敵は極東帝国軍にあり
「一応、隊長格だけ捕まえた」
僕は、あの後こっそりと現場に赴き一人だけ生きていた虫の息の男を四肢を切り落として連れてきた。ローブの襟に着いていた中級士官のバッチから隊長格と分かる。
それを拷問室、別名エイちゃんの仕事部屋にてエイちゃんと隊長に引き渡す。
男は猿轡をしていて何を言いたいか分からないが明らかに恐怖に支配されていた。
それもそうだろう。無機質なコンクリート、そこに引っ付いている幾多もの血の跡、多種多様な拷問器具(雰囲気作りの為実際には使いません)、そして黒い悪魔がカサカサと蠢いている。
まぁ、同じ穴のムジナだ。きっと今まで彼も同じような事をしてきたのだろう。ただ、今回はしくっただけでいずれ僕達もあんな目に合うかもしれない。
まぁ、そんなヘマをしたくないが。
「終わったぁ〜」
「エイちゃんありがとう」
数時間後、疲れた顔でエイちゃんが部屋から出てきた。僕は彼女の頭をわしゃわしゃと撫でる。
あぁ、この部隊の天使である。
「仲間の頼みだもん!」
腕を腰に置き、エッヘンとドヤ顔で言うその姿はリビングルームにいた全員を微笑ませた。
「エイちゃん、ポテチ食べる?」
「食べる!」
兄が自分で作ったポテトチップスをお皿に入れてエイちゃんをもてなす。
それにみんなが群がる。何時もの光景である。
「エイ、食べながらでいいからどこの組織の回し者か教えてくれないか」
エリートサラリーマンのようにキッチリした髪にクール系のカメラな男、隊長の旦那さん及び副隊長である。隊長と同じく名前は知らない。
彼は眼鏡をクイッと上げながら言う。
「うん!
社会主義共和国軍の特殊部隊だって!」
「成程、どこから情報が漏れたのか。
今後の為に引き締めを行うか」
僕達が所属する極東帝国、その近くにある国は三つある。
帝国が仮想敵国とする社会主義共和国、帝国を仮想敵国とする自由社会主義国、巨大な国土と軍を持っている大連邦国。
他にも大洋を挟んだ所にある一応同盟国の合衆国等がある。
「よし、全員に報告する。
今年の夏は裏切り者狩りだ!
スローガンは、『粛清の夏』」
そして、隊長が思い付いたようにそんな事を言う。
「よぉ坊主に嬢ちゃん達、また来たのか」
俺は社会主義共和国軍特殊部隊、副隊長チャオ・リンだ。あの後捕まったが俺には愛国心という物が欠けらも無い為さっさと情報を吐いて今は快適な牢屋暮らしである。
どうやら、お偉いさんは今回の事はなかったことにするらしい。
「俺は聞きたい事がある。
特務部隊を知ってるか?」
「特務部隊?もしや極東帝国のか?
俺らの様な連中からしたら有名な話だぜ」
俺はケタケタと笑いながら言う。どうやらこの坊主は綺麗な人間らしい。こういった話は偉い奴か汚い人間が知ってる事なのだ。
それが俺にはどうも眩しくもあり、羨ましいと思えてならない。
俺にもこんな時があったのかねぇ。
「お前の隊長達を殺したのはその特務部隊らしい」
「さもありなん。
あんな一瞬で殺れるのはこの国では特務部隊の連中だろうよ。
それで、なんでその特務部隊を聞きたいんだ?」
極東帝国は平和ボケしている。どこかの国達がそうするように仕向けたのだろう。
その中で特務部隊だけが未だに強き極東帝国を維持している。それが公になれば明らかに潰れるだろう。
特務部隊があるからこそこの国は何とかやっていけていると言っても構わない。
すると坊主の口が開く。
「飛鳥さん、いや山王飛鳥大将に特務部隊の隊員について調べろと任務がきた」
「はぁ?」
俺は聞き間違いではないのかと思った。極秘任務だろうものを堂々と言うこいつにも、秘密であるからこそ保たれてきた特務部隊を明かす大将も、この国は本気で平和ボケしていやがる。
しかし、そんなに平和な国が俺は本当に羨ましい。だからだろう。社会主義共和国も社会主義国も、他の多くの国がこの国を求めて止まないのは。
いっちょ、この平和ボケした奴の頭を壊す話でもしてやろうか。
「分かった。報酬はなんだ?」
「釈放及び俺の部隊に入る事だ」
成程、大きく出たものだ。裏切るかもしれないのに外に出す、寛大なのか平和ボケし過ぎてるのか。
まぁ、俺に関係ない事だ。
「取り敢えず、俺が知っている事は話そう」
「分かった」
坊主が真剣な顔で頷く。
「俺が知っているのは、特務部隊について命からがら情報を抜き取った隊員の話だ。
その前に、俺達が常識として知っている特務部隊の話をしてやろう。
特務部隊は、実に極東帝国が近代化する時三百年程前に設立されたらしい。当時を生きる先達の話では世界大戦時に数人で一軍を相手していやがったのも一度や二度ではないらしい。
揃いのローブに不気味な仮面、俺達の先祖や合衆国等からは不吉の象徴だったらしいな」
「数人で一軍を…有り得ません!?
そんなの教科書や資料に載っていません」
おとなしそうな嬢ちゃんが驚く。まぁ、そんな大事件が無かったことにされる。普通ならば異常だろうな。
「案外当時はそんな事が多発してたぜ。
欧州の方や合衆国、勿論俺達の国も同じ様な人材がうようよしてたからな。
こんな言葉知らないか?『戦争は科学を発展させる』、それと同じ事が異能保持者は起きていた。まぁ、生きる為に強くなるんだろうな。
そんでもって、そんな奴等の総数は分かっていない。五人しかいないとか千人もいる、果てには存在しないという奴もいたな。
というよりも、お偉いさんは存在しないと思っていた…最近まではな」
「最近まで、 つまり何かあったんですね」
坊主達は察しが良くて楽だね。あの時の事は今でも覚えてるよ。
「あぁ、違う特殊部隊の一人がほぼ死にかけで情報を送ってきた。
そいつ曰く、奴等と交戦し捕まったらしい。そんでもって、どこかへと連れてこられて拷問されていたが数々の幸運で脱出したというわけだ。
そこから分かった事、特務部隊は間違いなく存在する。
そんでもって、数は不明だが少なくとも二十名以上である。
次に、之が上層部を大きく揺るがせた。
エルフや竜人、ドワーフ、鬼人がいたとな」
そう言うと俺はエルフの嬢ちゃんに目をやる。
「 この嬢ちゃんを見てわかる様に人間以外にも人種がいる。
さて、続きは釈放してからにしよう」