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16.剣と魔法3

「トモマサ君、何か覚えたい魔法はありますか? 」


魔素コントロールの精度も上がり、基礎魔法を思うがままに使えるようになってきた頃、カリン先生突然の質問である。何でまた急にと思っていたら、慌てて「授業に飽きないように、たまに目先を変える事も必要なのです」と言っている。そんなカリン先生を見て、ちゃんと先生してるんだなと感心してしまった。見た目は、完全に高校生ぐらいなのに。


「覚えたい魔法ですか?うーん、そうですね~。身体魔法を覚えたいですね。剣術で使えそうですし」


「アズキさんは何かありますか? 」


今度は、アズキに聞いている。アズキも最近は、魔素コントロールを覚え、風魔法が使えるようになっていた。他の属性魔法には苦戦しているようだが。


「私ですか。風以外の属性魔法が使いたいですが難しそうですし、生活魔法を習ってみたいです」


「生活魔法か。それも良いな。俺もあまり使えないしな」


アズキの返答に俺も同意した。戦闘向きの攻撃と回復魔法は覚えたのだが、一番よく使う生活魔法をあまり知らないんだよね。本で種類だけ読んだんだけど、覚えて無いままだった。


「あー、確かに教えて無いですね。授業ではするような事では無いですからね。トモマサ君もアズキさんも魔法初心者ですから仕方が無いですね。今日は、生活魔法と身体魔法を覚えましょう。それでは、まず、二人が使える生活魔法を教えて下さい」


「俺は、照明ライト着火イグニッションぐらいですね」


「私は、照明ライトだけですね。他は、魔道具で発動させていました」


俺とアズキ二人が順に答えて行く。それを聞いたカリン先生が、どの魔法を教えるか考え始めたようだ。


「なるほど、共通なのは照明ライトだけですね。とすると、それ以外を教えていく事にしましょうか。え~、これまでの魔法と生活魔法の違いを知ってますか? 」


違い?何だろう?戦闘向きののものとそれ以外って括りかな?俺が、そんな事を答えると、カリン先生から「違います。もう少し明確な区別があります」と言われてしまった。

そこから生活魔法の長い歴史について話が始まったのだが、掻い摘んで言うと、生活魔法とは、通常の魔法とは違い多くの人が認知する事により、魔素に細かい命令を与える事なく発動できる魔法の事であるらしい。要は、魔素に照明ライトってイメージを渡すと、ああ、ああれねと魔素が勝手に判断して明かりを灯してくれる。そんな魔法の事であるとの事だった。その為、命令が簡素になり、ごく微量の魔素で実行出来る

魔法になったとの事だった。


「なので、火魔法が使えなくても火を出す着火イグニッションは使えますし、水魔法が使えなくても水を使う洗浄ウォッシュは使えます。一度ずつ見せますので続けて試してみてください」


着火イグニッション洗浄ウォッシュ乾燥ドライ攪拌ミキシング冷却クール冷凍コールド加熱ヒート………………カリン先生が発動する生活魔法を俺とアズキ二人で発動していく。たまに失敗する魔法もあったが、数度試すと、すべての魔法の発動に成功した。


「ちょうどお昼ですし、生活魔法は、ここまでにしましょう。主だったものは、大体やったと思います。他に見たい魔法があれば、いつでも言ってください。昼からは、身体魔法の授業とします」


そう言って、午前中の授業は終わった。


〜〜〜


さて、午後からは、身体魔法の習得という事で外に出てきていた。部屋の中で使うような魔法では無いからね。


「外に来ていただきましたが、少しだけ身体魔法の説明をします」


いきなり実演かと思って少し薄着で出てきてしまったのに、講義が始まってしまった。まぁ、風のない晴れた日なので、しばらくなら大丈夫だろう。


「身体魔法と言ってもいろいろ種類があります。大きく分類すると自分に掛ける魔法と他の人に掛ける魔法に別けられます。今日は、比較的簡単な自分に掛ける魔法を学びましょう。他の人に掛ける魔法は、難しいですので魔法学園に入ってからでも良いと思います」


他人に掛ける魔法か、バフとデバフの魔法の事だろうな。将来的には覚えたい魔法だな。その為には、何としても魔法学園に入らないとな。


「それでは、まず筋肉の強化からです。筋肉の周りに魔素で擬似筋肉を付けるイメージを持ってください。『足筋肉強化フット・マッスル・ストレングス』」


カリン先生の呪文で先生の筋肉が強化されたようだ。見た目は何も変わらない。しかし、カリン先生が軽くジャンプすると俺の身長ぐらいに飛び上がった。


「こんな感じです。私は、身体魔法が余り得意ではないのでこれぐらいですが、上手な人だと屋根の上に飛び乗ったり出来る様になります。さあ、やってみてください」


俺も、やってみる。筋肉を強化するイメージを魔素に命令して、『足筋肉強化フット・マッスル・ストレングス』を発動した。やはり見た目は変わらない。軽くジャンプすると屋敷の屋根ぐらいまで体が飛び上がった。はっきり言って怖い。


