0003-02
エリミアナ達が温泉に着いたぐらいの時間帯のお話。
「居るんだろう? 姿を現したらどうだ? 昨日からずっと後ろをつけていただろう。ヴォルフ殿」
「バレてたのかよ。いつ気が付いた?」
窓に視線を飛ばしながらそう言う。すると窓が開いてヴォルフが部屋に入ってきた。
「あえて言うなら、だが。ヴォルフ殿が隠れていた場所から足を滑らせて落ちそうになった時ぐらいから、と答えておこう」
「最初から、ってことか。有能精霊だな。ったく」
頭を掻きながら椅子に座った。ティンカーリュはヴォルフの目の前で浮く。一瞬だけ左右が黄色く輝いた。
「それで? 我とマスターに何用だ?」
「確か、ティンカーリュだったな。お前の名前」
「いかにも」
誇らしげにそう言った。よほど名前に自信を持っているのだろう。
「この国、おかしいだろう? 国民は全て無感情で無表情。決まった答えしか返さない。よく見れば全員が全員、全く同じ行動を毎日している。はっきり言って異常だ」
「確かにな。それで?」
だからなんだ、と言うようにティンカーリュが言葉を続けるように言う。その目を見ながら、ヴォルフは続けて話していく。
「俺はこの原因を知っている。お前も昨日の夜に戦っただろ? あの虚狐と」
「虚狐……あぁ、昨日の奴か。アイツが原因なのか?」
思い出した、と言うように言った。いきなり襲撃されたのに覚えていないとは、ヴォルフがそんな顔をした。
「詳しい話は、マスター達が来てからでも良いか?」
「もちろんだ」
ティンカーリュの提案に同意する。それを聞くと、テーブルの上にティンカーリュが移動した。パァと机の上が輝いて、リュカーナが現れた。
「それまで、どうだ?」
「リュカーナか。良いだろう」
エリミアナ達を待っている間に、白熱した戦いが始まったのだった。
※※※
どのくらいの時間が経ったのだろうか、リュカーナは三回戦を迎えていた。両者どちらも一勝しており今回のゲームで勝敗が別れる気がした。
「弓術師をA3に移行。魔術師に攻撃」
ティンカーリュが的確に、ヴォルフの唯一残っている駒でたる魔術師を攻撃した。このゲームでは魔術師が倒されると勝ちにくくなるので、定石といえば定石である。
だが、ティンカーリュはこの魔術師をずっと残したまま圧倒したのだ。
「嫌らしいな」
「誉め言葉として受け取っておく」
リュカーナはティンカーリュの勝ちで終わった。激しい戦いだったようでティンカーリュの方も駒は弓術師しか残っていなかった。
「たっだいまぁ~。あれ? フィーちゃんの隣にいた男の人がいる~」
「ただいま、ティン。あら、ヴォルフさん。何故ここに?」
「ヴ、ヴォルフ。何でここに居るのよ」
三者三様の驚き方だった。全員、同じ事を言っているのに。不思議である。
「姫さん。言うんだろ?」
「うん……って、何で知ってるの?」
「勘、だが?」
どうやら適当に言ったらしい。そしたら当たったと。フィーネがため息をついた。その後、ヴォルフの隣に立ってエリミアナ達に向かってゆっくりと宣言した。
「私は、フィーネ・エルドライド。このエルドライド王国の継承権第一位の元王女」
「俺は王国騎士団団地、ヴォルフだ」
ものすごい重鎮の二人だった。ティンカーリュも驚きを隠せていない。
「それで。王女様と騎士団長様が何故ここに?」
「説明するわ。この国がおかしくなった理由をね」