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2.初陣

 街道を王都のある西に向かって機動馬車を進めると徐々に物々しくなり、王国の兵士が乗った巨鎧に度々止められるようになった。機動馬車自体が聖教団の物なのでそこまで怪しまれる事は無く、リムールの名を出せば大抵解決した。アイリー達が有名になった事もいい方に働いている。逆に兵士達が街道沿いを重点的に見張るようになった事で、盗賊や機獣が寄って来なくなり、アイリー達の王都への移動は順調だった。

 王都周辺に近付くにつれ、巨鎧の部隊の数は増え、緊張感が増してくる。王都がもうすぐ見えるところまで来ると、騎士団の物と思われる重装甲で緑色の騎士型に機動馬車を止められた。


「身分を証明出来る物を見せて下さい」


「聖教団の神官騎士、リムール・シュワイアですわ」


「シュワイア家の方でしたか。失礼致しました。クリアロン様もご一緒ですね。指示が出ております。国王の元までご案内いたします」


 リムールが聖教団の身分証を見せると、騎士型の巨鎧は態度を改め機動馬車を先導して歩き始めた。アイリーはここまで情報が行き渡っている事に驚く。物々しい巨鎧の部隊の間を騎士型に先導されて王都まで付いて行く。いつ戦場になってもおかしくない気配が辺りに漂っていた。

 そのまま王都の門も検問無しで通り抜ける。城下町は以前ほどの活気が見られず、どこか怯えた雰囲気を感じた。機動馬車はそのまま王城への門も通り抜け、城の下にある騎士団用の格納庫へと通される。


「この後国王様の元までご案内します。巨鎧や武器は全て置いてきて下さい」


 さすがに護身用の武器などは持ち込めないようだ。アイリー達は王の御前に立つのに相応しい、一番上質な服を準備する。こればっかりは以前リムールに無理矢理勧められた服が役に立った。シリミンも普段は絶対に着ない洒落た子供用のドレスを着せ下着もきちんと付けさせる。


「息苦しい」


「王様に会ってる間だけだから我慢して」


 スーライを置いていくのはシリミンが拒否したので、絶対に召喚しない事を前提に珠はそのまま身に付けさせた。アイリー自身もドレスはきつくて苦しいが、前の男装に比べれば楽だと思った。エルータもいつもの男っぽい服装から女性らしいドレスに着替え貴族の令嬢ようだ。リムールはいつもより華やかになり、レイネンもメイド服と違ってとても可愛らしい少女に見えた。


「みんな綺麗よね。普段からそういう服を着ればいいのに」


 そういうセリュツも緑色の大きなスカートの服を着て、まるでエルフのお姫様のようだった。


「セツさんは見た目は最高ですのにね。それで喋らなければどんな男性もイチコロですわ」


「自分は人間の男性になんて興味無いわ。みんなが見たいって言うなら普段からこの格好でもいいんだけどね」


 アイリーは美貌を見せられても羨ましくなるだけだと思ってそれには返事をしない。あんまり騎士を待たせては失礼だとアイリー達は起動武器を含めて武器類を全部置いて機動馬車の外に出た。


「ご案内致しますので付いて来て下さい」


 巨鎧でここまで案内してくれたと思われる騎士も巨鎧を降り、簡易の鎧を装着して立っていた。思っていたより若く、身長もアイリーと同じ位の小柄な青年だった。


「自己紹介がまだでした。私は碧鋼騎士団の副団長をしております、カリス・トリエイと申します」


 青年が挨拶したので、それぞれ簡単に名前だけ述べてから付いて行った。碧鋼騎士団は王都を守る任を受けている騎士団だと聞いた事があった。この若さで副団長という事は、巨鎧の操縦に大分長けているのだろう。城の中の通路をくねくねと進んでいく。迷路のようでアイリーは一人で同じ道を戻るのは無理だと思った。途中で一際広い通路に出て、やがて大きな広間に辿り着く。


「国王様はこの先にいらっしゃいます。私はここで失礼させていただきます」


 カリスと名乗った青年は広間の大きな扉まで案内して去っていった。アイリー達が扉に近付くと、扉の横にいた2体の蒼色の騎士型の巨鎧が扉を開く。扉の先には豪華な装飾で飾られた更に広い広間が広がり、奥の一段高い位置に立派な玉座が設えてあった。更に玉座の後ろには1体の立派な巨鎧が立っている。話に聞いた国王の特殊型の巨鎧、オーディムだろう。広間の中央にある通路の脇には警護の騎士が立ち並び、その後ろに蒼色の騎士型の巨鎧が左右に4機ずつ、計8機並んでいた。


「皆様、わたくしと同じように振舞って下さい」


 慣れているだろうリムールが先導して玉座の方に進み、他の5人もそれに従う。リムールは玉座の10メートル手前のカーペットの端まで移動すると立ち止まり、かしづく姿勢になった。アイリー達もそれに習う。


「国王様のお見えである」


 玉座の横に控えていた老人が見た目に反して大きな声で言った。リムールが頭を下げたので全員同じように下げる。人の歩く足音が聞こえ、玉座の前に誰かが立ったのが分かった。


