20.アズキの誕生日
魔法の授業と剣の修行を続けてきたら、いつの間にやら1月の終わり一年でもっとも寒い時期がやって来た。
ルリも少しずつ体が大きくなり生まれた時の2倍、体長20cm程にまで成長している。それでも、まだまだ主人に抱っこされるのが好きで、起きると直ぐに俺に顔をすり寄せて来る。
「結構雪が積もるんだな。21世紀よりも多いぞ」
「そうなんですね。私が知る限りでは、例年この程度は積もります」
朝の作業、匂い嗅ぎが終わったアズキと窓の外を覗くと一面の銀世界が広がっていた。年を開けてから3度目の積雪である。初めての積雪の時には、ルリと喜んで外に出て雪だるま作って遊んだのだが、雪も3度目ともなると飽きてきた。外見は子供でも中身はおっさんである。むしろ、雪だるま作って遊ぶ方がおかしいのである。
「21世紀は、地球温暖化とか言って年々温かくなっていたんだが、今はどうなってるんだ? 」
「今は、氷河期に向かっているらしいです。少しづつ寒くなって行ってます。地球温暖化の話は聞いたことがありますが、科学文明の崩壊とともに収まって行ったと聞いています。詳しくは、ヤヨイ様に聞かれるのがよろしいかといます」
他愛のない話をしながら少し速足で食堂に向かう。廊下は寒いので。
ヤヨイもちょうど食堂に到着したところだった。
「あら、父さん今日は雪だるま作らないの? 」
「寒いからもういいや。飽きたし。ルリも外は嫌みたいだし」
「ルリのせいにして、子供なんだからもっと雪遊びすればいいのに」
中身は、40超えたおっさんですけどね。いつものヤヨイの揶揄いを受けながら朝食をいただいた。
「そうそう、明日はアズキの13歳の誕生日よ。ちゃんとプレゼント用意するのよ。身内だけだけどパーティーもするからそのつもりでね」
「そうか、めでたいな。……プレゼントか、何がいいかな?13歳の女の子にプレゼントなんて、何にも思いつかないんだけど」
最後にヤヨイに送ったプレゼントが思い出される。ヤヨイを見ると同じように思い出したのか、嫌な顔していた。
「はぁ、あの時のプレゼントは、今でも覚えてるわ。本当に最悪だったわ。現金がいいって言ったのに、変なもの買ってくるんだもん。あのセンスでアズキに送るのは止めてあげてね」
1000年経っても最悪ってひどいな。悩んで悩んで選んだプレゼントなのに。しかし、どうすればいいんだ?
「何をあげれば喜んでくれるかな?やっぱりかわいい置物とか? 」
「絶対に止めて。父さんがあの子に愛想尽かれたら私が困るのよ」
そこまで言うか。変なもの買ってくる前提か。しょうがないだろ、見に行ったらこれだって思ってしまうんだから。
「父さん明日休みでしょ。アズキの好きな服屋さん教えるから、一緒に買いに行って来て。決して、一人ではいかないで。分かった? 」
ちょうど、アズキがこちらに向かってくるころに話が終わった。いや、終わらされた。ここまで信用無いとは、悲しくなってきた……。
〜〜〜
次の日の朝、ヤヨイから服屋の情報と、現金をもらって屋敷を出た。娘から女の子に送るプレゼント代金貰うって、本当、親として悲しくなるな。仕方ない、学園卒業するまでの我慢だ。それまでは、ヒモとして生きていこう。変な決意を決めるトモマサである。
日課である魔素コントロール訓練と剣の型修業を終えた俺は、アズキと二人で屋敷を出る。ルリは、卵の頃から入っていた袋に入って首からぶら下がっている。流石に孵化してからは嫌がるかと思ったが、意外と気に入っているようだ。振動なんかが卵の頃を思い出すのかもしれない。ご機嫌で外を見ている。
官庁街を抜けしばらく歩くと、商業街へ到着する。
「とりあえず軽く何か食べるか」
女の子と二人で出掛けてると言うのに、これである。ただのおっさんに女の子の上手なエストートなど無理である。モテないのには理由があるのだが、本人は気づくことはない。
「何がよろしいでしょうか?美味しいお店は、メイド仲間からリサーチ済みです。何なりと申し付けください」
アズキもアズキで、ただの女の子ではないようだが。これでは二人の関係が進展しない訳である。
「寒いし、温かいものが食べたいな。ぜんざいなんてどうだろう? 」
丹波名産大納言小豆を使ったぜんざいが食べたくなってきた。大粒のあの小豆を食べるとほかの小豆では、物足りなくなってしまう。
「承知しました。ご案内いたします」
アズキが案内してくれる。すく近くにあったらしく、ほんの数分で到着した。
暖簾をくぐって中に入ると、店の真ん中には大きな囲炉裏があり火が焚かれている。小上がりにも、炬燵が置かれており暖が取れるようになっていた。魔獣の入店許可を取ってから二人で向かい合って炬燵に座る。子供の魔獣は、主人からあまり離れられない事もありほどんどの店では入店に問題無いようだ。ただ、飛竜など大きなサイズの魔獣は断る店もあるようだが。
