18.年越し慰安旅行2
「昨日は、お楽しみだったかしら? 」
翌早朝、宿の温泉に入っていたらヤヨイが入ってきた。
「カニ食ってすぐ寝たよ。それより、ここは男湯ではないのか? 」
「ええ、普段はね。でも、今は貸切だから、自由よ。メイド達にもそう言ってあるわ。入って来たメイド達と仲良くしてあげてね」
何て事だ、宿の風呂に入るのは危険だ。早く逃げないとと勘案してると、脱衣場の方でもの音がし出した。手遅れだった。誰か入ってくるようだ。
「「明けましておめでとうございます。。トモマサ君(様)、ヤヨイ様」」
シンゴ王子とカーチャ王女だった。そういえば新年だった。
「「おめでとう、シンゴ王子、カーチャ王女」」
王子と王女共に全く隠す様子もなく立ったまま挨拶して来る。王子は着痩せするのか筋肉隆々の細マッチョだった。ナニもかなりのマッチョだった。王女も日本人平均を上回るぐらいの発育具合だ。これで二人とも12歳だってんだからアングロサクソンの血は恐ろしい。
「さあ、二人とも寒でしょう。湯船に浸かって。父さんが王女様をやらしい目で見てるわ」
おい、ヤヨイ、なんてこというんだ。そもそも、真っ裸で男の前に立つなよ。王家の教育はどうなってるんだろうか?
「トモマサ様なら構いませんよ。いずれは、けっ「早く入りなさいな」……分かりました。失礼します」
カーシャ王女の言葉の途中でヤヨイが口を挟んできて、言葉を遮られていた。いずれは、何だってんだ?と思案してると
「全く、父さんも節操がないわね。昨日は、カリン先生を酔わせて楽しんだようなのに」
「な、あれは、先生が勝手に酔ってたんだ」
反論してみるが、全く勝てる気がしない。その後も、ヤヨイにイジイジと弄られてる。
「カリン先生、楽しそうでしたので良かったではないですか? 」
見かねたシンゴ王子が助け舟を出してくれた。
「お姫様抱っこも素敵でしたわよ。メイド達が大騒ぎでしたもの」
カーチャ王女、それは、アズキに強要されただけです。とは言えず、「そうですか」と曖昧に濁して置いた。
「それにしても父さんの体、この数ヶ月ですっかり成長したんじゃない?身長なんて、21世紀の頃と変わらない気がするんだけど? 」
そう、俺は、今成長期真っ只中だ。この数ヶ月で、20cmぐらい身長が伸びた気がする。それでも髭は生えてこないので高校生ぐらいの体だと思うけど。
「年齢どうしようかしらね。魔法学園は、12歳から入学資格があるけど……」
「15歳にしてくれよ。それなら酒も飲めるし」
31世紀では、15歳から成人だ。酒も飲める。中身がおっさんの俺としては酒が飲めないのは結構辛いのだ。目の前で、娘のヤヨイが飲んでたりすると余計に。
「あら良いの?成人になるなら、貴族として独り立ちする事になるわよ?今の父さんで対応出来るかしら?面倒なやり取りがあるんだけど? 」
う、面倒ごとは嫌だな。酒を取るか面倒を取るか、か。
「うーん、分かったよ。それなら、14歳って事にしてくれ。一年で優秀な部下を見つけるから」
「自分で覚えるとか言わないのね。まぁ、父さんには無理だと思うから正しい判断だけど」
俺としても、自分では全く出来る気がしない。学校に行けばきっといるはずだ、優秀な執事になれる人が。
「さて、私は先に上がるわね。朝は、新年祝賀会があるから時間に遅れないように。特に父さん、カーチャ王女ばかり見てちゃダメよ」
最後まで、言いたい事を言ってヤヨイは出て行った。そんな事言われたらいづらいじゃないか。
仕方がないので俺も早々に退散した。
部屋に戻ると、アズキが待ち構えていて紋付き袴に着替えさせられた。31世紀での正装はこのスタイルのようだ。アズキは、メイド服のままだったが。
暫くすると、カリン先生とツバメ師匠が部屋に入ってきた。二人ともそれぞれ向日葵色地、牡丹色地の艶やかな振袖姿であった。髪もアップにまとめられており、普段とは違った可愛らしさを見せていた。ツバメ師匠は、例によって完全に七五三状態であったが。
「二人ともとてもよく似合ってますよ」
陳腐な感想だが、他に言葉が浮かばなかった。シンゴ王子なら上手い事言うのだろうが。言われた方もあまり慣れていないのか、カリン先生はハニかんおり、ツバメ師匠に至っては、真っ赤になってアウアウ言っていた。男に容姿を褒められた事が無い様だった。普段が男勝りなので仕方がないのかもしれない。非常に可愛い顔してるのだが。
