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5.反攻作戦の始まり

 城に帰還した翌朝、アイリーは紅薔薇騎士団の宿舎の一室を借りて、そこにエルータ達5人を集めた。


「みんな、聞いて欲しい。私はこの後も戦争に参加する事に決めたんだ。でも、それは私の考えで、最初にみんなに話した事と違う。だからみんなにはこのタイミングで抜けて貰ってもいいと思う」


「あたしは前から話してる通り、アイに付いて行くよ。でも、その前に聞かせて欲しい。どうしてアイが引き続き戦争に参加する気になったかを」


 エルータが真面目な顔で問いかける。確かにその通りだとアイリーは思った。


「うん、そこからだよね。私は戦争が嫌いなのは変わらない。でも参加してみて、今国が危険なのをより感じたし、私でも出来る事があると分かった。何より町の人や他の兵士が砦を取り戻した事に喜んでいるのを凄い感じた。私にどこまで出来るかは分からないけど、戦争が終わる目処が付くまで私も力を貸したいと思ったんだ」


「そっか。うん、アイの気持ちは分ったよ」


「わたくしもアイさんに付いて行きますわ。ですが、わたくしはルルトが直るまでしばらくお役に立てないと思います。ですから、他の騎士団との話し合いや城での事など色々頼って下さい」


「わたしはリム様の分まで戦います。何でも言って下さい」


「ありがとう、エル、リムちゃん、レンちゃん」


 3人の答えは何となく分かっていたが、それでもその気持ちを感じ取れアイリーは嬉しかった。


「ボクもアイお姉ちゃんに付いて行く。もっと役に立てるようになる」


「自分は昨日話した通りよ。アイちゃんが団長をやってくれるならそれに付いて行くわ」


「シンちゃんもセツさんもありがとう。じゃあチーナさんに話してくる。みんなは待ってて」


 アイリーはみんなを置いてチーナの元へと向かった。チーナは部屋にはおらず、居場所を他の騎士団員に聞くと格納庫にいる事が分かった。アイリーは格納庫へと向かう。


「チーナさん」


「ああ、アイリー殿。砦戦お疲れ様でした。予想以上の活躍だったみたいで私も嬉しいです」


 格納庫で巨鎧の整備をしていたチーナが笑顔で答えてくれる。


「いえ、お貸し頂いたみんなも頑張ってくれましたし。でも、ツムリンさんの事は申し訳ないです」


「戦って死ぬ事は騎士としては申し分ない死に方です。みんな覚悟は出来ています。それにあの黒騎士相手で、被害が1人で済んだのはアイリー殿のおかげです」


 アイリーは言われて黒騎士の事を思い出す。そしてもう負けないと心の中で誓う。


「それでわざわざここまで来たのは何か用があるのでは?」


「あの、私達は引き続き戦争に参加する事を決めました。なのでそのご報告をと」


「そうですか、それは姫様も喜びます。私も嬉しいです。次の作戦の準備をしている所なので、早速アイリー殿達にも参加して貰いましょう」


 そしてしばらくしてアイリー達は再び城の応接室に案内されたのだった。アイリー達以外に集まったのは姫騎士メレルが一番奥に座り、アイリー達が座っている対面の左奥の角の右から巫女ルルン、軍師グスト、チーナと並び、その横にここでは初めて見る若い男の騎士が座っていた。確か昨日のパーティで会った、土犀騎士団の団長でミシオとかいう名前だったとアイリーは思い出す。そういえばルルンとグストはパーティには居なかったなとも思った。


「みなさんお集り頂きありがとうございます。まずは怪我の為長期間不在だった事をお詫びいたします。そしてアイリーさん、引き続きご助力頂けるそうで、大変嬉しいです」


「いえ、私なんかで出来る事はそんなに無いかもしれませんが、少しでも力になれればと」


「皆さんのご活躍、わたくしも聞かせて頂きました。わたくしが呼び寄せた皆さんが国の為に戦ってくれて嬉しく思います。本当にありがとうございます」


「いえ、そんな……」


 アイリーはメレルとルルンに褒められて照れてしまう。


「僕もここまで順調に行くとは思っていませんでしたよ。黒騎士が出てきてこの被害数とは素晴らしいです」


「どうも」


 グストは相変わらず素直に嬉しい褒め方はしてくれない。


「昨日お父様、ではなくて国王陛下も言っていたけれど、アイリーさん達のおかげで国内は盛り上がり、兵士の士気も上がっています。ですので、この機会に国境まで領土を取り戻し、出来れば帝国との戦争も終結させたいと考えています」


