6.決断
「ミアンとエトアは橙獅子騎士団と一緒に敵部隊の包囲を。エルとセツさんは隠れていた巨鎧を排除して。他のみんなは私に続いて敵の殲滅を!」
アイリーは剣を掲げイルナで敵の巨鎧の集団へと突っ込んでいく。ナイシの町奪還作戦を開始してからアイリー達は3度目の、全体としては5度目の攻撃を行っていた。アイリー達の第1部隊と土犀騎士団を中心とした第2部隊が交互にナイシの町へ攻撃を行い、その都度戦法を変えている。5度目の攻撃に関しては相手が森に潜伏してこちらを待ち伏せしていた。しかし、それもグストの予想通りで、敵の部隊を透明化したロガンでレイネンが偵察し、その裏をかいて逆に包囲して敵を逃がさず討ち取る戦法で進めている。
「アイお姉ちゃん、ザーレの魔法を使う」
「うん、お願い」
ザーレと同化したシリミンが魔法を使うと敵の巨鎧は密集していた場所に土の力で一気に拘束される。それに加えて正面からのアイリー達の集団と周囲からの包囲で敵は一気に混乱状態になった。
「射撃部隊、一気に中央に攻撃を!」
アイリーの声で後方の射撃型と魔術型が攻撃を開始する。アイリーは敵の射撃攻撃を避けつつ、正面の巨鎧を排除していった。
「アイリーさん達と一緒だと楽でいいわ」
「ワイム、無駄口叩かない。トトリ、右側が危なそうだからそっちへ回るよ」
「はい!!」
シームのスザフとトトリのナミスが押され気味だった右側の方へ向かってくれる。元紅薔薇騎士団の面々は周りをよく見ていて、アイリーが気付かないところをフォローしてくれた。
「シンちゃん、一気に片付けちゃおう」
「うん」
「わたしも手伝います」
偵察や伏兵の排除で十分動いてくれたレイネンもロガンの姿を現して付いてくる。本当は休んでいて貰いたいが、本人の意思は尊重したいのでアイリーは口を出さなかった。ザーレと同化したシリミンは巨大なハンマーで敵の巨鎧を粉砕する。アイリーはレイネンと協力してロガンが敵を引き付け、イルナで切り裂く方法で次々と撃破していった。40機ほどいた敵も一気に数が減っていく。
「マスター、敵の撃破が7割超えました。周囲に強敵は残っていません」
「分かった。みんな、最後まで油断せず片付けよう」
「「はい!」」
そうして待ち伏せしていた敵はほぼ逃さずに全滅させたのだった。自軍の被害も10機以内に収まり、今回も予想以上の戦果である。
「敵の援軍が来る前に撤退します。故障機はエネルギーに余裕ある機体が補助をして移動をお願いします」
アイリーの指示の下、第1部隊はガダルザン砦へと帰還を開始した。
「マスター、今回の攻撃で敵の撃破数が80機を超えました。帝国側がナイシの町から撤退するか、増援するかの判断がなされると考えられます」
事前の情報でナイシの町に駐留している巨鎧の数が200機ほどだと聞いていた。イルナの報告でその40%を撃破した事になる。ナイシの町攻略作戦では相手が陽動に乗らなくなったら総攻撃で削り、相手が正面の守りを固めたら別の方角から奇襲をかけ、相手が戦力を分散したら再度陽動して戦力を削るという、アイリーから見ても嫌がらせのような攻撃を繰り返していた。しかも、アイリー達の第1部隊と土犀騎士団の第2部隊で交互に行うので、相手は気が休まる時が無い。
そして今回のように相手が待ち伏せで一気にこちらを叩こうとしても、それを読んで逆に殲滅する。グストの立てた作戦は執拗であり、相手の出方を的確に予想していた。そしてイルナの言った通り、帝国側もここで決断をするだろうとグストも予想している。同時進行しているクザクロの町進攻作戦も順調に進んでいると聞いており、こちらは帝国が防衛戦力を既に増やしていて、灰狼騎士団が出てきたという話だ。黒騎士がどちらの防衛にも付いていないのが不気味だが、おおむね計画通りに両作戦は進んでいた。
