粛清の足跡は既に
「さて、全員集まったな」
俺はなんでこんな目にあってんだ?あの後、入隊の手続きを取り晴れて極東帝国軍の隊員になって部屋を清掃していた。坊主もたまたま暇だったらしく手伝ってくれたのだが突然拉致されてこんなお偉いさん方の前に。
Lv7やLv8の二つ名持ちの隊員がうじゃうじゃ、果てはLv9までいる。その中心人物は間違いなく山王飛鳥大将だろう。
俺は勿論のことLv6坊主も場違いだろう。
「晶、急な用事でスマンが少々やばい事が起きる」
「なんですか?」
坊主はガチガチに固まってると思いきや案外冷静だった。それにしても、この人員、全て山王飛鳥大将の派閥の人間、反合衆国、親社会主義共和国派の人間が多いな。
「既に知っている者もいるかもしれんが特務部隊が近々、大規模な暗殺をするらしい」
山王飛鳥大将が重々しく口を開いてそんな事を言った。
マジかよ。それが俺の率直な感想だ。
特務部隊が行う大規模な暗殺、それはもはや粛清だ。大連邦国が社会主義時代に行った粛清、それと同程度の大規模な粛清だと予測できるだろう。
そして、集まられたメンバーの大部分を見て分かる、社会主義共和国や自由社会主義国等の国と繋がっている人間達、つまり売国奴の粛清だろうな。
「その中に私も入っていた」
場が騒然とする。
まぁ、そりゃそうだよな。表では、数多の犯罪組織を壊滅、災害が起きたら一番に向かう、海外での紛争地域への出張、極東帝国の英雄が暗殺される。
しかし、俺らや海外からしたら山王飛鳥大将なんて有名ではない。他の大将の方が有名だし、Lv9でも飛び抜けて強い訳では無い、ただ社会主義共和国と癒着してるからマスコミも囃し立て、世間受けが良く、バックに俺達がいたおかげでそこにいるのだ。
ある意味道化師だし、この男はそれを不服に思っていない様に見える。
「しかし、私の首を奴等にやるわけが無い。
逆に特務部隊を全員捕獲するぞ!」
道化師は自信に満ち満ちた声でそう言った。
それで、場が盛り上がる。
しかし、俺は苦笑いしながらこう思った、無理だろ。
「っうぅ、やっと出来た!」
シャーペンを置き、出来上がった数学の宿題を見る。いやはや、三日で終わらせる事が出来た。
やはり、人間本気になると何でも出来るのだね。
僕は、机から離れて扉へ向かう。今日は作戦について班ごとに話し合いをする。あと30分程あるが、まぁ早すぎて駄目な事はないだろう。
場所は竹さんの部屋である。僕は扉を開け廊下に出る。
「終わったのかい来夢?」
「まぁ楽勝だった、フランム」
すると、丁度炎、太陽の様にオレンジがかった赤い髪に目、エルフ特有の長い耳を持つフランムがいた。
他にも広大な砂漠の様な茶色の髪と目の色のエルフ、デーゼル。
深海を思わせるような深い青い髪と目のエルフ、ラメール。
三人とも顔がよく似ていエルフ三兄弟、髪と目の色が違うのはエルフは魔法という異能とはまた違う力がある。それの影響らしい。
魔法とは、エルフ特有の血統力で、人によって違うが体内のエネルギーを消費して個人で違うが炎や水を出したり出来るらしい。
まぁ、ファンタジー小説に出てくるあれだ。
「俺達も丁度撮ってたアニメを見終わってな、時間も余ったし早めに行く事にしたんだよ」
「僕的には、あのアニメはヒロインがとにかくウザかったから早く終わってほしかったね」
「兄さんの言う通りあれは自分もウザかった」
「何を見ていたのか気になるんだけど」
一体どれ程ヒロインがウザかったんだろうか。苦笑いして答えるしかない。
「ひっひひ、お主らももう行くのか?」
そんな談笑をしていると後ろからふと高く、西洋人形の様な声が届く。別に不快な訳では無いが急にかけられたらドキッとしてしまう。
「傀儡師の爺さん、心臓に悪いからやめてくれ」
「そうかい、そうかい。
最近の若者は連れなくて爺さん寂しいのう」
それは一見肌が病的に、俗に白化個体と言われるような白い肌をした少年がいた。しかし、それに騙されてはいけない。この爺さんは少なくとも二百年も前から生きてるのだから。
「ひっひひ、若人達よさっさと行くぞ。
爺は足が遅くてちんたらしてたら夜になってしまう。そうだ、フランムこの老いぼれをおんぶして運んでくれんか」
「はぁ?爺さん絶対に歩けるよな!」
「ひっひひ、これこれ老人をいたわらんか。
爺は、このままとどまるぞ?」
「分かった、分かったよ!」
どうやらフランムが折れたようだ。背を縮め爺さんの後に行く。爺さんはしたり顔でちゃっかりとおんぶしてもらう。見た目は小学生何だけどなぁ。
「ひっひひ、礼を言うぞ」
「おっ、もう来たか」
竹さんの部屋は畳の純和風の部屋である。ちゃぶ台や時代劇にありそうな棚、そして大量の酒。地下室には、巨大な酒部屋があるらしい。
竹さんの種族はドワーフだ。酒好き、鍛治上手、普通は人が寄り付かない洞窟に住む種族だ。
「あら?
かわい子ちゃんばかりじゃない」
そして、先客がいたようだ。植物の様な青々しい色の髪に肌、真っ白なワンピースを着た妖艶な女性、ドライアドの霧草咲である。竹さんと幼馴染であるらしい。
「ひっひひ、爺を可愛い扱いとは之は困った困った」
「あらあら、事実じゃない」
爺さんは不服そうな顔だが確かに事実である。小学生にしかどう見ても見えない。
「成程のぉ、どうすれば老けて見えるか」
「「それは無理」」
全員の声がハモった瞬間であった。
その後、兄、姉、隊長の順に竹さんの部屋に入ってきた。こう見ると本当にどこか国を滅ぼしに行くのかな?というメンバーである。
「さて、今回の作戦だけど八月二十日のお盆明けて少し後に行われる殆どのLv7以上の隊員が集まる形式化した会議兼パーティで行うね。
それ迄の間に雷道、命琴、来夢は議会が行われる本部で清掃員として働きつつ下拵えを、
私、霧崎、竹、傀儡師、フランム、デーゼル、ラメールは売国奴達を暗殺しておく」
この八月二十日に行うというのは見せしめ的な意味がある。国を裏切る者の結末はこうだという。
また、この会議にはマスコミ各社が集まっており一種のデモンストレーションなのである。
その間に僕達兄弟は血統力の力で有利な戦場にする為と情報収集、まぁ後者は特に問題ないのだがね。
「まぁ、私からこんな事位しか言えないけどね!
詳しくはこの資料を読んでね」
隊長がちゃぶ台の上に置かれた大量の資料を指差す。きっとこれを書いたのは副隊長なのだろう。
「最後に一つ、私的な考えでも極東帝国としても守って欲しい事は絶対に死なない事」
隊長が厳しい目でそう言った。
今回の粛清により極東帝国は大きく軍事力が縮小する。その為無駄な戦力を浪費しない為にも特務部隊が死ぬ事は許されない。
「それでは明日から取り掛かる!」
「「了解」」