11.サンノミヤ
兵士と傭兵達が、サンノミヤ攻略に向けて数日、俺たちは、拠点の外壁を頑丈にしたり、魔導車の魔改造をしたり、たまに現れる魔物を狩ったりしながら過ごしていた。
「もっと強い魔物と戦いたいのだ。折角の新しい刀なのに。」
アリマの街を立ってから、戦いらしい戦いをしていないツバメ師匠の我慢の限界が来たようだ。バトルジャンキーの禁断症状が出てきたようだ。麻薬の一種なのかもしれない。
「そうは言っても、俺たちは拠点の防衛が仕事ですから、遠くに行くわけにはいきません。もうしばらく我慢して下さい。」
探索は、少しずつ進んでいる。毎夜の会議で進捗は聞いている。ただ、最大の目的である敵の司令官の情報は一切入って来ていないのだが。
「しかし、こうもする事が無いと、飽きてしまいますね。」
カリン先生も少し焦れて来ているようだ。ルリなんて暇すぎてずっと昼寝しているほどだ。
「今日の会議で、ヒデヨリさんに聞いてみますか。」
「それが良いですね。」
間も無く探索部隊が、いつもより少し早い時間に帰って来た。いつもよりボロボロの格好で。
「トモマサ殿、すまんが足を欠損した者がおる。治してやってもらえんか?」
俺を見つけたヒデヨリさんが1番に頼んで来る。見ると1人タンカで運ばれて来ていたので、近づいて復元魔法をかけると、みるみる足が生えてくる。失礼だが相変わらず気持ち悪い。その人の容態も安定したのを確認してから、他の人達にも回復魔法をかけて行く。小さい傷が治っていないようだったので。
「ありがとうございます。トモマサ様。回復魔法の使い手も魔素切れを起こしてしまい、皆の傷を治すことが出来なくなっていたんです。」
「今日は、かなり激しい戦いがあったようですね。何か強い魔物でも出ましたか?」
一段と酷い傷を負ったトシフサさんに回復魔法をかけながら質問する。
「詳しくは、この後の会議でお話ししますが、今日は危なかったです。死者が出てないのが不思議なぐらいに。」
余程の事だったのだろう。すぐに会議だという事なので、いつものテントに向かう。既に、ヒデヨリさん、カオルさん、シンゴ王子、カリン先生といつもの面子が揃っていた。
「揃ったか。まずは、カオル殿、見た事を教えてくれ。」
「分かったわ~。」
カオルさんの話だと、それは、突然現れたらしい。かなり近くに来るまで斥候に慣れた傭兵達の誰もが気付かないほどに。なんとなくの違和感で気付いたカオルさんが、投げたナイフがかすったおかげで敵の火球が外れた。
「あれが外れなかったら兵士達の半分は死んでたわねぇ~。その後の、トシフサ様の指揮も良かったわ~。すぐに撤退に移ったおかげで、被害が最小限で済んだんだもの~。」
「結局、あれは、何だったんだ?私は全く見ることが出来なかったが?」
ヒデヨリさんは、敵を視認出来なかったようだ。兵士や傭兵達もほとんど視認出来たものはいないらしい。
「私も、しっかり見たわけじゃ無いけど、人のように見えたわ~。ローブの様なものも着てたしね~。」
「やはり、狭間教が?」
「いや、決めつけるのは良く無い。本当に人間なら、捕まえて尋問したい所だが。」
トシフサさんは狭間教を疑っている様だが、どうなのだろう?こんな所で生活している人間がいるとは思えない。ヒデヨリさんの言う通り、捕まえられれば1番なのだが、発見が難しいとなるとそれも厳しいかもしれない。何とか、早めに発見できれば良いのだけど・・・。
追跡魔法を使ったら何か出来ないだろうか?カーチャ王女が、変な事を言わなくなってアラームを解除してからあまり使っていない追跡魔法。今の所、登録した人物しか表示されないのだが、全ての生き物を表示させられないだろうかなどと考えていたら、目の前が真っ赤になった。
「うわ。」
思わず声が出た。皆がこっちを見てるので、「すみません。」と謝る。
どうやら、全ての生物、菌ぐらいの大きさのものまで表示された様だ。でも、これが表示されるという事は、調整すれば、人間だけとか魔物だけとか表示されるのでは無いだろうか?
