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28.狩り準備

入学が決まったあの日からカリン先生は、3日に一回は泊りに来ていた。

教師派遣は入学試験の前に終わっており、今は学園内で新学期の準備に忙しいらしいのだが、昨晩も仕事終わりにわざわざやって来ていた。

今は、一晩俺と過ごして学園に出勤するところだ。


「カリン先生、いってらっしゃい」


「はい、行ってきます」


お出かけのキスをしてカリン先生を送り出す。まるで新婚家庭である。送られる男女の立場が逆であるが。

残った俺はというと、剣術の修行と魔法の自主練に精を出している。

ちなみに、ルリも調教を終えて帰って来ている。体はますます大きくなり大型犬とタメを張れそうな風格である。それでも、まだまだ甘えん坊で俺を見つけると俺のそばに来て撫でて欲しそうに顔を擦り付けて来る。可愛いやつだ。


そんな中、今日は剣術の修行の日だ。しかも、朝から。最近体ができて来たとのことで、一日中修行する事になっている。


「ツバメ師匠、おはようございます」


「おはよう、トモマサ。今日も張り切って乱取りだ」


ツバメ先生、12歳(見た目6歳)は今日も元気が有り余ってるらしい。来て早々に木刀を振り回している。俺も防具を付け木刀を持ちツバメ先生の前に立つ。


「お待たせしました。よろしくお願いします」


「うむ、それでは、はじめ! 」


その瞬間にツバメ先生が突っ込んでくる。「吹っ飛べ」とばかりに振り下ろされてくる木刀を自分の木刀で受けることに成功する。身体魔法を習った俺は、剣術の修行に活用している。とは言っても、筋力を強化しているのでは無い。動体視力と反射神経を強化しているのである。ふ、ふ、ふ、4か月前とは違うんだよ。4か月前とは。

さらに繰り出されたツバメ師匠の木刀を自分の木刀で受け止めたと思ったところで吹き飛ばされた。ツバメ師匠の木刀が俺の木刀をすり抜けたのだ。


「何だ今のは?油断するなと言っているだろう。さぁ、もう一度だ」


「す、すみません」


吹き飛ばされた俺は、回復魔法をかけながら立ち上がる。これまでとは違う動きだ、強化した動体視力でも捕捉できなかった。どこをどう、すり抜けたのか解らない。


「もう一度お願いします」


再度、ツバメ師匠が突っ込んでくる、一刀、二刀、よしと思った、三刀目でまた、すり抜けて来た木刀で吹き飛ばされた。


「刀身を追ってるだけでは、だめだ。全体を把握しろ」


何気に、要求が厳しくなってないですかツバメ師匠。次は、二刀目で吹き飛ばされる。

次は、木刀ではなくツバメ師匠の体を追っかけてみよう。

突っ込んできたツバメ師匠の体から目を離さないように対峙する。一刀、二刀、三刀、四刀、五刀目で受け損ねて吹っ飛ばされた。


「今のは、良かったな。その感じを忘れるな。さて休憩にしよう」


「ありがとうございます」


今は、ツバメ師匠の体を追っかけてたが、木刀がどこを狙ってくるのか感覚的に分かった気がする。視線や重心の位置から攻撃の順番が読めるようになってきたと言うことだろう。強化した動体視力と反射神経頼りの戦いで無く、戦闘経験も少しはついてきたようだ。本当に4か月前とは違っているようだった。


「そろそろ修行も終わりだし、最後に実践訓練をしようと思う。イチジマの町を出て、フクチヤマの魔物の領域に向かうつもりだ。なに、フクチヤマには、あまり強い魔物はいない。大した危険もないし、ヤヨイ様も了承済みだ。今週の土曜日だ。準備しておくように」


茶を飲みながら休憩してるとツバメ師匠が軽い調子で言ってきた。


「突然ですね」


「うむ、今朝思いついてな。ヤヨイ様に相談したら、すぐに許可が出たぞ」


ツバメ師匠、思いつきなんですね。まぁ、いずれは魔物とも戦う必要があるだろうし、ツバメ師匠と一緒なら安心だから良いんですけどね。準備って何すればいいんだろう?装備とか持ち物とかかな?


