こちら、転売対策所です 1 始動
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
生ぬるい風が頬を撫でた。どんよりとした曇り空に比例するかのように、私の足取りは重かった。
今は梅雨真っ只中。こんな時期外れに、私の新生活は始まろうとしている。折角、養成学校に慣れてきたところだったというのに、つい先週卒業させられてしまったのだ。
まだ数回しか袖を通したことのないスーツは、身体からどこか浮いているような気がしてならなかった。
忙しそうに歩く会社員や学生がどんどんと私を追い越して行く。それを横目に、速くも遅くもない速さで歩いていると、目的の建物が見えてきた。
転売対策所。
悪質な転売が多発している現代、転売を取り締まることを専門として、5年程前に政府により作られた。しかし、たかが転売だろ、税金泥棒などと国民からの非難の声は大きい。
そんな世間からの風当たりが強い中、今日から私はここで対策員として働く。
警備課と書かれたプレートが掛かっているドアの前で、深く深呼吸をした。よし、大丈夫と自分に言い聞かせ、ドアを引く。
「失礼します!」
緊張と共にドアを開けると、手前にいた男性に目が行った。鋭い眼光でこちらを凝視している。
「お前が倉原れもん?」
「は、はい」
「俺は、加波。二等対策士だ。お前の指導役を務める」
「よろしくお願いします!」
目が怖い。これが加波二士に対する最初の印象だった。
年齢は20代後半といったところだろうか。だが、その割には階級が低いし、もう少し若いのかもしれない。
そして、顔色ひとつ変えずに、私の名前を言ったことに驚いた。大抵の人は、私の名前を言うときに、突っかかるか頭に疑問符を浮かべる。だが、加波二士はさらっと"れもん"と言ったのだ。
「まずは、制服に着替えてこい。更衣室はこの部屋を出てすぐ左手にある。20分後には朝礼だ。それまでには戻ってこい」
「はい!」
私は、制服を受け取ると、更衣室へと向かった。
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