「アイリーさん、お疲れ様です。第5回攻撃も予想以上の戦果だと連絡を受けています。我々がナイシの町を解放しても恨まないで下さいよ」
「いえ、ミシオさん達が解放して下さるなら、それに越した事はありません」
ガダルザン砦に戻ると既に土犀騎士団を中心とした第2部隊が出撃の準備をしており、団長のミシオに声をかけられた。時刻は昼前ぐらいで日は高く昇っている。
「全軍出撃、第1部隊より戦果を上げるぞ!」
「「おおー!!」」
第2部隊の士気も高そうだ。アイリー達は巨鎧を格納庫に入れ、休憩に入る。砦には食料などの補給物資や破壊された巨鎧の代わりの巨鎧と兵士も王都から送られ、そのおかげでアイリー達は連戦が出来ていた。4時間後ぐらいにはまた出撃になりそうなので、急いで食事を取り、各々出来るだけ睡眠などの休養を取るようにしている。さすがに作戦を開始してから丸1日経っており、兵士の疲労もかなり溜まっていた。
食事を取り終わったアイリーが仮眠室へ移動しようとすると、逆方向へ進むレイネンを見つけた。アイリーは気になり声をかけてみる。
「レンちゃん、どこ行くの?」
「アイさん。最近ロガンを酷使していたので、整備をしておこうかと」
レイネンの言う通り、ロガンの透明化の能力は戦争で他の巨鎧より活躍の場が多く、偵察、陽動、伏兵の排除など、戦闘の下準備でかなり酷使していた。そして、それを言ったら搭乗者であるレイネンも同様だ。
「レンちゃんいつもありがとう。今回の作戦で一番頑張ってるのはレンちゃんだと思うよ」
「いえ、そんな事はありません。アイさんは総司令官でその重みだけでも大変だと思います」
「アイは色んな人に助けられてるからそこまで大変じゃないよ。やっぱりレンちゃんがいてくれたから敵の動きが分かったり、敵に動きを読まれなかったりしたわけだし。整備は砦の人に優先してやってもらうように言っておくから、レンちゃんは休んでて」
アイリーは本当はレイネンをしばらく作戦から外したい位だが、ナイシの町の解放に関しての重要な位置にいるので、流石にそれは出来ない。なので、今のうちに出来るだけ休んで欲しいと思った。
「アイさんこそ休んで下さい。司令官が倒れたら大変です。わたしは大丈夫なので」
「レンちゃん、ちょっと必死過ぎないかな?やっぱりリムちゃんの事があったから?」
「そ、それは。
……わたしはリム様にもアイさんにも幸せになって欲しいんです。その為には二人とも死んで欲しくない。だから、わたしが出来る事は何でもやろうと思ったんです」
レイネンの様子が少し変だとアイリーは思った。リムールの為に必死なのは分かるが、リムールは王都に居るのでここまで頑張る必要は無い筈だ。そして自分にも幸せになって欲しいという。もしかしたら……。アイリーは左右をキョロキョロと見回して、誰もいないのを確認してから口を開く。
「もしかしてレンちゃん、お城のテラスでリムちゃんと話してたところを見てた?」
「!!!!。
ごめんなさい、盗み見するつもりは無かったんです。リム様が少し心配で探していたら……」
レイネンは顔を真っ赤にする。アイリーも恥ずかしくなったが、レイネンの方が照れているおかげか、そこまで動揺はしなかった。
「あ、あれはリムちゃんがふざけてたんだと思うよ。リムちゃんが大事なのはレンちゃんだし」
