0004-01
次の日の朝。今日がこの王国の最後の日になるだろう。全てを明るく照らす、朝日が王国を照らし始めた。
エリミアナはいつもとは違いダボダボの洋服ではなく、動きやすい服を着て上から蒼龍のローブを羽織っている。右手には魔弓 アルヴェがしっかりと握られている。
ティンカーリュも、即座に障壁を展開できるように準備を終えていた。もちろん、ユグドラシル、ヴォルフもフィーネもだ。
「私のワガママに付き合って貰って、ありがとうございます。依頼達成は、虚狐の討伐。報酬は国庫の財宝を好きなだけ持っていってください」
「よし、全員でまたここに来ようぜ。そして、酒持って祝勝会だ!」
「ふふ、いいな。祝勝会か。なら勝たねばならんな。マスター」
ヴォルフが片腕を上げながらそう言った。それに反応して笑いながらエリミアナを見るティンカーリュ。皆が皆、気合い十分であるようだ。
「それじゃぁ、王宮に向けて行くわよ」
フィーネ先導の元で、王宮に向かって歩いていく一向。この道中にも襲撃される可能性があるので警戒は怠っていない。辺りを注意深く観察しながら歩いていく。
「おかしい……どうして、全員が全員。同じ方向に歩いている?」
「あ、本当だ! ちょっと、フィーちゃん」
エリミアナの呟きに反応したユグドラシルがフィーネを止めた。すると、辺りを歩いていた国の人たちもエリミアナ達を見ながら止まった。
数十もの虚ろな瞳がこちらを向いている。全員が戦闘体制に移った。
虚ろな瞳の人間達から肉が崩れる音がした、べちゃっと地面に落ちるような音。固いものが折れる音もし出した。
そこには、肉が落ち骨も崩れて肉塊になった人たちがいた。それも全員が全員、肉塊になってしまったのだ。
血の臭いと、腐臭が混ざった臭いが立ち込める。
「キツい……」
フィーネが鼻を覆って辛そうに言う。元王族のフィーネにとってこのような臭いは初体験である。だからこそ、耐えられないのかもしれない。
エリミアナ、ヴォルフは慣れているし、ユグドラシル、ティンカーリュはそもそも臭覚を遮断できるのでなんともない。
肉塊が蠢きだし、新しい形を作り出していく。びちゃびちゃ、ばきばき、びりりっ、と神経を逆撫でするような気色の悪い音と共に肉塊は怪物へと変貌していく。
崩れた肉を無理矢理直し、攻撃のためなのか、鋭い刃物のようになった腕。足の筋肉は肥大化している。
「ティン、町になるべく被害がないように焼いてっ!」
「了解」
ゴォ、と火の玉がティンカーリュの周りに現れる。その一つ一つが凄まじい熱量を持ち周りにいる全員が熱気に撫でられる。
それを肉塊だったものにぶつけていく。軽く爆発した化け物達は火に包まれて活動を止め、灰になる。
「さっさと、抜けないと持久戦になりそうね」
「そうだな、魔力は有限だ」
走って王宮へと向かうのだが、遅かったようだ。至るところで先ほど燃やされた化け物がこちらに向かって来ている。
肥大化した足は、足の速さを高めているようでかなりの速度で走ってきている。ティンカーリュの火の玉では間に合わない可能性がでてくるほどに。
「樹槍!」
ユグドラシルが近くの木の家を手で触れて、作った槍は化け物達に向かって飛んで行く。水を含んだ肉が抉れる音と共に動かなくなった。
「ユグありがとう」
「いいよ!」
「やっぱ、その能力はずりぃよ。ユグの嬢ちゃん」
するすると樹槍が元の家の形に戻っていく。そして、樹槍が消えると多くの人間だったモノが倒れていた。
ここから王宮までは近くて遠かった。何度も何度も、化け物達が足止めをしてくるのだ。その度に、樹槍か火の玉で返り討ちにしていっていた。
そして、ようやく王宮へとたどり着いたのだった。
元々は美しかったはずの庭は血で染まり、腐臭を漂わせている。植えられた植物は過剰な養分を吸収して成長している。
この凄惨な状況下では美しく咲き誇る植物達は綺麗ではなかった。
「虚狐の元へと行って、さっさと終わらせよう」
「そうだね……」
植物の精霊であるユグドラシルが悲しそうに言った。過剰に育って、手入れの長らくされていない植物を見ていた。
「ここからは、虚狐の本体が奇襲をかける可能性が高いわ。これまで以上に気を引き締めて行きましょう」
「あぁ。そうだな。姫さん」
「わかった」
エリミアナが魔弓 アルヴェを握り締めた。エリミアナ達はゆっくりと王宮の中へと入っていく。
「ようこそ、妾の城へ。歓迎しよう」
そこには、狐の耳と尾を持ち独特な刺青をしたフィーネの姿があった。