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0001-01

「人間族二名と精霊一体ですね。入国審査は完了しました。どうぞ」

 のっぺりとした抑揚のない声で、エルドライド王国の入国審査官に言われたエリミアナ達は入国していく。


「エリ~。エルドライド王国って、温泉が有名な国だよね! ユグ楽しみ!」

 146センチの小柄な少女、ユグドラシルが楽しそうに笑いながらエリミアナに話しかける。その頭を撫でながら、エリミアナが宿を探すようにキョロキョロと周りを見ている。


「マスター、この国は不思議ですね」

「確かに……なんて言うんだろうか」

 兎と龍を足して割ったような姿。真っ白なフサフサの毛が自慢の精霊、ティンカーリュもキョロキョロしながら国の人々を見ている。

 ユグドラシルは気がついていないようだが。



「まぁ、宿を探さないと話にならないな。我は別に構わないが、わざわざ人工物に囲まれながら野宿は嫌だろう?」

「ははは、そうだね。すいませ~ん! ちょっと良いですか?」


 ティンカーリュの答えに、確かに、というような顔をした。その後、近くを歩いていた少し歳老いた男性に話しかける。おそらく宿の場所を知っていそうなので話しかけたのだろう。


 何を考えているのか分からない男の無機質な瞳がエリミアナを捉えた。


「ええ。なんでしょうか? お嬢さん」

「宿屋を探しているんです。どこか良い場所を知ってますか?」



「ああ。それなら。そこの角を曲がったところに、海鳴亭と呼ばれる場所をおすすめするよ」

 抑揚なんて一切なく、のっぺりした特徴のない声でそう回答が返ってきた。ユグドラシルが「変な喋り方~」と言ってエリミアナに足を踏まれた。

 だが、必要な情報は得られたので男に礼を言って、その海鳴亭に向かうことにした。


 歩いていると、人とすれ違うのだがなんだかいつもと違う気がする。一つ気になったら、全部気になってしまうあの現象なのだろうか? いつもは気にしてないだけ、なのかも知れない。

 だからこそ、気にしないことにした。



 海鳴亭、と看板の掛けれた店の扉を開けた。エリミアナの開けた扉の隙間から、先にユグドラシルが入っていく。その後、エリミアナ、ティンカーリュの順で。


 この三人?の珍客に席で飲んでいた客達がチラリ、とこっちを見た。だが、その後には気にしなかったようにまた酒を飲み始める。



「いらっしゃい。海鳴亭にようこそ。見たところ旅人だね? 部屋はどこでも開いているよ。金額は一律で、こんぐらいだよ」

 この店の店員なのだろう。まだまだ若い女性がこちらを向いて話した。愛想笑い等は一切なく、無表情である。



「ねぇ、エリ。ここおかしいよ? だって、みんな面白くなさそうに動いているもん」

「そんなこと言わないの、ユグ。あー、すいません。この子、ちょぉーと空気が読めなくて。気にしないでください」

 エリミアナがそう言うが、気にしている様子の人は一切いなかった。それに、店員も返答を待っているのか微動だにしない。



「とりあえず、一人部屋で景色の良いところで五泊したいです。後から延長はできますか?」

「一人部屋で、景色の良いところだね。後から延長もできるよ。延長したい時は、私に言っておくれ。これが、部屋の鍵。階段を上って奥の部屋だよ」


 そう言って、部屋の鍵を渡された。簡素な作りの鍵で簡単にピッキングができそうである。それを受け取って、とりあえずエリミアナ達は部屋に向かうことにした。



「ティン、ユグ。とりあえず部屋に行ってから温泉に向かおうか」

「うん! 楽しみ~」

「ぐぬぅ。温泉、やっぱり行くのか?」


 ユグドラシルはとても楽しそうに、ティンカーリュは嫌そうに答えながらついて行っていた。




「そっか! ティンは水が嫌いだもんね~」

「違うぞ。少し苦手なだけだ」

「ユグね、ティンに良いこと教えてあげる。それをね、嫌いって言うんだよ」


 ユグはドヤ顔で言っているのだろう。ティンカーリュはこの時ばっかりは言い返せずに黙っていた。エリミアナは二体の声をBGMにして部屋の扉を開けた。


 部屋は中々に豪華であった。ベッドに、机と椅子。この部屋であの金額であるとは、かなりお買い得であろう。



「すごーい! 外の景色、綺麗~!」

 ユグドラシルがばっ、と窓を開けた。ゆるりと涼しい風が部屋の中に入ってくるのと共に、ユグドラシルが感嘆の声をあげた。ティンカーリュはそれに同意するように目を細めていた。




 エリミアナが旅装束を着替える。旅人に必需品である空間拡張と質量無視の魔法が籠った鞄に片付ける。

 旅装束があまり汚れていないのは、道中でクリーンと呼ばれる魔法で汚れを落としていたからだ。一応、身体の汚れも落とせるのだがやっぱり風呂に入りたいと思うのは人のサガだろう。


「それじゃぁ、ユグ、ティン。温泉に行こうか」

「うん!」

「ま、マスター。本当に行くのか? 我はここで……」


「ティンは行かないの~。あっ! 水が怖いもんね~。うんうん、別に良いよ。しょうがないもんねぇ」

 ニヤニヤしながらユグドラシルか煽っていく。それにティンカーリュは乗せられる。



「別に水が怖くなど無い!」

「なら、一緒に行っても良いでしょ?」

 ユグドラシルが珍しくティンカーリュを黙らせていた。

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