粛清の終了
「ぐはっ!」
「尾木ぃぃぃ!」
尾木修哉Lv7が燃え上がる。尾木さんは俺にも良くしてくれたとてもフレンドリーな人だった。
「なんだい君達は?
学習能力もなくただ攻撃するのみ、少しは頭を使いなよ」
「ほざけ犯罪者!
強力な攻撃を与えればその異能も砕け散る、それがその異能、反撃の常識だ!」
比較的有名な異能反撃、攻撃を全て返す異能はLvに関係なくよくある異能だ。
一般的に反撃の許容範囲が超えれば攻撃が通じるのだが一向にそういった事は起きない。
「あぁ、君達は人種の異能と誤解してるのか。
いい事を教えてあげよう、同じ様な異能でも種族が違えば異能も微妙に違う時があるのだよ。
それに気づけるかどうか、そこがある意味強者と弱者の違いだろうね」
嘲笑混じりの声でそんな事が聞こえる。つまり、雪の様な別の種族なのか?
しかし、それでは埒が明かない、俺は近くに立っている飛鳥さんに提案する。
「飛鳥さん、ここは俺の異能で...」
「それではお前が無防備になるぞ?」
「大丈夫です」
俺は戸惑う飛鳥さんの目を真っ直ぐに見て頷く。
「分かった、総員待機しろ」
ピタリと攻撃が止む。
「おや?何か面白い事でもするのかなぁ?」
それを見て興味深げな声で奴は俺達を見る。その余裕声、すぐに後悔させてやる。
俺の手に神々しい金色の槍が持たれる。
「それは、七宝器?
しかし、資料にはそんな物書かれていなかった...あぁ、七宝器事体忘れられてるのか」
七宝器?初めて敵の驚愕の声が聞こえた。
「おおぉぉぉお!」
しかし、俺はそれを頭の片隅に入れるだけ、そのまま奴めがけて突撃する。
空中に浮かんでいる敵目掛けて俺は槍を思いっ切り投げる。
その槍はエル・ドラードなのだろう盾に当たる。
すると、盾は砂のように細かくなり、消えていった。
「おぉ!
之は無効化の異能、久しぶりに見たよ」
敵は楽しげな声で歓喜する。なんなんだ?此奴は。一切合切危機感がない。
しかし、年貢の納め時、最早奴に勝利の二文字はない。
「特務部隊ぃぃぃぃい!」
飛鳥さんを初めとした周りの人達が奴に向かう。これを異能なしで戦うなんて不可能である。
飛鳥さんのまさに山すら粉々にしそうな拳がいま、正義の鉄槌となりて奴に近づく。
「その程度か、人間」
残念そうな声が聞こえる。
「ぐぎょお!」
ついで、聞き覚えのある声が響く。
「異能が使えないならば生身のステータスで相手すればいいじゃない」
飛鳥さんが吹き飛ばされていた。異能は無効化した筈だ、という当たり前の事は言わない。
分かってしまう、この敵が生身で楽々と山すら粉々にする正真正銘の化け物なのだと。
「さて、之でネタ切れの様だから遠慮なくいくよ」
俺の目から、敵が、いや特務部隊の隊長が消える。異能でないのならばただ目にも見えない速さで移動しているのだろう。
そして、俺が尊敬していた人達がまるで虫けらのように命を消し去っていた。
「坊主、動くなよ」
「リンさん、貴方には分からないでしょうが離してく下さい」
俺は奴に向かって動こうとしているのをリンさんが止める。
「坊主、どうやらあちらさんはお前に興味がないらしい。
だから死に急ぐ事はするな。勝ち目の無い、死んでいった者達が嘆くような死を招くような戦いは無駄だ」
しかし、それでも俺は許せない。無理に動こうとする。
「晶」
「飛鳥さん!」
だが、目の前に飛鳥さんが現れる。
「晶、お前は死ぬな!
俺はお前に辛い思いをさせた、本当は俺はお前に憎まれるのが道理だった。しかし、弱虫な俺はそれが耐えられなかった。
こんなクズ野郎を捨てて、生きろ!俺の様に道を間違えずにこの極東帝国を守ってくれ!」
飛鳥さんの目から大粒の水が落ちる。
「ゲホッ、俺の事、お前の親の真相が知りたいならばすぐにこの鍵で俺のロッカーにある日記帳を見ろ」
血反吐を吐きながら飛鳥さんは鍵を渡す。両親は幼い頃に死んだ、それの真相?押し入り強盗ではないのか?
そんな疑問をよそに飛鳥さんは敵と目を合わせる。
「待たせたな特務部隊隊長!」
「悲しいものだよ。
ここまで他国に蹂躙されていなければお前とも話せたのだろうね」
二人の人間が向き合う。それだけで全ての喧騒が遠ざかる。
「はぁ!」
「おおぉぉぉお!」
そして、拳と拳がぶつかり合う。俺には分かる、之は飛鳥さんの全身全霊をかけた、生涯最高の拳だったと。
凄まじい衝撃波が起きる。周りの物が次々に吹き飛ぶ。俺達も吹き飛ばされてしまった。
ドゴン!