・・・・・・いろいろ試した結果、かなり細いフィルター機能がある事がわかった。獣人族だけとか、男だけとか、貴族だけとかも可能だった。しかも、特定の人物だけを選択すると、ステータスまで表示される仕様だ。Goo○leMapより高機能かもしれない。人物が表示される時点で比べるのが間違いなのだが。
もちろん、魔物だけとかも可能で、人と魔物で色分けなんて機能も。あまりの万能さに少し呆れるほどだ。乾いた笑いが出て来る。
「トモマサ君、また、何か魔法を復活させましたね。」
俺の笑い声が聞こえたのか、カリン先生が目ざとく聞いてきた。
「いえ、以前覚えた追跡魔法で何か出来ないかと思っていろいろ試していたら余りの万能さに笑ってしまいました。」
俺とカリン先生、小声で話していたのだが、気が付けば皆が注目していた。仕方がないので、追跡魔法について皆に説明する。ステータスまで見えるという事は、黙っておく事にしたが。個人情報を勝手に見れると言われると良い気がしないからね。
「その魔法を使えば、隠密性の高い敵も見つける事が出来るのか?」
ヒデヨリさんが興味津々だ。
「おそらく。その上、人か魔物かも分かります。」
「そうか。ならば、明日の探索に同行して貰わねばならんな。」
まぁ、そうなりますねぇ。
翌日から、俺たちのパーティも参加して、代わりに兵士と傭兵達から数名ずつ拠点の防衛に付くことになった。
〜〜〜
翌日、俺は、朝から拡張した追跡魔法を発動しながらサンノミヤに向けて移動している。ちなみに、範囲を広げて領域内の人間を探したが、我々以外には見つけられなかった。人ではないのだろうか?それとも何処かに隠れると表示されないのだろうか?よくわからない。
「トモマサちゃん~、そろそろ昨日の地点よ~。何か反応はある~?」
「何もいませんね。人も魔物も1km圏内には存在していません。」
その後も慎重に進んでいくが、たまに魔物が近寄って来る以外には反応は見られなかった。
さらに、1時間ほど歩いただろうか、間も無く、サンノミヤの中心だ。
その時、奇妙な反応があった。人と魔物の反応が重なって表示されている。
「なんだ?何かいます。人と魔物が同じ場所にいるようです。真正面からこちらに向かって来ています。」
「全員戦闘態勢。トモマサ殿、距離と時間を教えてくれ。」
「距離、1kmほど。時間で2分ほどで到着します。」
兵士達が盾を構えて陣形を取る。傭兵達は、木陰に隠れて影から攻撃するようだ。俺たちも、兵士たちの後ろでシンゴ王子を先頭に戦闘態勢を取る。
「来ます。上です。」
ぱっと見、何も見えないが、確かに何かいる。俺は、咄嗟に重力魔法を発動し、上空の物体を地面に叩き落とす。
「ぐはぁ。」
地面に落ちた物体からマントのようなものが取れ、飛んで来た者が姿を現した。どこにでもいそうな若い男だった。
「取り押さえろ。魔法を使うかもしれん。魔素封じを忘れるな。」
トシフサさんの号令で、兵士達が両手を拘束し、後ろ手に枷をする。この枷、魔素の動きを阻害し魔法の発動を止める効果がある魔道具だ。
「そのマントが魔物のようです。引き離してください。」
俺が声をかけると兵士達がマントを引き離す。マントの形をしていた魔物は、ドロッと溶け出した。スライムの一種なのだろう。兵士達が剣で刺しても効果が無さそうなので、カリン先生が火魔法で倒していた。
その間、俺は、改めて捕らえられた男を見る。追跡魔法で見てみると普通の人の反応だった。スライムと重なっていたから変な反応だったんだろう。
「ううぅ。」
兵士の中の魔法使いが、回復魔法をかけたようだ。意識が戻り始めた男にトシフサさんが尋問を始める。
「おい、貴様、何者だ。なぜこんな所にいる。」
「くそ、なぜお俺の居場所がわかった。スライムのマントは、完全に視界をくらませるはずだ。」
「貴様に答えることなど無い。それより、貴様はここで何をしている。答えろ。」
「くっくっくくく、決まっているだろう。貴様らを皆殺しにするためだ。」
「な、なんだと、アリマの街を襲っていたのも貴様の差し金か?誰の命令だ?」
「そんな事もわからんのか!我らが黒龍様の御意志だ。アリマの街など手始めだ。すぐに、王都イチジマの街も壊滅させてやる。」
その後も、聞いてもいないのに黒龍様とやらの素晴らしさなどを語り出す男。捕まっているのにこの自信はなんだろう。下手をすれば、この場で殺されてもおかしく無いのだが。
「おい、お前、何を企んでいる?やけに簡単に情報を流しているが、どういうつもりだ?」
「ふっ、貴様らは本当に馬鹿だな。俺がどれだけ情報を流そうと、貴様らはここで死ぬ事が決まっているからだ。白龍の手によってな。」
俺の問いにも、男は素直に答える。しかし、白龍?聞いたことないな。魔物図鑑でも観たことないぞ。カリン先生も「そんな魔物は知りません。」とか言っている。
「貴様らが知らないのは当然だ。黒龍様の忠実なる僕、上級ドラゴンを超える力を持つ白龍だ。貴様ら異教徒など一撃でチリとなるであろう。そら近づいてきたぞ。」
「GUGYAAAAAAA」
激しい咆哮と共に、追跡魔法など必要としない、この間のドラゴンなど話にならないプレッシャーが近づいて来ていた。