「ジャンプしたら凄い怖いですね。自分の体じゃ無いみたいです」


「トモマサ君、以外と怖がりなのね。練習すると慣れていきますよ」


そうです。小市民な俺は怖がりなんです。慣れろって言われても、高い山なんかは現実感がないから怖くないけど、学校の屋上みたいに中途半端に高い所って子供の頃から怖いんだよね。よし、ジャンプは止めて走ってみよう。そう思って走り出したのだが、軽くオリンピック選手を超えるぐらいスピードが出た。もっと出せそうなんだけど、上半身がついてこない。それはそうだろう、上半身の筋肉は何の変化もしてないのだから。


「こっちも怖いです。これ、本当に慣れるのに時間がかかりそうですね」


「最初は、全身の強化したほうが良いかもしれないわね。魔素量に余裕もあるでしょうし。それで、剣術の修行の時に少しづつやると良いと思いますよ」


それは、良い案だ。次の修行から少しづつ取り入れてみよう。俺の方針が決まったところでアズキを見てみると、建物の3階ぐらいまでジャンプしたり、馬ぐらいの速度で走ったりと物凄い身体能力を発揮していた。


「アズキ、凄いですね」


「ああ、獣人達は、普段から無意識に身体魔法を使って能力強化しているの。だから、慣れているのよ。それにしても、自由自在に使い熟しているように見えますね」


走り回っていた、アズキが帰ってきた。


「はぁはぁ、身体魔法凄いですね。今までの倍は素早く動けますし、体のキレも段違いです。今なら誰にも負ける気がしません」


ツバメ師匠ですら勝てる気がしないって言ってたアズキが、さらにパワーアップしてしまったようだ。

俺も魔法で負けたくない一心でガムシャラに頑張るがやはりアズキのようにはいかない。元の運動能力の差が大きいようだ。仕方がない、仕方がないのだが魔法で負けたのが悔しい。

気がつくとカリン先生が、横に来て俺の肩をトントンとしている。慰めてくれているようだ。


「獣人と身体能力で張り合っても意味がありません。トモマサ君も慣れればそれなりになりますよ」


12歳の子の能力に悔しがり、16歳の子に慰められる。40歳を超えた俺が。ダブルのダメージを受けた俺は、力なく項垂れるだけだった。


〜〜〜


 12月に入り、寒さが強くなってきた。積りこそしないが、雪が舞う季節だ。今日も朝からツバメ師匠の元、型稽古に励んでいた。


「2の型も形が整ってきたの。毎日、真面目に取り組んでいる証拠じゃ。どれ、そろそろ乱取り稽古に入ろうかの」


「ありがとうございます。ツバメ師匠」


乱取り稽古と言うと、互いに打ち込んで行くやつだな。昔、高校の剣道の授業でやったことがある。木刀振りに型稽古と少々退屈していたところだ。


「アズキさん、頼む」


運ばれてきた木箱の中には、胸当て、腿当て、肩当て、小手、兜とすべて革で出来た防具が入っていた。


「修行用の防具だ。何でもよいとヤヨイ様にお願いしておいたのだ。着けてみろ」


アズキに手伝ってもらいながら、防具を着けて行く。


「意外と軽いんですね。あまり動きの邪魔にもならないし」


「本来の鎧甲冑は、そんなに軽くはないぞ。だが、魔法使いのお主に甲冑は必要あるまい。乱取り中なら手加減するから、その程度の防具で十分だ」


防具を付けた俺の前に、木刀を持ったツバメ師匠が立った。


「木刀で乱取り稽古するんですか?危なくないですか?いや、師匠を信じない訳ではないのですが……」


木刀での稽古で沢山の人が亡くなったって、昔読んだ時代小説に書いてあった気がする。小市民な俺の恐怖心が湧き上がってくる。


「そのための防具じゃ。それに、痛みになれておかんと、いざと言う時に体が動かんぞ?なに、死にはせん。骨が折れても回復魔法ですぐに治るのでな」


そうか、回復魔法があったな。俺も、初級は覚えたな。すっかり忘れていた。


「そうですね。魔法がありましたね。自分で回復魔法掛ければいいんですもんね」


「なに、お主、回復魔法が使えるのか?なるほど、ならば少々強めでも構わんな」


ツバメ先生の口元がにやりとして不敵に笑っている。ツバメ先生怖いです。


「お、お手柔らかにお願いします」


俺は、そういうのが精一杯だった。


〜〜〜


今、俺のテンションは、ダダ下がりである。段取りが始まって数秒後、吹き飛ばされていたからだ。それも、一度や二度ではない。何度やっても、3秒と持たず吹き飛ばされる。

それに、さっきから回復魔法をかけているのだが、ほとんど痛みが引かない。初級の魔法では効力が弱すぎるのだ。


「さぁ、もう一度! 」


その瞬間、ツバメ師匠の姿が消え、俺の体が吹き飛ばされる。何が起こってるのかさっぱりわからない。立ち上がって、ツバメ師匠に向かって木刀を構える。直後、吹き飛ばされる。何度目かわからない転倒の後、何とか立ち上がった俺にツバメ師匠は、「これまで! 」と言った。

