9.アリマ温泉
話し合いの結果、出発は明後日の朝という事になった。ヒデヨリさんの精鋭部隊と、高ランクの傭兵数パーティーでの行動となるらしい。俺達はどちらかと言うと、回復と荷物運びという輜重部隊の扱いのようだ。未成年ばかりなのだから最前線に立たされても困るので当然といえば当然なのだが。
それと、買って来た食料は、街の商人ギルドに売って欲しいと頼まれた。寄付すると言ったのだが、断られてしまった。商人達の為にならないと。
領主の館からお暇した俺たちは、街で宿を取って、今は宿の温泉にシンゴ王子と入っている。このアリマ温泉、1000年前と同じく複数の源泉があり金泉、銀泉よ呼ばれ親しまれているようだ。
宿には、金泉と銀泉のうちの炭酸泉が引かれているようで、色の異なる湯を楽しめるようになっていた。
残念ながら?湯船は、男女別だった。だが、別の場所に家族風呂がある事を確認している。後で、アズキとカリン先生を誘ってみよう。
「トモマサ君、無理言ってすまないな。俺たちは、君の足手纏いにしかならないというのにな。」
どうやら、付いてくる事を謝っているようだ。
宿に入る前に、皆にコウベの領域ねの参加の意思を確認をしたのだが、
「トモマサ様さまの行くところは何処までもついていきます。」
「教師として当然ついていきます。」
「強い魔物がいるのだろう?絶対に行く!」
「この国の王族として、街を助ける義務がある。微力ながら手伝わせてもらうよ。」
「私も、王族としての務めを果たします。」
と全員参加の意思を表明したのだ。その後も、かなり危ないと説得しようとしたのだが、それなら余計に付いて行くと言うのだから困ったものだ。
「いや、気にしなくて良いよ。この街に一緒に来た時点で来ないという選択肢は無かっただろうしな。もっと早く聞くべきだった。」
「ドラゴンの素材で鎧まで新調して貰ったのだ。せめて、皆の盾として働かせてもらおう。」
流石、イケメン王子。爽やかに宣言して風呂を出て行った。うん、死なない程度に頑張って欲しいものだ。死なれたら、ヤヨイに何言われるか分からないからな。
俺も、ほどほどに浸かって風呂を上がった。勿論、家族風呂にアズキとカリン先生を誘うために。
「いい湯だな。トモマサ。」
今度は、家族風呂に入っている。アズキとカリン先生と、何故かツバメ師匠も一緒に。しかも、湯船で俺の膝の上に座ってくるツバメ師匠。ロリコンではない俺にとっては、ただ子供が戯れついて来てるだけなのだが。せっかくの家族風呂で、美女が2人もいるのにナニも出来ないなんて・・・。
「くっ。」
思わず、悔しさが口に出るが、仕方がない。ツバメ師匠も彼女の1人なのだから。他の2人を誘って師匠だけ誘わないわけにはいかないのだから。諦めて、風呂を楽しもう。
「そういえば、シンカイさんがドラゴンの素材を使ってツバメ師匠の刀を打ってくれてましたよ。明日にでも、様子を見に行ってみますか?他にも、何かできてるかもしれませんし。」
「なに、本当か!それは楽しみだな。火属性の竜素材から作った刀となれば、私の魔法剣も強くなれそうだな。これで、もう魔物に遅れをとる事は無くなるだろう。」
「師匠。いくら強い刀があっても油断しないでくださいよ。前回のドラゴンでは、死にかけたんですからね。」
俺は、不安になってきた。どれほどの刀かは知らないけど、ツバメ師匠を危険に晒す事にならないかと。
「分かっておる。そう心配するな。前回の件は、反省しておるのだ。トモマサを巻き込んで、シンゴ王子やアズキも大怪我をしたと聞いたのでな。もう、1人で突撃したりしないから。ほら、そんな顔するな。」
「分かりました。ツバメ師匠を信じます。」
逆に、心配されてしまったようだ。目の前の師匠の頭を撫でながら、信頼を口にする。
その言葉に気を良くしたのか、ベタベタと引っ付いてくるツバメ師匠とずっと湯船に浸かることになり、さらに、部屋でも離れたがらない師匠と添い寝をする事になってしまった。もちろんナニもしないで。
「寝たな。アズキ起きてる?隣の部屋に行こうか?」
すぐに寝てしまった、ツバメ師匠のベッドから出て俺とカリン先生の部屋に誘ってみる。
