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25.入学試験

 まだまだ寒い日が続く中に少しづつではあるが春の訪れを感じる3月の始め、魔法学園の入学試験の日がやってきた。

イチジマの街の中ほどにある魔法学園が試験会場である。


朝食を食べて馬車で魔法学園に向かうと途中から交通渋滞していた。


「すごい数だね。これみんな、入学試験を受けるために来ているのか」


「そのようですね。やっと、魔法学園の門に到着したようです。ここからは、徒歩で向かいましょう」


入学試験にはアズキも付いて来ていた。一緒に試験を受ける事にしたようだ。二人で合格してリア充なスクールライフを送れると良いのだが。


「あちらが受付のようです。トモマサ様、並びましょう」


受付の行列に並んで前の方を確認すると、受付のテーブルまで20人ほどいる。しばらく待つことになりそうだ。

ちなみに、ルリは泊まりで調教中でここ数日、帰ってきていない。一応、様子だけは連絡が来ており、賢くしていると言っていた。


「えっと、人族に獣人にドワーフいろんな人種が来ているな。あれ、エルフがいないな。魔法が得意なエルフがいないのは変じゃないのか? 」


「トモマサ君、ほとんどのエルフの子供は、自分の親から魔法を習います。わざわざ、魔法学園に来る人はほとんどいませんよ。授業でも話したでしょう?覚えてないですか? 」


カリン先生が、いつの間にか後ろに立っていた。

いつの頃からか黒ローブを辞め、胸の形がよくわかる服を着てくるようになったカリン先生。今日もぴっちりとしたセーターを着ているので、胸が強調されている。思わず目線が向かってしまう。


「そういえば、聞いたような、聞いてないような」


考えるふりをして胸を見ていた。だが、やっぱり思い出せなった。仕方がない、頭の中は胸でいっぱいなのだから。


「仕方がないですね。入学したらきちんと勉強するのですよ。それじゃ、私、試験監督だから行きますね。頑張ってくださいね」


言いたいこと言ってどこかに行ってしまった。言われなくても頑張りますよ。アズキに愛想尽かされないためにヤヨイのヒモにならないために。


しばらくすると、順番が回って来た。


「おはようございます。早速ですが、受験票をお願いします。……はい、確認しました。それでは、こちらの簡易魔素測定器に魔素を込めてください」


「簡易魔素測定器ですか?数値が出るんですか? 」


魔素測定器と聞いて俺は、ちょっと焦っていた。32万とか出たら大騒ぎにならなのでは無いかと。魔素量は、あまり人に知られたくない。


「いいえ、こちらは、簡易魔素測定器ですので、込められた魔素量に応じて光が出ます。基準値以上に光を出せればオーケーです」


そうか、それなら大丈夫かな。俺は、恐る恐る魔素を込めていく。100wの電球ぐらい白く光ったところで周りの人が騒ぎ出したので測定器を受付の人に渡した。


「これぐらいで、大丈夫ですか? 」


「……・は、十二分に大丈夫です。この計測器こんなに光るんですね。初めて見ましたよ。それじゃ、こちらの登録用紙を持って『S』の教室に行ってください。用紙は、先に記入していて結構です。はい、次の人」


次は、アズキであった。測定器が、60w電球ぐらい光った。色は、緑色だった。


「獣人なのに……すみませんこちらの話です。あなたも『S』の部屋に行ってください。用紙も記入しておいてくださいね。はい、次の人」


色の違いが気になったが、受付の人は、まだまだ続く行列を捌いて行くのに忙しそうだったので、おとなしく指定の教室に向かうことにした。


「トモマサ様と同じ部屋でうれしいです」


「そうだね、俺もうれしいよ。しかし、教室は何で分けてるんだろうね。光の強さも色も、俺とアズキで全然違ったのに同じ部屋なんだね」


アズキもよくわからないのか首を傾げていた。

校舎に入ると、『S』、『A』、『B』、『C』の4部屋が用意されていた。『S』の部屋は一番奥だったので廊下を歩きながら部屋を覗いていく。分かったことは『C』、『B』、『A』の順番に人が多かったこと。特に『C』の部屋はあふれんばかりに人がいた。それから、『S』の教室に入って、驚いた。


