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4.戦勝の宴

 勝利が確定した後もしばらく慌ただしかったが、今回の功労者であるアイリー達白嵐騎士団のメンバーは周りに気遣われ、ガダルザン砦の一室で休んでいた。砦の警護や戦場の後始末等、やる事は山のようにあるが、実際疲れていたし、リムールの容態も気になったので提案を受け容れる事にしたのだった。

 勝利宣言の後、すぐにレイネンがロガンでやってきて、リムールを急いで補給部隊に運びこんだ。補給部隊の回復魔法でリムールの傷は治り、しばらく安静にする必要はあるものの、大きな怪我は負っていなかったそうだ。ただし、乗っていたルルトの方はしばらく修理に時間がかかるという事だ。レイネンは今もリムールに付き添い面倒を見ていて、今回大活躍だったシリミンは今はアイリーの膝の上で眠っている。セリュツも魔力を使い果たしたようでぐったりしていて、比較的元気なエルータが飲み物や食べ物を部屋に運んできてくれた。

 アイリーが聞いた砦戦の被害と戦果は、自軍は中破18機、大破11機に対して、敵軍の撃破数は85機と前回の戦いに比べても圧勝だったのは確かだった。特にアイリー達白嵐騎士団は黒騎士にやられたツムリンの巨鎧1機の大破とリムールとシームの巨鎧2機が中破しただけで、12機中9機健在という驚異的な生還率になった。もちろん橙獅子騎士団に危険な役割をしてもらった事も大きいが、最終的に生き残ったのはアイリー達の実力があったからなのは誰の目から見ても一目瞭然である。ツムリンが戦死した事はショックだったが、リムールの怪我が小さく、巨鎧が中破したシーム本人も怪我は大した事が無かったのは幸いだった。何よりアイリーは想定以内の被害で作戦が成功した事が何より嬉しかった。

 しばらくすると“コンッコンッ”とアイリー達が休んでる部屋の扉がノックされる。


「どうぞ」


 アイリーが返事をすると二人の中年の男が入ってきた。一人は屈強な橙獅子騎士団の団長、ゲオードだった。


「一言だけ言っておこうと思ってな。出撃前にバカにして悪かった。あんたらの実力は認める……」


 アイリー達の前に来るとゲオードはそう言って強面のまま黙ってしまう。


「すみませんねえ、うちの団長はこう見えて結構繊細なところもあるんです。戦いが終わった時はべた褒めだったんですよ。戦場の女神だとか」


「おい、テオム、てめえ」


「あ、ご挨拶がまだでしたね。あたしは橙獅子騎士団副団長のテオム・ドドシロと申します。団長共々今後ともよろしくお願いしますね」


「……まあ、いい。とにかく俺もあんたらの事は認めた。何かあれば手を貸すから言ってくれ」


 そう言ってゲオードは立ち去っていく。ひょろ長い印象のテオムは頭を下げつつそれに付き従って出ていくのだった。


「男ってやっぱり勝手だよねえ」


「認めてもらえたみたいだし、いいんじゃないかな」


 侮蔑の表情をするエルータをアイリーが宥める。アイリーにしてみれば橙獅子騎士団の人達はきちんと作戦通りに行動してくれて、結果を出してくれたので感謝しかなかった。

 そうしてしばらく休んでいると“コンッコンッ!”と再び扉がノックされる。今回は前よりノックが激しい。


「はい、どうぞ」


「失礼致します。敵襲です、アイリー様、ご指示をお願い致します」


 入ってきた兵士は早口で問いかけてきた。


「敵襲ってストルイカ帝国?もう反撃してきたのか?」


「いえ、違います。北東に大型機獣が数体現れ、こちらに向かっているのを偵察兵が発見しました」


 エルータの問いに兵士が答える。アイリーは帝国の部隊で無くてよかったと思った。そして、どうすれば最低限の被害で対処出来るかを考える。橙獅子騎士団の部隊は機獣戦の経験が分からないし、砦の防衛から動かしたくない。そうなるとアイリー達白嵐騎士団で討つのが妥当だが、オクシオは精霊力の回復中、ルルトも修理中でロガンは万全だがレイネンは砦戦で無理をして貰って、今はリムールの手当てをしている。シリミンも砦戦で無理をさせたのでこのまま休ませたいし、セリュツも魔力の回復中だ。となると動かせるのは……。