「いえ、それは違います。リム様はいつも真面目で、ふざけてあんな事はしません。本気でアイさんの事を心配して、力付けようと必死だったんだと思います」
レイネンは必死に訴える。リムールの真意は分からないが、アイリーに生きて帰ってきて欲しいという願いはレイネンの言う通り本気だったのだろう。
「レンちゃんはリムちゃんの事大好きだよね。きっとリムちゃんはレンちゃんが怪我したり、それこそ死んだりしたら凄いショックを受けると思う。だから、アイはレンちゃんには生きて帰って欲しい。
これは団長からの命令です。しっかり休んで、次の戦いに備える事!」
「アイさん……。
分かりました。お言葉に甘えて休む事にします。そしてアイさんを守り、わたしも生きて帰ります!」
「よく出来ました」
そして二人で笑い合う。レイネンの笑顔はやっぱり可愛いな、とアイリーは思うのだった。
レイネンが仮眠室の方へ移動したのをきちんと見送ってから、アイリーは格納庫に移動する。整備の状況の確認とロガンの整備を優先的にやるように依頼をし、アイリーも仮眠室へと移動した。空いているベッドに入り、寝ようとするといつものようにシリミンがやって来る。
「入っていい?」
「うん、いいよ」
リムールがおらず、誰にも咎められないと分かってか、仮眠室で寝ようとするとシリミンは毎回やって来るようになった。アイリーもシリミンを甘やかして、それを許容してしまう。
(シンちゃんはリムちゃん達と違ってやっぱり妹として見ちゃってる。シンちゃんには失礼かもしれないなあ)
「アイお姉ちゃん、もう少しだね」
「え、あ、うん。敵の戦力も大分削ったし、もう少し頑張ればこの戦いも終わるね」
考えている所を話しかけられて少し驚いてしまう。アイリーが戦争に参加して思ったのはシリミンが思ったより戦況を理解し、作戦を進める為に予想以上に積極的に行動してくれるという事だった。種族として人間より戦いに慣れているのかもとも思う。スーライの機動力や魔法での多様性と、ザーレのパワーと頑丈さと魔法での拘束力を考えると一人で巨鎧数機分の働きをしている。本気の獣人を敵に回したら恐ろしいだろう。そんな事を考えだしてしまい、次の戦いの事に考えが移っていく。
「アイお姉ちゃん寝ないの?」
「そうだね、寝よう」
レイネンに言った事を自分で実行出来なければ司令官失格だ。シリミンが軽くアイリーに抱き付きつつ眠っていく。こうやって甘えてくるのは子供だな、と思ってしまう。アイリーは優しくシリミンを撫でつつ、その感触の心地よさを感じながら眠りに落ちていった。
********
「アイちゃん起きて!王都から連絡が来たわ」
セリュツに起こされアイリーは目を覚ます。寝てからまだ1時間弱しか経っておらず、休養は十分ではない。しかし、起こされたという事は何かが起こったのだ。アイリーはベッドから起き上がり、頭を働かせる。
「王都からはなんて?」
「帝国首都から大量の巨鎧の部隊がナイシの町を目指して移動しているのを確認したそうよ。それを受けて、敵の増援が来る前にナイシの町の奪還を完了するようにって」
「分かった。みんな起きて!!緊急出動よ!!!!」
アイリーは声を張り上げ仮眠室全体へと伝える。アイリー自身も急いで準備をし、寝ている仲間を起こし、砦内全体にも出動の連絡をさせる。
「しばらく両部隊とも砦を離れます。後の事はお願いします」
「任せて下さい。こちらも何かあれば連絡致します」
準備を終え、出撃直前に碧鋼騎士団のカリスに後を託す。カリスも今は緑色の巨鎧に乗っていて、砦の前に立っていた。