間も無く、新年祝賀会の時間という事で、仲居さんの案内のもと、会場へと向かう。
会場では既に皆集合していた。ほとんどのメイドは、メイド服であるが、一部振袖姿の人もいる。もちろん王子は紫紺の羽織袴、王女はゴージャスな山吹色の振袖姿であった。
「全員揃ったようね。それでは新年の挨拶を、ヤヨイ様、宜しくお願いします」
メイド長の司会で新年祝賀会が始まった。
簡単な祝賀の挨拶の後、メイドの中から、振袖を来た数名が呼び出される。どうやら彼女らは、今年の寿退社予定者のようだ。ヤヨイからそれぞれに祝いの言葉と贈り物が渡されるようだ。ヤヨイが、「別れたら戻って来なさい」と縁起でもない事を言っている。
後で聞いた話だが、本当に戻ってきた人がいるようだった。誰がとはとても聞けなかったが。
ヤヨイの挨拶の後は、お屠蘇を飲んで、おせちや雑煮を食べた。
成人した人たちはお酒を飲んでいる。カリン先生は、注がれるのを「昨日飲み過ぎましたから」と断っていた。どうやら、メイド達にかなり揶揄われたようで、お酒は控える事にしたようだ。少しホッとした。朝からあんな状態で絡まれては敵わないので。
ただ、赤い顔したメイド達がちらちらこちらを見ているのが気になった。あわよくば自分もお姫様抱っことか考えているのだろうか?落ち着かない。
雑煮の餅を3つぐらい食べたところでお腹が大きくなった。酒が飲めないと、ここにいても楽しくない。ツバメ師匠も退屈そうにしていたので話をしていると、初詣に行きたいと言い出した。ちょうどいた仲居さんに近くで初詣はできるかと聞くと四所神社があると教えてくれた。21世紀にもあった神社だ。残ってるものだな。
俺、ツバメ師匠、アズキ、そしてカリン先生で初詣に出かけた。カリン先生もお酒を断って退屈していたらしい。メイド達に揶揄われるのにも疲れたようだ。
四所神社は、宿から10分ほどの所にあった。慣れない着物を着たカリン先生がゆっくり歩くので倍ぐらい時間が掛かってしまったが、皆と新年の街を散策するのは楽しい。
到着した神社は、すごい人だった。その中を4人で歩いていると、道行く人が皆振り返る。目線は、カリン先生やアズキに向けられている。見惚れているようだ。中にはツバメ師匠に見惚れてる危ない人もいたかもしれないが。
神社でお参りした後、もう少しキノサキの街を散策する事にする。早く帰っても、メイド達が宴会しているだけなので。
「あっちに市が立ってるようですよ」
カリン先生が案内板を見つけたので、そちらに向かう事にした。市はたくさんの人で賑わっていた。温泉饅頭に温泉卵、近くで採れた野菜なんかも売っているが、やはりメインはカニである。昨晩たらふく食べたのに見ると欲しくなるのは、庶民の心情である。
「持って帰るのは難しいんだよな。時間が止められたらいいのに。そんな鞄とかないの? 」
ラノベなんかでよく出てくる魔法鞄のことである。魔法があるのだからあっても不思議ではないと思っていた。
「すごく高価ですが、有りますよ」
「あるんですか?幾らぐらいするんですか? 」
カリン先生の言葉に、食い気味に反応してしまった。
「そうですね。大きさにもよりますが、金貨100枚ぐらいでしょうか?大商人の方々などが買われて行くので一般には出回りませんけどね」
普通には売ってないのか。カニを保存できるなら金貨100枚ぐらい出すよ。くそ、もっと早く気付いていれば買って来たのに。自分の迂闊さに呆れてしまった。呆れてる俺を見てカリン先生が慌てて話を続ける。
「あ、でも、トモマサ君なら時空魔法の魔法収納を覚えられるんじゃないかな?魔法鞄買うより便利だと思うけど」
「その手があったか。カリン先生、今すぐ教えてください」
図書館の本で読んだのをすっかり忘れていた。時空魔法の本を読んだのは、まだ魔素コントロールを覚えたばかりの頃で、魔法を使えるのはまだ先だと思ってので。だが今なら属性魔法も覚えたし、時空魔法も覚えられるはず。
「トモマサ君、私、時空魔法使えないのよ。適性がなくてね。時空魔法は、ヤヨイ様が得意だから聞いてみたら? 」
「よし、今すぐ帰ろう」