「ミアンさん、トトリさん、ワイムさん、エトアさん、機獣の掃討の手伝いをしてもらえますか?」


「勿論です!」


「任せて!!」


「私で良ければいつでも使って頂戴」


「……分かった」


 4人は即座にいい返事を返してくれた。


「アイ、あたしも行くよ」


「エルはオクシオの精霊力が戻ってないでしょ。大丈夫だからシンちゃんの面倒を見てて」


「……ボクも行こうか?」


 膝の上のシリミンが目を覚ます。


「大丈夫だから、もう少し休んでて」


「アイさんすみません。お願いします」


「わたしは大丈夫ですので付いて行きます」


「リムちゃんもレンちゃんも休んでて。セツさんは砦で何かあった時にお願いします」


「分かったわ、行ってらっしゃい」


 アイリーはいつもの仲間を置いて出撃の準備をする。アイリー自身に疲労が無い訳ではないが、それを言ったら戦闘に参加した全員に言える事だ。支援を頼んだミアン達だって疲れているだろうし、ツムリンが亡くなったショックはアイリー以上の筈だ。アイリーは出来るだけ自分が何とかしないとと考える。


「マスター、もう出撃ですか?」


「ごめんね、イルナ。北東に機獣が出たって。今回はみんなは出ないから」


 アイリーは砦の格納庫に移動し、イルナに乗り込みつつ状況と共に出撃するメンバーの説明をする。


「了解しました。同行する4機は中距離戦闘が得意な2機と打撃力に特化した2機ですので、大型機獣の掃討にはいい組み合わせだと分析します」


「そっか。2機には援護して貰って、アイも含めて3機で倒すって事だね」


 アイリーはイルナに言われた内容を把握しつつイルナを起動させた。アイリーも含めて5人とも通信装置を付けたので会話は出来る状態だ。


「みんな、準備はいい?」


「「はい」」


「じゃあ先行するから付いて来て」


 アイリーはイルナを先頭に5機で砦の東の出口から出て移動を開始した。外はもう夜になっており、砦の周りには護衛の巨鎧が並んでいる。砦の東側に出るのは初めてで、西側に比べて砦の高さも高く、難攻不落と言われる威圧感が確かにあった。


「みんなまだ疲れてるところをごめんね」


「アイリー団長が謝らないで下さい。砦戦では団長達に苦労させてばかりでしたので、わたし達で出来る事があれば何でもやります!」


「そうそう、美味しい所は全部持ってかれちゃったし、トトリも良い所見せたかったんだ」


 紅薔薇騎士団から加わった中でもリーダー格のミアンと元気なちびっ子であるトトリが返事をする。二人の気遣いがアイリーには嬉しかった。


「でも、ツムリンさんが亡くなったばかりで辛くない?」


 アイリーは言わない方がいいと思いつつも、どうしても気になって聞いてしまう。


「みんな覚悟の上よ。戦争中は毎回誰かしら亡くなってるわ。ツムは特に私達と仲良かったけど、だからといってそれで戦えなくなる程、私達は柔じゃないわ」


「……はっきり言えば慣れてる。団長も慣れた方がいい」


「そうだよね、うん、ありがとう」


 ワイムとエトアの言葉も戦争慣れしていないアイリーに対する気遣いだと分かる。今は亡くなった人の事は忘れよう。


「みんな大型機獣との戦闘経験はどれ位?」


「わたしは5体と戦った事があります」


「トトリは3体!」


「8体よ」


「……12体」


「そっか、なら大丈夫そうだね。一応近接が私とトトリさんとエトアさんで、ミアンさんとワイムさんは援護をお願い。あとは敵の数によってどう分かれて戦うか決めよう」


「「了解」」


 移動しながら機獣との戦闘について話し合う。アイリーが思ったよりみんな戦闘経験があるので、よほど大量にいなければこの人数で大丈夫だろう。


「マスター、機獣の反応出ました。大型が2体、中型が5体、小型が8体です」


「分かった」


 アイリーは頭の中で対応を考える。小型は最悪無視しても問題無い。中型は援護組で何とかなるだろう。大型は1体をアイリーが相手し、2体はトトリとエトアで何とかなる筈だ。


