6.魔法訓練
王様との会談で精神的に疲れ切っていた俺は、夕食を食べて早々に寝てしまった。
子供の体は、すぐに眠くなるしね。
翌朝目覚めると、腕が柔らかいものに包まれていた。
……また、アズキだった。俺の腕を抱え込んで眠っている。この子は、一体何をしようとしているんだろうか?分からない。うんうん唸って考えているとアズキも目覚めたのか、そっと布団から出て身嗜みを整えて、何事もなかったかのように笑顔で挨拶してきた。
「おはようございます」
「いやいや、昨日も言ったよね。勝手に布団には入らないでねって。昨日は、『分かりました。』って言ってたよね」
「はい、眠っているトモマサ様にお願いしましたら、『んが』と快諾頂いて入らせていただきました。お嫌だったのでしょうか? 」
開いた口が塞がらない。「んが」は、了承の言葉なのか?ただの寝言だと思うのだが。どう言えば分かってもらえるんだろうか?確かに、嫌かと言われれば、そんなことはない。とっても気持ちいいし嬉しい。でも、妻が……あぁ、もう妻はいないんだっけ。独り者だな。それなら、問題ないのか?いやいや、若い娘がこんな事しちゃいけない。ちゃんと言わないと!
「アズキ!布団に入るのは、アズキが本当に好きな人だけにしときなさい。簡単にそんなことしては駄目だよ」
ちょっと語気を強めて言っておいた。
アズキも、「はい、分かりました」とはっきり答えてくれた。
これで大丈夫だろう……多分……。
さて、着替えて朝食だ。その後には、魔法の訓練が待っている。
アズキには着替えの間部屋を出てもらった。着替えを女の子に見せる趣味は無いからね。
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魔法の先生が来られるという事なので、指定された部屋で俺は待っていた。
なぜ、突然魔法の訓練かというと、入学希望の学校が魔法学園であるためである。入試を突破するには魔法の基礎勉強が必要とのことで、今日からその勉強が始まるのである。
ちなみに、31世紀の一般常識も教えてもらえるそうである。
しばらく待ってると、高校生ぐらいの女の子が入ってきた。背が低くリスみたいな雰囲気の人だ。かわいい。髪は、濃い緑色、砥草色に近いかな?でポニーテールにしている。黒いローブに杖と魔法使いらしい格好だ。
そして特徴的なのが、その目だ。右は普通に黒いのだが、左が真紅の瞳だった。いわゆる虹彩異色症のようだ。
「こんにちは、魔法の指導をさせていただきます。カリンです。よろしくお願いします」
「こんにちは、トモマサです。よろしくお願いします」
先生の、元気なあいさつに俺もつられて声が大きくなった。しかし、先生というには若い気がするが大丈夫なのだろうか?などど考えてると、カリン先生が自分の経歴を教えてくれた。魔法学園を飛び級で卒業した16歳。100年に一度の天才と言われる魔法使いとのこと。卒業後は、魔法学園の先生をしているらしい。今回は、王家の依頼で派遣講師として来ていること、顔を赤らめて話してくれた。まぁ、自分で100年に一度の天才とか、恥ずかしいよね。見てるこっちは、可愛らしくてほんわかしてくるのだが。
「トモマサ様は、魔法学園の入学試験に向けて魔法の基礎を勉強したいと聞いてます。あと半年ないですが、入学目指して二人で頑張りましょう」
二人でがんばるか。初めての共同作業的な?……いかんいかん、若い女の先生とか思考がエロい方に行ってしまう。朝のアズキのせいかな?
「どうしましたか?トモマサ様、聞いてますか? 」
変な妄想してたら、突然目の前に顔が出てきた。赤と黒の目に見つめられるとドキドキしてくる。
「か、カリン先生近いです。ちゃんと聞いてます。あと、その呼び方止めてもらえませんか?生徒なんですから、呼び捨てでも構わないぐらいですが? 」
変なこと考えてたのがばれないように、話を変える。実際、先生に様付けで呼ばれるのは気持ち悪いし。
「呼び方ですか?ヤヨイ様の縁者と聞いておりますし、敬意を込めて呼ばせてもらってますが?嫌なら仕方が無いですね。流石に、呼び捨ては無理ですので、トモマサ君でどうでしょうか? 」
「それでお願いします」
君付けで呼ばれると、それはそれで興奮しそうだが様付けよりも良い。
「それでは、トモマサ君、授業を始めますよ。まず最初に、自分の状態を知るために魔素量を測ります。自身の魔素量は、把握してますか? 」
魔素量。そういえば、最初に測ってもらったな。かなり多いって言ってたけど、正確には聞いてないなぁ。
「多いそうですが、詳しくは聞いてません」
「魔素量は、魔法使いにとって生命線です。体調などにより日々変わりますのでなるべく把握しておいてください」
そう言って、何やら石板を出してきた。
「それでは、魔素計で測ってみましょう。使い方は、知ってますか? 」
俺が、顔を横に振ると、使い方を教えてくれた。と言っても、石板の上に手を置くだけだが。
結果はすぐに出た。カリン先生の目が点になっている。俺も見てみた。25万。俺の魔素量だ。
「カリン先生。これは、多いんでしょうか? 」
「あれ~。壊れてる~?魔法学園からの借り物なのに、壊したら弁償しないと。結構高いのにどうしよう?とりあえず、私が測ってみるわ。……1023……正常に動いてるわね。トモマサ君もう一度測ってくれる? 」
俺は、もう一度測ってみた。やっぱり25万だった。
「……トモマサ君、あなた何者ですか?エルフの大魔法使いでも1万を超えないというのに、ただの人族が……あぁ、それでやたら守秘義務の罰則が凄かったんですね。ヤヨイ様の依頼だし、金額がいいから飛びついたけど、この仕事大丈夫かしら。不安になってきたわ」
「カリン先生。いろいろ駄々漏れですよ? 」
「す、すみません。大丈夫ですよ。誰にも言いませんからね。奴隷になんてしないでくださいね。ははは……」
奴隷って、ヤヨイめ、どんな契約してるんだ。
「えっと、魔素量について質問でしたね。人間の平均魔素量は、大体100前後です。私は、測定のように1000ほどありかなり多い分類です。ですがトモマサ君の25万には、とても敵いませんけどね~。ははは……」
そうか、桁外れか。でも何でだろう?次元の狭間に1000年もいたのが関係しているのだろうか?
