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29.初陣

日は進み、今日は狩の日である。

朝からカリン先生を足して4名+ルリで馬車に乗りフクチヤマの領域横の街道を走っている。


街道沿いは、人通りも多いためほとんど魔物が出ない。素材目当ての傭兵か商人の護衛が退治してしまうからだ。そのため今日は、適当な所で馬車を置いて街道から福知山の領域に入り魔物を狩りに行く予定である。

狩の間の馬車の護衛として御者には、屈強な男が二人乗っている。ヤヨイの屋敷詰の御者さんだ。結婚して傭兵を辞めて転職して来た人たちらしい。結構な手練れのようだ。

ルリも何故だかついて来ていた。図書館行く時など全くついて来ないのに、狩には行きたいらしい。ルリの性格なのか猫の習性なのかは分からないが。


「この辺りで馬車を止めて魔物を探そう」


ツバメ師匠の声で馬車が止まり、各々持ち物の確認など準備をしていく。


「3時間ほどで戻る」


御者さんにそう言って、街道から外れて行く。ツバメ師匠、俺、カリン先生、アズキの順で進んでいく。ルリは俺の横を歩いている。しばらく行くと大きな森に突き当たった。


「森の中は、危険が多い。魔物も強いしな。今日の所は、森の外縁部分を進んでいこう」


ツバメ師匠の先導で森には入らずに周りをぐるっと進んで行く。俺は、辺りを見渡すが人工物は一切見当たらない。福知山、そこそこ大きな地方都市だったのに何にも残っていないようだ。

20分ほど歩いただろうか。ツバメ師匠が立ち止まった。


「あそこに、ワイルドボアが1匹いる。みんな、戦闘準備を。先手は、トモマサ、魔法を一発打って向かって来たところを叩き切れ。なに、危なくなったら助けてやるから思いっきりやってみろ」


ワイルドボア、いわゆる野生のイノシシである。かなり大きいが。

小声の指示に従い、準備する。他の皆も準備出来たようなので、ワイルドボアの首めがけて風刃ウィンドカッターを打ち込んだ。

ザシュ、ワイルドボアに着弾したと思ったら、そのまま首が切れてしまった。魔法が強すぎたようだ。刀を使うまでも無く戦闘が終わってしまった。


「ツバメ師匠、すみません、魔法だけで終わってしまいました」


「仕方が無い。実戦での魔法も初めてだろう?加減がわからないのな。それでも次は、最初から刀で行くか」


そう言って、次の魔物を探して歩き出した。倒したワイルドボアは、俺のアイテムボックスにしまっておいた。街で解体してもらい自分で食べたり、販売したり出来るらしい。金には困って無いが、置いておくと他の魔物が寄ってくるらしいので持って帰る事にした。


次に見つけたのは、ホーンラビットが三匹だった。このホーンラビット、体長が2メートル近くあり兎のくせにやたら好戦的な魔物ある。数も多いので、先ずはカリン先生の魔法で先制攻撃を仕掛ける事にした。

カリン先生の火球ファイヤーボールが、一番近い一匹を捉える。左の後ろ足を真っ黒にして弱った所にルリが突っ込んで行って爪で喉元を切り裂いている。残りの二匹のうち一匹がツバメ師匠に、もう一匹が俺の方に向かって来た。俺はこちらに向かってツノを突き出して突っ込んで来たところを、体を躱して抜刀術で一閃。胴の辺りを深くえぐったようだ。フラついていたので振り返って上段から刀を降ろし首を叩き切った。

もう一体は?とツバメ師匠を見てみると、文字通り一刀両断。兎の体を真っ二つに切り裂いていた。


「流石、ツバメ師匠です」


「うむ、トモマサも上手く動けているな」


師匠の技に称賛を送ると、こっちのことも褒めてもらった。幼女のツバメ師匠に褒められると何だかほのぼのする。ルリも褒めてとばかりに俺に頭を擦り付けて来るので、いっぱい撫でてあげた。目を細めて喜んでいる。


「きゃ」


ほのぼのしてる所に、カリン先生の悲鳴が聞こえて振り返る。木陰から新たに現れたホーンラビットが先生めがけて突進してきていた。


「危ない」


俺が先生を庇おうと先生の前に体を入れた所で、突然、ホーンラビットが吹っ飛んで行った。見ると、アズキが、目の前に立っていた。


「今のは、アズキが? 」


「はい、私が投げました。差し出がましい事をして申し訳ありません」


どうやったのかはさっぱり分からないが、柔術で投げ飛ばしたらしい。


「いや、アズキ、助かったよ。しかし、今まで見たことなかったけど、あの巨体を投げ飛ばすなんて本当に達人なんだな」


俺の言葉に、アズキの尻尾がブンブン振れている。嬉しいらしい。

投げ飛ばされたホーンラビットは、巨木に激突してフラついた所をルリの爪でトドメを刺されていた。戦闘終了である。


「アズキさん、助かった。私も詰めが甘かったな。いざとなったら守るとか言いながら、まだ、修行が足りないようだ」


ツバメ師匠も、なんだかんだで12歳。見た目は、6歳だが。技は切れても魔物との戦闘経験は足りないようだった。

その日は、後2回ほど戦闘を行った。魔物は、同じくワイルドボアとホーンラビット、油断をしなくなったツバメ師匠と元気一杯のルリの元、危なげなく倒しアイテムボックスに収納されて行った。

