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砂上の月  作者: saltcandy
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三人の大将

「華やか」

「俺も2度大将に連れてきてもらったが毎回装飾が違うから見るのが楽しみなんだよな」


俺はそう言いながら、最近まで無かったはずの微かに潮の匂いがする滝、浮かび上がる色とりどりの行燈を見上げる。

行燈の色は青、赤、黄、緑、紫等多種多様でそれが仄かな明かりだけで浮き出ていた。

行燈の明かりを目立たせる為か全体的に暗い場所になっていた。

更に周りには多くの木の机と椅子が置かれており、既に幾つか埋もれていた。

そのどれもが古めかしい木で出来ており、それが滝を中心に広がって置かれていた。

滝の中心に流れる様に水が流れる水路の様なもの迄作られていた。

そして、滝の周囲にあるのは三人の大将が最後に火をつける盃型のオブジェが三つ。


「須藤晶隊員、チャオ・リン隊員、そして朽木雪()、お席こちらです」


銀髪赤目のイケメンが席を案内する。どこか神代に似ていた。例えるならば童話の世界から出てきたような人間であった。

今日は三葉や詩織はいない、最低条件としてLv5以上の者しか駄目らしい。Lv5でも選ばれていない者も多いが。



「今回の会議でのお席はAー3席山王飛鳥大将のお近くになられます。

どうぞ()()()()()()()()


その人はそう笑うと俺達をエレベーターに案内し他の人へ案内する。

エレベーターは、昔の高級ホテルに有りそうな物で、それが剥き出しに動いていた。


「坊主、案内役の最後の言葉、俺からも言わせてもらうが気を付けろよ」

「どういう事?」


雪がリンさんの言葉に反応する。するとリンさんはコメカミをくりくりしながら説明する。


「ここ最近Lv5~Lv7の隊員の暗殺が横行してるのは知ってるよな。

犯人は特務部隊って決まってるんだが、その特務部隊が今日見せしめとして大量の隊員を暗殺、いや襲撃する可能性は高いという事だ」

「特務部隊がそんな事するとは思えませんが」

「いや、確実にいるだろうな」


俺は疑問に思うがどうやらリンさんはいると信じているらしい。リンさんにとって特務部隊は相当な化物集団らしい。


「案外あのあんちゃんが特務部隊かもな」







「やっと来たか須藤」

「はい、飛鳥さん」


壁に引っ付いた様な全体が俯瞰出来るオペラハウスの特等席の様な場所に着く。

俺達が指定された席に向かうと既に飛鳥さんがいた。周りにも何人かの側近がいた。

しかし、俺はそれよりも数席ほどひっそりと置かれた遺影がある所に目がいった。

それに飛鳥さんが気が付いたらしい。


「特務部隊に殺られた奴等だ」


今にも涙が出そうに目を細め震える声で言った。その声に俺も感化され下唇を思わず噛んでしまう。

また、周りの側近達も同じ様に感情を表す。

怒りと悲哀が心の奥底から込み上げてくる。こんな華やかな場所には不似合いだろう感情だ。


「裏切り大将が何故売国隊員に対して感傷的にいられるのだ」


しかし、それに水を差す声がした。酷く研ぎ澄まされた刀の様な声で言ったその男は俺達感情の無いガラス玉の様な紫の目で見ていた。

それは、ずく横のAー2席からした。


「私は特務部隊がやってくれて清々したと思うがな」

「いい加減にしないと私はお前を殺すぞ正邦」

「名前を呼ぶな平和ボケ野郎が」


黒い制服、銀髪の髪に紫色の目、一見女にも見える女顔、しかし紫色の目はどこまでも冷えていて感情を一切見せないでいた。

飛鳥さんの威嚇にも鼻で笑いながら流す。

この人が日本の大将の一人瀧口正邦大将、別名【地獄の瀧口】だ。


「あたしも残念ながらその意見には同意ね。

あたしが極東帝国軍にいるのは極東帝国が好きだから、侵略されるなんて嫌ね」


その会話に加わったのは女の透き通った金銀を思わせる様な声。こちらも、特務部隊の蛮行を賞賛する様な物言いだ。


「おやおや、瑠璃殿は普段よりもお早いご到着で。

今日は槍が降るのかもしれませんね」

「それはあながち間違っていないでしょうね」


その女性はAー1席にいた。金を中心とした着物を着て、黒い長い髪を伸ばし、瑠璃色の目で俺達を見ていた。

この人が瑠璃大将、二つ名は【蝶の扉】。


「お前達は死んでいった者達への敬意は無いのか!」

「面白い事を言いますね。

国を売った奴らに敬意なんて」

「それでは聞きたいが貴方がお好きな社会主義共和国の特殊部隊に殺された者達に敬意を持った事はあるのか?【売国奴の拳】」


【売国奴の拳】それは山王飛鳥大将の【山の拳】を弄った言葉なのだろう。

それに対して俺や側近の人達は敵意を漲らせる。

しかし、そんな事も気にせず二人の大将は雪に視線を向ける。


「ハイエルフねぇ、お前も運がいいものだ。

それを時を見て社会主義共和国にあげるつもりだったのだろうな」

「飛鳥さん、いや山王大将はそんな事しない!」


俺は思わず反射的に言ってしまう。之がどれ程無礼な事とも知っているのに。

しかし、その言葉だけは許せなかった。


「そうだ!いつか山王大将に抜かれるかもと怖くて貶してるのだろ!」

「山王大将はいずれLv10にいくお方だ!