「シンちゃん、レンちゃん、セツさん、シームさん。以前説明した通り、4人には町への潜入と内部からの破壊工作をお願いする事になります。連戦で大変ですが、お願いします」
「「はい!」」
疲弊した敵が町の防衛を諦め、撤退してくれるのが望ましかったが、戦力の増強を選んだので、強行手段を取る事になった。町の破壊を最小限にする為には内部からの破壊工作が成功するかが大きなカギとなる。
「それでは第1部隊出撃します。第2部隊と合流し、今回の戦いでナイシの町を奪還します」
「「おおーーー!!」」
連戦だが部隊の士気がまだ高い事を実感する。アイリー達白嵐騎士団が先頭に立ち、いつもより速度を上げてナイシの町で戦っている第2部隊の元へと急いだ。
(あとは黒騎士が出てくるかどうか)
アイリーの心配はそこにあった。もう一つの作戦であるクザクロの町攻略作戦も順調ではあるが長期戦になっており、そちらに黒騎士が現れたという情報は無い。かといって別の箇所から王国への攻撃に出た情報も無いので、今のところ黒騎士の動きだけがまるで確認出来ていないのだ。
「マスター、また心配事ですか?敵の撃破数は80機を超え、単純な巨鎧の数でもこちらの方が上回っています。町の奪還作戦が失敗する可能性は低いです」
「でも、また前みたいに黒騎士が現れたらどうなるか分からないよ」
「その時は以前立てた戦法でワタシ達で何とかしましょう。マスターが弱気では部隊全体の士気に関わります」
「うん、そうだね。アイ達が頑張れば今回は何とか出来るんだもんね」
イルナの言葉にアイリーは勇気付けられる。白嵐騎士団の誰にも犠牲になって欲しくない。もっと言えば全部隊の被害を出来るだけ抑えたい。3度の攻撃で白嵐騎士団から大きな被害が出ていないのは運が良かったとも言える。そして今回は潜入予定の4機が特に危険が高い。アイリーもそちらに回りたい位だが、イルナは潜入向きで無いし、総司令官が中に入るのも問題だ。そういった意味で今回の作戦はアイリーにとって歯痒かった。
進軍速度を速めたので1時間後位には第2部隊と合流出来た。
「アイリーさん、こちらは小競り合いでなるべく被害を抑えつつ堪えています。第2部隊は73機健在です。指示をお願いします」
「ミシオさん、了解です。
セツさん、王都に最終突撃の確認を」
アイリーは右耳にミシオやゲオードなど、各指揮官や重要配置の者に配られた連絡装置を、左耳に白嵐騎士団に配った連絡装置を付け、切り替えて使っていた。セリュツが王都と連絡を取っている間にアイリーは周囲の状況を確認する。
「マスター、予定通り北から潜入するのが良いかと」
「そうだね、イルナ。あとはみんなに頑張ってもらおう」
「アイちゃん、確認取れたわ。最終突撃OKよ」
「分かった、ありがとう。
ミシオさん、第2部隊は一旦態勢を立て直したのち、正門である西からの総攻撃をお願いします」
「アイさん、了解した。任せてくれ」
「ゲオードさんを指揮官とした攻略部隊は裏門の東から攻撃をお願いします」
「分かった、任せろ!」
「白嵐騎士団並びに潜入補助部隊は予定通りに」
「「はい!」」
そして各部隊が予定通りの行動を開始する。まずは西側で第2部隊と敵の主力が真正面からぶつかる。そして少しタイミングを遅らせて東側でゲオード達橙獅子騎士団を中心とした部隊が攻撃を開始し、そちらにも敵の戦力が割かれていく。その間にアイリー達は迂回してナイシの町の北側へ移動する。潜んでいる敵の見張りを透明化したロガンに乗ったレイネンが先行して倒していく。
「北側の戦力ですが、塀の外に6機、塀の上に10機巨鎧が存在します」