「もうすぐ敵と接触します。大型が2体に中型が5体、小型が8体。小型は邪魔じゃ無ければ無視して、大型は1体を自分が、もう1体はトトリとエトアでお願い。中型はミアンとワイムで相手して、倒し終わったら近接組の援護に回って」


「「了解!」」


 アイリーの指示に同意が得られた。そうして進んでいた林の中に機獣達が見えてくる。小型はいつものゴブリンで、中型もオーガとオークなので大した脅威では無いだろう。しかしその奥にいる2体の大型はアイリーが見た事無い機獣だった。1体は翼の生えた4足の機獣で顔の周りには鋭い刃のようなたてがみがあり、尻尾はサソリのような形で大きな針が生えていた。そしてもう1体が更に奇怪で大きく、足は4足のように見えるが、身体の各所から首や腕のような物が伸び、左右にある翼も大きさも形もバラバラだった。


「イルナはあれが何か分かる?」


「1体は4足型のグリフォンに似た系統の機獣で、尻尾の形状からマンティコアだと考えられます。もう1体については複数の機獣の特徴を持つ為、不死型に近いのではと推測出来ます」


「気を付けて、左の変な大型機獣はキマイラよ。他の機獣や動かなくなった巨鎧を取り込んで大きくなる」


 ワイムに言われてよく見ると確かに巨鎧のものと思われる腕や剣が身体から生えているのが見つかった。マンティコアよりこっちが問題だろう。


「トトリとエトアは右の大型をお願い。空を飛ぶと思うけど、うまく攻撃して」


「任せて!」


「……了解」


 アイリーはトトリが少し心配だが、経験が豊富なエトアが何とかしてくれる気がした。


「それじゃあ、みんなお願い!」


「「はいっ」」


 そして戦闘に入る。まずはミアンとワイムの巨鎧が左右に展開し、接近してくる中型に攻撃を始める。ミアンは槍で1体ずつ確実に仕留め、ワイムはウィップで複数の機獣にダメージを負わせていく。その間に残りの3機は小型を無視して背後の大型へと近付く。マンティコアは身構えて一旦空中へと飛び上がる。キマイラの方は立ち止まり、アイリーを待ち構えた。


「イルナ、武器を大剣に」


「了解です、マスター」


 アイリーは分厚い敵の装甲を考え、武器を大剣にした。コアがどこにあるか分からないので、まずは斬り込んで様子を見るしかない。


「行くよ」


 アイリーは自分に言い聞かせながらキマイラに飛び込む。近付くアイリー(イルナ)に反応してキマイラが身体から生えた複数の腕のようなもので攻撃してきた。アイリーはそれを剣で受け、そのまま切り上げる。いくつかの腕がキマイラの胴体から吹き飛んでいく。


「そこ!」


 アイリーはそのまま振り上げた剣を振り下ろし、キマイラの脇腹に剣を叩き込んだ。


「マスター反撃です、離れて下さい」


 イルナに言われて急いで剣を抜いて飛び退く。アイリーが居た場所にはキマイラの長い尻尾が振り下ろされていた。尻尾にも顔があり、動かなければ噛みつかれていただろう。そしてキマイラの脇に空いた傷口は周りの機械が集まり急激に修復されていく。


「敵の修復速度はかなり早いです。脇腹周辺にコアの反応はありませんでした」


「分かった、もう何か所か斬り込んでみよう」


 アイリーは距離を取ってから攻撃の機会を伺う。その横ではトトリとエトアが苦戦していた。相手が空中から炎を吐き、ジャンプして攻撃しようとしても避けられているからだ。大きな傷は負っていないがこのままだと押されたままだろう。アイリーは早くキマイラを片付けて加勢しなければと焦る。


