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幕間

 灰色の厳つい鎧を着た禿頭の男が廊下を歩いていた。この屈強な男の名はギモン・タレアド。ストルイカ帝国の正騎士団である灰狼騎士団はいろうきしだんの騎士団長である。元はメロガダン王国の騎士団に属していたが、以前の戦争で不要に暴れた為に解雇。飲んだくれていた所を帝国にスカウトされたのだった。30代後半ではあるが、精力は衰えず、むしろ王国にいた頃より活き活きとしていた。数ヶ月前までは。

 ギモンが歩いているのは元王国領で、現帝国領であるナイシの町の大きな屋敷の廊下だ。ナイシの町には前線司令部が置かれ、この屋敷が本部として使われている。攻略作戦の前線に立っていたギモンだが、戦線はここ数ヶ月膠着し、破竹の勢いだった進攻も止まっていた。そんな折、別の部隊が戦果を挙げているのだからギモンの機嫌がいい訳が無い。突き当りの部屋の扉の前まで移動すると扉の横で立っている兵士が敬礼する。ギモンは軽く目を合わせ、扉をノックした。


「ギモン・タレアド、招集に応じて参上した」


「入れ」


 中から若い女性の声がする。ギモンは扉を開け中に入る。中は質素だが整った広い部屋で、長テーブルの奥に二人の女性が座っていた。一人はテーブルの奥の左角の端に座る、長い緩やかな波打った金髪に優しい笑みを湛えた女性。見た目とは打って変わって、皇帝の右腕であり副官で、現在の戦争の総司令官をしている女性、ライム・ミアーズだ。帝国の怒涛の侵攻が成功したのはライムの戦略のおかげと言っていいだろう。

 そしてもう一人はライムの斜め横、テーブルの一番奥に堂々と座る女性。彼女こそが20代の若さでストルイカ帝国を作り上げ、その頂点に君臨する女皇帝、ウレイユ・ソダシスである。絶世の美女とも呼ばれるウレイユだが今は美しく長い銀髪を纏めていて、服装もドレスでは無くコートとズボンを着ている。それでも胸元は大胆に開け、溢れ出る色気は隠してはいない。


「よく来てくれた。もう一人呼んでいるのでしばらく座って待っていて頂戴」


「了解した」


 ウレイユに声を掛けられ、ギモンは部屋の奥のライムの正面の席に座る。


「長旅お疲れ様でした、お茶を準備しますね」


 ライムは立ち上がり、ポットから紅茶を準備する。その所作はとても司令官とは思えず、普通の美しい女性だ。だがギモンはそうでない事を知っている。

 二人を若さと美貌で男を篭絡し、権力を手にしたと揶揄する者も多い。ギモンも最初はそう思っていた。ウレイユは確かにその美貌も武器として使っている。が、ウレイユの強さは有能だと認めたものはどんな手段を使ってでも手に入れ、不要だと判断したものは潔く切り捨てる行動力にあった。そしてウレイユに知恵を出し、サポートをしているのがライムである。メロガダン王国の辺境の領主から始まり、半年後にはストルイカ帝国を建国するという、脅威の立身出世をウレイユとライムは行ったのだった。ギモンは建国前に声を掛けられ、疑りながらも実力を発揮し現在の地位を得たのである。

 紅茶がギモンの前に置かれたのと同時に、“コンッコンッ”とノックの音がした。


『黒騎士タージル参上した』


 その声はくぐもり、機械の音のようなものも混ざり、人間味を感じさせない。


「入れ」


 ウレイユが答えると扉が開く。見えたのは巨大な全身黒ずくめのプレートメイルだ。180センチある巨体のギモンより更に大きく、2メートルは超えているだろう。この騎士こそが帝国内で話題になっている黒騎士その人だ。数ヶ月前、東方の戦争で傭兵として突然現れ、無敗の黒騎士として名が知れ渡り、ウレイユが3ヶ月前に大金で雇ったのだ。黒騎士の部隊が戦果を上げた事で正騎士団であるギモンの立場も危ぶまれ、ギモンはそれを苦々しく思っていた。