「シンちゃんありがとう。エルは遠距離部隊と力を合わせて塀の上をお願い。ミアンさん達は私と一緒に塀の前の6機を」
「ちょっと待って。
おかしいわ。砦からの定期連絡が来ない」
アイリーが動き出す前にセリュツから連絡が来る。
「セツさんどういう事?」
「砦の途中の魔術型までの連絡は取れるけど、砦の魔術型と連絡が取れないみたい」
「セツ、連絡装置の方は?」
エルータが予備の連絡装置の事を思い出し、確認する。
「うん、こっちも同じ。妨害の魔法か、途中の魔術型が攻撃されたかね。アイちゃん、どうする?」
既に他の部隊は戦闘を開始している。ここで止めたらその被害は無駄になってしまう。かといって何か別の問題が発生したならそれは作戦全体の失敗にも繋がる。
「マスター、ワタシは作戦の続行を提案します。通信妨害をしたという事は敵がそこまで追い詰められたとも取れます」
判断に時間をかけられない。他のみんなに聞くのは責任を逃れるようなものだ。アイリーは考え、決断する。
「作戦は続行します。ただし、何か新しい情報が入ったらすぐに連絡して下さい」
「「了解しました」」
「それでは潜入作戦を開始します!」
アイリーがイルナで先頭に立ち、あえて目立ちつつ北側から現れる。潜入予定の4機はまだ敵の目につかない所で待機をしている。魔術型の巨鎧が潜入する4機に敵のセンサーに反応しにくくなる魔法をかける。これで目視されなければ敵に気付かれる確率がかなり減る。北側には巨鎧が入れる門は無いが、人間用の通用門がある。そこを破壊すれば小型の同化したシリミンや探索型、比較的小さい魔術型のソシアは通れるので、そこから潜入する予定だった。アイリー達は通用門から少し離れた場所で戦闘を開始し、そちらへ目を背けさせるのが目的だ。勿論敵の増援が来る前に全機破壊出来ればそれに越した事は無い。
「みんな、派手に暴れて敵の注目を集めるよ!」
「そういうのならトトリに任せて!!」
ミアンが気合を出し、トトリがそれに合わせる。近接型はイルナを含めた白嵐騎士団の5機に加え、一般兵3機の計8機で6機の敵に対しては十分である。アイリーが射程に入った事でまずは塀の上にいる敵の射撃型、魔術型が攻撃を開始する。アイリー達はそれを避け、防御し、そのまま突き進む。やがて後ろのエルータのオクシオ率いる射撃部隊が攻撃を開始する。アイリー達を攻撃している塀の上の敵を中心に、エルータは敵に気付かれないように自然に通用門の上の巨鎧も破壊する。これで後はセリュツがソシアで通用門付近の巨鎧を操れば気付かれずに潜入出来る筈だ。
「私達も行くよ!」
アイリーはイルナの武器を長剣にして気合を入れて敵を切り裂く。イルナを狙ってきた敵をワイムがヲトリのウィップで怯ませ、そこをミアンのムルージュの槍が貫く。左から来た敵にトトリがナミスのハンマーを大振りでぶち当て、その奥の敵はエトアが乗騎のオースリの斧で叩き潰す。塀の上の巨鎧も4機までに減り、全機撃破も時間の問題だ。
「レンちゃん、行って!」
「はい!」
姿を消したレイネンのロガンが先行して移動を開始する。通用門に魔法の爆弾を仕掛け、爆発したら4機で突入する予定だ。
「マスター、魔法の反応です。恐らくまたテレポートかと」
「白嵐騎士団全機、潜入は中断、戦闘は続行しつつ周囲の増援に警戒して!」
アイリーはイルナの警告を聞き即座に連絡をする。黒騎士が出たのだ。やがて通用門の前辺りに黒い巨鎧の集団が姿を現す。
(こんなところで。いや、違う。このタイミングで来てくれて運がいい!)