「メロガダン王国国王、エドルガ・メロガダンだ。急な呼び出しに応えて貰い感謝する。堅苦しいのは苦手でな、まずは頭を上げてくれ」


 国王から許可が出たので全員顔を上げる。そこには白髪だが逞しい国王の姿があった。


「ここでは話がし辛い。場所を移そう」


「皆様こちらへ」


 国王は玉座には座らず奥にある扉へと移動し、アイリー達も老人に先導されその後に続く。巨鎧が通れない人間用の通路を抜けると、そこには応接室と思われる立派な部屋があり、既に3人の人物が席に着いていた。国王が入ってきたのを知って3人とも起立する。国王が一番奥の席に座り、アイリー達は角側の席にいた3人の正面の席に案内される。


「みんな席に着いてくれ。礼儀作法や言葉遣いは気にしないでいい」


 国王は思ったより砕けた感じで話してくれる。アイリーも少しだけ緊張の糸が解け、一番国王に近い席に着いた。


「まず、最初に礼を言わせて欲しい。超大型機獣退治の件、本当に感謝している。本来は国で正式に討伐すべきだったのだが、今は騎士団を簡単に動かせない状態でな。君達の迅速な対応はまさに英雄の行いだと思っている」


 アイリーは反応していいか迷ったが、横に座ったリムールに軽く小突かれたので、返事をする事にする。


「いえ、私達は自分に出来る事をしたまでです。たまたま近くに居たので倒す事が出来ました」


「損得を考えず、自ら危険を冒してまで行動出来る者は少ない。君達は自らの行いをもっと誇っていいと思うぞ」


「お言葉、ありがとうございますわ。お久しぶりですリムールです、国王様。失礼ながら、メレル姫様の御容態をお聞きしても宜しいでしょうか?」


 リムールがずっと気にしていた姫騎士の容体について質問した。


「こうして会うのは本当に久しぶりだな、リムール。御父上も相変わらず元気そうで何よりだ。そうだな、メレルの事は心配をかけてしまったな。申し訳ない。安心してくれ、巨鎧の方は大分破壊されたが、メレル自身の怪我は大した事は無い。後で顔を見て行ってくれ」


「ありがとうございます、メレル姫様が無事という事で安心しましたわ」


「リムール、お久しぶりです。ごめんなさい、私が付いていながら姫様を危険な目に合わせてしまいました。私の力不足ゆえです」


「チーナ、お久しぶり。あなたも無事なようで良かったですわ」


「メレルは危険を覚悟の上で戦場に出ている。怪我をしたのはメレル自身の問題だ。私はお前の働きは十分だと思っているぞ、チーナ」


「ありがとうございます。しかし、騎士団長を守れなかったという事実は紅薔薇騎士団全体の問題になります」


 3人並んでいる座っている左端の鎧の女性が紅薔薇騎士団の副団長で、リムールの幼馴染でもあるチーナ・イラゴイだと分かった。深緑の鋭い目つきだが、物凄く美人だと感じる。


「分かった、分かった。今はその議論をする場では無かったな。まずはアイリー君達を呼び出した件を話さねばならない」


「はい」


 名前を呼ばれてアイリーは返事をする。ここからが本題だろう。


「私の名で呼び出させて貰ったが、君達を呼び出そうと決めたのは私ではない。巫女殿たってのお願いだったので私から連絡させて貰った」


「初めまして、皆様。リムール様とレイネン様はお久しぶりです。わたくしはメロガダン王国の巫女を務めさせて頂いております、ルルン・アイビルと申します」


 3人並んだ一番右、アイリーの目の前に座っている女性が頭を下げる。薄紫色の長髪が美しく、目が細く上品な美人だった。王国に予言の巫女がいるのは知っていたが、アイリーはどんな人かはまるで知らなかった。


「皆様をお呼びしたのは他でもありません、現在この国は未曽有の危機に面しております。ガダルザン砦を落とされた今、一刻の猶予もございません。そんな中わたくしが予言で見たのはアイリー様、あなたの白色の巨鎧の姿でした。あなたがこの国を救う鍵になるのは間違いございません」


「私が、ですか?」


「ここからは僕が説明しますね。失礼、僕はグスト・コジアイと言います。今は王国で軍師として働いております」


 巫女ルルンの隣に座っていた優男が声を出す。見た目からは騎士のような力強さは感じられない。アイリーはよれよれの服装から胡散臭さすら感じた。


「はっきり申しますと、今の騎士団達の戦力では砦を取り戻すどころか、国を守り切る事すら出来ないでしょう」


「グスト殿、王の御前で失礼です」


「よい。言葉を飾った所で現状が変わる訳でもあるまい。続けてくれ」


「では。帝国の台頭は徹底的な巨鎧の運用の効率化、身分に囚われない報酬に拠る所が大きいです。一方王国は身分や規則による軍隊の運用など、古くからの因習に囚われている箇所が見受けられます。そしてその差が同じ戦力での戦いで大きな差になってきています。騎士は国の為に命を張れますが、その他の傭兵や民兵は逃亡、寝返りが散見され、帝国と王国では戦意に差があります」


「悔しいがグスト君の言う通りだ。王国は未だ古い貴族制度が廃止出来ず、正規軍と民兵での士気の差は明確だ。昔なら私自ら命を張る事で軍隊全体の士気を保ったが、今は王子と王女に任せ、士気が低下している事は理解しているつもりだ」


 国王は苦々しい顔をする。アイリーは思っていたより国の状態が厳しいのだと理解した。


「それでも姫騎士率いる紅薔薇騎士団が先頭に立ち、勝利を続ける事である程度の士気が保たれていました。しかし、この間の敵襲で紅薔薇騎士団が敗れ、ガダルザン砦を落とされた事が大きな痛手になっています」