「そう言えば、俺、刀も防具も持ってないのですが……」


「何、それは困るな。よし、今日はこれまでにして武器屋に行こうではないか」


また、唐突な。本当に思い付きだな。

ツバメ師匠に引っ張られて、アズキと共に商業街の端っこのほうの武器屋にやって来た。

こじんまりした、あまり流行ってなさそうな武器屋だ。


「ツバメ師匠、ここですか?あっちの大きな武器屋のほうが良いのではないですか? 」


「あっちの大きい店は、着飾った貴族用の実践では役に立たない武器しか扱ってない。心配するな。ここは私の行きつけでな、名より実を取る店だ。店主は目録までもらった剣士だから、半端な刀は置いていない」


ツバメ師匠と、店の前で話していると突然、怒鳴られた。


「だれだ、店の前でグダグダしてるのは? 」


あまりの大声に俺とアズキは吃驚して肩をすくめていた。すると、店の中から髭もじゃの迫力あるの男が出て来た。背は低い。ドワーフのようだった。


「よう、クニサダ、久しぶりだな」


「なんだ、ツバメ嬢ちゃんか。また、あっちの店の奴らが嫌がらせに来たのかと思ったぜ。坊主たちは客か?入りな」


店主、クニサダさんとともに店に入る。薄暗い店内は、壁一面に鍔も柄も付いてない裸の刀身が所狭しと並んでいた。俺とアズキが見回しているとクニサダさんが聞いてきた。


「で、どっちが使うんだ? 」


「俺です」


「坊主か。手を見せてみろ。両手だ。ふん、まだ3,4か月か。あまり良い物はいらないな。ちょっと待ってろ」


俺の手を見たクニサダさんが、そう言って裏に消えてった。


「無愛想だろ?口も悪いし。あれだから客が来ないんだ。腕は確かなんだけどな」


ツバメ師匠が、苦笑しながら教えてくれる。確かに口は悪いけど、手を見ただけで解るんだから本当に腕は確かなんだろうな。


「こいつを振ってみろ」


戻て来たクニサダさんが、一刀手渡してきた。もちろん鞘にちゃんと入った刀だ。

腰に差してから、抜刀して素振りしてみる。見た目より軽い。木刀と同じように振れる。俺の体に合ってる気がする。


「おめぇ、才能ねえな。身を守るならそいつで十分だ」


ツバメ師匠に続いて才能無いって言われてしまった。分かってますよ本当に。しかし、この人ほんとに口が悪いな。客にそんなこと言ったら買ってくれないぞ、普通。


「クニサダ、また、客を追い返す気か?それだから誰も買ってくれないんだぞ?分かってるのか? 」


「良いんだよ。買いたくないやつは買わなくて。で、坊主はどうする?銀貨30枚だ」


「使いやすそうですし、買いますよ。防具は無いんですか? 」


店頭には刀以外一切置いていないが、良い物を取り扱っているらしい。ツバメ師匠が教えてくれた。

鎖帷子にワイバーンの革で作った籠手に垂に膝まで守れる脚絆に兜と一式用意してくれた。どうせなら、ワイバーン革鎧も欲しかったのだが、サイズが無いそうだ。ワイバーンの革は結構貴重で、子供サイズの鎧は作ってないとの事だった。