俺は、呆然と立っていた。


「初回で気を失わないとは、中々やるではないか。回復魔法のおかげかの? 」


「気を失うの前提なんですか? 」


少し、回復してきた俺は問いかける。


「そういう訳ではないが、大体の者は、30回も吹き飛ばされれば気を失うものだ。それを50回も耐えたのだから十分だの。よく頑張ったものだ」


「ありがとうございます」


幼女のツバメ先生であるが、褒められると素直にうれしい。しかし、50回も吹き飛ばされたのか、体中が痛いわけだ。しばらく回復魔法をかけ続けたら漸く、痛みが取れてきた。効いてきたらしい。


「もう回復してきたのか。それなら、もう一回行けそうだな」


ツバメ師匠、やる気らしい。第2ラウンド開始である。


「ここ! 」


2ラウンド目ももう何回吹き飛ばされたかわからない頃、木刀で右脇腹を防御しようとした。


「遅い」


俺の木刀をすり抜けてツバメ師匠の木刀が右脇腹を強打して、俺は吹っ飛んだ。


「少しは、パターンを理解してきたようだな。さあ、立て続けるぞ」


回復魔法をかけながら立ち上がり木刀を構える俺に、ツバメ師匠が突っ込んで来た。

……その後3ラウンド行われたが、ツバメ師匠を捉えることは出来なかったが、回復魔法には自信がついた。あと、痛みにも少しだけ慣れた気がする。


〜〜〜


次の日は少しの疲労感が残っていたが、体の痛みはなかった。


「回復魔法、すごいな。体に全く痛みがない」


自画自賛である。


「それは良かったです。何度も何度も倒されてましたから、少し心配していました」


匂いを嗅ぎながら、アズキが答えた。


「それで本日は、どのようになさいますか? 」


今日は、週に一度しかない休みだったので、前から行きたかった高谷山の山頂に行くことにした。


「アズキは、山頂の櫓に行ったことがあるのか? 」


さっきトイレに行った時外を確認したら、今朝の屋敷のあたりは濃霧だった。丹波のあたりでは冬場よく見られる天気である。丹波霧と呼ばれ、昼夜の温度変化が高い時に現れる現象である。


「夏場に一度行ったことがあります。こんな、霧の濃い日は行ったことはありません」


「そうか、それなら、山頂に行ったら驚くぞ」


朝食を弁当にしてもらい、アズキと共に山道を歩く。

八合目あたりまで行くと段々と霧が晴れてくる。それから数十分ほどで山頂に着いた。

山頂の櫓にはいつの間にか連絡が入っていたようで、若い兵士が櫓最上階の見張り台に案内してくれた。


「おお、変わらんな」


眼下には、雲海が広がっていた。その姿は1000年前と何ら変わらない景色であった。


「雲の絨毯が綺麗ですね。夏に見たのとは全く違います」


アズキも、普段は見れない景色に感動している様子だった。


「雲海は、もっと高い山に行くと、どこでも見られるんだが、この程度の高さの山だと限られた場所でしか見られないんだ。妻も好きで良く子供を連れて見に行っていたよ」


昔と変わらない景色に妻のことを思い出す。しんみりとしてしまった。アズキも少し寂しげな顔をしていた。


「駄目だな。もう過ぎたことなのに……。少し型稽古をするから、終わったら朝食にしよう」


1000年過ぎたと言ってもトモマサの時間感覚では、まだ数か月、そんなに早く忘れられる物ではない。落ちてしまった気分を盛り上げるように木刀を出して稽古を始めた。

30分ほど型稽古をした後、朝食を取る。持って来ていたのはアズキ特製のおむすびであった。具は、昆布にカツオ、梅干し、肉のそぼろなどどれも美味かった。いつの間にか、櫓の兵士達にも差し入れしたようで、帰りには揃ってお礼を言われた。よっぽど美味しかったようで、隊長のような人からまた来てくれと懇願された。

むさい男しかいない櫓に美少女が握ったおむすびか、そりゃ喜ばれるか。確かに女の子成分が足りない。いつもは自炊しているようだし。


櫓からの帰り道。アズキがそっと手を繋いできた。


「あ、アズキ? 」


「ヤヨイ様のご指示ですから」


それは、街に行った時の話だろう?って言おうと思ったが、止めておいた。俺が寂しがってるのと思って慰めようとしているのだろうとしていることが解ったからだ。それに、とても心が安らいだ。


「ありがとう」


代わりに出た言葉に、アズキは優しく微笑んでいた。恥ずかしくなった俺はしばらく黙っていたが、気持ちを切り替えるため軽い話を切り出した。


「兵士たち、アズキの握ったおむすびに大喜びだったな。やっぱり可愛い子の手作りは嬉しいみたいだな」


「え、差し入れ分は厨房のおばあさんに握ってもらったんですが……。トモマサ様の分は、私が握りましたが」


アズキよ、それは絶対に言ってはいけないぞ。そして、次の時は、ちゃんとアズキが握ってやれよ。俺は、アズキにそう言いながら屋敷に向かって歩いて行った。

いつもありがとうございます。

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