「あの時は攻めてきた敵を撃退した直後に黒騎士の部隊が突如現れたのです。不意を突かれた姫様が負傷し、その混乱に乗じて砦を奪われてしまいました。軍師殿に指摘されていたのに戦闘後、紅薔薇騎士団が油断していた事は認めないといけません」


「まあ、詳しい敵の襲撃方法などは今は置いておきましょう。僕が言いたいのは現在、紅薔薇騎士団の運用が難しくなり、軍隊全体の士気が低下しているのが問題だという事。そこで、今話題の方々が必要になった訳です」


「つまり、わたくし達は話題作りの為に呼ばれたのですか?」


 リムールは少しだけ不快な表情で言う。


「いえいえ、そうではありません。勿論、軍隊全体の士気を上げる為の一環ではあります。しかし、僕が注目しているのはあなた達の多種多様な能力の組み合わせにあるのです。帝国は効率化の為なら野盗だろうが犯罪者だろうが雇い、部隊に組み入れています。適材適所、組み合わせ次第で同じ数の部隊でも数倍の力を発揮出来るのです。あなた達がそれに気付いているかは分かりませんが、事実、たった6人で超大型機獣を仕留めている。ここの騎士団のトップが6人集まってもそれは出来ない偉業ですよ」


「認めたくはないですが、確かに超大型機獣を仕留めるには我が紅薔薇騎士団の正騎士13名は必要です」


「というわけで、是非あなた達にはその力を存分に発揮して頂き、王国に新たな戦い方を示して貰いたいと考えている訳です」


「私達が、ですか」


 正直アイリーにはそんな大きな仕事が出来るとは思えない。


「グスト様の言う事はわたくしも全部は信じられません。ただ、グスト様の徴用もわたくしの予言によるものです。なので、あなた達が軍隊に加わる事で何かが変わる予感がわたくしにはあります」


「突然こんな話をされて困惑しているとは思う。だが、無理を承知で私からも軍隊への参加をお願いしたい」


 国王が頭を下げ、周りに居た人達もアイリー達に頭を下げる。アイリーは思わぬ状況に慌てる。


「頭を上げて下さい。

分かりました。私達にどこまで出来るかは分かりませんが、戦争に参加するつもりでここまで来ました。国を守る手助けをさせて下さい」


「ありがとう。

それでは細かい話は若い者に任せよう。何かあればいつでも私に言ってくれ」


「了解致しました。ありがとうございます」


 アイリー達が頭を下げると国王と傍にいた老人は応接室を出ていった。


「では改めて。今回アイリーさん達をお呼びしたのはわたくしになります。もし恨むような事になりましたら、他の方ではなくわたくしを恨んで下さい。わたくしは戦争には直接関われませんので」


「巫女様、そんな言い方はやめて下さい。わたくしは巫女様が国の役に立っている事をよく知っていますわ」


「ありがとう、リムール。相変わらず優しいいい子ですね。わたくしも久しぶりにリムールとレイネンの顔が見れてとても嬉しいです」


「ご無沙汰しております。巫女様もお元気そうで何よりです」


 レイネンが少し嬉しそうに言う。巫女であるルルンとリムール、レイネンは面識があり、親しい関係なのだと分かった。


「戦争で責任の所在を求めるなんてバカらしいですよ。勝った国が栄え、負けた国が亡ぶ、それだけです」


「一応言っておきます。この男は頭は切れるかもしれないが、口は見ての通り悪いです。しかし、それでいちいち怒っていたら時間の無駄だと私も悟りました。ですので、軍師殿の話は作戦以外は適当に聞き流すのがいいでしょう」


 これまでの会話だけで副団長のチーナが軍師であるグストにいい感情を持っていない事がアイリーにも分かった。


「副団長殿も少しは分かってきたようで何より。まあ、いいでしょう。今の課題は敵が攻めてくる前に打撃を与え、一刻も早く砦を取り返す事。その為に、まずはあなた達の実力を測る必要があります」


「私達の?」


 アイリーはどうするのだろうと考える。また模擬戦でもするのだろうか。


「小規模な戦闘や機獣との戦いと大規模な戦争は大きく異なります。機獣退治で名を上げたハンターが戦争で真っ先に死ぬ、なんて事も珍しくないのです。なので、まずは一戦、あなた達に実際の戦場で戦って頂こうかと」


「言い方には問題ありますが、この件に関しては軍師殿の言う通りだと私も思います。戦場の空気は独特で、それに飲まれて冷静な判断が出来なくなる事もあります。実際に参加し、己自身の目と耳と身体でそれを感じてもらうのが一番早いと私も考えます」


 そこからグストとチーナを中心に次に予定されている反攻作戦の概要とアイリー達の役割が伝えられた。まずはチーナ率いる部隊に紅薔薇騎士団の一部とアイリー達は組み込まれ、チーナの指揮に沿って戦う事に決まった。作戦決行は明日という事で、今日はアイリー達も城にある紅薔薇騎士団の宿舎に泊まる事になる。

 その後、姫騎士の見舞いに行く事になった。あまり大勢だと迷惑だという事で、チーナに連れられ、顔見知りのリムールと代表としてアイリーの二人だけで行く事にした。他のメンバーは機動馬車を紅薔薇騎士団の格納庫へ移動し、そのまま紅薔薇騎士団の宿舎の部屋へ案内される手筈になった。