 メレルが姫というよりは騎士団長である姫騎士の顔に変わっていく。


「本当は巫女の予言を受けて作戦を立てたいところなのですが、残念ながらこのところ予言は特に無いそうです。ですのでグストさん達と話し合い、今後の大まかな対応を考えました」


「では、細かい説明は僕の方から。敵に占拠された場所を取り返すだけの今までのやり方では勢いのある帝国に勝てないのは明らかです。なので、今回は2つの作戦を軸に進め、帝国を疲弊させる事を目的とします。1つ目の作戦はガダルザン砦の先にある、元王国領の町、ナイシを取り返す為の作戦です。ナイシの町は現在の帝国の前線基地としての役目を果たし、帝国皇帝がこの町にいる事が多いという情報もあります。ナイシの町にはもちろん元々住んでいた王国民も多くおり、町をなるべく傷付けずに取り返す事が重要です」


 グストが説明を始める。アイリーもナイシの町がそれなりに大きい町だと聞いた事があり、帝国に奪われたと聞いた時は驚いた記憶がある。


「そしてもう一つの作戦は南東にある帝国領のクザクロの町を攻める事です。今まで南東については南の同盟国であるピーチオル教国との関係もあり、帝国との国境付近でのせめぎ合いのみに終始してきました。帝国は自国領まで王国が攻めてくるとは考えておらず、クザクロの町が抑えられれば帝国首都への攻撃も可能になる為、今までの攻勢を続ける事が出来なくなります。つまり、ナイシの町の奪還とクザクロの町への進攻を同時に行う事で、攻めの姿勢だった帝国軍を守りに移らせ、疲弊させ、戦意を落とす事が真の目的です」


「帝国は今は勢いがありますが、お金に任せて優秀な人材を使っている関係上、長期戦になれば帝国側が不利になります。また、実力主義で進めているので内部での反発も出て来ていて、内乱が起る可能性も高いのです」


 メレルがグストの言った事を補足する。アイリーはグストの言う事を一生懸命理解しようとした。しばらく他の人も喋らず、頭を整理しているようだった。


「本当にこの作戦で敵の進攻は止まるのか?こっちが攻撃をしかけたタイミングで反撃されてそのまま攻められる、なんて事にはならないか?」


 エルータは疑ってかかっているようで、反撃の心配をする。


「勿論相手が反撃をしてくる可能性は考えています。王都やガダルザン砦、南東にも守備戦力は十分残すつもりです。そもそも今回の2つの作戦は物量で相手の都市を落とすのではなく、タイミングを合わせて攻撃を仕掛ける事で相手を揺さぶる事が重要です。そういった意味で、魔法での情報の連携を強化し、その情報をここで取りまとめ、仕掛けるタイミングや引くタイミングを調整するつもりです」


「魔法での連絡頼みだと魔法の妨害や傍受された時に危険があるんじゃない?」


 この中で一番魔法に詳しいだろうセリュツが聞き返す。


「聞かれてもいい情報はそのまま流しますが、タイミングなどは暗号で伝えます。妨害については機械の通信装置を保険に持たせる事で対応出来ると考えています。まあ、妨害するにも敵の魔術師が近くに来なければ出来ないので、そういった敵のスパイの監視も強化しますよ」


「少し不安だけど分かったわ。まあ、連絡が取れなくなれば逆に危険だと分かるし、余り心配し過ぎてもしょうがないわね」


「帝国の進攻時の手際の良さは魔法などでの情報のやり取りがうまく行っている事も大きいと考えています。この間の砦戦の黒騎士の部隊の移動もそうした情報が届いたからの行動でしょう。黒騎士の部隊のテレポートと思われる移動はかなり問題ですが、今のところ大量の機体を移動させる事は出来ないようなので、どこに現れても対処出来る準備だけはしておきましょう」


