0004-02
「どういうことだ。姫さんが二人いるぞ」
「怖がらなくともよかろう。ヴォルフ。妾はこの街のことならなんでも知っておるぞ?」
ヴォルフが目の前の狐耳のフィーネと隣にいるフィーネを見比べている。だが、やっぱり狐耳以外はまったく同じなのだ。
「どうして! どうして、こんな事をしたの。虚狐!」
「何を言っておる。これを望んだのは主じゃろう?
妾に願ったではないか、私を縛る王国なんて消えてしまえばいい、と。故に妾はその願いを叶えてやったのじゃ。
感謝されても、憎まれる謂れはないわ」
虚狐はそう言ってカラカラ笑う。逆にフィーネの顔は青ざめていく。言ってしまったのだろう。本人としてはありえないと思っていたかは言った。
「虚狐。お前は今、姫さんの肉体に受肉しているのか?」
「左様。契約の変わりに貰ったのじゃ」
悪びれもせずにそう言った。だから、フィーネが二人いるように見えたのだ。
フィーネの肉体に虚狐の魂が入っており、虚狐に引っ張られて狐耳や尾が出てきたのだろう。
「その肉体、返してもらうぞ?」
「話は終いじゃ。死ね」
虚狐がふわりと空へと浮いて移動していく。だが、置き見上げなのか本体ではない影の虚狐が目の前に現れた。
「ちっ。こいつを倒してから、ってことか」
「そうみたいだね。ユグ、ティン。やるよ」
エリミアナの魔弓から放たれる矢が影虚狐を目掛けて飛ぶがすぐに交わされてしまう。
「双樹剣」
「障壁・撃」
ティンカーリュが無数に障壁を出した。それをユグドラシルが足場にして影虚狐の頭上を目掛けて斬りかかる。
「甘イ!」
避けて、ユグドラシルに反撃を加えようとしたのだよう。だがユグドラシルの方が一枚上手だった。
ティンカーリュの剣状に作られた障壁が影虚狐の足を深々と貫いた。そのせいで、ユグドラシルへの反撃ができない。
ついでと言わんばかりに、右腕を切り飛ばしてエリミアナの近くに戻っていく。
「こりゃぁ、俺の出番はねぇかな?」
ヴォルフの呟きにエリミアナが、フィーネを守っておいて。と言った。返答はなかったがおそらく大丈夫だろう。
ユグドラシルはヴォルフから技を学んだ。どうして必要なのかも。だからこそ、自分一人で倒そうとすることを止めた。
連携を知ったのである。
「グヌ……」
「終わりだよっ! 樹槍!」
黒鋼樹の剣は無数の槍になって、影虚狐に殺到する。
「させん! 障壁」
逃げようとする影虚狐を閉じ込めるように障壁で妨害していく。
逃げられないと悟って、避けるのを止めた影虚狐は槍によってズタズタになって、消えてしまった。
「さて、他の場所を探さないとね。フィーネ、大丈夫?」
「私のせい、だったですね。この話の発端は。私が、全員殺したんですね」
エリミアナがフィーネを見ると蒼白な顔をしていた。言っているのはさっきの虚狐の話だろう。フィーネが願ったから叶えたと。それなら事の発端を作ってしまった自分が殺したのと同義である、そう言っている。
「そうだ。フィーネ・エルドライド、お前が全ての民を殺した。その事実から逃げるのか? 全てを投げ出し、死ぬのか?」
ティンカーリュがフィーネを見ながらそう言った。フィーネが見上げて言う。
「死にたいならば、その願いを叶えてやろう。我の業火にて焼き尽くそう。
だが、もしもだ。お前が少しでも後悔しているのであれば、生きろ。生きて、生きて、生き続け、後悔し続けろ」
慈悲などない。そもそも人間ではないティンカーリュには分からない。なぜ、有限である命を途中で投げ出すのかと。
だからこそ、ティンカーリュは言うのだ。生き続けて、ずっとずっと後悔して、忘れ去られないことが供養なのではないかと。
「私は死なない。生き続けて、この事を忘れないっ。約束するよ」
「それなら、先に進むぞ」
ふん、とそっぽを向いて歩いていく。そんなティンカーリュを見ながらユグドラシルが笑っていた。
「懐かしいね。エリ」
「えぇ、昔もああ言ってたもんね」
敵地なのに懐かしむように話していた。緊張感が無いと言われても責められないぐらいに、懐かしんでいた。
「ったく。旅人の契約している精霊達は優秀だな」
「そうでしょ? それと私はエリミアナでいい。坊や」
皮肉を込めてそう呼ぶと、ヴォルフがなら俺も呼び捨てにしてくれと言われた。
全員がゆっくりと王座の間までやってくる。なんとなく、ここに居るとフィーネが言った為である。
「ふむ。妾の影を相手に苦戦せぬとは。中々の強さだのぉ。ならば、妾直々に殺してやろう」
王座に座っていた虚狐はエリミアナ達を見下しながら言った。