1.入学式
4月に入って数日、桜が満開に咲いている学園を俺はアズキと歩いていた。そう、今日は、入学式の日である。
寮には、数日前に引っ越しをした。ヤヨイの屋敷を出るときに、ヤヨイが少し感情的になるかと思ったが、以外とあっさりと送り出された。俺の方が少し寂しい気がするぐらいだ。
入学式は、大講堂で行われるらしい。そこの入口に向かうと受付があり、受付で名前を言うと資料を渡され中へ促された。中には、新入生用の椅子が並べられていた。場所は、自由にという事らしい。目立たないように後ろの方に座る。見ると、やはり前の方が空いている。この日本人らしい行動は、31世紀でも変わりがないようだ。前の方にはシンゴ王子とカーチャ王女が座ってるのが分かった。王族も大変なようだ。
暫くして入学式が始まった。学園長の挨拶に始まり、祝辞、教頭による訓示、何処にでもありそうな欠伸の出そうな入学式だった。最後に、生徒代表の歓迎の挨拶があった。ラノベでは、美人の生徒会長が、とかあるのだろうが、この学園では冴えない男の挨拶だった。しかも、原稿を噛みまくって名前すらよく分からないぐらいだった。
入学式後は、各クラスごとに分かれるらしい。それぞれの教室に行くよう指示があったのでアズキと二人で向かう。
教室には、誰もおらず適当に一番後ろの窓際の席に座った。隣には、アズキが座る。
暫くすると、シンゴ王子、カーチャ王女とツバメ師匠が入って来た。
「え、ツバメ師匠、どうしたんですか? 」
実戦訓練の後、数回の修行した。その後は魔法学園の講義が始まるので、剣の修行は学園が休みの土曜にするという事で決まっていた。
「トモマサ、実はな私も魔法学園に通う事になったのだ。しかも、トモマサと同じクラスだ。どうだ、驚いただろう」
ツバメ師匠が無い胸を張って笑っている。
「凄いですね。驚きました。入学試験の時は、こちらには来られなかったのに、良く『S』クラスに入れましたね」
「うむ、私もそのあたりは、よく分からんのだが、実技を見て『B』クラスから『S』クラスになったのだ。私の剣技が認められたという事だろう」
魔素量は『B』判定だったんですね。実技、しかも剣技で『S』クラスって魔法学園なのに良いのかな?俺の心の疑問にシンゴ王子が答えてくれた。
「たまにあるんだよ。剣や体術でも秀でている人が『S』クラスに来る事が。パーティーを組んで魔物の討伐とかの時に有利になるとか、魔素量を増やして身体強化魔法を会得してさらに強くなるとかね。優秀な魔法使いを増やすだけが、魔法学園の教育では無いという事だよ」
なるほど、魔法使いだけでは無く、優秀な人材なら受け入れるという事か。何にせよ、ツバメ師匠がクラスメイトなのは素直に嬉しい。ピュアな付き合いだが、3人目の彼女なので。
それなら他にも誰かくるのでは無いかと待っていたが、誰もこなかった。代わりに担任の先生が来た。……カリン先生だった。
「おはようございます。皆さんの担任をします。スワ カリンです。宜しくお願いします」
「先生、スワって苗字だったんですね。初めて知りました」
「トモマサ君、驚くところはそこですか?私は、今日、担任だと聞かされてかなり驚いたのに」
驚きましたよ。担任が彼女とかどこのエロゲだと思うほどに。しかし、真面目な話、今日聞かされた?この学園何か危ないんじゃ無いかと勘ぐってしまう。
「とりあえず、自己紹介しますね。名前は、さっき言いましたね。年齢は、16歳です。昨年、魔法学園を卒業しそのまま教師として働いています。得意魔法は、属性魔法です。他には、回復魔法や身体強化魔法が少し使えます。それ以外の魔法も本では勉強してますので何でも聞いてください。至らない点も多いかと思いますが、楽しいクラスにしたいと思います。皆さん、協力よろしくお願いします。それでは、次はシンゴ王子お願いします」
パチパチと拍手の後、シンゴ王子が挨拶を始めた。