 グストから黒騎士の話が出たので、アイリーはここぞとばかりに手を上げた。


「一つだけお願いがあります。黒騎士の相手は私達にやらせて貰えないでしょうか」


「アイさん?」


 仲間にも話していなかった事なのでリムールが発言に反応する。


「黒騎士に恨みがあるのはアイリー殿だけではない。戦争に私怨を持ち込むのは危険ですよ」


「チナ、話を聞いてみましょう。どうしてアイリーさんは黒騎士と戦いたいのですか?」


 チーナがきつめな返しをしたところをメレルが止めてくれる。


「失礼な申し出だとは私も思っています。でも、砦戦で黒騎士と戦ってみて、その危険性をとても感じました。戦争は作戦次第で進むものだとは思いますが、それでも黒騎士の介入で大きく揺さぶられる可能性があると思います。ですので、私は黒騎士の攻略法を考え、その不安を取り除きたいと思ったのです」


「面白いじゃないですか。僕も黒騎士の部隊がどこに現れるかの懸念をしていましたので好都合です。白嵐騎士団の所に現れるとは限りませんが、可能性が高い方へ白嵐騎士団を配置しましょう。出てきた際はその攻略法でなるべく早く黒騎士の部隊を排除して下さい」


「グストさんがそう言うのであれば、私はそれで構いません。チナもそれでいいわよね?」


「まあ、そういう話であるなら私もいいと思います」


 メレルが仲介してくれ、チーナも一応アイリーの話を納得してくれたようだ。それからグストを中心に具体的な部隊の割り振りなどの話になった。

 ナイシの町の奪還作戦には白嵐騎士団、橙獅子騎士団、土犀騎士団の3騎士団を中心とした部隊で行う事に決まった。また、紅薔薇騎士団はクザクロの町の攻略作戦の中心部隊になった。総戦力的には二つの作戦は同じ位で、どちらも150機ほどの巨鎧で戦う事になる。アイリー達白嵐騎士団は現在11機だが、更に増やす事をメレルに提案された。少し考え、アイリーはそれを断った。ようやく紅薔薇騎士団から派遣された騎士達の特性が分かった所なので、人数が増えても逆にやり辛くなると思ったからだ。

 そうして大体の作戦の内容が決まっていった。


「ナイシの町の奪還作戦の総司令官はアイリーさんに任せたい」


「私ですか?経験豊富なミシオさんの方が適任では?」


 ナイシの町の奪還作戦は2部隊で交互に攻める予定で、それぞれの部隊の司令官として土犀騎士団のミシオとアイリーの二人に決まったのだが、総司令官は決まっていなかった。アイリーはてっきりミシオがやると思っていたので、最後にミシオから推薦され反論してしまう。


「そうですねえ、経験より勢いのあるアイリーさんがやった方がいいかもしれませんね。じゃあ、そうしましょう」


「分かりました、皆さんが言うのでしたら引き受けます」


 グストにまで言われたのでアイリーは覚悟を決めた。


「あと、先ほど話しましたが、今回の作戦はタイミングなども重要になります。連絡指示は魔術師を中心に行いますが、白嵐騎士団への連絡はセリュツさんにお願いする、という事でいいですか?」


「自分ですか?まあ、伝達系の魔法もそれなりに得意なので、了解しましたわ」


 聞く方に回っていたセリュツが突然話を振られた形で、驚きながらも対応する。確かにセリュツがやってくれるとアイリーも安心感があった。


「一通り決まりましたね。作戦開始は明日になります。今日は皆さんゆっくり休んで、明日はよろしくお願いします」


「「はい」」


 最後にメレルが纏め、会議は終了した。

 アイリーは紅薔薇騎士団の宿舎に戻った後、白嵐騎士団のメンバーを一室に集めた。


「既に連絡は行っていたと思いますが、再びこのメンバーで白嵐騎士団として作戦に参加する事になりました。紅薔薇騎士団から一時的に移籍して貰っている皆さんは姫騎士様も戦線に復帰し、紅薔薇騎士団も本格的に作戦に参加する事になったのに戻してあげられずに申し訳ないです」


