表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/18

0004-05

「どうじゃ? どんなに頑張っても愛しの姫君は帰ってこないじゃろ?」

「そんなことないっ。だって、フィーちゃんは強いもん!」


 ユグドラシルは願っていた。だからこそ、もう一度叫ぶ。




「フィーちゃん!」

「だから、何度も言っておるじゃろう」

 呆れたように虚狐が言う。その声は届いたとしても無駄であると。



「さて、そろそろ妾も飽きてきたところじゃ。本気で──うんっ!」

「フィーちゃんなの!」

 明らかに一瞬だけ、口調が変わった。虚狐も驚いたような顔をしている。まさか、一瞬でも肉体の主導権を奪われるとは思いもしなかっただろう。




「小癪なっ! なぜ、なぜじゃ! なぜ、想い人を殺されてもなお、心を折らずにいられるのじゃ!」

「それは、フィーちゃんの心が強いからだよ。ユグは分かったもん」


 ユグドラシルがどや顔で告げる。エリミアナは油断無く虚狐を見る。ティンカーリュやヴォルフを見ている隙はない。



 長い長い戦いで、肉体が疲弊している。集中していなければ、意識はストンと落ちてしまう気がした。




「私はフィーネ。エルドライド王国王女よ。王は誰よりも気高く強くあるべきなの。


 そして、虚狐。あなたの問いに答えるわ。問題大有りよ。契約? 願い? 代償? 悪いけど、覚えてないのよね、私。知ったこっちゃないわ。



 それに、これは私の心が強くなかったから始まったの。それに、私は対して強くないわ。皆に支えられて強く見えるだけなんだから」

 しっかりとした口調でフィーネが語りだした。虚狐から主導権を奪ったのだろう。

 その姿にユグドラシルがぱぁ、と顔を綻ばせる。嬉しいのだろう。



 ゆっくりとヴォルフの所へと歩いていく。ヴォルフに近づくにつれて涙が溢れそうになっている。でも、決して落とさなかった。



「フィーネ殿、か。我が不甲斐ないせいで。ヴォルフ殿を助けられなかった。すまない、すまないっ。護れなかったっ!」

「大丈夫よ。ここまで綺麗に治してくれてありがとう」



「ありがとう。ヴォルフ。私の最愛で最強の騎士。あなたの事は、きっと忘れないわ」

 ゆっくりと、ヴォルフの頬にキスをした。これは最初で最後のキスであろう。





「何を勝手に、しておるっ! このからだぁ、わらっわの物ぞっ!」

「えぇ。仲良く共有しましょう。でも、まだ私の番よ。夜行性のあなたは、黙ってみておきなさいっ!」


 一瞬だけ虚狐が出てきた。でも、それを押さえ込みフィーネはヴォルフを目に焼き付けている。



「フィーネ・エルドライド。汝の願いを叶えてやろう。何でも願うといい。世界樹の名において、叶えてやろう。なぁんてね」


 フィーネに後ろから抱き付いて、そんなことを言うユグドラシル。その言い方は今までの子供っぽい口調ではなかった。まるで、多くの者を導く先導者のようだった。




「会いたいよ……ヴォルフに。でも、死者は生き返らない。それに、もう何も誰かに私の願いを叶えさせない。道は自分で切り開くものだから」


「その心意気だよ! その気持ちを忘れなかったら、フィーちゃんはどんな困難にも負けない。だから、これは最後のユグのわがまま」


 ユグドラシルがそう言うと、詠唱を始めた。服装は、戦闘用の服ではなく巫女装束へと変化している。





「森羅万象を司る世界樹よ。我が賜ったのは三度の生物の転生許可。今、目の前の死者の魂を精霊への転生を赦したまえ。我が名は、ユグドラシル。世界樹を守護する元精霊なり」



 ユグドラシルを中心に、大きな半透明な大樹が現れる。それは、明らかに世界樹の形をしていた。


 ヴォルフに世界樹から雫が落ちる。ピチャンと小さな音を立ててヴォルフに落ちた。

 するとヴォルフの身体から様々な植物が生えてきた。小さな赤い花弁をいっぱいに咲かせた花。無臭で、さわさわと風も吹いていないのに揺れる花。




 その時だった。



「ひめ、さんか?」

「ヴォルフっ!」

 フィーネの目の前にはヴォルフが立っていた。前のフィーネのように少しだけ半透明で。



「ささ。これがユグのわがまま。契約したら、もう二度と離れないよ?」

 ユグがにやっ、と笑って二人に持ちかけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