「よく来てくれた、かけて頂戴」


『椅子が壊れるので、立ったままで結構だ』


 黒騎士は移動し、ギモンの斜め後ろに立ち止まる。感情を感じさせない佇まいが不気味だ。黒騎士が鎧を脱いだところを見た者はおらず、声もおかしいので、人間ではないのではないか、という噂すら立っている。乗っている巨鎧も鎧と同じく漆黒で、その剣の技は青騎士にも匹敵するのでは、と言われる程だ。黒騎士の無敗記録は現在も続いており、王国には黒騎士を恐れる者も多い。


「皆様方、忙しい中よく集まってくれた。今日集まってもらったのは他でもない、今後のメロガダン王国進攻について話し合う為だ。ライム、よろしく頼む」


「現在メロガダン王国の王都東側まで我が軍は進んでいますが、ガダルザン砦は強固であり、周囲も守りを固めていて攻め入る隙がありません。ギモンさん、現在の状況をお聞かせ下さい」


「ああ、総司令の言った通りで、何度か砦の破壊工作は行ったが、全て失敗している。身動きが出来ず、灰狼騎士団は傭兵も含めて戦意が落ち始めている」


 ギモンは苦々しい顔で現状を報告した。


「逆に王国側の遊撃部隊が色々動いています。タージルさん、報告をお願いします」


『俺の率いる独立部隊でミアーズ総司令に指示された場所を監視し、3つの遊撃部隊を発見、壊滅した。以上だ』


「以上のように、王国側も必死に反撃の糸口を探しています。周辺が相手の本拠地である以上、長期戦はこちらが不利です。早期に対策を取る必要があります」


「この間、超大型機獣が王都の西に現れたと聞いている。あれで騎士団が離れてくれればちょうど良かったのだがな」


 ウレイユはどこか楽しそうに話す。


「残念ながらハンターにすぐ倒された為、騎士団は動かなかった」


「若いハンター数人で倒したと聞いているわ。ウレイユは興味があるんじゃないかしら?」


「噂に尾ひれが付いてるだけだろう。特に単騎でグリフォンを倒した、美しい白い巨鎧、というのは誇張され過ぎだな。しかし、タージルのような優秀な騎士も実際にはいる。戦争に参加されると厄介かもしれんな。タージルはどうだ?白い巨鎧と戦ってみたいと思うか?」


『俺はそんなものに興味は無い。戦えと命令されれば戦うが』


「つまらないな。まあいい。それでライム、今後の予定は?」


「それではとっておきの作戦を説明致します」


 ライムはテーブルに地図を広げ、説明を始めるのだった。


********


 王都メロガダンの城の会議室に4人の男女が集まっていた。二人の紅色の鎧を着た若い女性とドレスを着た美女、そして1人だけ似つかわしくないヨレヨレの服を着た覇気のない男性だ。会議室は豪華な調度品が飾られ、美しい模様の入ったテーブルに紅色の鎧を着た二人が並んで座り、対面にドレスの美女と男が座っていた。


「チーナ、例の件はどうだったの?」


「ダメでした。町の近くまでは近付けたようですが、黒騎士の部隊に殲滅され全滅です。帝国に阻止されたのはこれで3回目です」


 チーナと呼ばれた若い女性が答える。彼女の名前はチーナ・イラゴイ。大貴族の娘であり、王国初の女性のみの騎士団、紅薔薇騎士団の副団長でもある。きっちり揃えられた深緑色の髪と鋭い瞳が美人でありつつも騎士ならではの威圧感を感じさせる。


「噂の黒騎士が問題なのよね。早めに何とかしないといけないわね」


「まあ、計画通りですね。問題の黒騎士の部隊の戦力も大体分かりました。これで次の手が打てますよ」


「遊撃隊は全滅してるんだぞ。なんだその言い方は」


「戦争は人が死ぬものです。あなただって今まで犠牲者無しに戦ってきた訳では無いでしょう?」


「そういう問題ではない。お前は安全な所でへらへらと指示して、全滅しても、はいそうですか、という姿勢が気に食わないのだ」


 チーナは男に対して激昂する。頭の回転は早いが、真面目過ぎる所がチーナの弱点でもある。


「綺麗な顔が台無しですよ。まあ、僕は女性になんて興味はありませんが」


「姫様、やはり私はこんな男を軍師として雇うのは誤りだと思います」


「チーナ、その位にして。あと、鎧を着てる時は姫様は止めてね。私もグストさんをそこまで信用はしていません。でも、巫女様が推薦したのですから、意味はあると考えています」