「アイリー団長、そんなこと言わないで下さい。わたし達はどの部隊だろうと国の為に戦える事を誇りに思っていますし、白嵐騎士団は素晴らしい騎士団だと考えています」


「ミアンの言う通りだな」


 ミアンとシームは好意的な反応をしてくれた。


「トトリも白嵐騎士団に来て良かったと思ってるよ。暴れやすいし」


「まあ、トトリちゃんの言う事は置いといて、白嵐騎士団の雰囲気は私達に合ってると思うわ。勿論紅薔薇騎士団が素晴らしく、紅薔薇騎士団の一員だという事はみんな忘れていないわよ。それに……」


「それに?」


 ワイムが口籠ったのでアイリーは聞き返す。


「……いずれ分かる事だし隠す事も無い。私達は元々紅薔薇騎士団では浮いていた」


「そうなのか?」


 エトアの言葉にエルータが反応した。


「まあ、ね。みんな能力は認められているわ。一緒にいて分かったと思うけど、少し癖のあるメンバーが私達で、紅薔薇騎士団としても扱いに困っていたのは事実よ」


「私はみんないい人で、そんな事無いと思う」


 アイリーはワイムの言葉に素直に返す。


「自分も含めてアイちゃん達がそもそも癖があるから、気にならないって事だと思うわよ。まあ、そういった意味でもここにいるみんなは息が合ってるって事じゃない。いい事なんじゃないの?」


「そうですわね。わたくしも紅薔薇騎士団は素晴らしい騎士団だと思っていますが、紅薔薇騎士団では出来ない事をわたくし達でやり遂げればミアンさん達が戻った後も紅薔薇騎士団での位置づけが変わるかもしれませんわ」


 セリュツもリムールも好意的な反応をする。


「そうですね、ありがとうございます。わたし達も一目置かれるように頑張ります」


 ミアンが代表して返事をした。そしてアイリー達は先ほど話し合った作戦の内容を伝える。


「ここまではメレル様達と話し合った内容です。それで、ミアンさん達にはもう一つ、伝えておきたい事があります」


「なんでしょうか?」


「黒騎士が出てきた時の対応です。私は今度黒騎士が現れたら、黒騎士を倒すつもりでいます。ただ、それは私一人の力では出来ません。白嵐騎士団みんなの力を合わせて、倒そうと考えています」


 アイリーはここでイルナと話し合った内容を説明した。勿論全員がそのタイミングで戦える場所にいないかもしれないが、それを含めてどうするかまで話し合う。アイリーは話しながらリムールの表情が少しだけ暗い事に気が付いた。ルルトの修理がまだ終わっておらず、次の作戦へは不参加の状態だからだろう。


「黒騎士は強く、また被害が出るかもしれない。そもそも黒騎士が現れない可能性も高いです。それでも、黒騎士が現れた時、今言った方法で戦えるよう、準備しておいて下さい」


「「はい!」」


 黒騎士の話で話し合いは終わり、その頃には夕飯の時間が近付いていた。アイリー達は浴場で身体を洗ってから宿舎の食堂で夕食を取ったのだった。

 夕食後、以前と同じようにアイリーはリムールに呼び止められた。そのまま前と同じように城のテラスまで案内される。外は前回と同じく夜空に綺麗な星が輝いていた。


「アイさん、ごめんなさい。わたくしも作戦に参加したいのですけれど、ルルトの修理にはまだ数日かかるそうで、途中参戦も難しいかもしれません」


「謝る必要なんてないよ。リムちゃんは黒騎士を倒そうと必死だったし、あんなに強かったら勝てなくても仕方が無かったよ」


 謝罪から始まったリムールの言葉をアイリーは否定する。


「姫騎士様との話し合いで黒騎士の話をしたのもわたくしの件があったからですわよね?本来チナに叱られるのもわたくしの役目でした。わたくしこそ私怨で戦い、ツムリンさんを犠牲にしてしまいましたもの。他の紅薔薇騎士団の方だって姫騎士様が敗北した事への報復がしたかった筈ですのに」