「ここまで、純和風なイメージも残ってるんだ。すごいな。しかし、メイドさんたちもここに来たりするの?中々に渋いね」
「いえ、実はここ、私の趣味です。以前は、よく通ってました。今は、トモマサ様のお側におりますので来られませんが」
「そうなの?来たいならいつでも言ってくれればよかったのに」
今でこそ、奴隷として身分が安定しているが、以前は裁判待ちの状態で、自由に屋敷の外を出歩くなんて事は出来なかったらしい。
「ありがとうございます。ですが、トモマサ様と離れて行動することは出来ませんし、まさか、トモマサ様がこのような店がお好きだとは思いませんでしたので、黙っていました」
「アズキ、いつも言ってるだろ。やりたいことは、やって良いんだよ。俺も協力するから。形だけの奴隷なんだから、気にせずもっと我が儘言って良いんだよ。特に今日は、誕生日だろ?俺ができることなら何でも叶えてあげるよ」
目を潤ませながら聞いていたアズキが、最後の所を聞いて、「なんでも……」そう言って黙り込んでしまった。いや、俺ができることだからね。出来ないことは、断るからね。念を押していたところで、店員が来たので、ぜんざいを二つ頼んだ。
炬燵で食べるぜんざい、最高でした。大納言小豆もたっぷりの餡の中に、小さく切った焼き餅が少し、甘さ控えめで小豆の味を存分に堪能できるぜんさい、本当に本当に美味しかった。
「炬燵は一度は入ると出られないね。あのまま寝てしまうところだったよ。ルリなんてすぐに寝てしまったしね」
「本当に気持ちよかったです。だからヤヨイ様は、屋敷に炬燵置かないのでしょうか? 」
「昔のヤヨイは、炬燵で良く寝てたよ」って教えてあげるとくすくすと笑っていた。本当、何で屋敷には無いんだろ?頼んで置いてもらおうかな?猫は炬燵好きだしね。くだらないことを話してるうちに、目的の店に着いた。
「この店、アズキの好きな店なんだろ?誕生日のプレゼント送るから、選んでよ」
俺の言葉に、アズキは、真っ赤になって固まっていた。
「あれ、違った?ヤヨイはこの店だって言ってたのにな? 」
「い、いえ、合ってます。私この店の商品が好きでよく使ってます。あ、あの出来ればトモマサ様と一緒に選びたいのですが、よろしいでしょうか? 」
「おう、良いよ。けど、ヤヨイにプレゼントのセンス無いって言われてるけど、大丈夫かな? 」
そんなことを言いながら、扉をくぐったら、今度は俺が固まってしまった。
やばい。そう思って外に出ようとする俺の手をアズキが掴んで引き留めた。
「一緒に選んでくださいね」
「い、いや、でも、ここは、ちょっと……」
またしても、ヤヨイに嵌められた。
入った店は、女性用下着の専門店だった。躊躇する俺を、アズキは赤い顔のままの笑顔と言う珍しい表情で奥へと引きずって行った。
「トモマサ様、何色がお好きですか?黒ですか?それとも紫ですか? 」
「柄は、どんな物がよろしいでしょうか?すごい、薄いレースのものがありますよ。こっちは、かわいいフリルが付いてますね」
「形は、どれにしますか?……わ、これ着ける意味あるんでしょうか、ほぼヒモですよ。こっちは、変なところに穴が開いてますね」
さっきから、ずっとアズキ一人で話している。俺は、「あー」とか「うー」とかしか言えない。これ、どうしろってんだ?まさか、選ぶまで終わらないのか?くっそ、ヤヨイめ、なんて恐ろしいことをしてくれるんだ。
「あの、トモマサ様、選ぶのは難しいでしょうか?他のものになさいますか?先ほど、できる事は何でもとおっしゃって頂いたので、恥ずかしいの我慢してお願いしてみましたが……」
アズキがすごく寂しそうな顔で聞いて来た。尻尾も完全にうなだれている。その表情は、反則だろ。そんな顔されたら、嫌とは言えないじゃないか。
「え、選ぶよ。何でもするって言ったしね。……ただ、あまり過激なコーナーにはいかないでくれると嬉しいのだが」
「分かりました。それなら、おとなし目のあちらのコーナーから選びましょう」
アズキに笑顔が戻っていた。まだ赤かったけど。
それから俺は、アズキの選んだ数点の中から、ピンク地で花柄のワンポイントの入った上下の下着を選んだ。店員から「つけたところ見なくて大丈夫ですか」と聞かれたが、全力で断った。なんて恐ろしい店なんだ。二度と来たくないと思うのだが、アズキが着けるものを選ぶと思うと、また来たいような……。思考がダメな方に行きだしたので、会計を終わらせて慌てて店を出た。
いつもありがとうございます。
次回、ナニします。
 