「シンゴ王子に、カーチェ王女、おはよう」


そう、その二人が広い部屋の中でポツンといたからだ。


「おはよう、トモマサ君、アズキさん。二人もこの部屋なんだね」


「受付でこっちの部屋だと言われて来たんだけど。シンゴ王子は、この部屋割り何が基準で決められれるか知ってる? 」


「えっと、トモマサ君は、もしかして入学試験の試験内容知らないのかい? 」


うっ、そういえば、知らないな。


「うーん、カリン先生に聞いたんだけど、知らないほうがいいと言われて、調べもしなかったんだよね」


「ははは、さすがトモマサ君だ。豪胆だね。それとも、カリン先生の教えがいいのかな? 」


軽い感じでシンゴ王子が教えてくれた。光の強さで部屋を分けてるとのこと。色は、得意に思ってる魔法により変わること。気分によっても変わるのであまり重要ではないこと。

そして最後に、とんでもないことを言い出した。


「『S』判定された人は、それだけで合格だよ」


「は?もう試験はないの? 」


「ああ、他の判定では試験がある。『C』判定の人は大変だよ。実技に筆記に今日一日かかるんじゃないかな? 」


『C』クラス沢山いたもんな。何人残るんだろうか?先生たちも大変だな。シンゴ王子と話してる横で、カーチャ王女とアズキも話を弾ませていた。どんな試験でもクリアしてやるぜって意気込んできたのに肩透かしを食らった感じだ。

その後も特にやることもないので、しばらく雑談していたが、『S』判定の人が増える気配がなかった。


「『S』判定は、これで全員なんですかね? 」


「うーん、例年、1~2名だという話なので、これ以上は増えないんじゃないかな? 」


そうか、もういないのか。広い部屋で、まったりと寛いでいると入り口のドアが開かれカリン先生が入ってきた。


「みなさん、お待たせしました。今後の予定を説明しますので空いてる席に座ってください」


空いてる席って言われた4人は、なんとなく一番前の席に並んだ。日本人らしく無いが、皆知ってる人ばかりなのに離れて座るのが、いやらしく思ったからだろう。多分。


「ありがとうございます。それではまず自己紹介をしますね。私は本学園で教師をしております。カリンです。よろしくお願いします。既にご存知の方もおられると思いますが、『S』判定された皆さんの試験は終了です。入学試験合格おめでとうございます。春からは、本学園の学生として一層の魔法力向上に努められることを期待しております。続いて……」


俺は、教室の教壇に立つカリン先生のいつもと違う雰囲気にちょっとドキッとした。屋敷でのフレンドリーな感じとは違い、きりっとした感じは、すごく大人びて見えた。


「トモマサ君、聞いてますか? 」


「え? 」


突然の呼びかけに、はっとなった。


「もう、大事な話ですからちゃんと聞いてください。受付でもらった書類の記載は済んでますか?まだなら今記入してください」


カリン先生に見とれて何も聞いてなかったようだ。周りを見ると皆、書類を書いていた。


「すみません。すぐ書きます」


名前とか住所とかの個人情報を記載していく。生年月日なんかは、体年齢に合うように作りこんでいた設定を書き込んでいった。


「皆さん書けたようですね。回収します。4月になったら入学式までには、寮のほうに引っ越しを完了しておいてください。詳しくは、配った冊子に書いてありますのでそちらを読んでください。それでは、何か質問はありますか? 」


「寮ですか? 」


「魔法学園は、全寮制です。トモマサ君は、知らなかったのですか?確かにこれまでの授業では説明してませんが? 」


「すみません、知りませんでした。それと、特待生制度についても教えてほしいのですが……」


「長くなりそうですね。トモマサ君の質問には、解散後に聞きます。他の人、質問が無ければこちらの問題を解いてください。一般教養の問題です。合否には関係のない試験ですが、成績が悪いと教養の授業を受けてもらいますので真面目に受けてくださいね。終わった人から解散してもらって構いません」