「リムちゃんはメレル様の事を思って戦ったんだし、それは悪い事じゃ無いと思う。それに、あの状況で一番黒騎士に近い位置にいた訳だし。もしリムちゃんが戦ってなければ私が戦ってたと思うし、そうしたら油断して私が負けていたかもしれない」


「アイさんは本当に優しいんですね。やはりアイさんと一緒にいられて良かったと思いますわ。わたくしの分まで頑張って下さい。その間わたくしは皆さんの無事をお祈りいたします」


 リムールはいつにも増してしおらしく見え、アイリーはそんなリムールが綺麗だな、と思った。


「分かった、リムちゃんの分も頑張ってくる。みんなもいるから心配しないで」


「では、わたくしがおまじないをして差し上げますわ。絶対に無事に帰って来れるおまじないを」


「本当?じゃあ、お願いしようかな」


「アイさん、目を瞑って下さいな」


 アイリーは言われた通り目を瞑る。両肩をリムールに掴まれ、リムールが自分に近付いているのが分かる。そして唇に柔らかい感触が押しあてられた。驚いて目を開けると目の前にリムールの顔があった。


(キス!?)


 ゆっくりとリムールの顔が離れる。アイリーは驚いて言葉が出ない。


「今は何も言わないで……。苦情は生きて戻ってきたら聞きますわ」


 リムールは足早にテラスから離れていった。その顔が真っ赤だったのをアイリーは横目に見たのだった。


(どうしよう……)


 シリミンに告白されて、女性同士の恋愛もあるとは思っていたが、まさかリムールがこうした行動をするとアイリーは思っていなかった。アイリーももちろんリムールの事は好きである。でも、それは恋愛感情ではないと思っている。本当にただのおまじないで、からかってこんな事をしたのかもしれない。でも、その真意を今は問い質す事は出来ない。アイリーは自分の頬を軽く叩いて気持ちを切り替える。


(とにかく生きて戻ろう。そしてその時確認しよう)


 アイリーは星空の輝くテラスを離れ、自室へと歩き出した。


「あ、アイ!」


 と、突然通路で呼びかけられ、ビックリして振り向くとそこにはエルータが立っていた。


「エル!?もしかして見てた?」


 アイリーはキスされた時以上に心臓がバクバクしていた。もしエルータに見られていたのならとても恥ずかしいと思ったからだ。


「何が?アイに話したい事があって、部屋に行ったらいなくて。探してる途中で会ったレンに聞いたら、恐らくテラスの方だって言ってたから」


「そっか。さっきまでリムちゃんとテラスで話してたんだ」


 アイリーは動揺を隠しながら話す。エルータにおかしなところは無く、リムールとのやり取りは見ていなかったようだ。


「そう、リムは次の作戦に参加出来ないからね。あたしもアイに話があるんだ。どこか二人きりで話せる所がいいな」


「だったらアイの部屋でいい?」


「ああ」


 アイリーはエルータを宿舎の自室に連れて行き、部屋にある椅子に向かい合って座る。


「話って?」


 アイリーはリムールとの件があり、エルータも変な話をして来たらどうしようと少しだけ心が乱れていた。


「前にも同じ事を言ったと思うけど、今後の戦争で何が起こるか分からない。アイは危ないと感じたら、ちゃんと逃げて欲しいってもう一度言っておきたかったんだ」


 エルータが真面目な顔で話し出したのでアイリーの気持ちも引き締まった。


「ごめん、私は逃げたくないと思ってる。今は作戦の総司令官だし、総司令官が逃げたら全部が終わるって分かってるから」


「やっぱりそっか。こんな事になるんじゃないかと思ってたんだ。悪いけどアイは色々と真面目に信じ過ぎてる。軍師のグストはとても怪しいとあたしは思ってる。確かに頭は切れるし、前の作戦は完璧だった。でも、あいつはあたし達が死のうが作戦失敗しようが、気にしない。違う人でやり直せばいい位に思ってる。使い捨ての駒にされるのはあたしは勘弁だ」