「てやあああ!」


 今度はアイリーはキマイラの頭の方を切り裂いた。が、ここにもコアは無く、アイリーは敵の反撃をギリギリで避ける。


「団長、手助けします」


 すると中型を片付け終わったようでミアンの巨鎧がこちらにやって来る。


「ミアンはトトリ達の方へ」


「あっちはワイムが行ったんで大丈夫ですよ」


 見るとワイムの巨鎧が飛んでいるマンティコアの足にウィップを巻き付けていた。するとマンティコアの動きが止まり、一気に地上へと落下する。


「あれがワイムの巨鎧、ヲトリンの特殊技能なんです」


 ミアンが説明してくれた。確かに敵を落とせれば3機で何とかなるだろう。


「団長、少し離れていて下さい。

そして、これがわたしの巨鎧、ムルージュの特殊技能です!」


 ミアンに言われるままアイリーがキマイラと距離を離すと、ミアンの巨鎧、ムルージュの持つ槍の先端から光が放たれる。エネルギー波と思われるそれはキマイラに当たり、貫通してキマイラの胴体に半径50センチぐらいの穴を開けたのだった。


「マスター、ミアン様が開けた穴からコアの位置が確定出来ました。キマイラの後ろ脚の付け根の辺りです」


「イルナ、ミアン、ありがとう。じゃあ一気に行くよ!」


 アイリーは突然穴を開けられて怯んだキマイラに駆け寄り、ジャンプしてイルナがマーキングしてくれた後ろ脚の付け根に向けて剣を突き刺した。剣はコアを貫き、キマイラの再生が止まった。


「団長、お見事です」


 アイリーは剣を抜くとマンティコアと戦っている3人の方を確認する。落下したマンティコアはエトアの巨鎧の斧で羽根を破壊され、再度飛べなくなっていた。そこへハンマーを構えたトトリの巨鎧が猛スピードで突進する。


「どおおおりゃああああ!!!!」


 速度が乗ったトトリの巨鎧のハンマーはマンティコアにぶつかり、そのまま胴体を突き破ったのだった。マンティコアもその1撃で動きが止まる。


「どうです、トトリの巨鎧、ナミスの特殊技能!」


 アイリーはワイムの巨鎧ヲトリンの特殊技能が拘束で、ミアンの巨鎧ムルージュの特殊技能が貫通エネルギー弾、トトリの巨鎧ナミスの特殊技能が破壊力のある体当たりである事を理解した。今後の参考にまだ聞いていないエトアの巨鎧の名前と特殊技能も後で聞いておこうと思うのだった。


「小型の機獣は私が始末しておいたわ」


「ワイム、ありがとう。みんなご苦労様。特に大きなダメージが無さそうでよかったです。砦に戻りましょう」


「「はい」」


「マスター、みなさんの巨鎧も今まで見てきた巨鎧と同じ位優秀でしたね」


「そうだね、さすが紅薔薇騎士団の騎士だと思うよ。チーナさんにもお礼を言わなくちゃ」


 アイリーは預かった紅薔薇騎士団の面々と砦攻略戦の時よりも意思疎通が取れた気がして嬉しかった。そして、この人達とならエルータ達と同様に信頼して戦えるとも思ったのだった。


********


 砦に戻って状況を報告した後、アイリー達は睡眠がとれる部屋を用意してもらったのでそこで休む事になった。砦を守護する交代要員が王都から来れば王都に戻れるが、それまでは砦で過ごす必要があり、今日中に来る事は無いからだ。


「アイお姉ちゃん、同じベッドで寝ていい?」


 シリミンがアイリーが寝ようとしていたベッドの方へやって来る。個人用の部屋では無く、女性用のベッドが沢山並んだ部屋で、ベッドの数は人数より少ない。負傷者や疲労が激しい者が優先して休む事になっていたが、白嵐騎士団は優先してベッドを与えられていた。シリミンがアイリーと同じベッドを使えば一人分休める者が増える。リムールはレイネンと同じベッドでもう休んでいて、文句も今回は言われそうに無いだろう。


