9.重力魔法
今、俺は授業を終えて、ソウイチロウ先生の研究室にきている。
なぜか、タケオとヤタロウも来ていた。魔導車の話を聞いて興味が湧いたらしい。
ちなみにアズキは、必須授業がある為別行動をしている。俺がテストで飛び級した授業だ。流石に21世紀で大学まで出て得た知識は、無駄ではなかったようだ。
「これが、構想図面だよ。あと日記も」
ソウイチロウ先生が、書棚から大きな紙を十数枚と、分厚い日記帳数冊を持って来てくれた。
かなりの年代物なのに、保存状態は良好だ。時空魔法おそるべしである。
先ずは、構想図面を開いて見ていく。
「これ、構想図面と言うより設計図ですね。かなり詳細まで書いてありますよ」
「トモマサ君は、これが理解出来るのかい? 」
ソウイチロウ先生が、図面の細かい記号を指差しながら聞いてくる。
そうこの図面、CADで書いたような設計図面だったのだ。細かい記号で、軸の太さや、ベアリングのサイズなどを指定している。機械系の学科を出た俺にしてみれば、授業で習った懐かしい図面だった。
「一応、読めますね。いくつかの記号は、忘れてますが、読み込んでいけば想像できるでしょう」
分からなければ王城の図書館に行けば詳細な資料が残っているだろう。
「おお、凄いな。ぜひ教えて欲しい。そして、共に魔導車作らないか? 」
ソウイチロウ先生が、熱い眼差しで俺に提案してくる。
「良いですね。一緒に作りましょう」
即答した俺は、ソウイチロウ先生は固い握手を交わした。
「俺も手伝わしてくれ。ヤタロウもやるだろう? 」
「もちろん」
タケオとヤタロもやる気のようだ。
「ソウイチロウ先生、私も仲間に入れてください」
そこに女性の声がする。気づけば、女の人が1人部屋の中に入って来ていた。
身長140cmぐらい。ガッチリしたドワーフの女の人だ。
「お、サチ、来てたのか。もちろん手伝ってもらうよ。おっと、紹介がまだだったね、この3人は、今年の一年生で、トモマサ君にタケオ君にヤタロウ君だ。で、こっちの女性は、魔法学園OGでかつ研究生で、サチさんだ」
「「「サチさん、初めまして」」」
「はい、皆さん、初めまして」
このサチさん、魔法学園を卒業して大手魔道具開発のホンダ魔道具に就職したのだが、さらに勉強する為にソウイチロウ先生の研究室で研究生として通っているそうだ。給料はホンダ魔道具から出てるらしく、いわゆる大学と企業の共同研究のようなものらしい。
そして、実は、ソウイチロウ先生もホンダ魔道具の関係者で、現社長の次男坊だそうな。子供の頃から魔道具開発にはまり魔法学園でも魔道具を作り続け、そして先生となった今でもひたすらに開発に情熱を傾ける人のようだ。また、その先生の元で勉強した生徒たちが、ホンダ魔道具へと就職しホンダ魔道具の開発力を上げているとか。恐るべし、ホンダ魔道具。恐るべし、ホンダ ソウイチロウ。
それはさておき、挨拶の終わった俺たちは、早速、図面の読解に努めていた。
もちろん、最初に俺が、簡単に読み方を説明してからだが。
1時間ほどして、タケオとヤタロウが次の授業のため後ろ髪を引かれながら出て行った所で、俺はソウイチロウ先生と進め方について討論をしていた。
「車体は、普通の馬車に近いものに変えて構わないと思います」
「この図面通りでなくても良いのか? 」
「問題ありません。優先すべきは、動力部分かと」
そう、この図面のボディは、完全に自動車の形だった。舗装された道すら無く、馬車が主流の現代で再現する意味はあまりない。
「なるほど、上物は、後でどうとでもなるという事だな」
「はい。そこで問題なのですが、その肝心の動力部分の図面がありませんね。どうしてでしょう? 」
図面上では、『エンジン』と書かれてスペースが作られているが詳細の図面が見当たらないのだ。
「うむ、設計に行き詰まっていたのかな? 」
「それにしても、動力部分の形が決まらないと車体の設計などできないでしょうに。実はこの図面、無意味なのでは? 」
俺の言葉に、ソウイチロウ先生が目を見開いている。
「た、確かに。そう言われればそれまでなのだが……。ご先祖が申し訳ない」
「ソウイチロウ先生、そんなに落ち込まないで、できることを進めましょう」
サチさんが、落ち込んでいるソウイチロウ先生を慰めている。何だか、良い雰囲気だ。実はこの2人……、いや、気にするのはやめよう。俺には、関係のない事だ。
「日記に何か書いてあるかもしれません。読ませてもらっても良いですか? 」
「ああ、好きに読んでくれ」
ソウイチロウ先生の許可を得たので、日記を読み始める。
目の前では、ソウイチロウ先生とサチさんが2人で図面を読み解いている。2人の距離か近くて「うふふふふふ」的な会話がきになるが、無視して読み進めていると、部屋にノック音が響いた。
サチさんがドアを開けると、サチさんの頭の上にアズキが見えた。授業を終えてやって来たようだ。
「トモマサ様、私は夕食の準備のため戻りますが、如何なさいますか? 」
「ああ、俺も戻るよ」
アズキの問いに、即答する。これ以上、ここにいても邪魔な気がしてならないから。
「トモマサ君、必要な書類は持ってって構わないよ」
ソウイチロウ先生は気を使ってくれたのか、日記と図面を貸し出してくれた。
俺達は、礼と別れの挨拶を言って部屋を後にした。
〜〜〜
