プロローグ
西欧では月は人を狂わすらしい。月によって狂った人をLunaticと言うと聞いた。
砂の上の様に不安定な世界で狂った奴ら何思う?
《極東帝国ー未明ー》
とある路地裏、ポタポタと血に濡れた糸から赤い雫が滴り落ちる。
起こした張本人たる少年は何を感じているのか、ただ呆然と見ていた。ただ、違う違うと呟きながら。
「激しく暴れたな。
さて、お前に聞くがこちら側に着こうと思うか?」
少年の目の前に人の恐怖心を唆る様な不気味な仮面を付けた人間達が現れた。
仮面越しからでも分かるような同情の目線を彼に向ける。
しかしながら少年は一言発する。
「煩い」
少年の怒りを表すかのように糸が仮面の集団の本へと一斉に向かう。その間に、少年は反対方向へと一目散に逃げる。
「全員追うぞ。
一年もの間続いた鬼ごっこに終止符打つ」
それを見て、全員無傷の状態で砂煙から表れた仮面達は彼を追う。
一対一ならあっさり負ける事は無いだろうが複数ならば一瞬で負けるだろう。
それを分かって少年は逃げるのだ。彼が戦う時は、一対一か詰んだ時だけだ。
巧みに糸を使い建物の窓や壁に付いている突起物等を使い三次元に逃げる。また、街の至る所に張り巡らされている糸を糸電話の容量で仮面達がどこにいるか聞き取る。
「之は、詰んだ」
そして電灯の上に立ち悟る、詰んだと。
確実におびき寄せる為に仮面達は少年の逃げ場所を予め、それも数ヶ月前から仕込んでいたのだ。少年は、異能によりこの空間に囚われてしまっていたのだ。
「くっ!」
少年は突如横に避ける。先程立っていた電灯が黒く焦げていた。
周りには仮面の集団が囲んでいる。
「残念だが、もう逃げられないぞ」
「知っている」
出来るだけ平坦な声で少年は言う。しかし、そこには焦りの声が混じっている。
「最期くらい、派手に散ろうか」
少年の手に巻かれていた糸が消えた。代わりに、黒いモヤに覆われた棒状の物が現れる。
「よかろう、全員完璧な勝利といこうじゃないか」
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