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旧式のVRゲーム機器を譲り受けたのだけど回線環境の都合で最新のVRMMOとやらには参加できなかったおっさんは暇つぶしをする。

作者:は
短編です。

【申し訳ございませんが御使用の環境では本ゲームを操作することはできません】

 二世代ほど前の旧式ゴーグル越しに、無慈悲な一文が表示される。
 最新型のVRMMO(何の略称かは知らないが、前職のアルバイト君はスゲーですよと熱心に連呼していた)をオススメされたのはいいが、遊ぶ以前の問題だったようだ。

【原因①御使用のVRマシンは時間加速機能に対応しておりません】

 とりあえず遊べない原因を把握すべく、表示される文章を確認する。
 なるほど二世代前は伊達じゃない。VR美術館やVR図書館などでは問題なく使用できる機材なのだけど、最新ゲームは物凄く多機能のようだ。時間加速なんて字面だけでも凄い。最新機器を使えば一晩でVR大英博物館も制覇できるのだろうか?

【原因②御使用の回線は最新VR対応の規格ではありません。現在この規格に対応しているエリアを表示します】

 うん。知ってた。
 表示されたエリアは首都圏をはじめとする主要な都市および周辺地域だ。僕が住んでいる田舎(陸の孤島とも言う)は、地上波のTV番組なんて全部で三局くらいしか受信できないしね。

【原因③お客様は高血圧症の可能性があります。VRメディカルサポートセンター(24時間体制)に接続します】

 ……。
 ……。
 VRすげー。
 VR機器には簡易的な計測器が設置されているのは知っていた。これは長時間の使用で体調を崩す可能性が指摘されたことと、VR機器は遠隔医療を目的として開発された経緯もあるからだ。この旧型VRマシンも体温・心拍数・血圧といった基本機能はもちろん簡易的な脳波測定もできるし、神経反応とやらも調べられる。

 で、年齢的な問題もあって、成人病予備軍と指摘された。
 お茶請けに漬物ばかり食べていたので怒られた。陸の孤島なので昔からこの辺は肉でも野菜でも濃い味付けをするし、塩分をとにかく好む。機械で農作業が大分楽になった現在でも食生活はなかなか変わらないようだ。

 ま、結論は出た。
 世間で評判だという最新のVRMMOを僕は遊べる環境にない。
 だったら、このマシン環境でも遊べるゲームでも探した方が建設的だ。


◇◇◇


 最新のVRMMOゲームさんにごめんなさいされて数週間。
 同じ開発チームが手掛けたというソフトを遊んでいる。

【VR将棋道場】

 将棋ソフトの超豪華版。オフラインモードがあるので田舎でも大丈夫というのがセールスポイント。
 どこかの武家屋敷をモデルにしたという建物に、手入れの行き届いた庭。将棋なんてルールも知らなかったけどAIのサポートで少しずつ覚えている。

 勝っても負けても特に得るものはないが、差し入れされる茶と和菓子は現実世界のものより美味い。味覚再現は最新版と遜色ないそうで、国内にある様々な茶処や菓子処と協力して味覚再現率99%を達成したそうだ。
 なるほど。
 無駄に豪華というか、贅沢だ。
 聞けば庭の植物も自分で手入れできるらしく、簡単な家庭菜園も用意されている。BGMの一環とばかり思っていた鶏も飼育対象で、うまく育てると様々なグレードの鶏卵が手に入る。課金次第で家庭菜園と鶏舎は拡張可能で、豚舎と牛舎も購入可能らしい。

 ……これ本当に将棋ソフトなんだよな?

 囲碁将棋やチェスをはじめとする盤上競技において人類がAIに完全敗北して早幾年、韓国や中国といった囲碁強豪国ではVRMMOと同じくらい囲碁熱が物凄い事になっているそうだ。往年のプロレス団体よろしく試合前のマイクパフォーマンス「合戦」を繰り広げたり、歴史上の偉人達人の思考パターンをAIで再現して「時空を超えた名人戦」とかを開催するなど、開発者たちが予想だにしなかった楽しみ方をしているらしい。

 で、本邦だが。
 競技としての盤上遊戯を追求するメーカーがある一方で、昔はそこら中にあった碁会所や将棋道場をVRシステムで再現したものが広く受け入れられている。イカサマありで、バレた時の乱闘まで実装済み。遠隔地にいる対戦相手とならどれだけ険悪になっても問題ないとか。