「メル!」


 姫騎士のいる部屋に入り、その姿を認めるとリムールは駆け出して近寄った。部屋といってもとても広く豪華で、豪勢なベッドに姫騎士は横になっていた。姫騎士も来客を見て起き上がる。


「リム、来てくれたのね。嬉しいわ。こんな格好でカッコ悪いわね……」


「本当に無事でよかったですわ。わたくしもメルが簡単にやられるなんて思ってはなかったですけど」


「まあ、見ての通りよ。そちらの方は?」


 遅れて入ってきたアイリーは姫騎士メレルと目が合う。頭の一部に包帯が巻いてあるが、見たところ大きな怪我は無さそうに見えた。ピンク色の綺麗な髪と大きな瞳は美しく、ベッドの上で寝間着を着ていても、お姫様だと感じられた。


「姫騎士様、初めまして。私はアイリー・クリアロンと言います」


「あなたがリムと一緒に旅しているアイリーさんね。噂と違って随分と可愛いお嬢さんなのね」


 可愛いと言われて嬉しいが、どんな噂が流れているかは気になった。


「アイさんはとてもいい子なのですわ。そして強いです。実際巨鎧での戦いではわたくしも敵いませんの」


「それは凄い。もしかしたら私より強いかもしれませんね」


「姫騎士様、そんな事はありません。私が強いのは乗っている巨鎧が強いだけで、私自身は大した事ないんです」


「今の世の中で重要なのは巨鎧でどれだけ戦えるかです。リムが認めているという事は、それだけ実力があると誇っていいと私は思います」


 チーナにも褒められてアイリーは顔が赤くなる。紅薔薇騎士団のNo.1,2に褒められる人など殆どいないだろう。


「ごめんなさい、今回の一件は私に責任があります。砦はどんな事をしても死守すべきでした。私だけ生き長らえて砦を落とすなど恥ずべき結果です」


「姫様、そのような事はございません。その身はなにものにも代えがたいものです。砦はまた取り返せます」


「ですが、私を逃す為に多くの犠牲が出ました。紅薔薇騎士団からも多くの死者が。本当なら今すぐ私が戦場に出たい位です」


「まだお体の傷も完治していません。何より姫様の巨鎧モートの修復にもまだ時間がかかります。砦奪還は私達が何とかしますので、今しばらくご静養を」


 チーナが必死にメレルを慰める。アイリーにも彼女達の必死の想いが伝わった。


「そうですわ。こういう時こそわたくし達の出番ですの。わたくしもあの日の約束は忘れていません。何より今はわたくしにも頼りになる仲間がおります」


「リム、アイリーさん。他の方にも頼まれたと思いますが、私からもこの国の為、手助けして下さる事をお願い致します」


「分かりました。任せて下さい」


 アイリーはメレルの言葉を受け止め、素直に返事をする。


「メル、一つだけ確認させて下さいな。あなたは並の騎士なら不意打ちでも決して遅れを取らないと思いますわ。何があったか教えて下さいませんか?」


「黒騎士よ。相手は噂に違わず強敵でした。最初の攻撃を受けたのは確かに不意を突かれのもありますが、正面から戦っても私とモートより強いかもしれません」


「そんな。メルとモートより強い者など信じられませんわ」


「いや、姫様の言う通りです。私も姫を助ける際に軽く打ち交わしただけだが、間違いなくパワーはモートより上だった。一緒に居た紅薔薇騎士団の騎士型は軽くあしらうように倒されるのを目の前で見ている」


 紅薔薇騎士団の騎士は最強と言われる姫騎士と12人の正騎士が乗る特殊型、そして通常の騎士が乗る騎士型などで構成されている。ただし通常の騎士であっても紅薔薇騎士団に入るには騎士としての素質と並み以上の強さが求められ、どんな相手だろうと簡単に倒される事は無いとアイリーは聞いていた。


「ですから、もし黒騎士が出てきた場合は決して一人で戦おうとしてはいけません。最強と言われようとも複数で戦えば勝機はあります。決して相手のペースに飲まれないように気を付けて下さい」


「分かりましたわ。わたくし達だって強いんです。力を合わせれば決して負けませんわ。ねえ、アイさん」


「はい、皆さんの力になれるように頑張ります」


 アイリーはイルナがいれば黒騎士にだって負けないだろうという自信があった。少しだけ雑談をした後、あまり長居をしてはいけないとメレルと別れ、アイリー達は紅薔薇騎士団の宿舎へと向かった。


********


 服装を普段の服に着替え、紅薔薇騎士団の宿舎で夕食を食べた後、アイリー達はチーナに言われて宿舎にある会議室へと集められた。


「作戦の全容は昼に話しましたが、細かい部分は私、チーナ・イラゴイから説明いたします」


 チーナが立ち上がり挨拶する。会議室にはアイリー達以外に紅薔薇騎士団の団員と思われる10人の女性が集まっていた。


「この部屋に集まってもらったのは明日の作戦に参加する者だ。紅薔薇騎士団からは私の他に10名、アイリー殿達6名の合計17名で一つの部隊として参戦する。今回の指揮は私が取り、紅薔薇騎士団ではなく、臨時複合部隊として動く事になる」


