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2.大変革

俺たちは、とりあえず朝食を取ることにした。

腹が満たされないと頭が満足に動かないからね。

布団から出る前に俺は、メイドのアズキから服をもらい、皆部屋から出てもらった。

なにせ、真っ裸だったのだ。

アズキが「お手伝いします」と言って服を着せようとして来たのだが、丁重に断って部屋から出てもらった。ヤヨイは「着させてもらえばいいのに」と言っていたが、そんな恥ずかしいことできない。


皆がいなくなった後、俺はそそくさと服を着た。服はワイシャツにスラックスと少し堅い感じだが、過去の服装とあまり変わりのないものだった。


部屋を出て食堂に行く。食堂といっても豪華ホテルのパーティー会場サイズの部屋だった。

屋敷自体も想像より大きく大豪邸といっていい大きさで、一人では元の部屋に戻れないと思ってしまうほどだ。

ヤヨイは一体何者になったのだろうか?小学生の頃は、大人になったら保母さんになるんだと言ってた普通の娘だったんだ。中学生になってからは、反抗期に入りあまり話をしていないので知らないが……。


朝食も豪華だった。屋敷が洋風だから洋食かと思いきや、和食だった。

しかも、今まで食べたことないぐらい旨い。品種は判らないが最上級の米だろう。他にもキノコの澄し汁に何かの肉の時雨煮、焼き魚、温泉卵など旅館の朝食のようだった。どれもこれもうまかった。ただの旅館ではない、21世紀では全く縁のない高級旅館を想い起こさせる味だ。

それら豪華な朝食を平らげた後、ヤヨイと二人でお茶を飲みながら話の続きを始めた。


〜〜〜


『大変革』、1000年前に起こった世界異変のことは、そう呼ばれている。

何の前触れもなく起こった大事件。後の数十年は、大混乱だったようである。

事件の大本は、次元の狭間と呼ばれる空間の亀裂が世界中に発生したことである。

この狭間、近くにいた人間を吸い込み、代わりに魔物と呼ばれる生命体を吐き出してきた。


この魔物当然のように人を襲う。

突然現れた魔物に、一般の日本人が対処できるわけもなく多くの人々が犠牲になった。

特に都心部がひどかったらしい。狭間の発生自体が都市部に集中したためだそうだ。

後の研究で、科学的な物の量に比例しているのではないかとの考察がなされている。


さらに、魔物から逃れた人々に致命的となる災難が襲った。科学的なエネルギーの物が全く使えなくなったのだ。つまり、電気、ガス、ガソリンなどのエネルギーが使えなくなった。家電や車ありきの生活を送っていた日本人には対応できないほどの困難になっただろう。


「マムシ?毒蛇で科学が滅んだのか? 」


「魔の虫と書いて、魔虫マムシと呼ぶのよ。父さん。魔物の一種だと分類されてるけど、詳しい研究は進んでいないわ。分かってるのは、この魔虫、他の魔物と違い人間は襲わない。だけど、科学的なエネルギーを見つけると吸収して増殖するようなの。しかも、増殖が始まると止まらなくなって辺りの人工物を根こそぎ吸収してしまうから質が悪いわ。これで、たくさんの集落が滅んだわ」


ナウ○カの粘菌みたいな魔物だな。確かに質が悪い。


「科学的なエネルギーって曖昧な感じがするんだが、どうやって判別してるんだ? 」


「魔素が関連しているエネルギーは大丈夫だというところまでは判ってるわ」


「魔素?また分からないものが出てきたな。魔法的な何かか? 」


「ええ、そう。魔法を使うために必要なもの。この魔素のおかげで人類は生き延びることができたのよ。ちなみに、この魔素も狭間から出てきたと言われているわ」


魔法を発見したのは、次元の狭間から帰還した帰狭者だった。その人は物質に宿った魔素が見える能力に目覚めていた。

そして、その魔素に働きかけることにより火を起こしたり、土を動かしたり出来ることを人々に伝えたのだが、ほとんど誰も信用しなかった。それでも、藁にもすがる思いの一部の人が興味を示し研究が始まった。


様々な研究の結果、誰でもと言う訳ではないが魔素に働きかけることが出来る人が出てきたことにより、徐々に魔法は広がっていった。

その後50年ほどで研究も進み、魔素量が少なくて魔法が使えない人にも使える魔法が確立するに至って、人々の間で爆発的に広がったらしい。


魔法の発見は、火を起こすのすら困っていた人々にとって産業革命並みに画期的な事だったのだろう。魔物を直接攻撃しても良し。金属を精製し武器を作っても良し。体の傷すら治せるのだから広まらない訳がない。