それから数日は、ひたすらに日記を読んでいた。もちろん、必須科目とか錬金魔法とか必要な授業には出ているが。
日記には、日々の日常が綴られている。
大変革の際に、次元の狭間に囚われた事。
戻ってきたら100年以上経っていて家族は見つけられなかった事。
魔法文明に翻弄されながら、なんとか立ち直り、新しい家族を作った事。
魔道具の開発に力を注いだ事。
魔法盤の開発に成功しホンダ魔道具社を立ち上げた事。
魔導車の開発を夢見るが、周囲の反対に会い実現できなかった事。
こっそり研究してたが、動力源については研究が行き詰まっていた事。
そして、夢を子孫に託し日記と図面を隠した事が書かれていた。
「やっぱりそうだったんだ」
予想通り日記の著者は、ホ○ダ自動車の設計技術者だったようだ。その知識を動員してこの設計図を作っていたようだ。ただ、動力源部分は研究が進まず図面にする事は出来なかったらしい。いくつかの構想だけが書かれていた。
蒸気機関や内燃機関などを魔法で実現する方法が考察されているが、効率的では無いと結論付けていた。
「やはり、何らかの魔法で直接回転を生み出すのが効率的か」
そう、俺も考えていた。蒸気機関や内燃機関は、所詮、爆発を直線的な力を閉じ込めて回転力を生み出しているに過ぎない。そのため、効率が悪い。熱効率が高いと言われるディーゼルエンジンでも30%程しか利用していないのだ。
魔法という自由度の高い力ならもっと効率的な方法があるように思えるし、少ない魔素量で動くようにしないとランニングコストが高過ぎてとても使えないものになってしまうだろう。
「回転を生み出す魔法か。何か良いものがあるかな?カリン先生かマリ教授にでも聞いてみるか」
〜〜〜
「という訳で、マリ教授、何か良い魔法ありませんか? 」
俺は、マリ教授に質問に来ていた。
昨晩泊まりに来ていたカリン先生にもベッドの中で聞いて見たのだが、「そういう専門的な魔法の事は、マリ教授の方が詳しいです」と言われたので研究室に聞きに来たのだ。ナニした後で眠かっただけかもしれないけど。
もちろん、マリ教授のところに来る時は、カーチャ王女のいない時間を狙うのを忘れてはいない。以前と同じように、上級回復魔法授業の時間を狙って来ていた。
来客用ソファーに向かい合って座り話をする。
「ふむ、回転を生み出す魔法か。聞いたことがないな」
「回転でなくても良いです。物を動かす魔法があれば応用できると思います」
「風魔法ではダメなのか?船の帆に風魔法を当てて推進力を得ていると聞いた事があるが」
それは俺も考えたけど、帆のついた車は無理じゃないかな。サイズ的に。パラグライダーみたいな物で空なら飛べると思うけど。1人で空を飛ぶなら違う魔法で出来そうなので、それも却下だな。
「うーん、少し違いますね。こう、机の上のペンを動かすみたいな」
俺は、机の上のペンを転がしながら説明する。
「土魔法なら固形物の形は変えられるけど、ペンが机の上を転がるようには動かせんな」
マリ教授、俺と同じようにペンを転がしながら考える。
「「……」」
無言のままペンを転がす2人。コロコロという音だけが響く。
「あ!そう言えば」
そう言って手を止めたマリ教授が語り出した。
「昔、変わった遺失魔法があると聞いたことがあるわ。何て言ったかしらね。えーっと、一方通行魔法だったかしらね? 」
「は?一方通行魔法ですか。どんな魔法なのですか? 」
「かなり初期の帰狭者で詳しい資料は残ってないのだけど、確か、力のベクトルを操作するとか何とか書いてあった気がするわね。何に使うのかよくわからないので、全く研究されていない魔法よ」
ベクトル操作に『一方通行』って、とあるアレの一位様の能力の事か。厨二病炸裂してるな。
しかし、そうか、魔法で再現した人がいるのか。使い方によっては有用そうだな。今度こっそり練習してみよう。
でもあれそのままの魔法だとすると始動できないんだよな。方向性はあってる気がするが。
「うーん、もっとこう、直接的に力を操作する魔法ないですかね? 」
「力の操作ね。それなら、重力魔法はどう?これも遺失魔法だけど、重力を操作して物を重くしたり軽くしたりできる魔法よ」
「なるほど。重力魔法ですか。でも、重力って下への力ですよね。横への力が欲しいのですが……。そうか!そうだな。行けるか」
俺、閃いてしまいました。良い事に。
あまりの嬉しさに、立ち上がりガッツポーズを取る俺をマリ教授が鳩が豆鉄砲を食ったような顔で見ている。
「マリ教授、その一方通行魔法と重力魔法の資料って見せていただけますか? 」
「あ、ああ、構わないよ」
ボケっとしていたマリ教授だが、俺の願いを聞いて資料を取りに本棚へ向かった。
しばらくして、戻ってきたマリ教授から資料を受け取る。
「ありがとうございました。おかげで助かりました」
「いや、礼を言われるほどの事はしてない気がするのだが。まあ良い。それで、もし重力魔法が使えるようになったら教えて欲しい。工事現場などで有効な魔法なのでな」
礼を言って部屋を出て行く俺。マリ教授のお願いも了承している。しかし、一方通行魔法は良いのかな?結構有用そうな魔法なんだけど。
まぁ、使えるようになったら重力魔法と一緒に教えてあげよう。
そう思いながら俺は、寮に帰った。
いつもありがとうございます。
誤字脱字等教えていただけるとありがたいです。
よろしくお願いします。