「全部まとめて金貨2枚にしといてやるよ。今度、革が余ったら、小さい鎧も作ろうか? 」


「いえ結構です。すぐに大きくなるので。その時、通常サイズを買いに来ます」


「そうかい。早く大きくなれよ」


そう言って、俺の背中をバシバシ叩いてきた。息が出来ないし、すげー痛い。

そうしてる内にアズキが、代金を払ってくれた。


「うぉ、こっちの嬢ちゃんは、すごいな。坊主の護衛か?柔術か何かの体術か?とんでもない使い手だな」


アズキは相変わらずの高評価だ。戦ってるところを見たことがない俺には、まったく理解できない。ベッドの上で勝てないのは知ってるんだけどね。


「嬢ちゃんは、装備はいらないのかい?キラースパイダーの糸から作った良いものがあるんだが、どうだい? 」


「私ですか?そんな良いものお金が無くて買えません」


アズキが申し訳なさそうに断っていた。


「アズキ、フクチヤマ実戦訓練に付いて来るんだよね? 」


「もちろんです。トモマサ様の行く所にはどこでも付いて行きます」


どこでもって、風呂は良いけどトイレはやめてよね。そんな趣味は無いので。


「アズキの装備って見たこと無いけど、何か持ってるの? 」


「メイド服が最強の装備です」


アズキが胸を張って答える。

うーん、確かにその胸を包んだメイド服は最強だが、防御力は無いのではないだろうか?


「がはは、面白い嬢ちゃんだ。けどその服でフクチヤマに行くのは止めときな。いくら手練れでも危な過ぎる。悪いことは言わねぇ、キラースパイダー装備買って行きな。護衛の身を守る物だ。坊主が金を払ってくれるだろ」


「そうだな。クニサダさんの言う通りだ。アズキもここで装備を整えて行こう。その格好では同行を許可出来ないしな」


「そ、それは困ります。分かりました。装備をよろしくお願いします」


クニサダさんが奥からアズキ用の装備を見繕ってくる。アズキに武器はと尋ねると、「ナックルガードのついた籠手と弓をお願いします」との事だった。

キラースパイダーの防具は拳法道着にた形の服だった。それに、金属製のナックルガード付き籠手、ハチクという魔物から作った弓。柔術家というより弓を背負った拳法家と言ったいで立ちだ。

装備が決まって代金を聞いたらびっくり、金貨3枚だった。俺のより高いじゃないか。と思ったが何とか言わずに済ませた。言うとアズキが気にするといけないから。払うのはアズキだから知ってると思うけど。

アズキが代金を払うのを素知らぬ顔で見送って、店を出た。クニサダさんは大喜びで、「久々にうまい酒が飲める」とか言っていた。良いもの置いてるんだからちゃんと商売すれば売れるのにと思いながら屋敷に帰った。


~~~


装備を買った次の日の夜、仕事終わりのカリン先生がやって来ていた。食後にまったり話をしている所で実戦訓練の話題になった。


「次の土曜に、実戦訓練でフクチヤマに行ってくることになったよ」


「また、急な話ね。……土曜日なら私も行けるわ。魔法の先生としては、教え子の初戦に付いて行くものよ」


カリン先生、変な理由付けてるけど、ただ行きたいだけだと思うのだが、はっきり言うと機嫌を損ねかねないので黙っておいた。


「先生って、魔物の討伐経験あるんですか?ずっと、学園のイメージがありますけど」


「無いわよ。大体、普通の魔法使いは、魔物と戦ったりしないもの」


「それなら、討伐用の装備も? 」


「持って無いわね」


完全な素人のようである。付いて来る理由は今ひとつだが、優秀な魔法使いであるカリン先生が付いて来られるという事は、戦力的にはプラスになるので同行を許可した。除け者にすると後が怖そうだし。ただ、変な装備で来られて怪我でもされると困るので、後日装備をプレゼントする事にした。


クニサダさんの所に相談に行くとミスリルを練り込んだローブに大きな水晶のついた杖があると言うので購入した。杖の材料は1000年を超える神社の御神木の樫の木で、属性魔法を強化する能力があるらしい。


ちなみに、この夜のカリン先生のサービスは凄かった。プレゼントのお返しのつもりだろうか?久々に深夜までナニして翌朝が辛いほどに。

カリン先生も赤い目をして学園に出勤して行った。昼間に居眠りしてないといいけど。


いつもありがとうございます。

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