魔法の発見から1000年後の31世紀現在ではさらに研究も進み、様々な魔法が確立されているとのことだ。


「すげーな魔法。ところで、この魔法、使える人の条件ってわかってるのか?俺も使ってみたいな」


「父さんは、使えるはずよ。ゲンパク先生のカルテでもそうなってるし」


「ゲンパク先生って、あの白衣の爺さんか?でも、見ただけでわかるのか。すごいな。名前と年齢ぐらいしか聞かれてないのに」


「先生は、大魔法使いよ。回復魔法の権威なの。人体スキャンの魔法で読み取ってもらったの。ステータスも出てるわよ」


人体スキャンって、いつの間に……あのぞわっとしたときか!あの瞬間に魔法を発動させていたのか。


「人体スキャンの魔法も気になるけど、それよりもステータス!ファンタジーの世界みたいだな。どんな項目があるんだ?レベルとかスキルとかあるのか? 」


「レベルは無いわね。項目は身長とか体重、あと筋力量とかよ。後は魔法社会らしく、魔素量があるわね。スキルも一応あるわ」


レベルは無しか。魔素量はMPみたいなものだろう。でも、それ以外が、体重に筋力量ってタ○タの体組成計かよ。肥満度もわかるのか?と突っ込みたくなるが、それよりもスキルだ。


「スキルってどんなのがあるの?剣術とか、鍛冶とか、火魔法とか?どうやって取得できるの?魔物倒したら覚えるとか?俺魔法使えるんなら、魔法スキル覚えられるかな?うゎ、楽しそうだ」


「楽しそうなところ悪いんだけど、父さんが思うようなゲーム的な物ではないわよ。スキルは、簡単に言うと師匠や公的機関に認められたら、記載できるのよ。あなたは剣術で目録ですとか、簿記の資格持ってますとかね」


そ、それって、履歴書の資格欄と同じじゃないか。まぁ、スキルだから間違ってないんだが、魔法があるのに何でそこは超現実的なんだ。

あまりのショックに机に突っ伏してしまった。


「そんなに落ち込むようなこと?魔法があるだけ良いじゃない。帰狭者(ききょうしゃ)は、長い事魔素に包まれたせいか魔素量が多くて魔法を使い易いわよ。特に、父さんは1000年も狭間にいたんだから鍛えればすごい魔法使いになれるんじゃない? 」


「帰狭者ね。たくさんいるのか? 」


魔法を使い易いと聞いてすっかり機嫌を直した俺は、何事もなかったかのように振る舞う。現金なものである。


「立ち直るの早いわね、まったく。帰狭者は、大変革直後にはかなりの数がいたわ。私もそうだしね。でも、100年を過ぎたあたりからは、ほとんど現れなくなったの。最後に確認されてるのは、530年ぐらい前かしら?1000年も出てこないのは、寝坊助の父さんぐらいじゃない?母さんも、父さん寝たら起きないんだからしょうがないとか言ってたよ」


娘に軽くディスられている気がする。


「俺が狭間に吸い込まれたの、よく分かったな?何か判別方法があるのか? 」


「分からないわよ。世界中が大混乱だったのよ。どれだけの人が狭間に吸い込まれ、どれだけの人が帰ってきたか、全く分かってないわ。でもね、母さんがずっと父さんは死んでないって、いつかきっと帰ってくるって、亡くなるまで言ってたわ」


「母さんは、亡くなったのか。ヤヨイが生きてるのでもしかしてと思ったが。……一番大変な時に側に居られなかった俺を、恨んでなかったか? 」


そりゃ、1000年も過ぎれば、生きているほうが不思議だ。慣れない環境の中、つらい人生だっただろう。恨まれても不思議ではない。いろいろ考えていると目頭が熱くなってきた。


「恨むなんてとんでもない。側にいなくて寂しい時はあったみたいだけど、父さんのおかげで生き延びれたとずっと言ってたわ。もちろん、私もカンナも恨んでなんてないわよ。カンナも、父さんに会えないまま亡くなって寂しそうだったけど」


いなくなった俺のおかげとか、ホントに恨んでないのか?それよりも、次女の方が気になった。


「そうか、カンナも亡くなったのか。1000年だものな、当然だな。幸せに暮らせたのか? 」


昨日の朝、手を振る二人の顔が思い出される。もう会えないのか。

涙があふれてきた。「子供の体は、涙腺が弱い」と鼻声で言い訳してみるが、はっきりと発音できない。


「カンナ、結婚して子供もいたわ。子孫も残ってるわよ。後で、お墓参りに行きましょう。立派なお墓があるわ」


ヤヨイが、俺を抱きしめながら言ってくれる。俺は、薄い胸に顔を埋めながら頷くしかできなかった。

読んでいただき、ありがとうございます。

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