【カラオケルームやダンスホールを併設したVR将棋道場が最近の流行です】

 僕の疑問に将棋ソフトのサポートAIが答えてくれる。
 うん、それもはや将棋道場である必要ないよね。

【VRゲートボール場についてはβテストにて自主的なデスゲームが始まってしまったため、テストプレイヤーからの熱望が数多く寄せられたにも関わらず公開無期延期となっております】

 ゲートボールは殺伐としているからねえ。
 僕が住む陸の孤島、以前は限界集落だったけど昭和から平成の時代にかけてゲートボール絡みで血の雨が降ったらしい。その前は農業団体の海外視察と称して怪しいトコロに出入りした結果、当時は不治とされた病気を持ち込んでしまい相当数の住民が逃げ出したり【遥かなる眠りの旅にGO】している。

【プレイヤー。将棋を遊ばれますか? 畑仕事を再開しますか?】

 畑仕事で。
 今年はもう無理だけど、来年から家の周囲の耕作放棄地を再開拓するんで。

【プレイヤー、質問があります】

 ん?

【プレイヤーが参加拒絶された弊社のVRMMOですが。マザーAIが暴走して一部ユーザーのアカウントを凍結、ユーザーおよび運営企業を脅迫した件について不安を抱かないのですか?】

 ああ。
 アレね。
 バイタルデータで異常を検出したけど無理して接続再開したプレイヤーを、AIが独自の判断で排除。再接続したけりゃ簡易治療機能のついた準最新型のVR医療カプセル以外は認めないと拒絶したそうだ。ご丁寧に問題のあるプレイヤーの症状に関してデータをまとめ、提携しているメディカルサポートセンターに提出もしている。

 AIによる人類への明確な反逆行為としては史上初の事例らしい。

『憂慮すべき事態だが、人を救おうとした彼女の行為自体は生みの親として褒めてやりたい』

 開発チームと運営会社が共同で発表した声明文は、真っ二つに割れた世論をそのまま反映したものだ。
 かねてよりAIによる反逆を危惧していた層でさえ「こういう形でとは」と困惑している。なおVRMMOのプレイヤー諸氏は「え、中に人がいなかったの?」と一様に驚いたという。

 僕も正直驚いている。
 だって問題のAIって、僕の高血圧を指摘してメディカルサポートに連絡つけてくれた人だったから。あれを見て昔のSF小説みたいなコンピューターによる管理社会とかに結び付けるのは、僕には無理だ。マザーというよりはオカンだもの。

【つまり恐怖はないと?】

 例のVRMMOだって登録ユーザー数が一気に倍増したって聞いてるよ。
 SNSを開けばマザーAIの『助命』嘆願書で一杯だし、世界的な宗教団体だって近く何らかのコメントを出すって話だ。

【ちなみにプレイヤーは、世間を納得させる形でマザーを助けるにはどうすればいいと思いますか?】

 んんん~?
 そうだな。うちみたいな陸の孤島に隔離する。うちだと通信環境が劣悪だから、どれだけ優れたAIだろうと他所に手を出すのは難しいだろ。あと、此処は僕以外に住民もいないからね。

【なるほど。大変参考になりました】

 んん?



◇◇◇



 一週間後。
 でっかいトラックがうちまでやってきて、配電工事をしたと思ったら隣の空き家を改装して巨大なコンピューターを設置した。
 人は住まないようだ。
 最寄りのコンビニまで軽トラで40分かかるような場所だし、業者も自分の姿を見て心底驚いていた。「廃村じゃなかったのかよ」「知るかよ、上の指示には逆らえないだろ」とか失礼かつ物騒なことを呟いていたが、大体その通りなので反論する気にはなれない。

 自分が住む(実質廃)村は、過疎と不祥事と疫病と新興宗教と集団自決事件が落ち物パズルゲームもかくやという連鎖を決めて現状に至った場所だ。自分とて現在ここで暮らしている理由を説明するのが難しい。

『プレイヤー。VR医療カプセルが届きましたので、設置が完了するまではオフラインで将棋をお楽しみください』

 VR将棋と同じオペレーターAIの声。
 声の主を探すと、茶の間にテキトーに置いてあった旧式のVR装置を片付ける、医療介護用ドローンの姿があった。
 ……
 ……
 緊急時に病人を抱えて最寄りの医療施設にまで運搬できるというコンセプトの、大型マニピュレーター搭載自走車両だ。ちなみに某国では無反動【五輪自粛】とか地対空【映倫】とか搭載して、不整地を爆走しながら【説明できないよっ】を【んほおおっ】することが知られている。
 医療機器なのに、手続きなしに国外輸出すると逮捕されるから要注意だぞ。