「第五王子のアシダ シンゴです。実は私は、魔素量はそんなに多くはありません。『S』クラスに入れたのは、王子の肩書きと身体強化による戦闘術のおかげです。皆さんの足手まといにならないよう、努力いたしますのでよろしくお願いします」
何て正直なんだ、シンゴ王子。さすが、イケメンだ。しかし、戦闘術か、今度一度見せて貰おう。
「次は、私ですね。私は、第四王女 アシダ エカチェリーナです。カーチャとお呼びください。回復魔法が得意です。王城では、ゲンパク先生に師事しておりました。皆様、何卒よろしくお願いします」
ゲンパクって言うと、最初に俺の診断をした先生だな。回復魔法の権威だとか言ってたな。スキャン魔法も使えるのかな。ぜひ教えてほしい。
「次は、私だな。私は、ササキ ツバメだ。幼少より父から『巌流』を習い、免許皆伝をいただいている。魔素量は少ないが、剣術なら引けは取らんつもりだ。よろしく頼む」
実戦訓練でも凄かった。魔物を真っ二つにしていたもの。魔素量もそのうちに俺とナニすれば上がるから心配いらないよ。身体魔法を身に付ければ正に、鬼に金棒になれるな。将来と言わず、すぐにナニを……いかんいかん、成人までは手を出さないって決めたんだった。そんな簡単に撤回するわけにはいかない。変身したツバメ師匠は、すごく綺麗だったけどなぁ……。
「私は、アズキです。トモマサ様の奴隷ですので、苗字はありません。柔術を少々嗜んでおります。以上です」
俺が回想している間に、アズキの自己紹介が終わったようだ。奴隷だなんて言わなくてもいいのにと思うのだが、仕方が無い。早く、普通の身分に戻れるよう頑張りますよ。
「最後は、俺か。アシダ トモマサです。魔法は、カリン先生に師事して、属性魔法と回復魔法、あと時空魔法を少し覚えました。剣術は、こっちのツバメ師匠に修行してもらってます。こっちは、まだまだ未熟です。後は、アズキの主人であり、ヤヨイの父親です?よろしく」
自己紹介が終わった俺は、カリン先生を見た。カリン先生は、頭に手を当て上を見上げていた。俺なんか変なこと言ったかな?
「と、トモマサ、今なんて言った?ヤヨイ様の父親とか何とか言わなかったか?おい、どうなんだ? 」
あ、俺余計な事言ったわ。ツバメ師匠には、まだ伝えて無いんだった。
「師匠、落ち着いてください。それと、声が大きいです」
「す、すまん、つい興奮して、ヤヨイ様の父親と言ったら、あの『建国の父』様だろ?あの方とトモマサは同一人物なのか?確かに名前は同じだが、年齢が伝えられているものとは異なるようだが」
俺は、緊張した面持ちのツバメ師匠の前に座り、手を取って話し始めた。
「俺は、今から1000年以上前に、庶民の家庭に生まれ、普通に育ちました。やがて、結婚して二人の子供にも恵まれ普通の家庭を築いていました。それが、ある朝目覚めると、昨年の9月でした。子供の体で。そして、1000年の歴史を知りました。俺は、次元の狭間で1000年も寝坊した、ただのバカタレです。『建国の父』などではありません。ヤヨイの父親であることは確かですが。決して『建国の父』などではありえません。……話を聞いて、もし、俺の事が嫌になったらいつでも言ってください。ツバメ師匠の悪いようには決してしませんから」
以前、カリン先生にしたような説明をツバメ師匠にも語った。
暫く黙っていたツバメ師匠だったが、ポツリポツリと話し出した。
「私は、不思議だったんだ。どうして、剣術も下手くそなトモマサを好きになったのか。でも、今の話を聞いて解った気がする。私は、優しい父親に憧れていたんだ。私の父は、剣術バカで、毎日毎日私を鍛える為に厳しく厳しくしていた。そんな父でも私は好きだった。けど、心の何処かで、優しい父親を求めていたのだと思う。その父親像にトモマサは、ピッタリだったんだ。見た目は子供なのに、何故かおっさんみたいな言動で、あんなに痛めつけてる私に対しても優しくて、最後には、腕も無いのにカリン先生を救おうと盾になったりして。その優しさが欲しくて押しかけた私を受け入れてくれて、本当に嬉しかったんだ。だから、だから、トモマサが誰であれ嫌になったりはしない。私が聞きたかったのは、ただ、正体を知った私を置いて行ってしまうのではないかと心配しただけだ。トモマサは、私を置いていかないよな? 」
