0002-01
次の日。朝から起きられずに、昼近くになってから起きたエリミアナ達。
なぜならティンカーリュと久々にやったリュカーナがかなり白熱の戦いになり、かなり深夜まで争ったからだ。ユグドラシルは、ゲームが始まってから三十六手目ぐらいで寝始めた。
「ふぁ。おはよう。ティン、ユグ」
「おはよう、マスター。随分と寝ていたな」
「おはよ~、エリ。今日はユグの方が早起きだったね」
どや顔でユグドラシルが言う。ティンカーリュはエリミアナの足元に座っていた。
昨日散らかしていたゴミも、旅装束も綺麗にしまってある。静かに片付けたのだろう、ティンカーリュが。ユグドラシルは基本的に片付け等はやらない。やっても、かなり雑になってしまう。
「片付けてくれたんだ。ありがと」
「言われるまでもない。マスター」
ユグドラシルはしら~、と目を逸らした。手伝わなかったか、寝ているときに片付いたかで居心地が悪いのだろう。
「それじゃぁ、観光がてらに国のなかを見て回ろうか」
「うん! そうだね、エリ」
ティンカーリュは何も言わずに外をじっと見ていた。何かを眺めているようでもあった。
その後、身支度を簡単に済ませて宿を出る。その際に、宿屋には昨日と全く同じ人達が食事をしていた。
「さぁさぁ、寄ってらっしゃい。見てらっしゃい!」
威勢のいい声で客寄せをしながらジャグリングをしている男がいた。昨日は居なかったのか、それとも気が付かなかっただけなのか。それでも、何やら面白そうである。人が一切、集まっていないのを除いたら、だが。
「わぁー、すごい!」
男の前に行き、すごい、すごいと連呼しているユグドラシル。
誰一人、見向きもしていなかった地獄のような空間でそのように楽しそうに笑っている少女の存在は男にゆとりを持たせた。
ただ一人、目の前の少女のために調子に乗って大技を披露する。
「さてさて、今から大技。六本ナイフジャグリングをしましょう!」
投げていた球を綺麗にキャッチして、球をナイフに変更して投げ始める。鋭利なナイフであり、下手にキャッチすれば怪我は免れないだろう。
「ほいっ! ほいっ! ほいっ!」
「おぉ~。ナイフがクルクル空を飛んでる~」
掛け声と共に、空を舞うナイフ。外から見ているエリミアナは肝が冷えるが当のユグドラシルは楽しんでいる。
「あっ! お嬢ちゃん、離れてっ!」
突如、風が吹いてナイフの回転がまばらになってしまった。これでは、ナイフがユグドラシルに突き刺さってしまう。
男が慌てて、ユグドラシルに向かって叫ぶが全く動かない。
「樹壁!」
「障壁展開!」
ユグドラシルとティンカーリュが同時に叫んだ。ユグドラシルの両手に嵌めている木の腕輪が動き出してナイフを受け止めた。
それと同時に、ユグドラシルを守るように障壁が展開される。ナイフが落ちてきても滑って地面に落ちるように配慮がなされていた。
するすると樹壁が元の腕輪へと戻っていく。樹壁に受け止められた六本のナイフをユグドラシルが掴んだ。
「すまなかった、お嬢ちゃん。ナイフ取ってくれてありがとうな」
そう言って、ナイフを受け取ろうとした時にユグドラシルが上にナイフを投げた。
「なんでっ!」
エリミアナがユグドラシルの理解不能な行動に驚いたように叫ぶ。男も口を開けて硬直してしまっている。
割りと高い位置まで投げられたナイフはユグドラシルの手によって男と同じようにジャグリングしている。
「ねぇ、ティン。ユグって、ジャグリング出来たっけ?」
「ずっと、やらなかっただけじゃないのか? 我もユグドラシルのジャグリングは初めて見たが」
少しした所でナイフジャグリングが終わった。ユグドラシルは次こそナイフを男に渡した。ナイフの重さに我に返る男。
「すごいね……お嬢ちゃん。どこで覚えたの? そのジャグリングは」
「ん~とね、さっき! お兄さんがやってるのを見てね、出来るかな? って、思ってやったらできたの!」
「あー、うん。そうか。すごいね」
まさかの見て盗んだという。凄まじい才能であろう。
「ユグ、危ないことしないの」
「ごめーん、エリ。でも、できると思ったんだもん」
「あの、俺はミルストフィン劇団の団員なんですけど。今日のお詫びに、これを。今日の夜から劇をするんで、そのチケットです。是非、来て下さい!」
男がチケットを三枚、エリミアナに渡した。それに無料で劇が見れるなら、それに越したことはないだろう。
「ありがとうございます。見に行きますね」
「はい! 待ってます」
そう言って、頭を下げてまたジャグリングを始めた。今度は、始めと同様にナイフではなく球で。
「チケットも貰ったし、劇、見に行こうか。今日の夜に」
「うん!」
「劇か。久しぶりだが、面白そうだ」
そんなことを言いながら、エリミアナ達は夜までの時間を潰した。
国の人達が、無表情でのっぺりとした口調であること以外は普通の国のようだった。