町の中に現れて潜入部隊が破壊されるのが最悪のシナリオだ。ここで倒せるならそれに越した事は無いのだ。
「第2部隊、攻略部隊、北側に黒騎士の部隊が現れました。私達で対処するので作戦は続行します!」
「「了解」」
「黒騎士の部隊は潜入部隊以外で攻略法に合わせて対応を。潜入部隊は敵が通用門から離れたら突入を開始して!」
「「了解!!」」
アイリーは連絡しつつ、黒騎士の漆黒の巨鎧の方へと進む。
『また会ったな、白い巨鎧。まだこの町を手放す訳にはいかない。今度は本気で行かせてもらおう』
「私達はもう負けない!」
黒騎士にアイリーは言い返す。
「槍を」
「はい、マスター」
アイリーはイルナの武器を槍に変え、右にミアンのムルージュ、左にワイムのヲトリンを配置する。更に一番右にトトリのナミス、一番左にエトアのオースリが続き、その背後をエルータ率いる射撃部隊が続く。一般兵の3機は残った元々居た巨鎧の相手を続けている。
「本気で行くよ!」
エルータがオクシオで黒騎士以外の巨鎧に向けて巨大な火球を撃ち出す。それに続いて他の射撃部隊の巨鎧も黒騎士以外の巨鎧へ射撃を開始した。そしてナミスとオースリも他の巨鎧が黒騎士との戦いを邪魔しないように突撃する。自然とアイリー達は3対1で黒騎士の巨鎧と対峙する形になった。
『数で押す気か。やってみろ』
黒騎士が大剣を振り回す。アイリーは距離を離し、槍でそれを弾く。攻撃は弾けたが、その威力は凄まじく、アイリーは後ろへバランスを崩す。
「はっ!!」
そこへムルージュが槍を叩き込み、ヲトリンがウィップで攻撃する。槍は黒騎士の巨鎧の肩に当たったが、その装甲の厚さで大した傷は負わせられない。ウィップはうまく避けられ、当たらない。
『中距離から削るつもりか?その威力で我がチグレスを倒せると思うか?』
チグレスというのが黒騎士の巨鎧の名前なのだろう。チグレスの反撃は素早く、ムルージュもヲトリンも避けきれずに傷を負う。こちらが与えるダメージに比べて黒騎士によるダメージの方が大きい。確かに黒騎士の言う通りだった。
「はあああ!!!」
アイリーは気合を込めた渾身の一撃をチグレスに叩き込む。しかし、それはまたギリギリで避けられた。
「かかったわ!!」
『何!?』
ワイムはそこを狙っていた。ヲトリンの1撃目は避けられたのではなく、あえて避けさせたのだ。ヲトリンはウィップを伸ばした状態で地面に設置し、アイリーは敵をそこへ追い込んだ。そしてヲトリンのウィップはチグレスの足に絡み付く。
『ぬぅ!』
ヲトリンの特殊技能が発動し、チグレスは身動き取れない。
「ミアン!」
「はい!!」
そしてミアンはムルージュの特殊技能を発動させた。構えた槍から光るエネルギー弾が発射され、それは動けないチグレスの胸の中央に穴を空けた。
「やった!」
「まだ油断しないで」
アイリーは言いつつチグレスに近付く。エネルギー弾はチグレスの前面装甲から背後のコアまで貫き、丸く穴が開いているのが見える。
「黒騎士の機体のコアが破壊されたのを確認しました。搭乗者は生きています」
イルナに言われて見ると、コクピット内で右に避けたのか、中にいた黒騎士は鎧の左腕が無くなっていたが、確かに生きているようだった。穴から覗く黒騎士の鎧の兜がアイリーを睨んだ気がした。
『そうか、そんな技があったか。楽しませてもらったよ』
「もう巨鎧は動かないわ。降伏して仲間の戦闘を止めて」
『降伏?何か勘違いしていないか。黒騎士は不敗だと聞いているだろう』
「マスター、敵のコアに反応があります。下がって下さい」
アイリーはイルナに言われて後方へジャンプする。するとチグレスは再び動き出し、その大剣がアイリーが居た場所に振るわれていた。そしてアイリーはチグレスに空いた穴がみるみる閉じていくのが分かる。それと同時に黒騎士の無くなった左腕が再生していくのも。
『1撃では俺は倒せんぞ』
「コアごと再生するのが黒騎士の巨鎧の特殊技能と推測出来ます」
「戦法2に移行、ミアンとワイムは下がって。エル、トトリ、エトア、お願い」
「「了解」」
アイリーは動揺しつつも次の戦法に移る。ヲトリンの拘束が効かない場合や、ムルージュの攻撃が外れた場合を想定しての戦い方だ。周囲を確認すると黒騎士の部隊の巨鎧も手強く、特殊技能でこちらの動きを封じる網を出したり、攻撃を反射したりして遠距離攻撃部隊に被害が出ていた。黒騎士1機に手こずれば他の味方の巨鎧も危険だ。アイリーは再度気合を入れる。
「イルナ、大剣に」
「はい、マスター」
アイリーはミアン達が一旦離れられるようにチグレスに突撃する。大剣の一撃はチグレスの大剣に止められ、その反撃でアイリーは後方へ吹き飛ばされる。が、まだ致命傷ではない。オクシオが水の力の射撃でチグレスを怯ませる。そこへトトリのナミスとエトアのオースリが殴りかかる。
『ぬるい!』
チグレスはナミスのハンマーを避け、続いてオースリの斧を受け止め、即座に大剣を振るう。重装甲の両機だが、黒騎士のその1撃により装甲を大きくえぐられた。
「……行く」
エトアが呟いた。そして斧をチグレスに投げ付けた。それは弧を描いてチグレスへと迫る。黒騎士は大剣で飛んでくる斧を叩き落そうとする。しかしその軌道は剣を振るった瞬間に変わった。大剣は空振りになり、斧は再びチグレスへと飛んでいった。これがエトアの巨鎧オースリの特殊技能なのだ。そしてチグレスの左腕は斧によって斬り落とされた。
「続けていくよーーーーー!!!!」
タイミングを計っていたトトリがナミスを特殊技能で全力疾走させる。勢いを乗せたハンマーは左腕が斬り落とされてバランスを崩したチグレスにぶつかった。チグレスは物凄い勢いで町の塀まで吹き飛ばされる。
(今度こそ倒せた?)