いろいろと言った最後には、あずきと同じことを聞いてきた。
「大丈夫です。一度受け入れたんですから、置いてはいかないですよ。ただ、一緒にいたいなら、さっきの事は秘密ですよ。ばれたら、危険ですからね」
「わかっている。大体、バラしたのは、トモマサではないか」
俺の言葉に安心したのか、笑顔が戻っていた。俺を揶揄う余裕があるなら大丈夫かな。
「トモマサ君、話は終わりましたか?全く、他の人に聞かれたらどうするつもりですか。……あ、だから私が担任なんですね。仕方がないとはいえ、いろいろ問題が起こりそうですね……」
俺に向かって話していたカリン先生だが、一人の世界に入ってブツブツとつぶやきだした。しかし、本当に言動には注意しないとな。どこでバレるか分かったものじゃない。その後は、学園の講義の説明や必要単位なんかの話をして終わった。話が終わった時には。昼を過ぎていた。本来は、もっと早くに終わる予定だったのだが、自己紹介が長引いた所為だった。
解散後、クラスの皆で食堂へ来ていた。カリン先生は、やる事があるからと、後ろ髪引かれながら職員室へ戻って行ったが。
「トモマサ君は、何の講義を取るつもりなんだい? 」
昼食のハンバーガーを食べながら、シンゴ王子が聞いてきた。
ちなみに、このハンバーガーのハンバーグの肉はとても美味しかった。聞く所によると、オジロの街の名産品でタジマキャトルと言うモンスターの肉らしい。俺は、それを聞いて普通に但馬牛だなそりゃ美味いだろう、と思ったのはここだけの話だ。
話を戻そう。
魔法学園の講義は選択制である。年間で必要な単位を取るかそれに準ずる成果を挙げれば進級できるシステムである。ほとんどの人は、普通に講義を受けるのだが、たまに自分の魔法を開発するんだと言って研究に没頭したり、強い魔物を狩るんだと言って狩りに行ったりする人もいるらしい。魔物狩って単位になるのかとも思ったが、戦闘能力も重要な世界であるので、単位として認められるようだった。ただ、単位が足りないからと狩りに行って大怪我する人もいるので、学外の活動には許可が必要との事だった。
またまた、話は戻ってシンゴ王子の質問だが、俺は決めかねていた。
「初級は、カリン先生に習ったので属性魔法と回復魔法の中級講義を取ろうかと。まぁ、初級のテストに合格したらだけどね。後は、身体強化も取りたいな。それと気になるのは、遺失魔法だな」
「遺失魔法か、トモマサ君には良いかもしれないね。嘗ての帰挟者が使ってた魔法がほとんどですから。先生方も喜ぶと思うよ」
そうなのか、遺失魔法って帰狭者が使ってた魔法なのか。それなら確かに俺に合ってるかもな。ぜひ取ろう。
「シンゴ王子は、どんな感じにするの? 」
シンゴ王子の方も聞いておく。
「僕は身体強化の他は、戦闘術を中心に取っていこうかと思ってる。魔素が少ない僕では、数を覚えても仕方がないからね」
シンゴ王子がは、細マッチョを活かしてガチガチの戦士になるみたいだ。他の皆にも聞いたところ、アズキは、俺同じものを取るらしい。ずっと付いて来るつもりのようだ。ツバメ師匠は、身体強化の他は、剣術の講義を取るようだ。あれだけの腕前なのに、入学試験で勝てなかった先生がいるらしい。そこで修行を付けてもらうと言っていた。カーチャ王女は、回復魔法の上級と他には、欠損部位の復元魔法を研究している研究室で研究生みたいな事をするようだ。
「IPS細胞の研究してるみたいなものか」
カーチャ王女の話を聞いて俺がボソッとつぶやいた言葉に、王女が質問してきた。
「何ですか?そのアイピーエス細胞って? 」
