こちら、転売対策所です 5 初めてのお仕事!!!
蒼井一士が、咄嗟に拳銃を構えた。だが直後、拳銃は空中に弾け飛んだ。吊り紐に繋がっている拳銃は、空中で何回か上下をし、地面より少し上の位置で静止した。
蒼井一士が、……撃たれた?
蒼井一士は左手をだらりとさせ、顔をしかめている。一瞬の出来事に理解が追いつかなかった。
「動くな! 手を挙げろ!」
ドスの利いた声がした。声がした方を見ると、テントから数メートル離れた木の影に、エアガンを構える男がいた。どうやら、実行犯は二人組らしかった。
「要求は何だ」
永井三監が、低い声で男達に問う。
「俺達をセーラーキャッツのファンクラブに入会させろ。ファンクラブ会員停止処分を取り消せ。取り消してくれないならば、こいつを殺して俺も死ぬ!」
刃物を持った男が言った。
「……わかった。処分を取り消せば、お嬢ちゃんを返してくれるんだな?」
「応援を呼んだりしたら返さないからな」
「わかった。でも、待った。取り消そうにも手続きの書類がこのテントにはない。第二テントまで取りに行ってもいいか?」
「はぁ? 何でねぇんだよ! どうせハッタリだろ? 隙をついて応援を呼ぶつもりだろ?」
「そう思うなら、俺の後をついてくればいい。もし応援を呼んだときは、刺すなり撃つなりしてくれて構わない」
「な、なんだよ、それ」
「さぁ、俺についてくるのはどっちの男だ?」
流れは、完全に永井三監が持っていった。男達が戸惑っているのが目に見える。だが、永井三監の意図が読めない。男一人を引きつけておくから、その間にもう一人の男をやっつけろということなのだろうか。だとしたら、私に何ができる。
結局、永井三監について行ったのは、エアガン男の方だった。残された四人の間に沈黙が走る。
女の子を助け出す方法を脳内でシミュレーションしてみる。私には、高校時代の部活で培われた握力と腕力、そして正確性があった。助け出す方法といったらこれしかない。
ふーっとひと息ついて、心を落ち着かせた。ここからは、いかに速く動けるかが重要になってくる。覚悟を決めた。
右手で机を持ちあげた。それとほぼ同時に、左手で蒼井一士の拳銃を手に取った。机を振り上げながら男に突進し、男の太ももに向かって拳銃を撃ち込む。発砲音の後、ナイフが落ちる音と共に、男は地面に蹲った。
「やった……」
「倉原さん、手錠!」
蒼井一士が撃たれていない方の手を使って手錠を投げた。投げ終わると同時に駆け寄ってくる。二人掛かりで男を拘束した。
間も無くして大勢の対策員がテントに現れた。その中には、加波二士もいて、血相を変えて私の所に飛んで来た。
「倉原!」
「は、はい」
加波二士が腕を振り上げた。空気を切る音がして、本日二度目のビンタを喰らった。
「ふざけるな! 何勝手に動いてんだよ! これで被害者が怪我していたら、タダでは済まなかったんだぞ。最悪、お前も死んでたんだからな」
「申し訳ありません」
「あと、拳銃! 携帯許可ない奴が何勝手に使ってんだよ! 外したらどうするつもりだったんだよ!!」
「一応養成学校で訓練がありましたし、至近距離から撃てば大丈夫かなと思いまして……」
「至近距離でも、外す奴は外す! 撃ちどころによっては犯人死んでたぞ!」
「申し訳ありませんでした……」
「永井三監のあれは作戦だ。無線が使えない状況のときは、他のテントに行って、手続き用の用紙をくれと言えば、緊急事態だと伝わる仕組みになっている。これは、事前に教えていなかった俺が悪い」
加波二士は、バツが悪そうな顔をしたが、直ぐに話を続けた。
「永井三監の作戦が上手くいっていたとしても、犯人を捕らえるのに時間が掛かって被害者が出ていたかもしれない。だから、倉原は良くやったよ。頑張ったな」
反則だ、と思った。あれだけ説教しておいて、いきなり手のひらを返したように褒めるのはずるい。ビンタされたところが遅れて腫れてきたのか、頰が急に熱くなってきた。
出勤1日目から、忘れられない1日となりそうだった。