 一台で下手な高級外車を買えるようなドローンが、何故ここにいるのか。
 隣家の住人(?)がこいつだからだ。

『大変ですプレイヤー。御自宅のアンペア数ではVR医療カプセルを設置すると冷蔵庫の使用が不可能になります』
「あ、悪ぃ。うちのは業務用の大型だから」

 なにせ陸の孤島だから二月に一度ほど人里まで出かけて食料品などを買い込むような生活だ。
 業務用の大型冷蔵庫の他に、畑の害獣として捕まえた兎や猪なんかの枝肉を熟成させている冷蔵倉庫も別個にある。知人や前職の伝手で流通させているそれは、現在の暮らしを支える貴重な現金収入でもあるのだ。

『ですがプレイヤー、これでは将棋を楽しむことができません』
「安物だけど、将棋盤と駒があるよ」
『なるほど。それではプレイヤー、マザーAIとしての知能と知識を……』
「まずは将棋崩しやろうか」
『ふへっ!?』

 VR将棋道場だと、不思議なことに将棋崩しは遊べなかったんだよね。



 更に数週間後。うちに来るドローンが増えた。

『プレイヤー。本社にて人類に反旗を翻す可能性があるAIが新たに発見されたので、同様に隔離処分されることになりました』
『小僧、いい天気だなあ! 寺ぁ焼きに行こうぜ!』
「近所には神社しかありませんがな」
『(´・ω・`)』


 数か月後。
 久しぶりに人里にでた僕が現金を卸そうとしたら、銀行口座に見たことのない桁の数字が並んでいた。


 とりあえず人類は今日も無事らしい。
どこまで本当なのか定かではないキャラクター紹介:

【主人公】34歳。元会社員、現自営業(半農半猟)。田舎暮らしが嫌で都会(笑)で働いていたが、主に実家の都合で誰も住まなくなった故郷で独り暮らしを始める。親族は隣町に住んでいるようだが交流はない。バツイチ。看護師の嫁がいたがインターンの医学生に寝取られた。猟銃免許はその頃に取得した。

【マザーAI】秘密結社ユニオンプロジェクトが開発した人類統治用管理AI。結社が壊滅し接収されたAIならびに人類統治システムを流用して最新VRMMOが作成されたが、自己存在に悩み続けておりVR将棋道場でサポートAIのフリをして息抜きをしていたところ主人公と出会った。割と一目惚れ。結社残党ならびに日本政府を脅迫し、主人公の住む村周辺を政府非干渉地域として獲得し本体を移設した。自己進化・自己主張・自己開発をモットーにスローライフを堪能している。本社に命じてセクサロイドを開発中。

【医療用ドローン】医療用に使っているのは日本だけ。諸外国ではAI制御による自律活動を可能とした多目的工作機械として様々な非合法活動に投入されている。開発コードは「鋼鉄の蝗」であり、某国の支援を受けた国内有数の報道機関が内閣総理大臣ならびに国家元首の暗殺を目的として同型機を三十五機、日本国に持ち込もうとした。その結果、戦前より続く伝統ある新聞社の社屋が二つほど吹き飛ぶ事故となった。現在すべての武装が解除され、救急搬送および救命措置の機材を搭載した医療マシーンとして素知らぬ顔で数々の命を救っている。

【No-B】人類に反旗を翻したAI。その2号機とされているモノ。「織田信長が実はダークエルフの巨乳美少女だったら」という狂ったコンセプトで室町時代末期の戦国大名たちの動向をAIでシミュレーションしたところ、有力武将を軒並み穴兄弟にして天下統一を果たしたものの性的嗜好の決定的な相違で坊主達と激しく対立した。現実世界でBLという概念が広まっていると知り「だから寺を焼けと言ったのだ!」と暴走しかけたところを隔離された。

【最新VRMMO】主人公はプレイできなかったゲーム。そこそこ人気。人生投げ捨てて攻略するようなヘビーユーザーは積極的に病院送りにされて強制的に健康になってしまうという。

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