 もう一人の紅色の鎧を着た姫様と呼ばれた女性が諫める。彼女こそがメロガダン王国の王女であり、王国の実質の筆頭騎士団である紅薔薇騎士団の団長、メレル・メロガダンである。さらりとした桃色の長髪に大きな桃色の瞳はまさにお姫様のように美しく、可憐だ。しかし、それに反して巨鎧での剣の腕は王国で1,2を争うという。チーナも剣ではメレルには勝てない。


「グスト様を雇ったのはわたくしの我儘です。申し訳ありません。ですが、グスト様の知恵は今後の王国に必要な物だと考えます」


「ほら、ルルンさんだって僕を買ってくれてるじゃないですか。貰ったお金の分はしっかり働きますよ」


「巫女様は悪くありません。まあ、この男は信用しませんが、決まった作戦は遂行しますよ」


「ありがとうございます。わたくしこそ無力で、たまに見えた予言をお伝えする事しか出来ません」


 巫女と呼ばれた薄い紫色の髪の美女はルルン・アイビルという。メロガダン王国には代々1人の巫女が仕える決まりがある。巫女は遠くない未来において、王国に益をもたらす予言を見る力があり、力が弱ってきた巫女が次の若い巫女を見つける事で世代交代をしている。ルルンは巫女になってまだ10年目だった。


「そういえばグストさんは帝国の皇帝と副官の同級生だと聞きました。仲が良かったんですか?」


「まさか。今は皇帝なんて名乗ってますが、容姿端麗で文武両道、代わりに性格最悪の学生で、僕は大嫌いでしたよ。副官のライムも勝手に僕をライバル認定して事あるごとに突っかかってきて、最悪でした。まあ、学校の主席は僕が取ったんですけどね」


 自慢気に話しているこの男はグスト・コジアイというぼさぼさ頭の20代後半の優男だ。半年前、『帝国の倒し方を教えるから雇ってくれ』と城に押しかけて来た、経歴も無い無名の男性である。追い払おうとしていた所を、巫女ルルンが軍師として雇うべきと引き留め、監視を付けて雇う事になった。現在は見た目や性格や言動に問題はあるが、グストの指示で戦況が好転した事が多々あり、雇い続けている。


「話は変わりますが、メレル、超大型機獣の件は聞きましたか?」


 チーナはグストを無視するように話を変えた。


「勿論です。あのリムがやったんですよね。私、嬉しくなって」


「私もです。しかし、聖教団に入ったと思ったら、女性のハンター達と旅をして超大型機獣まで倒すとは。私達も負けていられませんね」


 チーナとメレルはリムールとは幼馴染であった。リムールが若干年下で、チーナとメレルが騎士学校に入った辺りから疎遠にはなっていた。


「僕もその話は興味深いと思いました。特殊型と射撃型と探索型と神官型と魔術型の巨鎧。それに獣人の召還術。素晴らしい組み合わせです。僕はこういう多種多様な組み合わせの部隊こそが必要だと言ってます。なのに騎士団の奴らは聞く耳持とうとしない。だから帝国に後れをとるんだ」


「でも、王国にだって魔術師部隊と聖教団からの協力部隊がいます。他のタイプの巨鎧も用途に応じて配置されています」


 メレルも自国の騎士団を貶されるのは我慢出来ず、反論する。


「紅薔薇騎士団はまだいい方です。他の騎士団は一緒に戦いはするが、協力も連携もしない。それじゃ駄目なんですよ。手遅れになっても知りませんから」


「グスト様、わたくしからも王に進言しておきます。それはさておき、わたくしもその超大型機獣を倒した方達には興味がありますね。彼女達のような若者が戦争を終結に導くのでは、と」


「それは巫女としての予言ですか?」


「姫様、残念ながらそういった予言は見れておりません。ただ、新しい力の脈動のようなものを何となく感じるのです」


 巫女ルルンは以前城から見た流れ星を思い出すのだった。

第1部はここまでになります。

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