 チーナは指揮官らしく堂々と振舞う。アイリーより一つ上なのだが、経験の差か、もっと年上に思えてしまう。その後、簡単に各々が自己紹介をし、チーナの説明が始まった。


「昼に話した通り、明日の戦いでは特殊技能は使わないで頂きたい。アイリー殿は武器の形状は固定、エルータ殿は炎の弾丸のみ、リムは防壁は使わず、レイネンは透明化しない。シリミン殿は魔法は使わず、セリュツ殿は巨鎧を操る事はしない。宜しいですか?」


「「はい」」


 全員が返事をする。各巨鎧の特殊技能は昼に説明し、敵に手の内を明かさない為にも今回は使わない事になっていた。アイリーはイルナの能力の解放についてはまだ明かしていなかった。巨鎧相手ならそれを使わなくても十分戦えると考えたからだ。


「射撃についてですが、確実に届く距離に入ってから当てに行くのと、相手を足止めする為に射程ギリギリからおおよそで撃つのだとどちらの方がいいですか?」


「今回は敵も密集している筈なのでまずはギリギリから撃って、近くなったら友軍に気を付けつつ確実に1体ずつ当てて下さい」


「分かりました」


「じゃあ自分も。魔法攻撃はある程度の範囲の敵を巻き込んで攻撃するか、1体に高威力の攻撃をするのだとどちらが望ましいかしら?」


「相手の戦意を奪う意味で、まずは広範囲で攻撃して貰い、乱戦になったら1体ずつを攻撃して欲しい」


「了解したわ」


 チーナはエルータとセリュツの質問に丁寧に答える。アイリー達だけで戦っていた時はそれぞれ自分の意思で戦い方を考えて貰っていたが、戦争では指揮官の望む戦い方をするべきなのだろう。


「次に集団同士の戦いについての心得ですが、一人で戦おうとしない事。援護のエルータ殿とセリュツ殿は別として、アイリー殿はシリミン殿と、リムはレイネンと二人ずつで敵と戦うようにして下さい。相手も同様に複数で1機を狙おうとしますので、お互いがお互いをカバーし、複数の巨鎧に囲まれないように注意するように」


 アイリー達は今までも仲間と協力して戦ってはいたが、二人で組んで、という考えはあまり無かった。敵に囲まれても今まではイルナ1機でどうにかなったし、他の仲間も囲まれて危険になる事は無かったからだ。今回は戦争に慣れているチーナの言う事を聞くのが正しいと思い、アイリーは戦い方を変えるようにと考える。


「また、とどめは確実に刺してから次の相手に移る事。コクピットから搭乗者を攻撃するか、巨鎧のコアを破壊するように。手負いの相手でも思わぬ反撃や他の敵と戦っている時に妨害をされる事があります。逆にこちらが手負いになった場合は無理せず後退する事。手負いのまま戦場にいると味方が庇う事に気を取られますし、背後には補給部隊がいるのでそこで回復してから復帰した方がより効率的だと理解しておいて下さい」


「簡単な回復でしたらわたくしも使えます。搭乗者の負傷や前面装甲の傷などでしたら声をかけて下さい」


「わたしの探索型のセンサーは騎士型より高性能です。後退する際に声をかけて下さればお手伝い出来ると思います」


「聞いての通りで、リムールの神官型とレイネンの探索型はいざという時に頼りになるので覚えておくように」


 リムールもレイネンも自分が部隊で出来る役割を理解しているようだ。アイリーは自分に戦う以外に何が出来るかはまだ分からなかった。


「当たり前ですが、敵の巨鎧は特殊技能を使う事があります。ただ一般的な巨鎧の特殊技能は一部の能力強化が殆どの為、集団戦闘ではあまり気にしないで大丈夫です。問題は特殊型や魔術型などの何かに特化した技能の場合です。過去に戦った事のある敵の情報はまとめてあるので、それを連携するので読んでおくように。

そして今後未知の技能と対面する事があると思う。その際は冷静に観察し、倒せない、危険だと感じたら素直に撤退する事。技能に対しての相性や持続時間など、その場の判断が重要です。蛮勇より冷静な判断が勝利に繋がると覚えておくように」


 チーナの話は色々と為になった。騎士団の副団長として今までの経験の積み重ねがあるのだろう。しばらくチーナが他にも戦場での心得を色々教えてくれた。


「最後に、指揮官の命令には絶対に従う事。どんなに順調に攻めていても指揮官が撤退を指示したならば即座に撤退するように。指揮官の指示に誤りが無いとは断言出来ません。しかし、指示系統が守られない部隊は綻びが生まれ、そこを敵に突かれます。そしてアイリー殿」


「はいっ」


 突然名指しされアイリーは声が裏返ってしまう。


「あなたには次の戦いでは部隊の指揮官としても働いてもらう予定です。今回の戦いで私の指示の仕方や戦場での部隊全体の動きをよく見ておいて下さい」


「え?そうなんですか?