「はい、トモマサ様。お伴します。」
アズキも待っていたようだ。ニコニコしながら付いて来た。風呂で相手出来なかったのが寂しかったのかもしれない。
隣に戻ると、カリン先生もやる気十分な様子で待っていたようで、スケスケネグリジェで出迎えてくれた。明後日から神戸の領域探索だ。暫くは、ナニも出来ないだろうという事で3人で楽しんだ。夜遅くには、再度家族風呂に行ってまで。
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翌日、朝から食料を売る為に商人ギルドを訪ねている。
「おはようございます。食料品を売りたいのですが。」
受付では制服を着た綺麗なお姉さんが、座っている。
「それでは、こちらの用紙にご記入をお願いします。品物は、どちらに御座いますか?馬車でしょうか?」
「はい、品物は、アイテムボックスに入っています。どこに出しますか?」
「お客様、少量でも買取は致しますが、直接飲食店などに販売した方が高いと存じますが。」
アイテムボックスと聞いて、量が少ないと判断した受付嬢が、提案してくれる。まぁ、普通の人のアイテムボックスなら量はあんまり入らないからな。商人ギルドとしても手間を考えると割りに合わないと踏んだのだろう。
「えっと、米、麦、味噌、塩など、トン単位で持ってますが。」
「え、アイテムボックスですよね?」
受付嬢が疑いの目を向けてくる。
「まぁ、出しますから、場所を決めて下さい。」
俺の催促に、受付嬢が仕方なく横の倉庫に案内してくれた。
アイテムボックスから食糧を出していくと、受付嬢が目を白黒させて驚いていた。
「これで、全部です。買取お願いします。」
出し終えた食糧の山を見て呆然としていた受付嬢にお願いすると、「査定員を呼んできます。」と言って、慌てて戻って行った。よっぽど驚いたようだ。
「それでは、査定しますので、受付の横のブースでお待ち下さい。」
「分かりました。」
驚愕の目を向ける受付嬢の前を歩いて指定のブースに行く。30分ほどで査定員がやって来た。見積もりが出来たのだろう。
「米、小麦粉、味噌、塩、合わせて、白金貨2枚で如何でしょうか?明細はこちらになります。」
各重量と単価が書かれた見積書を見せてくれる。俺が商人から買った値の2倍の価格だな。特に塩の単価が高かった。
「その価格で構いません。」
「ありがとうございます。助かります。最近、行商人の方があまり来られなくて在庫が減るばかりで困ってたんですよ。これで、一息つけます。またあったら持って来て下さい。いくらでも買取りますよ。」
やはり、それなりに困っているようだ。
「分かりました。1番足りないのは塩ですか?価格が高いようですが。」
「ええ、そうなんです。穀物は、この辺りでも栽培していますから、ある程度は余裕があるのです。ですが、塩は、どうしても取り寄せになりますので行商人が頼りなんです。よろしく頼みます。ああ、申し遅れましたが、私、当商人ギルドの副ギルド長しております、タナカ タイチです。次回は、直接私を呼んでもらえると話が早いと思います。あの量がアイテムボックスから出てくるなんて、普通の人なら怪しむだけですから。」
そうか。確かに普通の人のアイテムボックスなら、魔素量から言って米100kgも入ったら満杯なのだろう。俺なら、まだまだ余裕があるけどね。
「また、来ます。」
代金を受け取った俺たちは、商人ギルドを後にした。
次は、シンカイさんの所だな。皆を集めて転移魔法でイクノの街へ飛ぶ。
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「シンカイさん、こんにちは。刀出来てますか?」
店の中に突然転移して来た俺たちに驚いていたシンカイさんだったが、一つ頷くと奥から色々と持って来た。急いでたので間違えたのだ。
「ちっちゃい剣士の刀以外にも幾つか作っておいたぜ。」
ドラゴンの革のマントに靴に帽子に他にも牙から作った短剣や髭から作った弓なんかもある。いったいどれだけ作ってるんだ?