精々吠えてろ負け犬!」


それに勇気づけられてか何人かが声を大にして非難する。飛鳥さんもそれに大きく頷く。


「くっ、クックククク、ハッハッハ!」

「うふふ」


しかし、二人の大将は笑った。馬鹿にするように笑った。


「ダメだ、私はもう腹が痛い!

お前が私を超える?お前如きが大きく出たな!

それにLv10?ダメだダメだ、もう限界だ。寝言は寝てから言うんだな!

Lv10の戦闘を見た事すらないのにな」

「それに、既にLv10は極東帝国にいますしね」

「なっ!」


全員が驚く。Lv10、もはや都市伝説一歩手前の極秘情報、それがこの国にいる?世界で十人しかいないのに。

そんな爆弾発言を何故こいつらは出来るのかも分からない。

そして、それを飛鳥さんが知らなかったのに大きな衝撃が走る。

更に追求したい。そんな思考が全員にあった。しかし、それは叶わなかった。


ゴーンゴーン

開始の時を告げる鐘の音が鳴る。


『大変ながらかくお待たせしました。

これより会議を始めます』







『えぇ、予算報告も終わりましたので次は各大将による問題提起を行ってもらいます。

最初は山王飛鳥大将』

「分かりました」


俺達がいる場所にスポットライトがあたり、全員の注目が集まる。

飛鳥さんをその注目をものともせずに立ち上がる。余裕の表情が見て取れる。


「さて、私が問いたいのは特務部隊による軍関係者、政治家、マスコミ、企業の暗殺が行われている事についてです」


場が騒然とする。多分だが殆どの人間が特務部隊について全くもって知らなかったのだろう。三分の二ほどの人がポカンとした顔になる。

その他の人(Lv8以上の人だが)が横の人と話し合ったりと大混乱である。


「之はもはや極東帝国を揺るがすテロ事件でございます!

首相及び政府にはすぐさま特務部隊を帝国軍から外し、討伐命令をお出し下さい!」

『成程、分かりました。

瀧口正邦大将、()()瑠璃大将、山王飛鳥大将のご意見についてどうですか?』

「却下だ」


無機質なアナウンスが入る。それに正邦大将がいち早く答える。まるで当たり前の様な事をという表情で。

正邦大将は、この様なテロを承認するのか?俺はそう思った。之を正義か悪とすると間違いなく悪だ、正邦大将は悪を承認した。

それだけで俺は怒りで真っ赤になりそうだった。


「山王、お前は特務部隊について何を知っている?

この国を守ってきたのは我々軍ではない、特務部隊だ。お前達はさもそれを悪とするが私から見ればそれは()()()()()()()は善だ。

今回殺された者達は全員社会主義共和国、自由社会主義国、合衆国、大連邦国etc.....様々な国に極東帝国の情報を流したり、犯罪者を入れたりしてきた。様々な物を貰ってな。

之は正しくも売国奴と言われても仕方ない。私はそんな奴らが大っ嫌いだ。

それに、特務部隊と今争ってもただ軍が消耗してお前の大好きな国々が喜ぶだけだ」

「聞いておれば言いたい放題!」

『落ち着いて下さい山王飛鳥大将、瀧口正邦大将。

神定瑠璃大将はどうですか?』


こんな所で大将同士が喧嘩しては大事故になる。それを分かってかアナウンサーが瑠璃大将に話を渡す。それにしても、瑠璃大将の名字を俺は初めて聞いた。


『おや?瑠璃大将お顔がお悪いようですがどうなされました?』


しかし、瑠璃大将は顔を下に向いたまま何かを怯えるようにプルプルと震えていた。近くの側近の人も何事かと話しかける。


「何故です?

何故貴方がこの会議に出ていらっしゃるのですか!?」


そして叫び声が発せられる。その声と顔には明確な恐怖が彩られていた。

その顔に、全ての隊員が驚く。一人だけ瀧口正邦大将がアナウンス室を凝視していた。

瑠璃大将、いつも危険な任務につき失敗が起こったら一番最後に撤退する。そんな人が子供のように恐れる。

異常の一言に尽きる。


『瑠璃ちゃんも、立派になったものねぇ』


そして、同じ声なのに雰囲気が全く違うアナウンスが起きる。それはどこまでも、人を馬鹿にしたような声だった。


「何故貴方がここに!?

もしや、今日この時、三人の大将全員を討つつもりですか?」

「それはたまったものでありません。

横の売国奴は兎も角何もしていない私達まで討とうなどは」


大将を三人討つ?今この瞬間?瑠璃大将は何を言っているのだ。

正邦大将も本気でそれを心配しているようにみえる。


『流石にしないよ。

私達特務部隊の今日の獲物は裏切り者だけ。

声を出してるのは抑止力の為。特務部隊という抑止力があるというね』


その瞬間、行燈が全て切れ、電気が止り、場が真っ暗となった。

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