分かりました。努力してみます」


 今までも別にリーダーとしてやってきた訳ではないので、突然指揮官を任せられてもアイリーにはうまく出来る自信が無かった。しかし、頼まれたからには断る事も難しい。


「アイさん、わたくしもフォローしますからそんなに気張らなくても大丈夫ですわ」


 小声でリムールに言われ、少しだけアイリーは安心した。


「では今日はゆっくり休んで明日の早朝の集合に遅れないように」


 解散になりそれぞれ与えられた部屋へと戻っていく。ただしアイリーだけはイルナが格納されている紅薔薇騎士団の格納庫へと向かった。



「……ていう話だから、明日は武器は最初のままで固定で。あと、次の戦いで指揮官を任されるかもしれないって」


 アイリーはいつものようにイルナに乗り、今日聞いた話を説明した。


「了解しました。大部隊同士の戦闘は初めてですのでマスターに負荷がかからないよう全力でフォロー致します」


「ありがとう。イルナは戦争の戦略とか分かるの?今回の話を聞いて何か気になった?」


 アイリーは自分の不安を和らげる為にもイルナに聞いてみる。


「大部隊の戦闘での戦術データはありますが、戦略についてのデータはあまりありません。話を聞く限りでは妥当な作戦だと考えられます。ただ、気になる点があります」


「それは何?」


「グストという軍師についてです。この人物は現在の王国の戦闘に関して多大な権限を持っています。万が一グスト様が裏切り者だった場合、王国の敗北は確実です」


「ちょっと待って。それはアイの説明の仕方が悪かったのかも。アイも少し胡散臭いと思ってたから、それが言葉に出ちゃっただけで、実際何度も国の窮地を救う作戦を考えてるし、紅薔薇騎士団が敗れた件も事前に撤退時に気を付けるように進言してたって聞いたよ」


 アイリーはイルナの発言があんまりだったので急いで訂正する。


「マスターの発言の揺らぎも含んでの見解です。裏切り者は相手に信用される為にまずは役に立って見せ、一番重大な場面で裏切るのを常套手段とします。グスト様が王国に来たのが戦争が始まった後だと先程マスターから説明されました。そのような者を重要なポジションに置く事は危険が大きいです」


「それは巫女様が予言で決めた事だから。巫女様が裏切る事は無いし、だから他の人達も受け入れてるって聞いてるよ」


「ワタシは巫女の予言、という物自体を理解する事が出来ません。ワタシのデータから言えば不確定要素の塊です。データの集積からの予測、というのでしたら理解出来ます。1人の人間がランダムに未来を予測する、という話は虚偽、または希望的観測でしかないと考えられます」


「イルナが何を言ってるかは分からないけど、巫女様の予言は外れた事が無いって。イルナは魔法は理解出来るのに予言は理解出来ないの?」


「魔法についてはこの世界の法則に従ったもので、発生も結果も計測出来ます。予言はそれを実現させる為に多人数が行動する、もしくは曖昧な表現部分を結果に合わせて意味を変える、などの人の手が加わらない限りは実現出来ないとワタシは判断しました」


 アイリーはイルナがどうしても予言を信じられないんだと受け取った。


「分かった。アイも巫女様の事は周りから聞いて信じてるだけだし、イルナの心配が的中する事もあるかもしれない。でも、今の王国はそれを信じて動いてるし、それは簡単には変えられない。だからアイ達はその中でよりよい方向へ進めるよう、出来る事をやろう」


「すみません、マスターに心配をかけるような言い方をしてしまいました。ワタシは人間では無いので、人間同士の信頼を理解出来ないだけだと考えて下さい。万が一マスターに危険が及んだ場合はワタシが何とかしますので、マスターが信じたままに動いて下さい」


「ありがとう、イルナ。そう言ってもらえればアイは何も心配しないよ」


 もし戦場で何かあってもイルナがいれば何とでもなるとアイリーは感じ、安心して与えられた部屋へと戻るのだった。


********


 城に到着した翌日、早朝にアイリー達は起床し、格納庫に集合した。チーナの紅色の巨鎧ツイスグと10名の紅薔薇騎士団の紅色の巨鎧に続いてアイリー達も巨鎧に搭乗して城を出る。大規模な近場への進軍には機動馬車は使わずに移動するという事だ。シリミンのみスーライを獣の形状で呼び出し、その上に乗って移動する。目的地は王都とガダルザン砦の間、東側に展開する帝国の部隊の近くだ。


「この通信装置は私と部隊内にのみ声が届き、他の部隊の者には聞こえない。受信は常にONにして、送信については不要な時はOFFにしておくように」


「「はい」」


 チーナから一人に一つ耳に付ける小型の通信装置を渡されていた。これは貴重な物らしく、通常は騎士団の一部でしか使えないそうだ。今回は初陣という事で、特別にアイリー達にも支給されている。送信のスイッチは頭を軽く傾けるだけで切り替えられるので戦闘の邪魔にはならないだろう。今までは声を外に出すかセリュツの魔法で連絡を取っていたが、これなら敵に聞かれずに仲間内での連絡が取れる。チーナにも聞かれるので余計な私語には使えないが。既にイルナにピアス型の通信装置を作って貰ったが、それも貴重な物だったんだとアイリーはここで理解した。


「マスター、ワタシの作ったピアスは一度回収しますか?」


「別にいいよ、一緒に付けられるし。でも、これも貴重な物なんだね」


「複数連絡出来たり、送信の切り替え等、付随する機能は大分異なります。似たような物を人数分作る事は可能ですので、必要なら言って下さい」


「分かった。この装置を使えるのは今回だけらしいし、便利そうだったらお願いすると思う」


 アイリーは今後指揮官として動くなら便利だろうとは思った。


「マスター、もうすぐ目的地です。味方の巨鎧が見えてきました」


「凄い……」


 木々がまばらにあるだけの平野には100機を超える巨鎧がずらっと並んでいた。騎士団の物は同じ色の巨鎧が立ち並びとても美しい。騎士団以外の兵士の巨鎧は独自色があり、雑多だが数での威圧感があった。