「これみんな、シンカイさんか作ったんですか?」
「ああ、革の鞣しは、知り合いに頼んだがな。それ以外は、全部自分でやったぜ。いやー、これほどの素材だ。楽しいのなんの。」
とっても、いい笑顔のシンカイさんだが、よく見ると目の下に大きな隈がある。ほとんど寝てないのだろう。
でも、これだけあれば、皆に装備が行き渡るな。
「ありがとうございます、シンカイさん。これで、明日からの探索も安心です。しばらく領域に籠りますので、シンカイさんは少し休んで下さい。」
自分がやりたくてやってたシンカイさんのようだが、これ以上頑張られて倒れられても困るので、しばらく休むようにお願いする。言う事を聞いてくれるといいのだが。
代金を聞くと、今まで貰ってる素材でお釣りが来るそうで、要らないと言われた。どれだけ高いんだ、ドラゴン素材。
皆に、装備を分けて行く。前に貰った魔水晶の指輪は、カリン先生に。刀は、ツバメ師匠に。弓はアズキに。それぞれ渡し、短剣は、俺が持つことにした。他の帽子やマントなんかは数が十分にあるので、カーチャ王女にも渡しておいた。下手に渡すと、また奴隷にとか言って来るかと心配したが、優雅に礼を言われただけで物凄く普通だったのが逆に怖かったりする。
その後は、ツバメ師匠から少し慣らしたいとの要望があり、近くの領域に向かう。明日から領域に籠るのにツバメ師匠は、相変わらずの戦闘狂のようだ。
「うむ、トモマサの刀には劣るが見事な斬れ味だ。流石、シンカイ殿の刀だ。」
出て来たワイルドボアを一刀の元に切り裂いたツバメ師匠が、感動していた。いや、俺の刀と比べないで欲しいな。また落ち着いて魔素に余裕が出来たら作ってあげますから。
「私は、もう少し、調整が必要なようです。魔法の威力がこんなに上がるなんて。恐ろしい道具ですね。魔水晶は。」
ホーンラビットに『風刃』を放ったカリン先生が、困り顔だ。軽くはなったつもりの魔法が、魔物を切り裂いた後、20m程先の大木まで切り倒したものだから、威力調整に梃子摺っているようだ。
そんなカリン先生も何度かの戦いだけで、調整してしまうのだから、流石100年に一度の天才と言ったところか。
他の皆も新しい装備での動きの確認を終えたようなので、少し早い時間だけどアリマの街に帰ることにした。
宿に帰って温泉に入る。また、家族風呂にとも思ったが、止めておいた。しばらく風呂に入れない環境になるんだ。皆ゆっくり入りたいだろうと思って。
それでも生活魔法があるので、21世紀みたいに汗だくで臭いまま過ごす必要がない。山を降りた時のあの臭いを知ってる俺としては、とても有難いことである。まぁ、汗臭いアズキやカリン先生も大好きだったりするのだが。
そんな事を思いながら1人温泉を堪能した。
温泉の後は、夕飯を食べ、少し翌日の打ち合わせをして早めにベッドに入った。明日は、夜明けと共に出発だから。
1人先に寝ようと目を閉じたのだが、アズキがベッドに入って来たので、仕方なく、少しナニしてから眠った。本当に本当に今日はするつもりは無かったのだけど、アズキの胸に負けた。あんなものを押し付けられては、若い体が我慢できなかったのだ。