「うん、シンちゃん頑張ったし、今日はいいよ」


「やったあ」


 喜んでシリミンがベッドに飛び込んでくる。触れ合う体温が温かい。


「シンちゃんは人間同士の争いに巻き込まれて嫌じゃ無かった?」


 アイリーは周りの人に聞こえないように小声で隣に寝ているシリミンに話しかける。


「戦うのはイキモノの本能。戦う意思のある相手と戦う事はイヤじゃない」


「そっか、そうだよね」


 仕掛けられた戦争であり、相手にも戦う意思はあるのだ。一方的な虐殺では無いし、シリミンのような割り切り方も出来るのだとアイリーは理解した。


「アイお姉ちゃんも頑張った。みんなアイお姉ちゃんが指示してくれたから戦えた」


「ありがとう。アイはみんなが言う事を聞いてくれたから勝てたんだと思うよ」


 アイリーはあくまで作戦がきちんとしていて、みんながその通りに動いてくれたから成功したと思っている。さっきの機獣退治だって他のメンバーが的確に動いてくれたからすぐに片付いたのだ。それでも自分の指示が少しでも役に立っていたのなら、それは嬉しいと考えるのだった。考えているうちにシリミンの寝息が聞こえてきたのでアイリーも休めるうちに休もうと眠りに落ちていった。


 翌朝、アイリーはエルータに優しく揺さぶられて目を覚ます。


「エル、おはよう」


「おはよう。王都から部隊が到着したって。そろそろ着替えてくれ」


「うん、分かった」


 シリミンの寝相が良かったのか、ぐっすり眠れていて、アイリーは気持ちよく目を覚ました。着替えながらシリミンも起こし、顔を洗ってある程度身嗜みを整える。みんなの準備が出来たのを確認し、王都から来た部隊がいる部屋へと移動した。


「これはこれは、アイリー団長殿、おはようございます。ガダルザン砦の奪還お見事でした」


 部屋には数名の騎士がいたが、挨拶してきたのは一際若い騎士だった。顔に見覚えがあり、王城まで案内してくれた碧鋼騎士団副団長のカリスという名の騎士だと思い出す。


「おはようございます。砦の奪還はみんなの力、特に橙獅子騎士団の力が大きいです」


「いえいえ、橙獅子騎士団の団長殿からも話は聞いていますよ。まあ挨拶はこの辺にして、砦の警護につきましては我々碧鋼騎士団が引き継ぐ事になりました。皆さんには準備が出来次第王都へ戻ってもらう事になっています」


「了解しました。それでは皆に伝えて準備させます」


 それからアイリーは情報のやり取りや帰還の準備に入った。午前中には準備が終わり、アイリー達白嵐騎士団を先頭に王都へ向けて出発する。リムールのルルトなど修理中の巨鎧は補給部隊の機動馬車に搭乗者共々乗り、機動馬車に乗りきらない巨鎧については砦で回復するのを待って別途帰還する事になった。リムールの傷も完治し、リムール自身は元気そうだった。


「アイさん、この度はリム様を助けていただきありがとうございました」


 帰りの道中、レイネンから改めて個別にお礼の連絡が入る。


「別に当然の事をしただけだよ。そもそもアイが間に合わなかったから黒騎士にリムちゃんが攻撃された訳だし」


「それについてはアイさんには非が無いとリム様も言っておられました。戦闘後速やかに機体からリム様を救出した事で助かったとも。本来はわたしがリム様を守り、救出すべきでした。ですので、何度でもお礼を言わせて欲しいです」


「レンちゃんも真面目なんだから。レンちゃんはシンちゃんを守ってたんだし、すぐに動けなかったのは知ってるよ。それは指示に従ってくれてたからだし、みんながみんな出来る事をしてたんだからいいんだよ。今後もみんなで助け合って、なるべく危険が無いようにしよう」


「そうですね。わたしも全力でアイさんを手助け致します。どんな事でも指示して下さい」


 レイネンの想いが伝わって、アイリーは嬉しかった。そしてリムールが助けられて本当に良かったと実感したのだった。


 帰還の道中は戦闘も無く、夕方には王都に辿り着いていた。王都の門を抜けると、そこには予想していない光景が広がっていた。


「英雄たちの御帰還だー!」

「アイリーさまー!!」

「砦の奪還ありがとーー!!」


 城下町にはアイリー達の帰還を待っていた人々が集まり、口々に歓声を上げていた。そこには老若男女、子供達もおり、みんな笑顔でアイリー達を迎えていた。アイリーは戸惑いつつもイルナに乗ったまま手を振ってそれに応える。王都の人々とは特に面識がある訳ではない。それでもアイリー達の勝利にこんなにも喜んでくれているのだと初めて実感したのだった。アイリー達は人々の間を通り抜け、王城へと帰還した。祝勝パーティーがあるというので全員上等な服に着替え、城の広間へと案内された。