 エルータもイルナと同じような考えなんだな、とアイリーは話を聞いて思った。アイリーも信用してる訳ではないが、疑ってかかったら作戦は失敗すると思っている。


「えーと、なんて言えばいいかな。勿論アイだって周りの人みんなの言う事を信じてる訳じゃないよ。でも、話し合って決まった事だし、それは全力でやりたいって考えてる。そして、エルちゃんは勘違いしてると思う。アイは犠牲になって死んだりしないよ。村を出る時お母さんと約束したから。犠牲にはならないけど、みんなが助かる道は最後まで探し続ける。それが戦争に参加した私の今の決意だよ」


「分かった。じゃあ、あたしはそんなアイを支え続けるよ。いざとなったら作戦も他のみんなも無視して、アイを助けようとする。いいよね?」


「うん、アイもやりたいようにしてるんだし、エルも好きにして欲しい。でも、エルが危ない目にあったらアイも助けるからね」


 そう言ってお互い少しだけ笑顔になる。やはり昔からの親友なだけはある。エルータには言わないが、信頼出来る仲間がいる事がアイリーは本当に嬉しかった。


「じゃあ、お互い生き残れるおまじないをしよう」


「おまじない?」


 リムールに続いてその言葉が出たのでアイリーは身構えてしまう。


「うん、立って」


 アイリーは言われて立ち上がる。エルータは自然にアイリーに近付いた。アイリーの身体は強張る。エルータはアイリーをギュッと抱き締めた。アイリーは金縛りにあったように動けなかった。エルータはすぐにアイリーを解放し、さっと離れる。


「お互いこの感触を覚えていれば、きっと大丈夫。じゃあ、お休み」


「うん、お休み……」


 エルータは笑顔でアイリーの部屋を出ていった。アイリーは一人残された部屋で早くなった心臓の鼓動をしばらく聞いていたのだった。


********


 王都に帰還してから二晩経った朝、アイリー達は紅薔薇騎士団の格納庫に集まって出撃の準備をしていた。


「団長、ちょっと来て下さい」


 ミアンに引っ張られてアイリーはミアン達の巨鎧が並ぶ区画まで移動する。


「この色は……」


 ミアン達の巨鎧の装甲は今までの紅薔薇騎士団の紅色ではなく、イルナに似た白色をベースにした色を基調に変更してあった。


「折角だからこの色にしようってみんなで決めたんだ」


「あたし達の士気もその方が上がると思ってな」


 トトリとシームが自慢気に言う。


「みんな、ありがとう」


「わたし達は白嵐騎士団の一員としてアイリー団長にこの身を捧げます」


「分かった。みんなの命、私が預かります」


 アイリーはミアン達の気遣いが嬉しかった。そして、なるべく被害は抑えたいと心に決めたのだった。


「アイさん……」


 イルナの所に戻るとそこにはリムールが立っていた。その表情はやはり少し暗い。


「リムちゃん、もう出発するね」


「はい、わたくしはここで待っています。皆さんのご無事とご健闘を祈りますわ」


「うん、行ってくる」


「行ってらっしゃいませ、アイさん」


 アイリーはリムールに見送られてイルナに乗り込み、戦場へ向けて出発した。アイリーがナイシの町奪還作戦の総司令官になった為、アイリー達白嵐騎士団が先頭に立って進む事になる。部隊は今までで一番の大所帯になり、イルナに乗ったアイリーがその先頭に立つのは少し気恥ずかしかった。王都の市民達はアイリー達の見送りにも出てきており、王都全体の士気が高いのも見て取れた。

 王都を抜け、まずは拠点となるガダルザン砦まで再び向かう事になる。イルナには既に作戦の説明はしており、アイリーは作戦自体に不安はあまりなかった。大勢の人を率いる事も大分慣れてきた。そんな中アイリーの頭の中にあったのはリムールとエルータ、二人の昨晩の行動だった。二人とも普通の好意とも取れなくは無いが、特にリムールとのキスはさすがにそれだけとは言い難い。