もちろん俺も頑張って何体か倒したよ。


〜〜〜


そこから少し休憩を入れて歩き出す。15分ほど歩いた所で、ツバメ師匠が皆を止める。ルリも何かに警戒してるようだ


「気配を感じるな。隠れて見られている」


俺は周りを気にしてみるが、何も感じられなかった。


「魔物が潜んでいるのでしょうか? 」


俺の問いにアズキが答える。


「隠れてるのは人です。数は8名。恐らく盗賊でしょう」


「流石アズキさん、そこまで分かるのか」


ツバメ師匠が、アズキの気配察知能力に驚いている。


「8名。多いですね。ツバメ師匠、このまま引き返した方がよいのではないですか? 」


こちらは、4名。数でも負けている上に、盗賊と言うことは人だ。人と戦うのは気がひける。物を奪おうと潜んでいる人に説得など聞かないだろうし。


「大丈夫だ。トモマサ。私とアズキさんが入れば、盗賊の10人や20人軽くれるぞ」


ツバメ師匠が無邪気な笑顔で物騒な事を言っている。その笑顔に少しゾッとするが、アズキを見ても無表情に頷いている。

アズキも盗賊を殺す事に何も思う事はないようだ。31世紀では、普通なのだろう。

俺が怯んでいるのが分かったのか、カリン先生が説明してくれた。


「トモマサ君。盗賊を殺す事が嫌なようですけど、現代では必要悪とされていますよ。街中なら捕まえて衛兵に突き出せば、犯罪者として鉱山収監されて強制労働をさせられるのですけど、ここで捕まえても連れて行けませんし……殺すしかありません」


「そうなのですね。しかし、人殺しか……」


常識が変わった事は分かってる。分かってるのだが、俺に出来るだろうか。


「トモマサ様、悩んでいる暇は無くなりました。相手にも気付かれました。こちらに近づいてきます」


アズキが冷静に告げる。

既にツバメ師匠は、刀を抜いて迎撃態勢を終えている。


「トモマサ、無理はするなよ。人は、魔物とは違うからな。気を付けてカリン先生を守っていてくれ。ルリもあまり前に出ないように」


ツバメ師匠の忠告を聞きながら俺も刀を抜く。少し手が震える。ルリもツバメ師匠の指示を理解したのか、カリン先生の横で身構えている。それに合わせるようにカリン先生も俺の近くで杖を構えていた。


〜〜〜


俺が緊張して構えてる間、アズキとツバメ師匠が小声で話している。


「アズキさん、トモマサは大丈夫かな?人相手の戦いにかなり緊張しているようだが」


「そうですね。トモマサ様は、人殺しは勿論のこと、人が殺される所も見た事がないようです」


「そうなのか。いくら王都の治安がいいと言っても盗賊が殺される所ぐらい見た事あるだろうに。よほど大事に育てられたのだな。うむ、ここは一つ経験して貰うか。アズキさん、どう思う? 」


「そうですね。1人相手してもらいましょうか。気配からは、大した相手では無さそうですし」


アズキとツバメ師匠が頷き合っている。作戦が決まったようだ。


〜〜〜


話を終えて間も無く、盗賊達が森の中から俺たちの前に飛び出して来た。


「ヒャッハー。上玉が揃ってるじゃねえか。今晩は、楽しめそうだ」


「本当ですね。頭。あの犬獣人の胸見てくだせぇ。後ろの女も、たまりませんぜぇ」


「その上、良い装備つけてやがる。金もたんまり持ってそうですぜぇ」


飛び出して来たのは、6名。獣の革を鞣した服を着て、手には短刀ドスを持っている。見るからに山賊という言葉がよく似合う格好で、好き放題言っている。アズキやカリン先生を見てヨダレを垂らしてる奴までいる。

それにしても、「ヒャッハー」って20世紀末のアニメでしか聞かない言葉だ。本当に使ってるんだな。ちょっと感動した。


「何の用だ、主ら。突然出て来て、吃驚するではないか」


俺が感動している間に、ツバメ師匠が頭と呼ばれた盗賊に話しかけていた。


「げへへ、この格好を見てわからんのか。俺たちは、盗賊よ。大人しくしていれば、命は取らないぜ。それどころか、たっぷり可愛がってやる。そこの男を除いてだがな。げへへへへ」


下品な笑い声を出す、盗賊の頭。目線は、完全にアズキの胸に向いている。話をしているのは、ツバメ師匠なのに。ほぼ同い年の筈のアズキとツバメ師匠。種族の差とは言え、体の成長に差がありすぎる。


「私が話をしているのだ。こちらを見ろ! 」


流石に腹が立ったのか、ツバメ師匠の顔に青筋が立っていた。そのせいか辺りの温度が下がった気がするのだが、盗賊達は気付いていないようだ。


「なんだ嬢ちゃん。嬢ちゃんも可愛がって欲しいのか?困ったな、この中にロリコンはいたかな?げははははっ……・ギャー! 」


笑っていた盗賊頭が突然悲鳴をあげる。

いつの間にか振り抜いたツバメ師匠の刀で右腕を斬り落とされたのだ。さらに酷いのは、隣にいた盗賊2人だ。2人は、首と胴体が離れていた。


「貴様は、ただでは殺さん。存分に甚振ってやる」


ツバメ師匠が、完全に切れたようだ。普段は無邪気に笑ってるけど、結構気にしてたのね。成長が遅い事。体の事でツバメ師匠を揶揄うのは止めようと俺は心に誓った。

その間にも、盗賊頭の左足が斬り落とされる。左隣の盗賊の胴体とともに。


「「「ギャー」」」


ツバメ師匠に斬られた盗賊頭は、倒れて血を吹き出しながら叫んでいる。巻き添えの盗賊3名は即死。残りの2人も逃げ出そうとした所をアズキの弓で足を射られて苦しんでいる。阿鼻叫喚図とはこの事である。


「ツバメ師匠、怒らすと怖いんですね」


俺は、隣にいるカリン先生に話しかけている。そう、俺は、完全に気を抜いていた。戦いは終わったのだと……。

いつもありがとうございます。

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