「今回は土犀騎士団が主力となり、我々は援護という形になる。左翼に付くのでなるべく中央に囲い込む事を意識するように」


 チーナに率いられ巨鎧の集団の一番左端に巨鎧を並べる。10人の紅薔薇騎士団の騎士型の巨鎧は装甲を紅色にしている。巨鎧の装甲の色は自由に変更出来るが、アイリー達は紅薔薇騎士団として参戦する訳ではないので、色は変えずに今まで通りにしていた。


「今回の味方コードは15892だ。発信をしないと敵と認識されるから注意するように」


「「はい」」


 言われたコードを発信するようにイルナにお願いする。巨鎧はレーダーで捉える際にコードを発信する事で敵味方が区別出来るようになっていた。戦争時は戦場ごとに自軍のコードを決め、敵味方を区別し、コードを発信していない者は両者とも敵とみなすそうだ。スーライにその機能は無いので、シリミンには通信装置と共にコードの発信機兼、敵味方の判別が出来る機器を特別に貸して貰っていた。横のシリミンを見るときちんとコードを発信し、機械は使いこなしているようだ。


「それでは指示が出るまでその場で待機だ。何かあれば連絡するように」


 ひとまずアイリーはコクピットの中に座る形で待機する。敵の部隊は1500メートル先に展開しているようで、向こうから攻めてくる気配は今のところ無さそうだ。アイリーは周りを見回してみる。騎士団の部隊は騎士型や特殊型が目立ち、その他のタイプの巨鎧は少ない。全体を見ても射撃型、神官型、魔術型の巨鎧の数は少なく、アイリー達の部隊は17機の中に全種いるので、かなり特殊な部隊のようだった。

 しばらくすると敵がいる方向から2機の巨鎧がやって来た。コードは味方なので偵察部隊だろう。


「出撃の指令が出た。全機移動の準備を。シリミン殿もスーライと同化をお願いする」


「分かった」


 シリミンは一旦下着姿になってからスーライと同化する。同化の際に全裸になりたいと言っていたが、多くの人がいる場所なので服のままが望ましいとチーナに言われ、妥協したのが下着姿での同化だった。


「シンちゃん頑張ろう」


「うん」


 アイリーは今回はシリミンとペアで動く事になる。告白の件はうやむやだが、今は戦う事で頭が一杯なのでアイリーは気にはならなくなっていた。


「エルータ殿とセリュツ殿は遠距離攻撃を出し切ったら後退して待機するように。他の者は傷を負うか、エネルギーが無くなったら後退、補給部隊と合流して再戦闘が可能なら再度出撃してくれ。シリミン殿はエネルギーが20パーセントを切ったら後退するように」


「「はい」」


 戦う部隊とは別に後方に補給部隊が控えており、エネルギーが切れた場合は光輝石の交換、機体、搭乗者が傷を負った場合は神官型での回復、他にも武器や射撃型の予備の弾丸も準備されている。リムールも回復の魔法は使えるが、回数が限られているので使うタイミングも重要だろう。魔術型は魔導石を使えば追加で魔法が使えるそうだが、さすがに魔導石は準備されておらず、エルータのオクシオも実弾では無いので精霊力を使い切ったら補給は出来ない。


「移動を開始する。伏兵に注意しつつ速度を合わせて付いて来て」


 チーナのツイスグを先頭に紅薔薇騎士団のメンバーが2機ずつ続き、その後にアイリー(イルナ)とスーライ、ルルトとロガン、オクシオとソシアが並んで前進する。他の部隊も前進を始め、巨大な鋼の波が動いているようだった。


「そろそろ戦闘が始まる。エルータ殿とセリュツ殿は射程に敵が入ったら攻撃を開始して」


 イルナがコクピットの中に映し出してくれた敵と味方の位置が分かる地図に複数の敵のマークが現れ始める。目の前に広がる光景にも徐々に敵の巨鎧の姿が映り始めた。やがて中央側の部隊の先頭辺りに砲撃音が聞こえ始める。魔法と射撃武器での攻撃が始まったのだろう。


「エルータ、射撃を開始します」


「セリュツ、魔法攻撃を始めるわ」


 エルータとセリュツが通信で発信し、アイリーの背後から炎の射撃が飛び、電撃の魔法が敵の集団の上から広範囲に放たれる。同じように射撃型と魔術型の巨鎧がいる部隊は攻撃を開始していた。アイリー達の部隊の先頭にいるツイスグの近くにも敵の射撃が飛んでくる。全体としては端に位置するので受ける射撃の数は少なく、チーナは軽々と回避していた。逆に中央にいる部隊は雨のような攻撃を受け、既に破損した巨鎧も出ているようだ。


「接近戦に変わります。みんな付いて来て」


 ツイスグが幅広の剣を構えて駆け出し、紅薔薇騎士団のメンバーもそれに続く。


「シンちゃん、行くよ!」


「うん!」


「マスター、敵の総数は108機、自軍の方が133機と有利です」


 イルナから現在戦闘に参加している両軍の数の報告を受けたが、アイリーにはとにかく多いという感覚しかない。今回はアイリーも長めの剣と大きめの盾を作り出して戦う事にする。敵も駆け出していて、近付いてきた敵がツイスグと剣を交わす。チーナは副団長だけあって、軽く敵の攻撃を避けて即座にコクピットを剣で貫いた。他の騎士団の団員も二人一組で確実に1機ずつ破壊している。


(来た!)


