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エルドライド王国 某所
「よ、姫さん。調子はどうだ?」
「そこそこ、よ。それで? 何か面白いことでもあった?」
小さな家の、一つしかないベッドに座っている少女に向けてヴォルフは話しかける。少女はヴォルフを一別した後に、窓の外を見ながら回答した。
「あぁ、そうだ。なんとミルストフィン劇団がこの国に来ていて、今日の夜に劇をやるらしいぞ? 見たところ、昨日の旅人も来るっぽいぞ」
「へぇ~、劇かぁ。私も見に行きたいなぁ」
足をパタパタさせながらそう言った。
「行きたいなら連れていってやるぞ?」
「う~ん、どうしよう」
「姫さんが悩んでいるのは、この国のことか?」
「そうよ……早く、どうにかしないと」
「なぁ、劇を見に行くなら早く準備してくれねぇか? 日も暮れてしまうぞ?」
「分かってるわよ。ヴォルフ、後ろ向いてて。着替えるから」
「おう。って、ガキの裸を見たところで、欲情しねぇっえての」
※※※
夜が近いが、まだ夕方と言えるような時間帯。一つの場所には人だかりができていた。
大きな、大きなテントが張られ中には数百人は余裕で入ることができるだろう。魔術を使用し物理現象をも無視した造りのテントにエリミアナ達は歩いて向かっていた。
「エリ、楽しみだね! 劇なんてもうずぅっと、見てなかったもん」
「そうね、ユグ。ティンも楽しみでしょ?」
「あぁ。どんな劇なのか、興味があるな」
そんな事を言いつつテントの入り口に居るイケメンな青年にチケットを見せた。
「はい。どうぞ、座る席は自由にどうぞ。それと、周りの人と仲良くお願いしますね」
ウインクを添えて、そう言いながらチケットを返してきた。イケメンフェイスの力もあって、かなりの破壊力がある。
当のエリミアナはポカンとしているが。
「ありがとうございます」
「いえ、では改めて。良い経験に恵まれますように」
ポカン、とした顔のままでそう言った。そんな声を背中にテントの中に入っていく。
劇団だと言うだけあって、大きなステージが前方にある。そのステージを囲むように客席が並んでいた。
昼間はあんな興味なさそうに見ていた国の人達もかなりの量が席で座っていた。劇前の特有のガヤガヤ感は一切無い。皆が黙って、シンと座っている。
「そう言えば、エリ。ここの劇団の人達は周りの人達みたいに、のっぺぇ~と喋らないね」
「まぁ、国の外から来たからじゃないのか? この国の国民性がこのような静かなモノなのかも知れない。ま、我はあまり好きではないがな」
ユグドラシルの言葉に、ティンカーリュが続けた。そんなことを言いつつ、席を探していた。欲を言えば三つ並んで席が開いている場所を探しているのだ。
「おっ! 昨日の温泉の時の旅人じゃねぇか? 隣に来いや。三つ席、空いてるぜ」
昨日、温泉に居た男の声だった。静かなこの場所では、その声はよく響く。
「呼ばれたみたいだね。どうするの? エリ」
「行こうか。別にどこからでも見えるし」
判断はエリミアナに任された。席としても、ちょうど真ん中で見やすそうだ。断る理由もない。ティンカーリュは、どこでも良いというようになにも言わなかった。
「ちょっ、ちょっと、ヴォルフ! あんな大声で呼ぶこと無いでしょ! 目立っちゃうじゃん」
「なぁ、姫さん。姫さんの声もだいぶ響いているぞ?」
そんな声が聞こえた。席について話始める前に、劇が始まってしまい喋れなくなってしまった。
「紳士、淑女の皆様。今宵はミルストフィン劇団にお越し頂きありがとうございます」
そんな口上から劇は始まる。最初に、話しているのは昼時にいた男がジャグリングをし始めた。この男はジャグリングしかしないのだろうか?
「今回、皆様にお見せしますは《堕覇の聖杯》という物語。昔、昔の吟遊詩人から聞いた話を我々がシナリオにし、演じて見せましょう!」
ジャグリングの球を、全てキャッチしてもう一度、高く投げ上げる。天井スレスレまで球が飛ぶのと同時に男が力の限り叫んだ。
「では! ようこそ! 夢幻の物語の世界へ!」
辺りを明るく照らしていた光が一瞬で消えて真っ暗になる。すると、音楽隊がゆっくりと音楽を奏で始めた。