「昔の21世紀の話さ。あんまり詳しく覚えてないけど、万能細胞だったかな?で失われた臓器なんかを復元する研究が行われてたんだ。実用化する前に科学が滅んじゃったけどね」
ちょっと自嘲気味に言った後、カーチャ王女を見ると王女の目が輝いていた。いや、そう見えただけだが。
「その話、詳しく教えていただけませんか。出来れば、先生と一緒に」
「いや、でも、この話をしようとすると、俺のことも色々話さないといけないだろう?ちょっと無理なんじゃないの?それに本当に詳しくなんて覚えてないし……」
俺の言葉に少し怯んだカーチャ王女だったが、諦めきれなかったらしい。
「それなら先生に守秘義務の契約をして貰いましょう。破ったら、奴隷になる契約を」
「待って!待ってよ。この話、そんなに大事?申し訳無いけど、本当に詳しい話は知らないよ? 」
「本当に本当にほんとーに大事です。嘗ては、存在したのです。復元魔法が!……ただ、今は、遺失魔法として扱われてます。どうしてだかわかりますか? 」
王女の質問に俺は答えられない。首を横に降る。
「使い手が、帰挟者だったのです。当人の死後、扱える人は誰もいませんでした。多くの人が魔法の再現を望みました。ただ、誰も成功する人はいませんでした。知識が足りないのです。復元魔法を使うための知識が!トモマサ様が、全ての知識をご存知だとは思っておりません。ただ、少しで良いのです。研究に協力してはいただけないでしょうか?事故で腕を無くされた方や、魔物との戦いで足を無くされた方、本当に沢山の方が待ち望んでおられるのです」
土下座をしそうな勢いのカーチャ王女の肩をシンゴ王子が掴んで止めた。
「カーチャ、ここでは、それ以上頭を下げるのは止めたほうが良い。トモマサ君の事を不審に思う人が出ないとも限らない」
「す、すみません。どうしても、お願いしたかったものでつい」
カーチャ王女は、後先考えず勢いの付いてしまったのが恥ずかしいのか、赤い顔でイヤイヤしている。
「はぁ、カーチャ王女がそこまで頼むなら仕方が無いけど、どんな先生なの?信用できる人なら、話するのは構わないけど」
仕方が無いんだ。正体がばれるのは困るけど、美少女の頼みは簡単には断れないんだ。
俺の言葉に満面の笑みを浮かべたカーチャ王女がその先生の人となりを教えてくれた。
クリ マリ教授。20歳。魔法学園の卒業生で、卒業後は実家の治療院で働いていたのだが、研究の為に魔法学園に戻って来たそうだ。遺失魔法の講義も受け持ってるらしい。
「とてもお綺麗な大人の女性ですよ。キャリアウーマンとでも言うのでしょうか? 」
「女性なのですか?カリン先生みたいな事にならないでしょうね」
女性と聞いて俺は嫌な予感を覚えた。また、嫁候補だと言い兼ねないからだ。
俺の言ったことが良く分からない感じのカーチャ王女にアズキがカリン先生との馴れ初めを語り出した。すげー恥ずかしいからやめて欲しいですけど。
「うーん、マリ教授は大丈夫だと思います。昔の彼氏に魔素容量の増加を手伝わせられた挙句、捨てられた事があるとお酒の席でいつも愚痴ってますから。男なんて懲り懲りだとも」
マリ教授、あんた、12歳の子供になに語っとんじゃい。どうやら、酒好きの先生のようだ。酔って言いふらしたりしないか心配だとカーチャ王女に質問する。
「ちゃんと、守秘義務契約しておけば大丈夫ですよ。語ろうとした途端、奴隷化されて語れなくなりますから」
何度聞いても恐ろしい契約だ。よくそんな契約しようとするものだ。俺には理解できない。俺が呆れていると、カーチャ王女、断られると思ったのか、おずおずと上目遣いで「やっぱりダメでしょうか? 」とか聞いてくる。だから、美少女にそんな顔されたら断れないですって。
「分かりました。お話ししましょう。ただし、守秘義務契約だけはお願いしますよ」
「ありがとうございます。すぐに教授に話をして来ます」
再び満面の笑みを浮かべたカーチャ王女は、お礼だけ言うと研究室のある方へ向かって駆け出していった。