「凄いねー」


 シリミンがテーブルに見た事が無い食べ物が並んでいるのを見て目をキラキラさせる。リムールの屋敷で食べた料理も、城の紅薔薇騎士団の宿舎で食べた料理も十分豪華だったが、今並んでいるのはそれよりも美しく盛り付けされ、更に美味しそうな料理に見えた。アイリー達は王族が並ぶ上座に一番近い場所まで案内される。


「まだ料理に手を付けては駄目ですからね」


 ドレスを着たリムールに釘を刺され、アイリーはシリミンを抑えつつ案内された位置で立ち止まる。向かいにはドレスを着たチーナがおり、その周りにいる綺麗な女性達が会った事の無い紅薔薇騎士団の他のメンバーだと分かる。その奥には他の騎士団のメンバーと思われる人達や貴族と思われる人達もいた。上座には国王エドルガと王妃が並び、その横に王子たちと回復した姫騎士メレルの姿があった。ドレスを着たメレルは部屋で会った時より更に美しく、まさに絵本のお姫様だと思った。部屋に人が集まったようで国王が挨拶を始める。


「昨日、我が軍が帝国軍を退け、ガダルザン砦の奪還に成功した。この功績はひとえに新たに参加した白嵐騎士団の活躍あってこそである。今夜は簡単にだがその戦勝祝いを開かせてもらった。無礼講である、自由に飲み食いし、勝利の美酒を味わってくれ」


 そして戦勝パーティーが始まった。アイリー達は飲み食いを始めたのだが、その周りには次々と人が集まってきて食べている場合では無くなる。特に騎士団長という立場のアイリーの周りには多くの人が押し寄せ、その対応にアイリーは振り回されていた。しばらくすると突然人がいなくなる。何かと思うとそこには国王エドルガと姫であるメレルが立っていた。リムールが跪いたのを見てアイリー達もそれに合わせる。


「無礼講だと言っただろう、よいよい、立ってくれ」


 言われてアイリー達は立ち上がりエドルガ達と対面する。


「この度の戦い、見事であった。グストの知恵があったのは確かだが、勝利出来たのは白嵐騎士団の力あってこそだ。市民もその活躍に沸いている。私からも礼を言わせてくれ。ありがとう」


「お褒めの言葉、ありがたく頂戴致します」


「アイリー、私からも言わせて頂戴。ありがとう。紅薔薇騎士団から加えさせたみんなもうまく使ってくれたみたいで嬉しいわ」


「いえ、そんな。私は助けられてばかりです」


 アイリーは緊張しつつ、何とか言葉を返す。


「国全体が君達のおかげで勢いに乗っている。もし君達さえ良ければもうしばらく一緒に戦ってもらえないだろうか?」


「お父様、今夜はお祝いでしょ。今後の話は無しにしましょう」


「そうだったな、済まない。私達がいてはくつろげないな。では、楽しんでくれたまえ」


「また時間を取ってゆっくりお話ししましょうね」


 そう言ってエドルガとメレルは去っていった。その後も料理を勧められつつも色んな人と話をしたが、アイリーの頭には国王の言葉が残っていた。最初はガダルザン砦を取り返すまで戦争に参加するつもりだった。だが、国王は今後の戦いへの参加も希望している。リムールとレイネンはきっと戦い続けたいだろう。アイリーは周りの人々が今後も自分に戦いを望んでいる事を肌で感じるのだった。

