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今日からお兄ちゃん

作者: 黒瀬新吉

やっとお兄ちゃんになれた功ちゃんのお話

今日からお兄ちゃん


 「ほんとうに、いくのメグチュン?」

「功ちゃん、メグちゃんだってば」

「メグチュン?」

「まあいいか、かわいがってね。功ちゃん、バイバイ」

 となりのお姉さんが引っ越しました。メグミお姉さんから、かわいがっていたハムスターを功太くんはもらいました。功ちゃんはことし年長になったばかりの男の子でした。ハムスターには功ちゃんの様なちっちゃな手にこれまたちっちゃな指と爪があって、ヒマワリの種をかかえてうまく口の中に押し込んでいました。

 さて、功ちゃんは上手に世話ができるのでしょうか? 何より、お母さんに見つかったら大変です。ひょっとしたらケースごと捨てられてしまうかもしれません。

 「ただいま」

功ちゃんはいつもより小さな声でそう言うと、ハムスターをズボンのポケットに、そっと入れて二階に上がりました。ケースは裏の物置に入れました。そこならあまりお母さんは来ないからです。


 「功ちゃん、おかわりは?」

お母さんがそう聞きました。いつもはおかわりをする功ちゃんも、今日は早く二階に上がりたかったので、こう言いました。

「いらなーい、ごちそうさま」

そしてまた二階に上がろうとしました。いつも見ているテレビアニメがそろそろ始まるのに変ですから、お母さんが尋ねました。

「あれっ、功ちゃんテレビ見ないの?」

「うん、功ちゃん、今日からお兄ちゃんだから」

「お兄ちゃんて? おまえ?」

お父さんが、お母さんのおなかをじっと見ました。

「ないない、功太ったら」


 「功ちゃんは今日からハムスターのお兄ちゃんになるのよ」

お姉さんがそう言って功ちゃんにハムスターをくれたからでした。夕ご飯のあと片付けが終わったお母さんはそっと階段を上っていきます。なんだか功ちゃんがいつもと違うことが気になっていたからです。

 「功ちゃんたら、きっと何か隠しているのに違いないわ」

お母さんは功ちゃんの部屋のドアをそっと開けてみました。まだまだ小さい功ちゃんは、発表会のダンスで疲れたのでしょうか。じゅうたんの上ですっかり眠っていました。お母さんは部屋に入ると功ちゃんをそっとすくいあげてベッドに運びました。ふと気付くと足下が散らかっています。きれいだからと一生懸命集めた「おはじき」やお母さんと一緒に折った、小さな「カブト」とか、お父さんのお土産の「外国の小銭」とかがいっぱいに散らかっていました。

「まあ、大事な宝物だって言っていたのに。しょうがないわね」

お母さんはそう言いながら、散らかったままの功ちゃんの宝物を片付けるとすぐに階段を下りてきました。しばらくしてもう一度階段を上っていきました。そして今度はすぐに階段を下りてくる音がしました。お父さんはその足音に気付くと、次のビールに伸ばそうとしていた手を止めてこう言いました。

 「功太、もう寝てたのか? 発表会の練習で疲れたんだろうな」 

お母さんは笑って言いました。

「あれじゃあ、まだまだ、お兄ちゃんにはなれないわね」


 翌朝、功ちゃんはベッドから降りると、散らかしたままの宝物がきちんと片付いているのに気付きました。どきどきしながら功ちゃんはその宝箱のふたを開けました。ティシュペーバーにくるまったハムスターがびっくりして、ヒマワリの種をひとつこぼしました。


 宝箱の後ろには、すっかり物置に忘れていたヒマワリの種の袋がちゃんと置いてありました。

ほのぼのしてくだされましたか?

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