カニのためなら即断即決である。ツバメ師匠は、まだまだ市を見たいようだったが、「魔法を覚えたらカニ買いに来ましょう」と言ったら、納得してくれた。師匠も王都でカニが食べれるのは嬉しいようだ。
〜〜〜
「ヤヨイ、様、時空魔法を教えてくれ」
宿の宴会場でメイド長相手に酒を飲んでいたヤヨイの元に駆け込んだ。思わず呼び捨てになりそうだったが、後ろにカリン先生とツバメ師匠がいる事を思い出して何とか敬称を入れることが出来た。
「あら、初詣に行ったんじゃやないの?なんでまた、魔法を覚えようだなんて、帰ってからじゃ駄目なの? 」
「今すぐに使いたいんだ。カニのために」
俺の真剣な顔で言った言葉に、ヤヨイは深いため息をついた。
「ああ、そういうことね。アイテムボックスが使いたいのね。カニのためって子供みたいね」
子供言うな。食べ物は大切なんだぞ!と思ったが、言わないでおいた。余計にバカにされそうだったから。
グジグジ言ったヤヨイだったが、取り敢えず教えてくれるようだ。「帰ったら、転移魔法も覚えてもらうからね」と念を押されたが。どうせ覚えるつもりの魔法だったので問題ないのだが、改めて言われると何か怖いものを感じた。
ヤヨイと二人で別室に行く。貸切なので好きな部屋に入っても良いようだ。それなら、一人部屋にして欲しいのだが……。
そんな俺の願いをよそに、説明が始まった。
「……という感じでやってみて」
説明を聞いたが、今ひとつわからない。
「四次元なんてあるのか?どうやって認識するんだ? 」
「父さん、考えすぎちゃ駄目よ。ド○えもんの四次元ポケットのイメージを使って魔素に命令すれば、父さんの魔素量なら出来るから。詳しくは、帰ってからね」
そんな曖昧な命令で魔素は動くのか?四次元ポケットのイメージ……魔素君よろしく。
結果的に、たった、それだけで出来ました。
「おお、何か出来た。こんな簡単なのか?これなら、誰でもできそうだな。でも、カリン先生はできないって言ってたな。何でだ? 」
「父さんは、四次元ポケットで通じるけど、31世紀の普通の人には説明が難しいのよ。数学の虚数の話なんかをしないといけなくて、だから使える人は少ないわ。ああ、時間を止める命令をすることを忘れずにね」
確かに31世紀には、ド○えもんは無いな。アニメでは、22世紀に造られるのだが、その夢は叶わなかったようだ。
ちなみにアイテムボックスは、本人の魔素容量によって収納できる大きさが変わるそうだ。現在は、命令が曖昧なので容量が少ないけど、時空魔法をキチンと学んだら収納量も増えるらしい。魔素容量の格段に多い俺は、どれだけの物が入るのか全く予想が付かないとヤヨイに言われてしまったが。
まあ、どれだけ入るかは置いといて、再度、市に行った俺達が大量の海の幸を購入したのは言うまでも無い。
〜〜〜
買い物を終えた俺達は、浴衣に着替えてから外湯に行く事にした。
ツバメ師匠が一緒に風呂に入ろうと言ってきたが断った。これ以上混浴イベントはいらない。ゆっくり風呂に入りたい。
ちなみに、宿の男湯をメイドに解放と言うのはヤヨイの冗談だった。俺とヤヨイとシンゴ王子、カーチャ王女と身内だけ、王子と王女が身内とは言い難いが、の専用風呂としていたようだ。アズキやカリン先生、ツバメ師匠も入って良いと言われたのだが、流石にシンゴ王子とかち合うと恥ずかしいようなので女湯に入っていたらしい。
昨日とは違う外湯に行くと、石造りの大きな風呂だった。時間が早かったせいか人も少ない。何より、女性が入ってくる心配が無い。のん〜びりと浸かった後、待合室で牛乳を飲む。贅沢な時間だ。本当は、ビールが欲しかったのだが、未成年だと売ってもらえないので諦めた。飲酒年齢については結構厳しいようだ。
外湯から宿に帰って宴会場の襖を開けると、飲み潰れたメイド達が死屍累々の様相を呈していた。浴衣がはだけて色々なものが丸見えである。中には、何も着ていないものまでいる。こうなると、全く色気も何も無い。そっと、襖を閉じて皆で部屋に帰った。仲居さんに頼んで食事も部屋で取ることにした。食後は、部屋でまったりお話しをした。女子トークについて行けない俺は、ほとんど寝ながら聞いていたが。
こうして温泉旅行は終わった。次の日の朝、メイド達は完全復活で並んでいたが、あの姿を見た後では、乾いた笑しか出てこなかった。
いつもありがとうございます。
 




