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0004-04 SIDE:フィーネ

虚狐(キョコ)。返してもらうわ」

「止めろっ。止めろぉっ!」


 私の魔力を虚狐へと流し込んでいく。その間、不思議な感じがした。なんというのだろう。私が二人いて、どちらの感覚も共有しながらキスをしている感じ。



 段々、私の身体に魂が入っていくのがわかる。外の感覚よりも、内側に感覚が広がっていく。小さな部屋があるような感覚である。




 そこには、先客がいるのも知っていた。これが、虚狐の魂なのだろう。私の方をじっと見ていた。







 完全に私が、私の身体に入ったときに虚狐が話しかけた。


「のぉ、主。なぜ、妾をどうするつもりじゃ? 追い払うのか?」

「うんん。違うわ。私は、あなたを追い出したり殺したい訳じゃないの。私と身体を共有させるだけ。


 あなたは、ここで私の行動を見ていて欲しいの」

 私は目の前の虚狐に考えを話した。この部屋では外の声が少しだけ聞こえるし、見える。


 だからヴォルフの心配してくれている様子も分かってしまう。





「ふん、そうか。話は変わるが、主は、あの騎士が好きなのじゃろう?」

「ふなっ。な、何よっ! べ、別に、好きなんじゃないわ」

 別にヴォルフの事なんて、好きなんかじゃないわ。何ヵ月か一緒にいたから、それだけ。他意はないわよっ!



「かかっ。そうか、そうか。それと、先程の答えを教えてやろう。否じゃ」

「どうしてっ!」


「教えてやろう」

「ぐうっ」


 虚狐が私の首を絞めてくる。抵抗していても、手が離せない。ここでは身体は関係ないのに、なぜか苦しい。




「主が願ったのじゃろ? その代償としてこの身体は妾を得たのじゃ。好き勝手しても問題なかろぉ?」


「もんっ、だい。ある!」


「ほぉ。言ってみると良いのじゃ」



 言えない。だって『私が』願って始まったことだから。その時の記憶は、不思議とないけど。軽はずみに願ってしまったのだろう。



 でも、この状況を終わらせることが皆への償いの一つにするために。






「言えぬのじゃろ?」


 首を絞められて、話せないと言い訳をしてしまう。でも、本当は首を絞められてなくても言えなかった。






 だんだん、目の前が暗くなっていく。もう虚狐に身体を奪われて私は消えてしまうのだろう。




 嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。まだまだ、やりたいことがある。夢がある。それに、ヴォルフに伝えていないこともある。


 だから、ここで消えてしまうわけにはいかない。





「そうじゃ。最後に嫌がらせ(・・・・)じゃ」

 目の前が完全に真っ暗になったかと思えば、また光を取り戻していった。辺りは少しだけ曇ったガラスのような、不透明な世界が見える。




「ん……ぅ」

「起きたのか、姫さん!」

 まるで、劇のようだ。主役は私とヴォルフ。うぅ、お姫様抱っこされている私を見るのは恥ずかしい。



「ヴォルフ?」

 虚狐が私の真似をして話しているのが分かる。でも、私はヴォルフに話しかけることはできない。




「あぁ、そうだ。姫さん。姫さんが虚狐の中に入ってからかなり時間が経ってるんだぞ。まったく、どれだけ──ぐぼっぁ!」

 あぁ。あ、あぁぁ。ヴォルフが、ヴォルフが死んじゃった。私のせいで、また一人殺してしまった。




「くふ、くふふふ、はははははっ。愉快じゃ。まったくもって、愉快じゃ。可哀想にのう。どんな気持ちじゃ? 想い人を守れなかった騎士の気持ちと言うのは」


 虚狐が高らかに笑っている。でも、私にとってはどうでもいい。兄のように思っていた。そんなヴォルフが死んでしまったのだ。



「そうじゃ、そうじゃ。ほれほれ、妾に負けてしまった哀れな姫よ。感じるとよい。これが主の愛した者の血よ」

 口の中に、血の味が広がる。生臭い鉄の匂いも。それにヴォルフは動かない。



 エリミアナさん達が、ヴォルフを助けようとしているのはわかった。でも、助からない。


 あんな大きな傷を負ってしまったのだ。普通は死んでしまう。





「フィーちゃん。まだ聞こえてるんでしょ? このまま、何もできずに消えていいの?」

「哀れじゃのぉ。死者に話しかけても、答えはこぬ」



 うるさい。





「あなたとは話してないの。ユグは、フィーちゃんと話しているの」




 うるさい。




「旅人になりたいんじゃなかったの?


 自分の選択を尊重するんじゃなかったの?


 このまま、死んでいいの?」




 うるさい。うるさい。うるさいっ。もう、終わってしまった。


 失ってから気づいた。私はやっぱり、ヴォルフが好きなんだって。だから、ヴォルフのいない世界なんて、必要ない。







「黙れっ! もはやこの身体。誰がなんと言おうとも「フィーネ・エルドライドのものだよ。あなたの身体じゃない!」」



 違う。



 私は、生きないといけないんだった。帰らないといけないんだった。私が始めたことを、終わらせないといけないんだった。


 少しだけ仲の良い、旅人の少女が私の名前を呼んでくれる。その声を便りに、私は虚狐にさっきの答えを叩きつけてやらないと。





「フィーちゃん!」

「うんっ!」

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