツメの町を目指した。ナイシの町から撤退を始めたのが夕方だったが、それから丸1日過ぎ、ナイツメの町付近に到着したのは2日目の昼だった。橋からは大きな戦闘も無く、敵の追手とも、味方の巨鎧とも出会わなかった。ナイツメの町は王国領なので聖教団のマークのある、リムールの機動馬車を先頭に進む。町も厳戒態勢のようで、町が見えてきた辺りで護衛のものと思われる巨鎧2体がこちらへやって来る。
「止まれ!町への要件と身分を言え!」
兵士は強圧的な態度で聞いてくる。
「わたくしはメロガダン王国所属、白嵐騎士団のリムール・シュワイアと申しますわ。町へは騎士団の仲間と合流する為に立ち寄らせて頂こうと」
「王国の騎士団か。現在ナイツメはメロガダン王国にもストルイカ帝国にも属さない、中立の立場を取っている。王国民が町に入る事は許可するが、いかなる武装も持ち込む事を禁じている。町に入りたいなら町の外れにある広場に機動馬車や巨鎧を置き、武器を持たずに正門まで来い」
兵士は態度を改め無かった。運転席の後ろの休憩室で話を聞いていたアイリーだが、飛び出したい気持ちを何とか抑える。町で何が起っているか分からない為、アイリーは呼ばれるまで顔を出すなとリムールに釘を刺されていた。
「分かりましたわ。ご説明ありがとうございます」
リムールは感情を出さないように言い、機動馬車を言われた方へと向かわせる。指示された広場へ行くと、そこには王国の機動馬車や簡単なテントが並び、その周囲に数十機の巨鎧が置かれていた。
「おい、その後ろの機動馬車は帝国の物だな、何者だ、お前ら!」
1体の巨鎧がリムールの機動馬車に近付き、槍を構える。
「ちょっと待って。リム!やっぱり無事だったんだ!」
リムールが顔を出して答える前にその巨鎧の後ろから一人の少女が飛び出した。その声は聞き間違えようがない、エルータの声だった。
「エル!!」
アイリーは急いで機動馬車を飛び降り、エルータの元へ向かう。エルータもアイリーに気付き、走り寄って抱き付いた。
「アイ、無事で良かった……」
エルータが半分泣き崩れるように言う。
「エルこそ無事で。ごめんね、遅くなって。みんなは無事なの?」
「団長!よくぞご無事で!」
そしてわらわらと人が沸いてきて、見知った顔が現れる。ミアンにトトリ、ワイムとエトアもいる。アイリー達を逃がす為に戦った5人は全員無事に生きていた。
「みんな頑張ってくれて、他にも橙獅子騎士団の人が撤退に協力してくれたんだ」
エルータが身体を離し、涙をぬぐってから言う。
「よう、やっぱり無事だったな」
「さすが女神様だ、あっしらはついてる」
橙獅子騎士団の団長であるゲオードと副団長のテオムも顔を出す。アイリー達は機動馬車を止めてから、白嵐騎士団のメンバーと他にここに集まった団長、副団長クラスの人を集め、お互いの情報を交換した。エルータ達は昨日の夜に町に着いたとの事だった。アイリーは密書の事は念の為裏切り者と邪教団の部分を隠して話した。
「そういう事だったんだ。ナイツメの町にも王都陥落の情報は届いてはいたけど、詳しい状況は不明だった。王様達が生きていれば、巻き返しは出来るな」
エルータが話を聞いてから答える。
「それよりこの町はどういう事なの?なんで巨鎧は中に入れて貰えないの?」
「それだけど、あたしとゲオードさんで話に行ったら、町の安全が第一みたいで、来た時には既に中立宣言をしてたんだ。それでもこの場所を自由に使っていいのと、食料とかは聖教団の人が持ってきてくれて、何とか休んでいるところ。敵の追手もまだここまでは来ていないよ」
エルータの話を聞きながら、エルータがゲオードを嫌っていた事を思い出し、今は普通に接してるんだな、と心の中で思う。撤退時には犠牲もそれなりに出たと聞いたので、その時協力した事で仲間意識が芽生えたのかもしれない。
「町の事が大事なのは分かるよ。でも、こういう時こそ協力すべきだと思う」
「俺も総司令官の意見に同意だ。だがな、町の奴らの気持ちも分からない訳じゃない。王都が落ちたとなれば国が滅んでもおかしくねえ。そうなりゃ帝国に寝返るのが町を守る為の唯一の方法だ。ここは帝国領に近いしな。裏切らず中立を宣言するだけでも立派かもしれねえ」
アイリーはゲオードがここまで喋るのを初めて聞いた。見た目の粗暴さと違い、細かい事を考えているんだと感心した。
「うん、ゲオードさんが言った事は分かった。でも、王都を取り戻すにはなるべく戦力を増やして、帝国に対抗しないといけない。後で町の代表者と話してみる」
アイリーは自分の出来る事は何でもやろうと決意した。
「今集まってる巨鎧はどれ位?出来れば大破を除いて」
「あたし達の巨鎧を含めて42機、大破しているのを含めると45機だな」
「すると自分達のを合わせて49機かあ。南に撤退した機体も考慮すれば、うまく逃げられたと考えていいかもね」
セリュツがエルータから聞いた数で現状を整理する。ミシオ率いる土犀騎士団の巨鎧は少なく、ミシオが生きているなら南に撤退したのだろうと説明される。アイリーは白嵐騎士団が全員無事に撤退出来た事が嬉しかった。
「難しい話は置いといて、戦場の女神が生きていたんだ。まずは祝いましょうぜ」
テオムが話を終わらせ、話し合いをしていたテントからみんなを外に連れ出す。するとそこには大勢の兵士が集まっていた。
「これは?」
「エルータさんが総司令官はここに絶対来るって言うからみんなで待ってたんですぜ。まだ戦争で負けた訳じゃない。あっしらはこの時を待ってたんです」
「アイ、ここからが反撃だよ。何か言って」
エルータがアイリーを促す。アイリーは大勢に囲まれ、混乱する。が、司令官としての自分の立場を思い出し、気持ちを切り替える。
「みんな、生きて集まってくれてありがとう。国王様はまだ生きていて、王都を奪還するのを待っています。私達みんなで力を合わせ、帝国を討ち取りましょう!!」
「「「おおっーーーー!!!!」」」
歓声が上がり、祝杯が交わされる。これだけの人が同じ気持ちで戦ってくれているんだと、アイリーは今までにも増して心強くなったのだった。