「マスター、何か心配事ですか?」


 移動はオートでイルナ任せだったので、思いを巡らせるアイリーがイルナは気になったのだろう。


「えーと、大丈夫。作戦になったらちゃんとするから」


「ワタシに出来る範囲でしたら相談に乗ります」


「うーん、イルナじゃ難しいかな。前のシンちゃんとの話と似た話だし」


「また告白されたのですか?マスターはモテるんですね」


 イルナの言葉は本気か冗談か分からない。いや、イルナは機械だから冗談は言わないか。


「そうなのかなあ。うーん、二人とも親友だし、そうじゃないと思うんだけどなあ」


 アイリーはほぼ独り言を言う。友情としての親愛と恋愛としての親愛の違いはイルナに聞いても分からないだろう。


「マスターが優しいので、皆さんが信頼し、好きになるのではないでしょうか。ワタシもそう言った意味ではマスターの事が好きです」


「ありがとう、イルナ。イルナが人間だったら良かったのになあ」


 他の仲間にこの話は相談出来ないし、イルナが人間だったら色々相談出来て良かったのにとアイリーは思ってしまう。


「残念ながらワタシは機械です。ですが、色々知識を蓄えて、適切な回答ができる日が来るかもしれません。どんな些細な事でも話して頂ければワタシは嬉しいです」


「そうだね。でも、今は作戦前だし、この話は落ち着いたらするよ」


 アイリーは気持ちを切り替える。イルナと話していると気持ちが少し楽になる。それと同時にどこか胸の奥に痛みがある事をアイリーは感じていた。


********


 昼過ぎにガダルザン砦に着き、各騎士団の代表者を集めて簡単な会議が行われた。アイリーは自分の他に客観的に状況を理解出来るセリュツを副団長として連れて来た。土犀騎士団からは騎士団長のミシオが、橙獅子騎士団からは騎士団長のゲオードと副団長のテオムが、砦の護衛の碧鋼騎士団からは副団長で砦の守備の代表者のカリスが参加した。

 作戦の概要をカリスに説明し、しばらく大人数が滞在する事を告げる。ただし作戦の詳細についてはカリスにさえ秘密とした。あくまで砦まで敵が攻めて来た時、こちらの指示に従って戦ってもらうという事を告げた位だ。人数が増えると食料などの補給が重要になり、王都までの補給路の確保も碧鋼騎士団の仕事になる。カリスは嫌な顔一つせず、与えられた役割を果たす事を了承した。


「最初の攻撃は私達第1部隊で行います。ゲオードさん、テオムさん、今回もよろしくお願いします」


「ああ、任せてくれ」


「また白嵐騎士団と戦える事を橙獅子騎士団のみんなも喜んでいましたよ」


 ゲオードとテオムが応えてくれる。アイリーにとっても共に戦った事のある人たちと同じ部隊なのは心強かった。


「では土犀騎士団は砦で待機しています。何かあれば魔法で連絡して下さい」


「分かったわ。今回は魔法での連絡が重要なので、砦側で王都との連絡が途絶えたらすぐに連絡してね」


 二つの作戦を繋ぐのが魔法での連絡で、それは王都まで途中途中に魔術型の巨鎧を仲介する事で可能になっている。それが途絶えるという事は何かしらの敵襲があった事になる為、その情報の連携も重要になる。


「では皆さん、力を合わせて頑張りましょう」


「「はい!」」


 アイリーが締めて会議は終了した。アイリー達は少しだけ休憩してからナイシの町へと向かった。途中セリュツが魔法で連絡を受けていて、もう一つのクザクロの町進攻作戦の方も順調に進んでいるという事だった。一同は町まで2000メートル手前で止まる。あとは王都の合図に合わせて各作戦を開始するだけだ。


「リムちゃん、シンちゃん、シームさん、準備をお願いします」


「「はい」」


 今回も最初はリムールとシリミンが動く事になる。それに加え、リムールと同様に探索型の巨鎧、スザフを持つシームにも動いてもらう事になった。スザフの特殊技能は敵を撹乱する煙を発生させると説明を受けたので、今回の作戦に適任だとアイリーが判断したのだ。最初の一手は総力戦ではなく、相手を町からおびき寄せ、可能な限り数を減らす事にある。そして、なるべく被害を抑えて撤退する事。アイリーは今回は武器を振るわない可能性すらあった。


