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0004-04

「離せっ、離せっ!」

「離すかよっ。大人しくしておけっ」

 虚狐が抜け出そうと必死になっているが、さすがに黒鋼樹を内側から破壊する力はないようでもがいているだけだった。

 そんな虚狐に向かって、しっかりとした足取りでフィーネが歩いていく。



虚狐(キョコ)。返してもらうわ」

「止めろっ。止めろぉっ!」

 額に手を触れて、魔力を流し始めたフィーネ。周りの魔力が煌めきを放つ。時間が経つにつれて段々とフィーネの姿が薄くなっていく。




 フィーネが完全に消えた時に、虚狐の身体から力が消えた。気絶してしまったようだ。

「結界解除!」

 ユグドラシルが森林結界を解除し、幾分かはエリミアナに魔力が返ってきた。その魔力によって、どうにか回復したようだ。



 フィーネをお姫様抱っこしているヴォルフはそのまま歩いてエリミアナ達の所までやったきた。

 寝顔は穏やかであり、先ほどまで戦っていたとは思えない。だがまだ、狐耳や不思議な紋章は残っているので油断はできない。




「姫さん。早く目を覚ませねぇかな」

「まだ無理だろう。魂と肉体の固定にはまだ時間がかかる」

 ヴォルフの呟きにティンカーリュが冷静に答えた。





 それから何十分経っただろうか。もう昼過ぎになっていた。そんな時にフィーネが目を覚ました。



「ん……ぅ」

「起きたのか、姫さん!」

 ヴォルフがフィーネを抱き上げる。フィーネがヴォルフを見てから周りを見た。


「ヴォルフ?」




「あぁ、そうだ。姫さん。姫さんが虚狐の中に入ってからかなり時間が経ってるんだぞ。まったく、どれだけ──ぐぼっぁ!」


「くふ、くふふふ、はははははっ。愉快じゃ。まったくもって、愉快じゃ。可哀想にのう。どんな気持ちじゃ? 想い人を守れなかった騎士の気持ちと言うのは」



 フィーネのほっそりとした腕がヴォルフの腹に突き刺さる。貫通して背中から真っ赤に染まった手が見える。


 笑いながら、手をヴォルフの身体から引き抜いく。

 凄まじい量の血が、滝のように溢れだしている。このままでは死ぬだろう。



「てめぇ、だま…ぃ……の……かぁ…」

「そうじゃ、そうじゃ。ほれほれ、妾に負けてしまった哀れな姫よ。感じるとよい。これが主の愛した者の血よ」

 血に濡れた腕を舐めながら言う。楽しいのかかなり笑って腕を舐めている。ピチャ、ピチャと静かに音を立てて。




「ティン。ありったけの回復魔法使って」

「了解、マスター」

 エリミアナが虚狐の頭を目掛けて、矢を放った。だが、予測していたように簡単に避けられてしまう。



「フィーちゃん。まだ聞こえてるんでしょ? このまま、何もできずに消えていいの?」

「哀れじゃのぉ。死者に話しかけても、答えはこぬ」


「あなたとは話してないの。ユグは、フィーちゃんと話しているの」




「また、そうやって、妾を無下にすると言うのかっ!」

 またも苛ついたように話す。そんな姿を見ながら、ユグドラシルはフィーネに届くように願って話している。




「旅人になりたいんじゃなかったの?


 自分の選択を尊重するんじゃなかったの?


 このまま、死んでいいの?」


「黙れっ! もはやこの身体。誰がなんと言おうとも「フィーネ・エルドライドのものだよ。あなたの身体じゃない!」」

 虚狐の言葉に被せて、ユグドラシルが叫ぶ。




 対して仲良くなかった。見知らぬ少女だった。知り合って何日かしか経っていない、吹けば飛ぶような弱い少女だった。

 ユグドラシルにとっては、契約者であるエリミアナと同じ職を目指している少女だった。


 そして、この国で二人で頑張っていた。この状況から脱却しようと、もがいていた。




 敵から真実を知って、悩んだ。この状況が、自分が引き起こしたことだと知って、ショックを受けていた。





 誰よりも、強い人間であった。






 ユグドラシルにとっては、久しぶりの友人ができた。友人が困っているから、助けたかった。




 自身の能力()では助けることはできないことは誰よりも自身が知っている。






 だからこそ、声を張り上げるのだ。








「フィーちゃん!」

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