シンゴ王子とカーチャ王女は、サクッと試験を終え帰って行った。もちろん、さわやかな挨拶を残して。

俺とアズキが終わった後で、カリン先生と話をした。


「さて、寮についてですね。先程も言いましたが、魔法学園は全寮制です。寮には、貴族用と一般用があります。違いは、使用人用設備の有無ですね。トモマサ君は、貴族ですので最大2人の使用人とともに住むことが出来ます。使用人としては、アズキさんのような本学園の生徒でも、一般の人でも登録可能です。近いうちに寮を含む入学に関する資料を届けますので、期限までに提出してください」


学生寮に入ったらアズキとイチャイチャ出来ないなどど考えていたけど、大丈夫なようだ。一安心である。


「次に、特待生制度ですね。トモマサ君、特待生になると色々と特典はありますが、制約も多いですよ。どちらかというと魔素の多い一般人の為の制度ですね。貴族の方が申し込まれたのは聞いたことがありません。それに、トモマサ君とアズキさんの入学金、授業料、寮費その他もろもろ、全てヤヨイ様から預かってますよ?トモマサ君が稼いだお金だと聞いてますが、心当たりはありませんか? 」


俺が稼いだ金?31世紀に来てから魔法と剣術の修行ばかりで働いた記憶がない。ヤヨイが立て替えたのだろうか?これ以上、娘から援助を受けるなんて父親としての沽券にかかわる事態だ。すでに手遅れのような気もするが。


「トモマサ様、私が預かったお金もトモマサ様の財産だと伺っておりますが、違うのですか? 」


アズキまでそんなことを言ってきた。なんだって、それなら俺は自立して暮らしていたというのか?ヤヨイに問い質すしかないな。


「良く分からないな。ヤヨイ……様に確認してみます」


思わずヤヨイを呼び捨てにする所だった。カリン先生はまだ俺の正体を知らないんだ。気を付けないと。


「他は良いですか?そろそろ、戻らないといけないんですけど? 」


他に質問もないので、そこで解散となった。

カリン先生は他に仕事があるようで急いで教室から出て行った。


~~~


「ヤヨイ、どういうこと? 」


帰って早々、ヤヨイの書斎に駆け込んだ。


「父さんお帰り。無事に入学できることになったかしら? 」


ヤヨイが、にやにやしながら聞いてきた。こいつまた、全てわかって揶揄ってやがるな。


「ああ、入学出来たよ。お前、知ってたんだろ。魔素量だけで合格できるって。……まぁ、それは良いんだ。それより、俺の稼いだ金ってなんだ?入学金や授業料払ってたみたいだが? 」


「あら、父さんには、言ってなかったかしら? 」


ヤヨイがにやにやしながら教えてくれた。


「俺の書き写した資料を売っただと?この間、清書させたあの資料か?奴隷の在り方とか家族間の罪の在り方とか書いた資料」


「ええ、父さん直筆の書、高かったわよ。魔法で古びの加工を施したら、父さんを崇拝する教会関係者や貴族が挙って買っていったわ。書き損じなんかもリアリティが有るってんで意外と良い値だったしね。内容も、タイムリーだからしばらくは議論が絶えないわね。法改正の機運を高めるには最高の一手よ。もちろん売った代金は、手数料を抜いて父さんのお金として管理してるから心配しないで。一生遊んで暮らせるぐらいあるわよ。フフフ」


ヤヨイ、いやヤヨイさん、悪い顔してますよ。なんて恐ろしい。魔女ですか?魔法使うから魔女ですね?それにしても一挙3徳?4徳ぐらいありそうな一手ですね。……あの無邪気だったヤヨイが、いつの間にこんな恐ろしい女に……。


「すみません。私が悪かったです。なので、これ以上嵌めないでください」


思わず土下座してしまった。


「何人聞きの悪いこと言ってるの。父さんを嵌めるわけないじゃない。嵌めるのは馬鹿な貴族だけよ。だから立ってよ」


立ち上がって顔を見ると、ますます悪い顔になったヤヨイが笑っていた。これは、魔女レベルじゃない魔王だ。俺の娘が魔王になってしまった。絶対にこいつに逆らってはいけない。そう心に決め、俺は部屋を後にした。

いつもありがとうございます

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