 大量の敵の巨鎧が波のように押し寄せてくる。アイリーとスーライの近くにも斧を振り上げた兵士型の巨鎧と槍を構えた兵士型の巨鎧が襲い掛かってきた。アイリーは周囲での戦いの勢いに飲まれ、盾で斧の攻撃を受けるのが精一杯だった。しかしシリミンは冷静で、槍を躱して兵士型の1機を爪で切り裂き、続いてアイリーに襲い掛かってきたもう1機のコアも破壊する。


「アイお姉ちゃん大丈夫?」


「ごめん、大丈夫」


「マスター、焦らずシリミン様と一緒に行動を」


 シリミンとイルナに言われて少しだけアイリーは落ち着く。今までの敵は機械や悪事を働く邪教団だったので人々の為を思って戦えた。しかしこの戦場では相手がそういった括りに入らず、普通の人間同士の戦いだと思えてしまう。


(余計な事は考えない!)


 アイリーは頭からそんな考えを振り払う。そうした間にも敵は押し寄せ、横ではルルトとロガンが協力して巨鎧を破壊し、背後からはオクシオとソシアの援護攻撃が行われていた。スーライが近くにいた敵に向かったのでアイリーもそれに続く。敵と味方が入り乱れてはいるが、イルナがはっきりと視界内の巨鎧が味方がどうか色で区別が付くようにしてくれるので同士討ちの心配は無かった。


「でやああああ!!!」


 気合を入れる為に叫び、スーライと協力して敵の騎士型を破壊する。アイリー達以外の部隊で押し負けている部隊も見られるが、それを助けに行く余裕は無い。集団での戦闘では目の前の敵を倒さなければ動き回る事もままならないのだ。


「傷を負ったらわたくしに声をかけて下さいね。軽傷ならすぐにすぐに魔法で回復しますわ」


「探索型の敵は小回りが利き、視界から消えやすいです。わたしとリム様で率先して戦いますので皆様は騎士型、兵士型の相手をお願いします」


 リムールの後にレイネンが全員に連絡する。以前リムールに聞いた死角の話だろう。アイリーもシリミンもその点なら問題無いが、息を合わせる為にも探索型は二人に任せた方がいいと思った。


「左翼側の敵の数は減っている。余裕が出来たらどんどん内側へ加勢して」


 先頭で戦っているチーナから指示が出る。戦いつつ状況を見ているのだろう。アイリーはまだ目の前の敵を倒していくので手一杯だ。敵1機1機は今まで戦った邪教団の幹部などに比べれば十分相手出来る強さだ。特殊技能で不意を突かれても避けるか受ける事で対処出来た。しかしそれが連戦となり、敵味方入り乱れると物凄い集中力が必要とされる。


「マスター、伏兵はワタシとシリミン様がいるのでそこまで気にしなくても大丈夫です。目の前の敵を倒す事に専念して下さい」


 そんな中イルナの存在はアイリーにとってとても大きかった。イルナがいなければどこかしら大きな傷を負っていただろう。シリミンも獣人特有の集中力なのか、周りがよく見えており、敵の攻撃は殆ど当たっていない。アイリーも気を取り直して効率的に敵を排除していった。

 数分後、徐々に状況が変わっているのがアイリーにも何となく分かった。勢いは王国軍の方にあり、帝国軍は徐々に後方に下がってきている。


「弾切れです。エルータ後退します」


「こっちももうすぐ魔力切れよ」


 エルータとセリュツは出し尽くしたようだった。アイリーはイルナのエネルギーはまだ大丈夫だが、終わらない戦いを続けて徐々に精神がすり減ってきているのに気付く。


「シンちゃんはまだ大丈夫?」


「うん、まだまだいける」


 シリミンはそう答えつつ次の敵を破壊していた。そんな中、紅薔薇騎士団の巨鎧の1体が倒れるのが見えた。近くにいた他の巨鎧が助けに行くが、1体は倒れたまま起き上がらない。


「ミシアはもう助からないわ。エンミは私と組んで」


 チーナのツイスグが寄っていって確認し、即座に判断する。エルータが言っていた、いつ誰が死ぬか分からないという話が現実味を帯びてくる。


「マスター、落ち着いて下さい。戦争での犠牲は避けられません。まずは目の前の敵の排除を」


「そうだね、ありがとう」


 アイリーはなるべく考えないようにと敵に剣を振るう事に集中する。乱戦の中でも自軍の割合が増え始め、段々敵を追い込んでいくようになっていた。


「敵が撤退を始めたわ。深追いはしないで、安全になるまで目の前の敵を排除するように」


 やがて敵の巨鎧で後退を始める物が増えていく。アイリー達は言われた通り、目の前の敵を破壊し、逃げていく物は無理して追わないようにする。そして敵の巨鎧はアイリー達の周りからはいなくなっていた。


「王国軍の勝利よ!」


「「「うおぉおおおおお!!!!」」」


 チーナからの連絡の後、戦場に勝ち鬨が響き渡った。アイリー達は叫ばず、周りに敵がいない事を再度確認する。周囲には沢山の敵と味方の巨鎧の残骸が転がっていた。


「これが戦争……」


 アイリーは目の前に転がる自分が倒した敵の巨鎧や、先ほどまで一緒に戦っていた動かない自軍の巨鎧を呆然と見つめていた。

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