 パーティーは段々とお酒が入った騒ぎに変わり、お酒を飲まないアイリー達は紅薔薇騎士団の宿舎へ移動した。戦争の疲れも残っているし、気を利かせてくれたチーナが連れ出してくれ、料理も持ち帰れるよう手配してくれたのだ。アイリーは部屋で一人でしばらく考える。イルナとエルータに今後の事を聞いても、アイリーの好きなようにするよう言うだろう。リムールとレイネンは国を守りたいと言うのは何となく分かる。シリミンに相談するのも何か違う。アイリーの足は自然とセリュツの部屋へと向かっていた。“コンッコンッ”と扉をノックする。


「どうぞ」


 ドアを開けるとセリュツが下着姿でベッドに腰かけていた。手にはワインと思われる赤い液体の入ったグラスを持っていた。


「ごめんなさい」


「いいのよ、別に減るものじゃないし。入って」


 急いで踵を返そうとしたアイリーをセリュツが呼び止める。


「それじゃあ失礼します」


「どうぞ。アイちゃんから来るなんて珍しいわね」


 扉を閉めてベッドと対面の椅子に腰かける。下着姿のセリュツは色っぽく、その胸の大きさが更に強調されていた。セリュツはグラスを机に置いてアイリーと向き合う。


「今後の事でしょ?」


「そう、ですね」


 セリュツにはアイリーの考えがお見通しのようだ。


「アイちゃんはどうしたいの?」


「それが分からなくて。砦を取り戻せて、町の人の喜ぶ声を聞いて、初めて戦争に参加して良かった、って思えたんです。でも、犠牲が無かった訳じゃない。リムちゃんだって危なかった。私の指示でみんなが危険になるのはやっぱり怖い」


 アイリーは素直な心情を吐き出す。


「みんなそうだと思うわ。上に立つ人は大変よね」


「セツさんは今後どうしたいとかあるんですか?」


「自分?まあ、どっちでもいいかな。自分の身を守るすべはあるし、いざとなったら逃げるし。多少の恩はあっても国の為に死ぬつもりは無いからね。ただ、黒騎士のテレポートとかちょっと気になる点はあるから、自分としてはもう少し参加してもいいかな」


 エルフであるセリュツはアイリーと立場も考えも異なるだろう。だからこそ、この部屋に来た訳でもある。やはり自分で決めないとダメだとアイリーは思った。


「セツさんは私がリーダーでいいと思いますか?」


「自分はいいと思うわよ。可愛いし、真面目だし。シンちゃんじゃないけど、自分もアイちゃんは強い子だと思うわ。みんなあなたを信頼してる。それは誰にでも出来る事じゃない。チーナさんとアイちゃんだったら自分はアイちゃんの部隊に入りたいって思う」


「ありがとうございます」


 自信は無いけど、セリュツの言葉は素直に嬉しい。


「こんな世の中だもの、みんないつどこで何があるかなんて分からないわ。だから前を歩いてくれる人がいるとそれだけで助かるの。自分は変な縁だけどアイちゃんと出会えた事はいい事だと思ってる。アイちゃんはもう少しだけ自分の価値を認めてみたらどうかしら」


「そうですね、もう少し考えてみます」


 アイリーは頭を下げてセリュツの部屋を出ていく。セリュツの言葉はとてもアイリーを勇気付けてくれた。そして向かったのは紅薔薇騎士団の格納庫だった。


「イルナ、アイはもう少し戦争に参加しようと思う」


「マスター、了解しました。それでわざわざここまで来た理由は何でしょうか?」


 コクピットに乗り込んで話すとイルナは素直にアイリーの言葉を受け止める。


「黒騎士に勝ちたい。もう、他の人を傷付けさせたくない」


「了解です。取得したデータを分析しましょう」


 アイリーが気になったのはやはり黒騎士の存在だった。再度戦う事になった時、また誰かが傷付くと思ったからだ。それからアイリーはイルナとどう戦えばいいかを話し合った。決意はアイリーを後押しし、イルナの存在がそれを支えてくれている事が分かる。

 そして1時間ほど話し合って、ようやく黒騎士の攻略法が何となく固まった。


「まだ黒騎士のデータは完璧ではありません。ですが、今の方法でしたら勝率は80%を超えるでしょう」


「ありがとう、イルナ。これならアイは自信を持って戦えるよ」


 とりあえずの攻略法が決まり、アイリーは今後の戦争への参加の決意が固まったのだった。

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