まぁ、それは後で聞くとして。
「それなら、すぐに魔法使えますかね? 」
「魔法を使うには、膨大な知識と体の魔素をコントロールする技術が必要です。魔素量が多いと回数は多く使えますが、コントロールは練習しないと覚えられませんよ。頑張りましょう」
そうか、魔素だけあっても魔法使えないのか。チートな力だと思ったけどそんなに甘くなさそうだ。
「では、魔素について説明しますねぇ」
午前中は、ひたすら座学だった。何十年も前に学校を卒業した俺には、きつい時間だった。
それでも、ちゃんと全部聞きましたよ。帰狭者の魔素量についても話してくれたしね。魔素量は、狭間の滞在時間に比例するという話をね。
「午後からは、魔素のコントロールを実践しましょう」
そう言って、午前中の座学は終了した。
〜〜〜
昼食後、外で実践訓練が始まった。
とは言っても、最初は魔素を把握しろと言うことで、座禅である。昼食後すぐに座禅って、昼寝の間違いじゃないのかと思うぐらい眠い。うつらうつらしてると、体中に電撃が走った。比喩ではなく、本当に電撃だった。カリン先生が、俺を雷の魔法で撃ったのだ。
「この雷にも魔素が宿ってます。感じてください」
恐ろしい訓練だ。わざわざ眠い時間を指定してやってるのではないかと思うぐらいだ。意地でも起きてようと思うのだが、何度も電撃を食らってしまった。
雷で痛めつけられた効果が出たかどうかは分からないが、夕方ごろには魔素を感じられるようになった。空気中、土の中、自分の体の中、他の人の体の中、そしてもちろん電撃の中にも魔素が感じられた。口で説明するのはむつかしいが、21世紀には無かった感覚だ。
俺が喜んでいると、「意外と時間がかかりましたね。途中から心配になって電撃が強くなってしまいました」と言われた。普通の人は言われなくても把握ているらしい。魔素のある世界なんてまだ数日なんだから仕方がないじゃないか。電撃を強くする理由もわからないし、この先生大丈夫なのだろうかと思ってしまう。
それを察したかどうか、「大きな魔素は、把握やすいんですよ。とにかく、よく頑張りました」と頭を撫でて来た。
恥ずかしい。顔が赤くなるのが分かる。くっそ~。文句の一つでもと思ったのに、何も言えないじゃないか。
「それと、この訓練は、なるべく毎日続けてください。いろんな物質の魔素を把握できるとそれだけ使える魔法が増えますから」
そう言って一日目の授業を締めくくった。
夕食後、布団の上で目を閉じ魔素を感じていた。テレビもネットも無いので暇なんだよ。
空気、布団、床、壁少しづつ魔素の量が違っているのが分かる。少しずつではあるが、はっきり判別して把握出来るようになってきた。
部屋の外に誰かいるのが分かる。すごいな。透視みたいだ。隣の部屋は、どうなってるのかな?隣は、同じつくりの部屋だった。客間のようだ。王城はどうかな?と王城を見ようとした瞬間、俺の意識は途絶えた。
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朝、目を覚ますと、背中に柔らかいものを感じた。
そう、アズキに後ろから抱き着かれていた。
しっかり両腕でロックされており、離れようにも離れられない。
「アズキ。起きて。離して」
そういうと、何とか離してくれたので布団の上に座る。そうすると、何かを感じたのかアズキも向かい合って布団の上に座った。キングサイズのベットなのにえらい近い。目が合うとにっこり微笑んでいた。尻尾が布団の上で揺れている。
「アズキ。昨日話したよね。こういうことは、好きな人としかしちゃいけないよって。どうしてまた布団の中に入ってるのかな? 」
俺は、優しく聞いてみた。
「はい。私、トモマサ様のこと大好きです。ですので大丈夫です」
とても嬉しそうに言ってくる。何が大丈夫なんだ。大体、「大好き」って出会ってまだ、三日ほどじゃないか。
「……アズキよ。昨日は、言い方が悪かったようだ。同じ布団で寝るのは、夫婦か恋人だけなんだ。俺とアズキは、まだそんな関係じゃないだろ? 」
「トモマサ様、私のことお嫌いですか? 」
俺の言葉に、泣きそうな顔で聞き返して来る。尻尾もへなっと垂れている。
「い、いや、き、嫌いとかそういう事ではなくてな。物には、順序があるだろう?互いに好きでもすぐに一緒に寝る訳ではないだろう? 」
しどろもどろである。かわいい女の子にこんなこと言われて、スマートに断れる術など持ち合わせていない。普通の男には40年生きてもこんな経験は無い。
「では、いつから一緒に寝られますか? 」
なんで、一緒に寝る前提なんだ?どうすれば、分かってくれるのか?そもそも、断れるのか?何だか何を言ってもダメな気がする。自信がなくなってきた。
「すまんが、少し考えさせてくれ」
とりあえず、逃げておこう。アズキは、尻尾を垂らしたまま部屋を出て行った。どうしたらいいんだ。授業の後にでも一度、ヤヨイに相談してみるか。
そう思いながら、朝食に向かった。
いつもありがとうございます。