終わりを告げるかのその音が聞こえる。
「どっ、どちらが...」
俺はよろめきながら何とか立ち上がる。砂埃が酷すぎて何も見えない。
少しすると砂埃が少しずつ明ける。そして、俺は見つけた。飛鳥さんの巨体が立っているのを。
「飛鳥さん!」
俺は喜びに満ちる。
「晶...」
掠れ声で飛鳥さんが俺に言う。
「すまん、先に逝っている」
砂埃が完全に明ける。そして、飛鳥さんがどのような状況かが分かる。
飛鳥さんは右半分が無かったのだ。
飛鳥さんはバタりと倒れた。
「飛鳥さん...」
俺は膝から倒れる。足に熱いものが落ちる。
「少年」
そこに、飛鳥さんを殺した奴が近寄る。
「君は山王飛鳥が託した物を必ず引き継いでゆけ」
その声はまるでそれがお前の義務だという口調でもあった。
「隊長、戻りますよ」
「了解、了解。
之で第1フェーズ、売国奴の始末は完了、第2フェーズに移るよ」
そして、特務部隊達は消えていった。
『八月二十日に行われた極東帝国軍会議により大規模な粛清、亡くなられた隊員達は以下の通りです。
Lv3~Lv6が1000人
Lv7が45人
Lv8が30人
Lv9は、【困惑の大樹】【鬼太刀】【幻界の姫】そしてあの【山の拳】山王飛鳥大将。
現在、彼等が関わっていたと思われる他国との癒着につい...』
私はテレビを消す。どれもこれもニュースはこの話題ばかり、本当に飽きてしまうし不愉快である。
「佐藤様、社会主義共和国の【幽鬼】が来られました」
「分かった」
社会主義共和国、我々自由社会主義国を属国扱いにする極東帝国と同じくらい不愉快な国だ。それに従属する馬鹿な政治家も政治家だが。
イライラしながらタバコを潰す。
【幽鬼】、私達の業界では知らぬ者がいない程の暗殺者、社会主義国の汚れ部隊【匕首】の隊長である。
【匕首】とは、つばのない短剣の事で、大昔に荊軻という人物が時の権力者を暗殺しようとした時にも使ったらしい。
「久しいことかな【色欲】」
「っ!
【幽鬼】殿、何用だ?」
ローブを羽織った人間が突如現れ、私は内心驚いてしまう。
【幽鬼】は、神出鬼没で有名だがどうしても毎回急に現れるのは驚いてしまう。
「ほっほっほ、そう焦らぬ事だよ【色欲】。
それに何用とは、決まっておろう。特務部隊の次の標的じゃよ」
「それは私達でしょうね」
特務部隊の次の標的、極東帝国に潜んでいる敵国の部隊の掃討だろう。
しかし、その掃討は売国奴達の様に上手にいく事は無い、果てしない泥沼の戦いになる事は間違い無いだろう。
「ほっほっほ、お主はどうやら特務部隊を軽く見てる様だな」
「軽く?」
「そうだとも、敵を過小評価するのは自由社会主義国の悪い所だ」
私は内心に隠している怒りをどうにか抑え込み、【幽鬼】を見る。社会主義国こそ我々を過小評価している。
「既に儂の手駒が三人殺られている」
「なっ!」
【幽鬼】の手駒、つまり【匕首】のメンバーが三人も殺された、【匕首】というのは実力はそれ程だが特務部隊以上に謎の、【幽鬼】以外知られていない影の部隊だ。
それが発見された、驚き以外ない。
「しかも、御丁寧に儂へのメッセージも付けられていた」
「それを話して私とどうしたいのですか?」
「なぁに、儂と手を組んでこの逆境を乗り越えようと思わるか?
既にお主以外にも、合衆国等多数の国々と手を組んだ。まぁ、大連邦の奴らはそうそうに撤退したがな」
もし、【匕首】の話が本当ならば、この手に乗るか、撤退するかの二択だ。
ならば、その答えは
「分かった、その提案にのる」
「ほっほっほ、【色欲】も話が分かって楽じゃわ」
「本当に山王を殺して良かったのですか...」
「殺すしか無かったし、それは彼も了承した事だろう。
だからこんな茶番が成功したんだし。中々精一杯の演技だったよ」
明かり一つない暗闇の部屋の中、私は一人の人間と話していた。
そいつは、山王と同じく私の教え子の一人で、山王と同期の人間だ。
「それとも何、
彼の最期を否定するのかな?」
「それは絶対にありません!」
即否定する。やはり、相当気に病んでいる様だ。
全ては17年程前から決まっていた事なのにね。
「ならば、割り切れ」
「っ!せめて、貴女ではなく私の手でケジメをつけ...」
「立場が逆ならば山王も同じ事言っただろうね。
もしかして、君が後悔してるのは須藤和也の時のだとでも言うのかい?
それならば言わせてもらうがアレは私の責任だ」
「それは違います!
あれは私と山王、そして須藤が...」
私はひと睨みする。すると静かに声が消える。
「そうだとも、アレは私の責任でもあり、君達の責任でもある。
だから教え子をこの手で殺さなければならなかったし、山王は汚名を着たまま死ななければならなかった。
そして、君は之からの極東帝国の未来を切り拓く為に茨の道を通らなければならない。
それは、この私、特務部隊達とも戦う事になる程のね」
「やはり、そうなりますか。
分かりました」
どこか諦めた様に教え子は了承した。
「大将を引き続き頼むよ」
私はそう言って窓から外に出ていった。
続きを投稿するのはとても後になると思います。