アイリーは期待を込めて砂煙を上げて吹き飛んだチグレスの方へ近付く。
『面白い余興だった』
しかしその希望は打ち砕かれた。凹んだ装甲が元に戻り、失った左腕を再生させつつチグレスはこちらへ歩いて来ていた。
「そろそろ潜入開始しないと作戦全体が失敗します」
イルナから通告される。それならば取る道は一つしかない。
「イルナ、能力の解放を」
「本当にいいですか?」
「うん、今やらなければ後悔する」
「分かりました。能力を解放いたします」
「みんな、黒騎士の相手は私がする。全員で潜入部隊のフォローに回って」
「「了解」」
アイリーの身体に力が漲る。イルナが光の剣を作り出す。そしてアイリーは全力で駆け出した。
「はああっ!!!!」
最速で剣を振り下ろす。黒騎士は何とか反応した。しかし、避けきれず、その左肩から下を斬り落とされる。ダメージを負った状態でもチグレスは反撃し、その大剣が凄まじい速さで横に振られる。しかし今のアイリーはそれを避ける事が出来た。
『それが本来のお前の力か。面白い、どちらが先に倒れるか試してみろ』
黒騎士がチグレスを再生させつつ攻撃してくる。今までも凄かったが、それ以上に連続して振るわれる斬撃はアイリーを威圧した。致命傷では無いが、2撃ほど当たり、イルナに傷が出来る。
「マスター、速度もパワーもこちらが上です。焦らず攻撃を」
「ありがとう」
アイリーはイルナに言われて、少しだけ冷静になり、相手の動きをよく見て反撃する。今度はチグレスの足に傷を負わせたが、まだ敵は立っていられる状態だ。アイリーは手を止めずに更に追撃する。チグレスは大剣すらもこちらの光の剣で斬られる事を理解してか、剣では受けず、回避しつつ反撃をしてくる。敵に傷を負わせる事は出来ているが、それはしばらくすると再生する。黒騎士はうまく同じ場所にダメージを負わないようにして何とか凌いでいた。巨鎧の能力もあるが、凄まじい技術だとアイリーは素直に驚く。しかし、こちらが押している事には変わらない。
周りの黒騎士の部隊の巨鎧の数も減り、通用門の爆破が行われたのを横目に確認する。あとは内部からの破壊工作が出来れば、アイリー達の勝ちだ。
『楽しかったが、もう時間だ』
「何を……」
そうアイリーが呟いた時、ナイシの町の上に花火が打ち上げられた。“パーン!!”と破裂音が響き、その音に一瞬戦いが止まる。
「ストルイカ帝国兵、並びにメロガダン王国の者に告ぐ。我はストルイカ帝国皇帝、ウレイユ・ソダシスである。我が軍はメロガダン王国の王都、メロガダンを占拠した。これによりメロガダン王国はストルイカ帝国に屈したこととなる。メロガダン王国の者は武器を捨て、ストルイカ帝国に従うよう勧告する。背くものはその家族を含め命が亡いと考えよ」
それは魔法で拡大された女性の音声だった。声は戦場の全員の耳に届く。アイリーはその言葉の意味を徐々に理解していく。
「アイ、敵の言っている事が正しいかは分からない。惑わされたら負けだ!」
エルータが連絡を入れ、アイリーは頭を振って気合を入れる。
(そうだ、敵がこちらを怯ませる為に嘘を言っている可能性が高い!)
