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0003-03

「この王国には《堕覇の聖杯》が秘匿されていたの。この現状をもたらした元凶はこの聖杯に封印されていたの」


「堕覇の聖杯、って。昨日の劇で出てきてたね~。それと関係あるの?」

 ユグドラシルが的確に相槌を入れた。これは今、誰もが一番聞きたかったことであろう。



「えぇ。あの話はこの国発祥の話よ」

「あ~。その、話を折るようで悪いがな。ミルストフィン劇団なんだかな。全員、死んでいたよ」


「なっ。まさか……」

 エリミアナが驚いたように言った。ミルストフィン劇団には特に思い入れは無かったが、夜の襲撃の後に襲われたとなるとちょっと気持ち悪い。




「あぁ、そうだ。それに、生存者はゼロだった」

 ヴォルフが追い討ちをかける。それにユグドラシルがむぅ、と口を膨らませる。


「面白い人達だったのに……」

 そういうことらしい。面白い人が減ったことが少し悔やまれたらしい。




「話を戻して、あの《堕覇の聖杯》に封印されているのが虚狐なの」

「そもそも、その虚狐と言うのはなんなんだ? それを聞かねば依頼を断るも、断らぬも判断ができん」


  ティンカーリュが的確に突っ込む。さきほどから言っている、虚狐という存在。神なのか精霊なのか、はたまた魔物なのか。存在が違うだけで対処も変わってくる。




「伝承では狐獣人の肉体に受肉を果たした堕ちた精霊らしいわ。でも《堕覇の聖杯》で肉体は消し飛ばしたとも聞いているわ」


「憑依型なんだ~。ならユグ達でなんとかできるんじゃない?」

 フィーネの回答に、ユグドラシルがエリミアナを見ながら答えた。足をプラプラさせながら無責任とも思えるような言い方で。


「出来るのと、行うのは違うよ。出来るから行うんじゃないの。あんまり期待させるような事を言うのは、優しさじゃないよ。ユグ」

 はぁい。と気の抜けた返事をした。フィーネは一瞬でも依頼を請けてくれるのでは? と期待してエリミアナの言葉で気を落とした。


 上げて落としたのはエリミアナの方かもしれない。




「続けるわ。虚狐は人族の魂だけを食べるの。そして、肉体は傀儡人形にしてまた人を集めて食べる……の繰り返しをして力を付けていくの。そのついでに、操ってる人間が不自然なのをあまり感じさせない魔法を使っているらしいわ」

「へぇ~。って、それじゃぁ」


「えぇ。先ほども言った通り、この国は滅んでいるわ」

 フィーネがはっきりと告げた。この国の生存者はこの目の前に居る人々だけである、と。



「ねぇねぇ、それならさ。どうして、フィーネとヴォルフは死んでないの?」

「ユグドラシル、もう少し言い方があるだろう」

 あんまりか言い方にティンカーリュが咎める。それを無視して、ユグドラシルが答えて、と再度言う。



「私は無事、とは言わないわ。今、私は肉体を持っていないの。私の魂を魔力で無理矢理固定しているだけ。私の魔力が尽きれば、私は死ぬわ」

「俺は、《堕覇の聖杯》が壊された時にこの国に居なかっただけだ。たまたま運が良かったんだよ。後は、そっちの旅人と同じだ。襲われたのを返り討ちにしただけだ」


 どっちもどっちで、怪しい。魂を魔力で固定し続けるのは地味に難易度が高い。それを呼吸するように出来るのは、魔力操作にえげつない程、長けていないと不可能だろう。


 そもそも、襲われたのを返り討ちにした程度で防げるものなのだろうか? 随分と物臭なのか、虚狐というものは。


 そもそも昨日もこちらの攻撃は一切、効いていなかった。そんな相手を倒せるのか。そんなことをすれば、大切な家族を殺してしまうのではないか。



 そんなことをエリミアナは思っていた。





「エリ、どうして迷ってるの?」

「ユグ、どういうこと?」





「だって、エリはさ。今まで困っている人をたくさん助けて来たよ? それに、ユグも助けられた。それなのに、今回だけは助けないの? どうして?」


「ユグドラシル、その言い方は卑怯だぞ」

 ティンカーリュがそう言う。だが、強く言えずにいるので説得力がない。




「マスター。我々のことを思っているのなら、大丈夫だぞ。昨日の虚狐とやらに、攻撃が効かなかったのを案じているのだろう?」

「うん、そうだよ、怖い。ティンも、ユグも大事な家族だから。私の決断で皆が死ぬのは」

 ティンカーリュを見ながら、はっきりと告げた。もう契約など関係無しに、家族だから。


「まったく、マスターは心配性だな。我の命、全てマスターの物だ。マスターがやりたいことを成せ!」

 ため息を吐いたあとに、はっきりと告げた。ユグドラシルも同じように思っているのか、ウインクをしている。




「そんなこと言われても。はぁ、どうせ言っても聞かないんでしょ? 今回は二体(フタリ)の為に依頼を請けるよ」

「ありがとうございます!」

 エリミアナが根負けしたように、そう言った。二体とも満足そうに頷いている。

 フィーネも嬉しそうに頷いているし、ヴォルフはそんなフィーネを見ている。




「そんじゃぁ、そこのちっこい双剣師さんよ。手合わせしようぜ?」

 ユグドラシルを指しながら、ヴォルフがそう言った。



「いいよ? いいでしょ、エリ?」

「やってきなさい。程々にね」

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