「アイちゃん、司令本部から連絡が来たわ。作戦を開始してって」


「了解、セツさんありがとう」


 アイリーは呼吸を整え、部隊全体に声が聞こえるようにする。


「これよりナイシの町奪還作戦の1回目の攻撃を開始します。皆さん指定の位置で待機して下さい」


 アイリーの言葉を聞いて部隊がそれぞれ動き出す。アイリーはなるべく全体が見えるように前方へと移動する。


「シンちゃん同化をお願い」


「分かった」


 シリミンは下着になってスーライと同化する。そしてシリミンのスーライを中心に、レイネンのロガン、シームのスザフが全体の先頭に立つ。今回は敵を陽動する為の作戦なのでロガンも姿を現している。


「魔法強化部隊の方達お願いします」


「「はい」」


 部隊に参加した魔術型と神官型の巨鎧からスーライ達3機に魔法防御と物理防御の向上の魔法がかけられる。これである程度の射撃型と魔術型の攻撃は耐えられる筈だ。


「じゃあシンちゃんを先頭にナイシの町まで突撃開始!」


「「了解!!」」


 スーライが駆け出し、その少し後ろをロガンとスザフが付いて行く。他の機体は町がギリギリ見える位置で待機したままだ。町は既にアイリー達の部隊の存在は感知していて、町のこちら側の壁の上に射撃型や魔術型が並び、町の外にも数十機の巨鎧が既に待機している。最初にスーライが敵の射程距離に入り、敵から魔法と射撃が飛んでくる。スーライはその位置で止まり、風の力で射撃を防ぐ突風を吹かせる。そしてその後ろから来たロガンとスザフは手に持った筒状の物を敵の巨鎧の方へ複数投げた。それは敵の周辺で爆発し、炎上する。爆発の魔法が込められた筒状の魔法爆弾だ。いくつか敵の巨鎧に当たりダメージを与えたが、それが致命傷になる巨鎧はいない。もちろんそこまでの効果を狙ったものでは無く、敵を挑発する為の武器でしかない。


「全弾投擲完了しました、シン様戻りますよ」


「うん」


 レイネンが連絡をして3機は即座に引き返す。射撃はスーライの魔法のおかげで当たらず、魔法も魔法防御向上のおかげで3機に大きな影響は出なかった。敵もやられてそのままではいられず、町の中から出てきた巨鎧も含めて40機ほどがスーライ達を追ってくる。


「全軍後退、敵の射撃と魔法に気を付けて」


 スーライ達が距離20メートル位まで近付いた所でアイリーは部隊を後退させる。見たところ敵に黒騎士も灰狼騎士団の団長の巨鎧もいないので、あくまで町の護衛用部隊なのだろう。ここで敵が引き返せばまた作戦が変わるが、敵はこちらの挑発に乗ってくれて、近くの森の辺りまで追ってきた。


「全軍反転、攻撃開始!!」


 アイリーはそこで止まり、敵の方へ向きを変える。そして森の中に隠れていた、エルータのオクシオなどの射撃型、セリュツのソシアなどの魔術型が遠距離攻撃を開始した。敵は突然の反撃に怯み、混乱する。そこへアイリーのイルナを先頭に近接型の巨鎧が襲い掛かった。アイリーはイルナの武器をハルバードにし、中距離から敵の巨鎧を斬り付ける。ミアン達白嵐騎士団の巨鎧もそれに続いて協力して敵の巨鎧を破壊していく。


「全軍撤退!!」


 敵のリーダーらしき巨鎧から声が響き、敵の巨鎧が逃げ始める。


「深追いせず、出来る範囲で破壊して下さい」


 敵が別の部隊と合流されると厄介なので、アイリー達近接型の巨鎧は敵を追う事はやめ、主に遠距離攻撃出来る巨鎧が逃げる敵を倒していった。そして近くには敵がいなくなる。


「マスター、こちらの損害は中破2機、大破0機、敵の撃破数は15機です」


「うん、最初にしては上出来だね」


 アイリーはイルナの報告を聞いて被害が少なくてホッとする。そしてまた全軍に向けて声を出す。


「今回はここまでです。敵の伏兵に気を付けつつ砦まで戻ります」


「「はい!!」」


 アイリーの声に周りの巨鎧の兵士達が反応する。声を聞く限り、全体の士気が高いのがアイリーにも分かり、順調な出だしだと嬉しくなったのだった。

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