「作戦は続行する。兵が動揺しないよう鼓舞して下さい」
「「了解」」
アイリーは二人の団長に向け連絡し、二人が返事をする。
「白嵐騎士団は潜入作戦を続行。セツさん連絡は?」
「まだ何も。でも、自分は王都が落ちた可能性も考慮した方がいいと思うわ」
「ありがとう。状況を見つつ作戦を継続します」
そしてアイリーは能力の解放が時間切れになる前にと黒騎士のチグレスに再び斬りかかる。
『話が聞こえなかったのか?俺との戦いは確かにお前の勝ちかもしれない。しかし、戦争全体としては帝国軍の勝ちだ。これが戦争だ』
黒騎士は傷付きながらも余裕の声を上げる。その態度はとても虚勢には見えない。アイリーも本当に王都が落ちたのではと考え始める。
「アイちゃん、リムちゃんと経由して連絡が取れたわ。王都が落ちたので全軍に撤退命令を出してと。ガダルザン砦の部隊も既に撤退しているって」
「リムちゃんから?」
リムールからの連絡が来たというのでアイリーは驚く。
「マスター、リムール様と機械での通信が経由されて届いた事を確認出来ました」
「セツさん、他にリムちゃんから何か情報は?」
「巫女の予言で王族や一部の貴族は攻め込まれる前に脱出したらしいわ。リムちゃんも砦と自分達に伝える為に機動馬車で近くまで来て、何とか通信を繋いだようよ」
「分かった。イルナ、大音量でお願い」
「マスター、準備出来ました」
「メロガダン王国全兵士に告げます。私は総司令官のアイリー・クリアロンです。先ほどの帝国側の発表は事実です。王都は帝国の手に落ちました。ただし国王様は逃げ延びておられます。全軍撤退し、生き残り、王都奪還の為に再び集いましょう!」
アイリーは最悪の事態を考えて準備していた言葉を述べる。敵は分かっていたかのように勢いを増し、逃げる部隊へ攻撃を開始した。
「白嵐騎士団撤退!!」
「アイ、ここはあたし達が引き寄せる。潜入部隊の脱出の手伝いを」
「それじゃエル達が危ないんじゃ」
「イルナもそろそろ時間切れだろ、あたしは逃げる分の武装は残してる」
「団長、これ位余裕です」
「部隊を分けて脱出した方が敵も分散して逃げやすいわよ」
エルータに続いてミアンとワイムもフォローを入れてくれる。
「みんな……。分かった、私はレンちゃん達を脱出させてくる。全員生きて合流地点で会いましょう!」
エルータ達5機は残った敵と出てきた敵の増援の相手をしてくれる。アイリーはイルナを通用口へ向かわせ、通用口に寄ってくる帝国の巨鎧の相手をした。黒騎士は余裕なのか、または能力が切れたのかは分からないが、アイリーを追っては来なかった。
「アイさん、潜入部隊は4機とも無事です!」
「ありがとう、レンちゃん。とりあえずリムちゃんの機動馬車と合流しよう」
「団長、攪乱の煙は今使いますか?」
「もう少し他の部隊と近い位置でお願い」
戦場は乱戦となっていた。降伏する者は少なく、後退しながらも一人でも多く生き延びられるよう戦い続けていた。シームがスザフの特殊技能で乱戦の中心付近に目視もセンサーも撹乱する煙を噴出する。これでアイリー達も、他の部隊も多少は撤退しやすくなる筈だ。アイリーはリムールの機動馬車が連絡を送ってきた思われる方へ向かう為、4機の仲間と共に敵に追われつつも北の山道へと進んで行った。




